#571 「だめです」「ぶー!」
前話でひっそり近衛兵が増えていたので修正しました……どうして( ˘ω˘ )
「あの……本当に良いんですか?」
「良いぞ。経費は後で帝室に請求するから、実質的に帝室から下賜されたようなものだと思え」
「いやそれはそれで……というか本当に請求するんですか? 帝室に?」
「するが?」
新しく拵えた剣を胸に抱き、イゾルデがとても微妙な表情を浮かべている。嬉しいような、畏れ多いような、困り果てたような、色々な感情がないまぜになったような表情だ。
しかしイゾルデは変なことを言うな。帝室のわがままで押し付けてきたんだから、当然かかった経費は帝室に請求するに決まっているだろう。え? でもお前セレナ用の船を貰っただろうって? それはそれ、これはこれ。別件だ。その分便宜を図れとか何も言われてないしな。
「あとは四人分のパーソナルシールドと傭兵向けのアーマーも要るか。正規品は目立つ」
「あの、そこまで本格的でなくとも」
「仕事に使う装備に妥協するのは感心できんな」
「うっ……急に正論で殴ってくるんですけどこの人」
イゾルデが助けを求めるようにエルマに視線を向けるが、エルマはその視線に肩を竦めた。
「ヒロはこう見えて仕事に関することは真面目だし、ストイックよ。それ以外は結構適当だけど」
「四六時中真面目に気を張ってなんかいられないだろ。疲れるわ」
そう言いながら小型情報端末でミミ達に連絡を取ってどこにいるのか聞いてみると、食料の買い付けに行っているということだった。人数が増えたのでフードカートリッジの在庫を追加するのと、緊急時用に民生用のレーションの調達をしているらしい。軍からの払い下げ品の方が安いが、払い下げ品は割と賞味期限が近かったり、不人気メニューばっかりだったりするからな。
今回は最初から民生用に作られた新品、かつ人気メニューの物を中心に買い付けるのだとか。それは俺もちょっと興味があるな。なんかミリメシってわくわくするよね。前に色々食った時は不味くはないけど美味くもないって感じだったからなぁ。
とにかく別行動しているミミ達に次はアーマーショップに行くことを伝え、移動を開始する。俺達が今いる辺りは貴族向けの高級品を売っている店が多い区画だから、傭兵など民間向けの高品質装備を売っている区画に移動しなければならない。
「そういやお前ら、銃は扱えるのか?」
「剣ほどではないが、扱うことはできる」
「ならレーザーガンも要るか。まぁ無難なところをチョイスすれば良いだろ。しかしまぁ、貴族の身体能力があればレーザーガンよりも剣の方が使い勝手が良いのはわかるんだが、剣の扱いに偏重してるのもどうかと思うんだよなぁ……」
「でも、優れた剣の使い手を相手にレーザーガンはあまりに無力でしょう?」
「それはそうなんだが……」
白兵戦をするような間合いというのは身体強化を施された貴族にとっては目の前も同じだ。優れた剣の使い手であればレーザーガンによる攻撃を打ち返すことすら可能なので、そういった貴族を相手にレーザーガンだけで戦えと言われると俺でも厳しい。同時に何本もレーザーをぶっ放せるスプリットレーザーガンとか、剣で弾いたり打ち返したりすることができないプラズマ系の武器とかだったら話は別なんだがな。
というか、剣を相手にするなら実弾武器のほうが勝ち目がある可能性すらある。剣は切れ味抜群でとても硬い素材で出来ているが、意外と脆い。飛んでくる実弾に対して適切に刃筋を立てられないと、簡単に砕け散る恐れがある。セレナの剣みたいに堅牢性の高い幅広かつ剣身が厚い剣なら話は変わるけどな。
「とはいえ、俺達が相手にするのは殆どの場合宙賊だ。それに、レーザーガンの方が便利な時もあるんだよ。そこらでチンピラに絡まれた時にいちいち剣を抜いてバッサリってわけにもいかんだろ」
「む、それは確かに」
レーザーガンには非殺傷出力モードがあるからな。余程当たりどころが悪いか、同じ場所に何発も執拗に撃ち込まない限り軽い火傷で済むようなモードだ。ただし撃たれると滅茶苦茶痛いし熱い。殺さずに制圧するにはとても便利な機能だったりする。
「そういうわけで、アーマーショップの後はレーザーガンショップな」
「アーマー……私も仕立てた方が良いでしょうか? レーザーガンも」
「あー、そうね。セレナの分もあったほうが良いかも知れないわね」
「私の分もですね!」
「いや、ルシアの分は要らんだろ……あーはいはい! わかったわかった! お前の分もな!」
ルシアだけハブろうとしたらスッと帝室紋付きの短剣に見せつけてきやがったぞこいつ。権力を傘にきやがってよぉ! お前の分だけビキニアーマーにしてやるからな!
☆★☆
結局ビキニアーマーはあったが採用されなかった。いやあるのかよって思った。俺もびっくりしたよ。実際には物理装甲部分がビキニアーマーっぽくなってるだけで、手足には対レーザー繊維を利用したピチピチのタイツというかスーツを着るような感じだったんだけどな。重いアーマーを好まない人もいるから、そういった人向けの商品なんだとか。
でまぁ、時間がかなりかかった。アーマーなんだから機能性で選びなさいよ、君達。
何せ傭兵御用達の店なので、カスタマイズの幅が広い。そもそもの選択肢も多い。ウィンダス星系は帝国内で最も大規模なシップヤード星系であり、軍事品市場でもある。つまり、流通している商品も多い。
なんで傭兵御用達の店だとカスタマイズの幅が広いのかって? 傭兵は目立ってなんぼみたいなところがあるので、見た目に拘るやつも実は結構いる。それこそどっちが宙賊だかわからんようなモヒカン+トゲ肩パッド装備のヒャッハーみたいな奴もいるし、お前時代背景間違えてない? みたいな甲冑姿の奴がいたりもする。流石に稀だけど。
最終的にセレナはちょっとお高めのいかにもサイバー女騎士って感じのコンバットアーマーを購入し、イゾルデ達近衛兵ズはそのダウングレード版のものを買っていた。それと人数分のパーソナルシールドも。
ルシア? ルシアのは魔法少女というか姫騎士というか……かなり傾いてますね、はい。やっぱミミの親戚だわ。
レーザーガンに関しては近衛兵ズはごくスタンダードなレーザーガンを購入。特に特徴はなく、とにかく頑丈で信頼性の高いやつだ。
「え? それ?」
「ええ。何か問題が?」
「いや良いけど……」
セレナが選んだのは大口径レーザーガンだった。俺だと片手で取り回すのがちょっと不安なデカいやつだ。レーザーガンなんだが、その出力は高威力のレーザーライフルと殆ど変わらない。というか、レーザーライフルをそのままぎりぎりレーザーガンの形に押し込めたような銃だ。大口径レーザーガンというか、レーザーマグナムというか……剣もそうだが、セレナはデカくてゴツい武器が好みなんだろうか。
「私はこれで! これがいいです!」
「だめです」
「ぶー!」
ルシアがレーザーガンとプラズマガンと小型ロケット発射機をくっつけたような超絶ゲテモノ銃を選ぼうとしたので、却下したらブーイングされた。おい皇女殿下、お下品だぞ。というか絶妙に物騒なチョイスをするんじゃない。
とりあえず却下してイゾルデ達と同じ普通のレーザーガンを押し付けておいた。なんだかんだでいかにも傭兵っぽいということで気に入ったようだからよしとする。だけど君達、ホルスター選びに時間かけるのやめない? どれもそんなに変わらない……ああはいはい、好きにしてくれ。バカ高い本革製とかじゃなければもうなんでも良いよ。なんで本革製だとあんなに高いんだ? 所謂本物の肉や野菜が高いのと同じ理論なんだろうか。
こうしてウィンダス星系での用事を済ませた俺達は、いよいよダレインワルド伯爵家の本拠地であるデクサー星系へ向けての旅路を開始するのであった。
まずはゲートウェイを利用するために帝都に戻らないといけないけどな。早めにゲートウェイを通れると良いんだが、これは運行予定次第なんだよな。さっさと移動できれば良いが、さて。




