#572 「馬鹿ボケカス皇女がよぉ!」
ウィンダス星系から再び帝都へと移動し、ゲートウェイでダレインワルド伯爵領最寄りのニーパック星系に移動する。
ニーパック星系からいくつか――クリスが統治しているコーマット星系も含む――の星系を経由してダレインワルド伯爵領の首都星系であるデクサー星系へと移動するわけだな。そしてデクサー星系で二度目の結婚披露宴を行い、コーマット星系に少し寄ってからリゾート星系であるシエラ星系に移動してバカンスを楽しみ、その後はホールズ侯爵領へと移動して挨拶回りを行う。
ホールズ侯爵閣下曰く、挨拶回り(物騒)という感じらしいが、一体何が待ち受けていることやら。暴力で解決できる内容だと良いなぁ。もしそうじゃなかったら、暴力で解決できる土俵に問題そのものを引き込もう。そうしよう。暴力最高!
「なんか不気味にニヤニヤしていますが……」
「あれは何かろくでもないことを考えている顔ね。とは言っても特に切迫している状況でもない場合のアレは大体無害よ。切迫している状態であの顔をした時は本当にろくでもないことを考えているから注意しておく必要があるわ」
「例えば……?」
「突然どこからか歌う水晶を持ってきてダクトテープで対艦反応魚雷にぐるぐる巻きにしはじめたりするわよ」
「ろくでもなさすぎる……!」
セレナとエルマが何かコソコソ話してるが、全部聞こえてるからなお前ら。というか地味に仲良いね君達。意外と気が合うのか? そういやセレナはティーナとウィスカの二人とも結構仲が良いよな。アレか、酒好きの集いか。
「良かった、すぐに移動できそうですね!」
「ゲートウェイの運行予定だけは余程の理由がないとずらせませんからね」
「余程のことがあればずらせるんやね……?」
「流石に戦争とかの緊急事態とかくらいじゃないかな?」
あっちでは二組の姉妹がゲートウェイの運行について話をしている。いや、ミミとルシアは姉妹ではないけど。顔が似すぎなんだよな……ああして並んでいると双子が二組いるように見える。
「ほう……ミミもそうじゃが、お主もなかなか見ないくらいの運命歪曲力を持っとるのう。まぁ、主に囲われている女は大なり小なり同じようなところがあるが」
「運命歪曲力ですか?」
「簡単に言えば運の良さといったところじゃな。無意識に自分に都合の良い結果を引き寄せる性質のようなものじゃ。流石にミミには敵わぬようじゃが、主の女達の中では二番手じゃ」
クギとクリス――ではなくタマモとクリスが俺を左右から挟んでスピリチュアルな話をしている。なんだよ運命歪曲力って。こわ。
でもタマモの言うこともわからなくはない。クリスは両親と自分を狙った叔父の手の者達の襲撃を、両親の挺身があったとはいえたった一人生き延びたし、救難信号をカットされた脱出ポッドで漂流していたのにすぐに宙賊に拾われた。その後、宙賊にポッドを開けられる前に俺とその宙賊が交戦し、クリス入りのポッドを積んだ宙賊艦が撃破されたにも関わらずポッドは無事で、最終的に俺がポッドを回収して今に至る。
うん、とんでもない豪運だな。ミミに次ぐ豪運の持ち主というタマモの発言もあながち間違いでは無さそうだ。
「人気があるのはシンプルに身体能力を上げる筋力や瞬発力の強化系だけれど、私がおすすめするのは反応速度や脳の処理速度を上げる強化だね。無論バランス良く、というのが理想だけれど。ヒロくんは反応速度や脳の処理速度が重要なのがよくわかる好例だと思うよ。彼、身体能力そのものは良く鍛えているけど、常人の範囲内だからね」
「キャプテンのはなんか違うような気がするんだけど。たまになんか動きがおかしくない?」
「サイオニック能力はまだ未知の部分が多いからねぇ……後天的にサイオニック能力を獲得することができはしないかと試行錯誤しているのだけれど、まだ今のところ上手くいっていないんだよねぇ」
ショーコ先生とネーヴェはイゾルデ達近衛兵ズを相手になんか身体強化談義をしているな。イゾルデ達も興味深そうに聞いているところを見ると、身体強化者にとっては何かためになる話なんだろう。ショーコ先生はそっち方面の専門家だからな。
そんな感じで休憩スペースでのんびりと過ごしていると、ブラックロータスがゲートウェイに入る順番がやってきた。無論、クリスの護衛艦も一緒だ。
『ご主人様、まもなくニーパック星系へと移動を開始致します』
「ああ、頼む。安全運転でな」
『はい、お任せください』
俺達がのんびりしている間もメイは一人コックピットでブラックロータスの全システムを過不足なく運用してくれている。全く頭が上がらないな。また今度何か埋め合わせを考えないとな。シエラ星系はある意味メイの生まれ故郷みたいなものだし。とはいえ生まれ故郷だからって何か特別なことは……うーん、まぁオリエントの工房というか支社には行ってみるか。
☆★☆
ゲートウェイの移動先であるニーパック星系は帝室の直轄領だ。まぁ、ゲートウェイが設置されている星系は戦略上大変に重要な星系ということになるので、そういうことになるらしい。
当然、戦略上重要な星系なので警備は厳しい。セキュリティレベルは常に最高に保たれており、もし星系内で宙賊などによる襲撃やら何やらで戦闘が発生すると、とんでもない速度でゲートウェイ星系防衛艦隊の戦力がすっ飛んでくる。
その影響力は周辺星系にも及び、派手なドンパチを検知すると時間はかかるが隣の星系からでもすっ飛んでくる。なんなら隣の星系にもゲートウェイ星系防衛艦隊の戦力が巡回していることがあるし、執拗と言って良いレベルで宙賊狩りも行われている。
逆に言うと、二つ隣の星系からはその影響力が失われていると言っても良い。とはいえ、ゲートウェイ防衛艦隊の影響力が無くなった途端に宙賊が跋扈する危険な星系になっていたりすると、その星系を統治している貴族の統治能力が疑われることになるので、ゲートウェイの二つ隣の星系は気合を入れて治安維持をしているところが多い。
つまり、ニーパック星系からデクサー星系までの航路で言うと、その隣のメルキット星系まではゲートウェイ防衛艦隊の影響力が強く、その隣のジーグル星系は統治している貴族が気合いを入れて統治しているので、安全だ。
問題はその隣、ウェリック星系だ。ここは正直に言うとあまり治安がよろしくない。宙賊パラダイスと言う程ではないが、セキュリティレベルは良くて中の下、下手すると下の上くらいだ。お隣のジーグル星系やクリスの治めるコーマット星系にはこの星系から宙賊が流入している。
なんで長々と周辺地理の説明をしたかって? それはな。
「どう見ても貴族のものにしか見えない高速巡洋艦と一緒に飛んでるブラックロータスにインターディクトかけてくる宙賊がいるとかマジ?」
俺はボヤきながらクリシュナへ向けて走っていた。
流石にどんなアホでもクリスの護衛艦である高速巡洋艦のドナーに守られたブラックロータスを狙ってくることはないだろうと高をくくっていたらこれである。
今のブラックロータスは接続用外部ハッチにアントリオンとモリガンをくっつけているので、極めて鈍足になっている。急ぐ旅ならドッキングを解除して各々飛ばしたほうが格段に足が速くなるんだが、今はそんなに急いでいないのでそういう形で超光速航行を行っていた。さぞやインターディクトしやすかろうとは思うが、それにしたってというやつだ。
今頃エルマとセレナも各々の乗艦にひた走っているところだろうな。
「兄さん! いつでも飛ばせるで!」
「各部チェック、弾薬もよしです!」
「さんきゅー!」
既にミミとクギからは船に乗っているという連絡を貰っているので、俺もささっとタラップを駆け上がり、クリシュナに乗り込む。
「待ってました! さぁ行きましょう!」
「行きましょうじゃねぇんだよ降りろ馬鹿ボケカス皇女がよぉ!」
コックピットに到着したらサブオペレーターシートにルシアが乗っていた。お前マジでこれは許さんからな。後でたっぷりこってり詰めてやるから覚悟しとけよ!




