#070 変態機動
「宙賊には見えないよなぁ」
こちらを包囲して攻撃を仕掛けようとしてきている連中の船を見て呟く。十二隻の小型艦は全て揃いのミドルクラス戦闘艦、四隻の中型艦も全て揃いの型落ち軍用艦である。
「船も装備も揃いすぎね」
敵艦の放ってくる真紅のレーザー砲撃を避けながらこちらも応射する。
「それにタフだな」
そこらの宙賊ならクリシュナの重レーザー砲四門による一斉射を受けたらシールドを貫通して装甲と船体を貫き爆発四散、というところなのだが、こいつらは辛うじてシールドを飽和して装甲に大ダメージというところで耐えている。
つまり、シールドと装甲のどちらか、或いはどちらもが宙賊の改造船とは一線を画しているというわけだ。
「攻撃力はどうだ?」
「一般的な宙賊よりもワンランクかツーランクは上の装備ね。シールドの減衰率が高いわ」
「なるほどな。ミミ、星系軍への通報は?」
「ダメです! ジャミングされてます!」
「まぁそうだよなぁ」
「当然よね」
時間を稼いでいれば妨害電波に気付いた星系軍が現れるかもしれないが、まぁそれよりも自分達で倒したほうが早いな。フライトレコーダーの記録を提出すれば咎められることもないだろう。
「様子見はここまでってことで、行くぞ」
「アイアイサー」
「あ、あいあいさー!」
冷静なエルマとまだ戦闘となると完全には落ち着いてはいられないミミの返事を聞きながら敵集団に突っ込む。
ひらひらと逃げながら応射していた俺の動きが突然変わったことに敵の小型艦達が一瞬動揺した。その隙を突いて敵小型艦の方位を突破し、敵中型艦に肉薄する。
「まずはデカいのからってなぁ!」
中型艦の放ってくるレーザー砲撃をバレルロールじみた機動で回避しながら四本の武器腕に装備された重レーザー砲を一隻に集中して浴びせていく。
やはりタフだ。一斉射、二斉射と重レーザー砲を浴びせるがシールドがダウンしない。シールドセルも装備していそうだな。だが……。
「こいつならどうかな!」
クリシュナの艦首に搭載されている二門の大口径散弾砲が同時に火を吹き、無数の弾丸が目標の中型艦に襲いかかる。四門の重レーザー砲の斉射でシールドにある程度ダメージが入っていたせいもあったのか、無数の弾丸は敵中型艦のシールドを貫通してその船体を穴だらけにした。
弾丸が重要区画を直撃でもしたのか、中型艦の動きが完全に止まる。
「このまま中型艦に張り付くぞ」
「お手並み拝見ね」
沈黙した中型艦の陰に回り込み、こちらを追ってくる小型艦の射線を一旦切ってから次の中型艦に肉薄する。敵の中型艦の至近に張り付いてしまえば小型艦どもはそう簡単にクリシュナを撃つことができない。フレンドリーファイアを承知で撃ち込んできてくれるならそれはそれでいいしな。
追ってくる敵小型艦に対して敵中型艦を常に背に負うよう意識しながら一隻ずつ中型艦を仕留めていく。
「いやらしい戦い方ねぇ」
「一対多の戦いをするなら工夫しないとな」
そうでなきゃすぐに四方八方から撃たれて蜂の巣だ。いくらクリシュナのシールドが強固だからといっても限度というものがある。
「ダメージは?」
「結構撃たれてるけど、シールドが飽和するほどじゃないわね。向こうも外したら味方に当たるとなるとそうそう撃てないわよ」
エルマがコンソールを目まぐるしい速度で操作している。俺も敵に照準を絞られないよう回避運動をしてはいるが、光速で飛来するレーザー砲撃を全て避けるのは不可能だ。
なので、エルマは被弾地点のシールド出力を一時的に厚くしたり、減衰してきたシールドをシールドセルで補強したりしてクリシュナのダメージをコントロールしている。チャフやECMを使って敵の照準を欺瞞したりな。
「おっと」
そうやって敵の中型艦に張り付きながら戦っていると、痺れを切らしたのか敵の小型艦が何隻か向かってきた。肉薄し、クリシュナに体当たりをしてでも中型艦から俺を引き剥がそうという魂胆だろう。
「アホめ」
姿勢制御ブースターを使って機体をその場で急速旋回させ、肉薄してきた小型艦に散弾砲を向ける。そして躊躇なく発砲。
発射された無数の弾丸が三隻の小型艦のシールドを一瞬で飽和させ、その船体を穴だらけにした。スイス・チーズの出来上がりだ。
「よーしよし。動きの癖も掴めたし、そろそろ反撃開始だな」
俺から逃げようとする敵中型艦に後ろ向きに張り付きながら、追ってくる敵小型艦に重レーザー砲の斉射を浴びせていく。一斉射で仕留められないなら、もう一斉射当てれば良いじゃないの精神だ。
「変態機動すぎる……どうやって後ろ向きにぴったり張り付いてるのよ」
「レーダーの反応と敵の動きの癖を掴んでだな」
なに、後ろ向きに歩きながらスマホを操作するようなもんだ。慣れればできるできる。宇宙空間だからちょっと移動方向が多いけど。
この後ろ向き張り付き射撃を習得するためにフレンドと血の滲むような特訓をしたものだ。
「そろそろ叩き潰せるな」
敵の数も減ったので張り付いていた中型艦に散弾砲をぶち込んでとどめを刺し、小型艦の掃討に向かう。中型艦? 足も遅いし、前衛の小型艦の数が減ったらただの的よ。火力が高いから油断すると危ないけど。
数の減った小型艦どもに突っ込み、すれ違いざまに散弾砲を浴びせてやる。逃げようとする小型艦のケツを取って重レーザー砲をぶち込んでやる。中型艦がやけくそ気味に発射してきたシーカーミサイル引き連れたまま敵の小型艦に突っ込み、擦れ違い様にフレアを撒いて誤爆させてやる。
こうやって数が減れば後は消化試合だ。程なくして全ての敵の掃討が完了した。
「ちょっと苦戦したな。流石に装備も練度も普通の宙賊とは比べ物にならなかった」
「そうね……」
エルマは何故か難しい顔をしている。
「こ、怖かったです……」
ミミは久々の苦戦に顔を青くしていた。これに近い苦戦をしたのは……ターメーン星系で連邦艦隊に突っ込んだ時以来か。あの時よりはまだ余裕があったけどな。今回は対艦反応魚雷を使うまでも無かったし。
「手早くブツを回収していこう。狙い目はクリスの叔父さんにとって致命的な証拠となり得るデータキャッシュだ。小型艦はどうせ大したものをもっていないだろうから中型艦を狙うぞ」
「アイアイサー」
「は、はいっ!」
クリシュナを撃破した敵の中型艦に寄せて積んでいる物資やデータキャッシュを略奪していく。こいつらは装備も良いから、時間があれば装備を剥ぎ取っていきたいところだが……あまり長居すると星系軍に嗅ぎつけられるかもしれないし、こいつらの仲間に捕捉されかねない。
四隻の中型船の残骸から食料や水、データキャッシュなどを手分けして略奪する。三人でドローンを操作すれば一隻当たりの略奪時間はそう長くはならない。
「データキャッシュはあるだろうけど、物資は期待できそうも無いよなぁ。こいつら遠出する予定じゃなかっただろうし」
「そうでもないわよ。中型艦ならクルーは四人から八人でしょ? 推進機関喪失とか万が一の自体に備えて一週間から二週間分の物資は持ち歩いているはずよ」
「そういうものか」
調べてみるとエルマの言う通り俺が想像していた以上に水と食料が手に入った。中型艦四隻分で俺達が軽く一ヶ月くらいは食いつなげそうなほどの量だ。
「想像以上に大漁だったな。この物資を元手に逃げ回っても良いかもしれん」
「リゾート惑星に引き篭もってもダメだったらそうしましょ」
物資を引き上げたらすぐさま超光速ドライブを起動して戦場を離脱する。
「これで一息つけるか……大丈夫か? クリス」
クリスの方に目を向けると、クリスは顔面蒼白のままコクコクと頷いた。両手で口を押さえているのはきっと俺の言いつけを守って悲鳴を漏らさないようにするためだろう。
すぐ隣のエルマに目を向けると、彼女はコックピットに持ち込んでいたグラビティスフィア――かっこいい名前だが要は無茶な機動をしても中身が溢れないドリンクホルダーである――からストローを伸ばして水分補給をしていた。流石にエルマは余裕だな。
ミミももう既に落ち着いて収奪した物資と機体の状態をチェックをしているようだ。うーん、頼もしくなってきたな。もうそろそろミミもいっぱしのオペレーターを名乗っても良いんじゃないだろうか?
「行き先へのナビを再設定するわよ。惑星に降下する角度に気をつけなさい」
「任せておけ」
大気と重力の存在する惑星に降下する場合は進入角度に注意しないと大変なことになるからな。まぁ、船には安全装置やシールドがついているから超光速ドライブ状態で惑星に激突、爆発四散! とか大気との摩擦で流れ星に! なんてことにはならないけど。
それでも惑星上では船の挙動も変わるし、いざ戦闘となると重力や大気――つまり空気抵抗の影響が思いの外大きかったりする。宇宙空間と同じ感覚で船を操作すると地面に激突とか、急な失速とか結構危ないんだよな。
暫くナビゲーションに従って船を走らせると、次第に一つの青い惑星が近づいてきた。惑星の殆どが海面に覆われた海洋型惑星、シエラ星系第三惑星のシエラⅢだ。
「よーし、惑星に降下するぞー」
「アイアイサー。効果のサポートは私がするわね。ミミは私がサポートするのをちゃんと見てなさい」
「はいっ!」
まだ震えているクリスはそっとしておこう。
そういうわけで、追手を撃退した俺達は遂にリゾート惑星への降下を開始するのであった。
情報解禁になったので!
本作の1巻がカドカワBOOKS様より7/10に発売することになりました!
イエーーーーーーッ!!!_(:3」∠)_
公開できる情報が増えたら活動報告にアップしていきたいと思います!
是非買ってね!(ストレート
 




