#072 地上のロッジ
「何か船から持っていくべき手荷物はあるか?」
何か質問があれば、ということなので俺は早速ミロに質問をすることにした。
「はい。当リゾートではお客様に快適な時間をお過ごしいただけるよう各種アメニティグッズなどを取り揃えております。しかしながら、お客様の中には拘りの品でなければ、という方もいらっしゃいますので、そういう場合はご持参頂く他に無いとミロは考えます。また、基本料金に含まれていない有料サービスをご利用になられる場合に備えて、エネルの決済機能を持った小型情報端末などはお手元に置いて頂いたほうが良いかと思います」
「なるほど。下着などの着替えは必要か?」
「はい。いいえ、下着類に関しては当方で新品をご用意させて頂いております。しかし、こちらも同様にお客様の好みなどもあるかと思いますので、必要であればお客様の手でご用意いただいたほうが良いかと思われます。しかしながら、当施設にはブティックなども併設されておりますので、よろしければそちらをご利用いただいてもよろしいかと。下着や衣服だけでなく、バカンスをより楽しめる水着なども各種取り揃えております」
「なるほど、わかった。俺が聞いておきたいのはこれくらいだが」
ミミ達に視線を向けると、彼女達は特に質問はなかったのか軽く首を横に振った。パンフレットとかに書いてあった内容だったのかもしれない。俺は詳しくは目を通してなかったからなぁ。
「それでは、ロッジへとご案内致します。どうぞこちらへ」
ミロが空中でくるりと振り返り、ふよふよと浮いたまま道の上を動き始める。俺達はその後ろについて歩き始めた。
「わっ、わっ……ヒロ様、ヒロ様! あんなに植物が生えてますよ!」
俺の隣に並んで歩くミミが俺の腕を引っ張りながら道端の草花やそこらに生えている木を指差し、目をキラキラとさせている。そういえば、コロニーじゃ植物なんて鉢植えに入った観葉植物的なものくらいしかないものな。ミミはこんなに沢山生い茂っているのを見るのが初めてなんだろう。
「そうだな、凄いよな。植物の生命力とかそういうものを感じさせるよな。知ってるか? ミミ。植物の力って強くてな、地面の下の雑草がアスファルトやコンクリートなんかの舗装をぶち破って生えてきたりすることもあるんだぞ」
「それって地面を舗装したり、建物を作ったりする時に使う構造材ですよね? すごいなぁ……」
感心した様子で周囲をキョロキョロと見回すミミに俺とエルマとクリスの生暖かい視線が注がれているのだが、ミミがそれに気づくことはないようである。初めて触れる自然というものに目を輝かせるミミは可愛いなぁ。
「到着致しました。どうぞ、ご案内致します」
ミロが細長いアームを伸ばしてロッジの扉を開ける。そのまんまるボディにそんなものが内蔵されてるのか……他にもいろいろ搭載されていそうだな。
ロッジは木製のログハウスのような見た目で、内部は非常に広々としていた。案内された扉から入ると、まず目に飛び込んでくるのは広大なリビングダイニングキッチンだ。正面には大きな木製のローテブルが設置されており、それを囲むように柔らかそうなソファが設置されている。左を向けば大きめのキッチンスペースと、ダイニングテーブル。キッチンには自動調理器だけでなく普通のコンロやオーブンなどもあり、やろうと思えば料理もできそうである。
正面奥、ローテーブルとソファの向こうには芝生と、その先には白い砂浜と海が見える。窓際にはビーチチェアのようなものが置いてあり、あそこで日光浴をすることもできるようだ。
右手には木製の階段があり二階に続いているようである。階段の下に通路があり、あちらにも何か部屋があるようだ。
室内においてあるインテリアは全体的に南国風な感じがする。よくわからない木製の彫像とか実に南国っぽい。こう、縦長で目がギョロッとしてて笑ってるみたいなやつとか。何故か木製の弓とかも壁に飾ってある。ここは開拓惑星だろうし弓矢を使った歴史とか無いのでは……?
「広いし木もふんだんに使ってて豪華ねー」
「こ、これって木材ですか……? ひぇ」
なんかミミが怯えてる。
「私達のような惑星住みでは実感がわきませんけれど、コロニーなどでは木材というのは希少な素材ですから」
「なるほど……」
確かにわざわざ宇宙に木材を運ぶというのはコストパフォーマンスが良くなさそうだ。それなら宇宙空間で採掘できる金属などの素材を使ったほうがまだ良さそうである。でも、これくらい進んだ世界だと簡単に培養できそうな気もするけどな。いや、木を培養するくらいなら他のもので代用したほうがよほど楽か? 木材のメリットって加工がしやすいのを除けば、ある程度管理すれば時間で増えるって点だものな。わざわざコストを掛けて化学的に合成するならプラスチックとかのほうがコストが安いか。
俺が考え事をしているうちに女性陣はこの大きなリビングダイニングキッチンの検分が終わったようだった。三人とも満足そうな顔をしているな。実際、設備そのものはクリシュナよりも広くて豪華だしね。何より海辺が見える大きな窓と高い天井が解放感を与えてくれる。良い物件だな。
「この島の現在時刻は午前11時14分です。皆様が宜しければ正午にお食事をご用意致しますが、その時間で宜しいしょうか?」
「俺はそれでいいぞ。皆は?」
「私もそれで良いわ」
「私もそれで大丈夫です」
「はい、私もその時間で大丈夫です」
「そういうことだ。正午に頼む」
「かしこまりました。では正午にご用意致します。それまでどうかごゆるりとお休みくださいませ」
そう言ってミロはふよふよと部屋の隅に設置されている台座のようなものに移動し、すっぽりと嵌って動かなくなった。呼べば対応してくれるんだろうか?
「じゃあ時間まで休憩だな。俺は飲み物でも貰ってソファでくつろぐよ」
「私もそうしようかしら」
「あのっ、私は外を歩いてきてもいいですか?」
「良いぞ。大丈夫だと思うが、気をつけてな。拾い食いとかしちゃダメだぞ」
「しませんっ! そこまで食いしん坊じゃないですよ!」
ミミが頬を膨らませてぷんぷんと怒る。ははは、怒っても可愛いなぁ。
「クリスはどうする?」
「ええと……じゃあ、ミミさんとご一緒します」
「大丈夫か? 無理はするなよ?」
「はい、大丈夫です。ご心配なく」
そう言ってクリスが上品に微笑む。うーん、そこはかとなく漂う高貴な雰囲気。やはり育ちというのは出るものだなぁ。それに比べて見たまえよ、この駄エルフを。早速ソファに腰掛けて伸びておるぞ。気品のかけらも見当たらないぜ。
ミミとクリスを見送り、外に出ていったのを確認してからミロに声をかけてみる。
「ミロ」
「はい、キャプテン・ヒロ。何か御用でしょうか?」
部屋の隅で台座に収まっていたミロがふよふよと飛んでくる。やっぱ聞いてるのか。
「飲み物が欲しくてな。そういったものは用意してあるのか? それとも注文して届けてもらう感じか?」
「はい。あちらのキッチンに設置されているクーラーにスタンダードなものは用意させて頂いております。最初から入っているものに関しては当プランのサービス範囲内ですが、それ以外のものは有料での手配という形になります」
「そうか……ところで、炭酸飲料はあるか?」
「はい。いいえ、スタンダードな飲み物とは言い難いため、クーラーには用意されておりません」
俺は内心歓喜のあまり転げ回りそうになっていた。スタンダードな飲み物ではない、と言っているがミロは炭酸飲料というものの存在を知っている。つまり、これは。
「注文、できるんだな?」
「はい。ご用意することは可能です。どのようなフレーバーのものをお求めでしょうか?」
「黒くて、甘くて、喉越し爽快なコーラだ。俺はコーラが飲みたい。浴びるように飲みたい。なんならキッチンのクーラーの中身を全てコーラで埋め尽くしたい。それくらいコーラが飲みたいんだ。わかるな? 俺にコーラを寄越すんだ」
「はい。リクエストを受け付けました。受け付けましたのでどうかユニット006から手を離してください」
いつの間にか空中のミロを両手で掴んで言い聞かせていた。危ない危ない、我を失っていたな。それもこれも炭酸飲料を長い間飲んでいないせいだ。
「発注量はどういたしましょうか? 1500ml入りのものと、500ml入りの物がありますが」
「500ml入りのものをとりあえず二〇本」
「承知致しました。到着まで少々お時間を頂きます。決済は――」
「これで」
俺が小型情報端末をミロに向けると、ピロがピカピカと発光し、ピコーンと音が鳴った。決済音可愛いな。
「くくっ、ふふふ……楽しみすぎてどうにかなりそうだぜ」
「そんなに……? あんたの言う炭酸飲料とやらの実在を疑ってたんだけど、ミロが知ってるってことは本当にあるものなのね」
「そりゃそうだとも! コーラは不滅だ! ポストアポカリプスの世界でもしぶとく残るさ!」
ただし飲むと青白く小便が光ったりする。
「ついていけないテンションなんだけど……まぁ、楽しみにしてるわ。私にも飲ませてくれるんでしょ?」
「勿論だ。そしてエルマもコーラの魅力に取り憑かれるが良いさ」
「なんかそう聞くと怖いんだけど……?」
微妙な表情をするエルマをスルーして俺はウキウキ気分でコーラの到着を待つことにした。早く、早く来い……そして俺を満足させろ……ッ!
すてらりすのDLCきましたねぇ……翻訳待ちです。
翻訳作業者の方々には足を向けて寝られないな!_(:3」∠)_




