#066 エルマと相談
どうにも上手く文章がまとまらなかった……! 短いけどゆるして!_(:3」∠)_
「ただいま」
「おかえり。無事で何よりだ」
メッセージのやり取りを終えて10分ほどでエルマは戻ってきた。思わず抱きつこうとしたが、スッと避けられた。何故避ける。
「何よ突然」
「心配だったんだよ」
「心配されるほどのことじゃないわよ。まったく、あんたは気が大きいだか小さいんだか」
そう言って苦笑いしながらエルマの方から軽く抱きつき、頬のあたりにキスをしてきた。なんだこの……なんだ。この胸のときめきは。まるで男女の立場が逆なのでは? やだ、残念エルフにキュンとしたの? 俺。
「何よ、突然顔を覆ったりして」
「なんでもない」
「なんでもなくないでしょ」
「なんでもない」
回り込んで俺の顔を覗き込もうとするエルマから顔を背けながら食堂へと移動する。
「あっ、エルマさんおかえ……どうしたんです?」
「ヒロったら照れてるみたい。意外と可愛い所あるわよね」
「照れてない」
「私のことが心配だったんでしょ?」
「心配してない」
「またまた。さっきと言ってることが違うわよ?」
エルマがニヤニヤしながら前に回り込んでくる。とってもウザい。でも俺は強い子なので屈しないぞ。
「ヒロ様は意外と可愛い方なのですね」
「新たな一面です」
クリスとミミにまで言われてしまっているが、俺は負けないぞ。
「とにかく! 今後のプランを練ろう。可及的速やかに。今は何よりスピードが大事だ。先手を打っていかないと相手のペースに引き込まれちまう。そうなったら厄介だ」
「はいはい、そうね。そう言うってことは何かプランを考えてあるのね?」
「どれも自信たっぷり、とは言えないがいくつかな。まずは――」
というわけでミミとクリスとの三人で相談した内容をエルマに伝えて意見を聞くことにする。
「追手を引きつけて全滅させるって手は悪くないわね。何にせよ敵の目を潰すのが一番だし。このコロニーに居る限り、私達は敵の監視からは逃れられないわ。ならいっそ宇宙に出るっていうのは有効だと思う」
「問題は補給だよな」
「そうね。今の備蓄だと二週間は保たないわね。リゾート星系に行けば、あちらで補給を受けることは可能だと思うわ。警戒する必要はあるけど、流石に全リゾート星系にまでは敵の手は伸びてないでしょうし。でも、補給だけを考えるなら正直二つ隣の星系まで移動して補給したほうが安上がりね」
「二つ隣か?」
「ええ、二つ隣にした方が良いわ。隣接星系には網を張っている可能性があるから。隣接星系は四つだけど、二つ隣となると一気に数が増えるから、そこまでは網を張れないだろうしね」
「なるほど」
エルマの説明に納得する。
「じゃあ、リゾート惑星への潜伏はやめて二つ隣の星系で補給して宇宙空間とハイパースペースに潜伏するか?」
「難しいところね。移動すればするだけ痕跡が残るから、追手を倒した後に即リゾート惑星に逃げ込んだほうが安全性が高いかもしれないのよね。リゾート惑星ってセキュリティも実は結構しっかりしてるから」
「なるほど。どの程度しっかりしてるんだ?」
「帝国の有力者や貴族はもちろんのこと、場合によっては他国の要人なんかも訪れることがあるの。セキュリティレベルはかなり高いわよ。そんな場所でテロ事件なんて起こったら帝国の威信に関わるわけだからね」
これは新情報だ。パンフレットとかにも載っていなかった。やっぱりエルマみたいな事情通を交えて作戦を立てたほうが効率が良いな。
「……やっぱりリゾート星系でのんびりバカンスで良くないか?」
「そうねぇ……クリスちゃんのお祖父様から経費は出るのよね?」
「えっと、可能な限り口添えはさせていただきます」
エルマの質問にクリスは精一杯の返答をした。まぁ、クリスには実権も何も無いわけだからそれくらいしか言えないよな。
「予算はどうする? 300万エネルくらいまでは突っ込むか?」
「やりすぎじゃない……? 二週間とすると一人あたりの相場ってどれくらいだったかしら?」
「えっと、2万から6万エネルくらいですね。高いところだと上限がないですけど、一般的なところだとそれくらいです」
「四人で8万から24万エネルね。三惑星でダミーを含めて三つずつのグレード、別の旅行会社、別の施設、私とヒロとミミの名義でそれぞれ予約を取りましょう。ミミ名義で二週間8万エネルくらいのコースを三つの惑星で、私名義で二週間16万エネルのコースを、ヒロ名義で二週間24万エネルのコースをそれぞれ予約しましょう。これで144万エネル。これくらいで十分よ」
「物凄い散財ですね……」
144万エネルという金額にミミが苦笑いを浮かべる。日本円に換算するのが正しいかどうかはわからんが、およそ1億4400万円の散財だ。ステラオンライン的な金銭感覚で言えば144万エネルは駆け出し御用達のマルチロール艦や戦闘艦の購入費用といったところだろうか。
フルカスタマイズの費用と万一撃墜された際の保険料を考えるとちょっと心許ないか。
「帝国貴族の伯爵様ならこれくらいなんでもないわよ。可愛いお孫さんの命を守るための必要経費ってことならホイホイ払うわ」
「貴族っていうのも凄いんですね」
「私は……ちょっとよくわからないです」
「そりゃそうでしょうね。その歳で貴族としての金銭感覚はまだ身についていないと思うわ。自分でエネルを使ったことも殆ど無いんじゃない?」
エルマの言葉にクリスは素直に頷いた。なるほど、クリスの年齢だと自分で買い物をすることも無いのか。全部親や使用人が用意してくれてたのかね?
「あー、それじゃあ全部で九つのツアーを予約して、そのうちのどれかを利用するってことか?」
「いえ、もう一つ本命を予約するわ。どうせなら経費請求がキリよく200万エネルになるように高級リゾートにしましょうか。四人で二週間56万エネルくらいのコースを見繕いましょう」
「二週間のバカンスに56万エネルかぁ……」
二週間で5600万円、一人あたり1400万円、つまり一泊100万円のリゾート……元の世界で一般庶民だった俺には想像もつかん領域だな。
「経費が出ればタダよ、タダ」
「出ればな。クリスのお祖父さんが太っ腹なことに期待しよう……まぁ、出なかった時は出なかった時で、クルーと俺の福利厚生と思えば……高ぇな」
「折角ガンガン稼げる船と腕を持ってるんだから、こういうエネルの使い方も覚えておきなさい。貧乏臭いと舐められるわよ」
「うるせぇ、俺は一般庶民なんだよ。というか、こういう金の使い方を平然と決断できる辺り、お前やっぱりいいとこのお嬢様だろ?」
「ひゅひゅー♪」
「口笛吹けてないからな?」
エルマが視線を逸らして誤魔化そうとする。まぁ、本人が喋りたくないなら無理に聞き出しはしないけどさ。
「でも、そういう高額のプランは一般人は申し込むのが難しいみたいなんですけど……」
ミミがタブレットを操作しながら困った顔をする。おおう、こういうところで邪魔が入るのか。流石に貴族制が存在するだけはあるな。
「そこはちょっとした伝手があるから大丈夫」
「……お前の伝手、どうなってんだ?」
「いい女には秘密がつきものよ」
「いい女には……」
「秘密がつきもの……」
得意げな笑みを浮かべるエルマを見てミミとクリスが今にもメモでも取りそうな雰囲気だ。エルマは確かにいい女だけどさぁ……君達二人とは方向性が合わないと思うんだよな。いや、クリスは成長すればどうなるかわからないけれども。
「じゃあ、そういう方向で行くか。予約の手続きとかは任せていいか? 金に関しては俺の口座から出していいから」
「良いけど、その間ヒロは何をするの?」
「俺は船長様なので、面倒な手続きはクルーに任せてクリスのお相手をします」
そう言って俺は胸を張る。エルマの視線は冷たいが、実際問題そういう手続きはとても苦手だし、リゾートのプラン選びとか俺のセンスでやるのは不安がある。四人中三人が女性なので、正直女性のセンスで選んでもらいたい。
「確かに、あんたにプランを選ばせるのは微妙ね」
「そんなことはないと思うんですけど……でも、わかりました。ヒロ様の専属オペレーターとしてがんばります!」
俺のセンスで選ぶのはちょっと、という話をするとエルマもミミも納得してくれた。俺に選ばせると二週間耐久肉祭りとかにしちゃうぞ、きっと。というか惑星上のリゾートということは、もしや炭酸飲料が飲めるのでは……? オラワクワクしてきたぞ。




