#573 『なんだァ!? あのピカピカは!?』
「あーマジ! 本当にマジで! まーじで許さんからなお前! 後でクッソ説教してやるから覚えとけよお前!」
「いやその……悪かったとは思ってますけど、そこまで怒りますか……?」
俺はブチギレながらルシアをサブオペレーターシートにガッチガチに固定した。してやった。おむつしてなくてちびったり漏らしたりしても知らん。そこでぶちまけろ。もうこいつを降ろしている時間も惜しい。
「怒るに決まってんだろ馬鹿! この大馬鹿! ボケカス! 万が一、億が一にでもお前が傷ついたり死んだりしたら、イゾルデ達は全員打ち首獄門だぞ馬鹿! 当然俺にもうちのクルーにもクリスにもセレナにもその家にも累が及びかねんだろクソボケェ!」
何もわかっていないルシアの頭をパシーンと平手で叩いておく。俺が叩くのは良いのかって? うるせぇ! ここは俺の船の中だ! 俺がルールだ!
頭を叩かれたルシアが叩かれた部分を押さえて鳩が豆鉄砲でも食らったみたいな顔をしている。なんだ? 親父にも殴られたこと無いのにってか? 殴られたこと無さそうだな。皇女殿下だしな。でも知るか! 許さん! 反省していろ!
「メイ、後で話がある。わかってるな?」
『はい、ご主人様。全て承知しております』
「ならいい。ミミ、クギ、緊急発進準備」
「は、はい……」
「はい、我が君」
この二人とメイもお説教の対象だ。いや、ミミとクギはルシアに頼み込まれ、強引に協力させられただけだろうから軽くだけど。だがメイは駄目だ。メイはやろうと思えばクリシュナのセキュリティ機構を使ってルシアを締め出せた筈だ。その場合はミミとクギもクリシュナに入れなかっただろうが、タラップに俺が到達すればルシアを制圧して乗船拒否することもできた。
つまり、メイはルシアに協力したか、消極的ながらこの事態を見逃したということになる。これはお説教しなければならない。何より許せんのはルシア本人とルシアを止められなかった役立たずの案山子四人だがな。あの役立たずどもどうしてくれよう。さぱっと腹でも切らせるべきなのでは?
ああいかん、怒りで頭が薩摩になってくる。俺は薩摩隼人じゃないけどな!
「チェックは最低限でいい。通常空間に戻り次第カタパルトで射出だ」
「はい、セルフチェックは裏で走らせておきます」
「サブシステムチェック完了。ジェネレーター、戦闘出力。システムオールグリーンです。いつでもいけます、我が君」
「よし。アントリオンとモリガンが動けるようになったら、いつも通りこちらから超光速ドライブを解除してくれ。あと、クリシュナにルシアが乗っていることはエルマとセレナには伝えるな。ドナーにもな」
『はい、ご主人様』
程なくして轟音が響き渡り、超光速ドライブが解除されてブラックロータスが通常空間に戻った。それとほぼ同時にクリシュナが電磁カタパルトによって急加速し、ブラックロータスの格納庫から射出される。
「さて、馬鹿どもの陣容は……おお」
「大型宙賊艦が三隻とは珍しいですね……」
ミミが神妙な声で呟く。確かに大型宙賊艦は珍しい。基本、宙賊というのは小回りを重視して多数の小型艦と一隻か二隻くらいの中型艦という構成で動いていることが多い。それくらいの構成であれば、駆逐艦――傭兵や宙賊基準での大型艦――以上の船を運用していることが多い星系軍の追跡を振り切ることが容易になるからだ。大型艦はデカいだけあって攻撃力にも貨物の積載量にも優れるが、その分足が遅いから宙賊の仕事にはあまり向かない。
ただ、大型艦以上の獲物を狙う場合にはそういった船が必要になる。小型や中型の船では戦利品を持ち帰ることができないし、大型宙賊艦を作るための素体として撃破した大型艦を曳航することができないからな。なので、宙賊もそういう船を運用する連中がいる。今回俺達に絡んできた連中のように。
「わぁ……大きい。勝てますか?」
「負けたら全員宙賊のオモチャにされるんだぞ。勝つさ。あと黙ってろ、舌噛むぞ。メイ、ドナーにはブラックロータスのカバーに入ってもらえ。エルマとセレナはドナーとブラックロータスに近づく中小型艦の迎撃だ。ドナーから出撃する戦闘艦と協力して当たってくれ」
『了解。趨勢が決まったらグラビティジャマーで生き残りの足を止めるわ』
『作戦はわかりました。クリシュナは前に出ますか?』
「ああ。進化したクリシュナをブン回してみる。今回は撃破優先で行くぞ」
そう言いながら操縦桿を通してサイオニックパワーをクリシュナに流し込むと、クリシュナのレリック・ジェネレーターが目を覚ました。コックピットからではわからないが、今頃クリシュナの後方側舷辺りに三対六枚の機動光翼が、そして後部にはどデカく派手な念動光輪が出現していることだろう。
エルマとセレナにも言った通り、今回は撃破優先で行く。戦利品の獲得だとか、敵艦の鹵獲だとか、そういうことは一切考えない。
『なんだァ!? あのピカピカは!?』
『傭兵艦だろ! 奴らは目立つのが好き――なんだあの動き!?』
『おい消え――うわぁぁぁぁっ!?』
加速度とか慣性とか距離とか空間とかありとあらゆる物理法則を無視した機動で敵前衛を突破し、ついでに小型に分裂させた念動光輪をばら撒いて宙賊の小型、中型艦を蹂躙する。念動光輪スダルシャナ・チャクラはロックオンした敵艦を自動追尾してシールドと装甲をぶち抜いて切り裂くトンデモサイオニック兵器である。
ちなみに、ロックオンというのはクリシュナの火器管制システムで行うのだが、俺のテレパシーを使った精神波探知でも代用できる。つまり脳波コントロールでも動く。フハハ怖かろう。
『ホーミングレーザー!? ミサイル!? なんだこ――ッ!?』
『なんだこれ! なんだこれ!? やめろ来るなぁああぁぁうわあぁぁぁぁっ!?』
宙賊諸君が阿鼻叫喚の様相である。それはそう。見たことも聞いたこともない謎の光輪が縦横無尽に飛び回って仲間の船が縦横無尽に真っ二つにされては爆散していくのだ。わからん殺しにも程がある。
宙賊の小型、中型艦が加速度的に数を減らす中、機動光翼による物理法則を超越した機動で宙賊の大型艦に肉薄する。本来であれば迎撃兵装がレーザーだのマルチキャノンだのシーカーミサイルだのをぶっ放してくるところなのだろうが、短距離ワープを含めた出鱈目な機動で肉薄するクリシュナに迎撃システムによる捕捉が間に合っていない。
「はい、ドーン」
四門の重力子砲が青い軌跡を描いて大型宙賊艦のシールドを打ち抜き、装甲を貫徹して船体を突き抜けていく。うーん、原理的にシールドで防げない攻撃になっているのか? これは。大概の兵器を防ぐことができる筈のシールドがなんの用も為してないように見える。ダメージでシールドが飽和しているというわけでもなく、単に貫通して装甲と船体を穿っているように見えるな。
『ジェネレーターがぶち抜かれた!? ヤバい! 総員退避!』
一撃でバイタルパートを抜かれ、動力を喪失した大型宙賊艦から大慌ての声が聞こえてくる。宙賊ってなんでオープンチャンネルで騒ぐんだろうな。なんかそういう文化なんだろうか。
『逃げろ! 逃げろ! これは勝てん! 撤退だ!』
『左舷から化け物が来るぞォ!?』
『超光速ドライブ起動エラーだと!? 逃げられねぇ!』
判断が早い。一隻目の大型宙賊艦が動力を喪失した時点で二隻目、三隻目の大型宙賊艦が逃げ出そうとし始めた。しかし、超光速ドライブの起動に失敗しているようだ。これはエルマのグラビティジャマーが効いてるな。完璧なタイミングだ。
「次はこいつだ。はい、もいっちょドーン」
二隻目の大型宙賊艦に近づき、大型散弾砲から置き換わってしまったもう一つの射撃兵器である念動衝撃砲『カウモダキ』を発射する。すると、砲口から青白い光を伴った空間の歪みのようなものが発射され、その軌道上にある物質を削り取るかのように粉砕、爆散させた。
それがジェネレーターを含むバイタルパートで起こったらどうなるだろうか? そうだね、爆発四散だね。二隻目の大型中型艦が念動衝撃砲の一撃で爆散し、大量のデブリを辺りに撒き散らす。一隻目の大型宙賊艦から脱出した連中、この大量のデブリに巻き込まれて殆ど死んだかもしれんな。
『くそがあぁぁぁ! どうせ死ぬなら一隻でも道連れにしてやらあぁぁぁぁっ!』
最後の一隻がブラックロータスとドナーに向かって突進を始めた。流石は機動性を重視する宙賊艦なだけあって、デカい割に加速が早い。だが、それは大型艦としてはという話だ。機動光翼を持つクリシュナに勝てるわけも――。
『グワーーーーッ!?』
三隻目の大型宙賊艦はクリシュナが手を出すまでもなく、高速巡洋艦のドナーと砲艦並みの火力を持つブラックロータスの集中砲火を受けて爆散した。宙賊艦なだけあって足は早いが、シールドと装甲はお粗末だったようだ。
「えっと……敵艦全滅です。星系軍にも通報済みですが、どうしますか?」
「生存者に関しては星系軍に任せる。戦利品の回収は……どうすっかな」
何せ今回は数が数なので、戦利品を回収しきるのは難しいし時間がかかりすぎる。これが特に時間に制約のない通常の移動中であれば腰を据えて戦利品の回収作業をするところなのだが、今はデクサー星系での結婚披露宴のために旅路を急いでいるところである。
「仕方ない、今回はスカベンジャーに戦利品の回収権を売り払おう。メイ、星系ネットワークで適当なスカベンジャーチームに権利を売ってしまってくれ」
スカベンジャーというのは所謂サルベージ業者だ。自分達では戦わず戦闘終了後、傭兵がめぼしい戦利品を漁った後の残り物を漁って生活している。SOLでもゲームを始めたての初心者がそうやって資金を稼いだりする。
今回は戦闘終了後のサルベージ権をまるまんまエネルで売り渡す感じだな。スカベンジャーとしては初期費用こそかかるが、実入りも相応に良い案件となる。俺達は時短で手っ取り早くエネルを得られる。スカベンジャー達は戦利品が美味しい。今回に限ってはWin‐Winの取引だな。
『はい、ご主人様。承知致しました。すぐに取り掛かります』
「頼んだ。それじゃあ帰投するぞ。ルシアは船に戻ったら説教してやるから覚悟しておけよ」
「うっ……はい。反省してます」
ルシアがそう言ってしょぼくれた顔をしてみせる。本当に反省してんのかこいつ? だとしても説教をして何かしらの罰は与えないといかんな。まったく、困ったお姫様だ。




