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#056 tastes like chicken

とは、英語圏において食べ物の風味を形容するときによく使われる表現である。

「では、えー……特に思いつかねぇや、とにかくかんぱーい」

「「「かんぱーい!」」」


 気の抜けたビールのような俺の音頭に従って女性三人がそれぞれ酒の入ったグラスを掲げ、ぶつけ合う。俺? 俺のはソフトドリンクってか例の炭酸抜きコーラだよ。


「ぷはーっ! 良いお酒ですね!」

「工場見学に行ってその場で買い付けてきたからね。お値段は少々張ったけど」

「10万エネルを少々と申すか」

「わ、私達傭兵的には端金だし……?」

「貴方達の金銭感覚、おかしくない?」

「わ、私はそんなことないですよ? ヒロ様とエルマさんはちょっとアレですけど……」

「アレって何よ、アレって。そういうミミだってヒロにお風呂とか洗濯機とか高性能調理器とかその他諸々の船内設備の刷新をねだったって話じゃない。確か30万エネルだっけ?」

「うん、貴方もぶっ飛んでると思うわ」

「そ、そんなことないです、よ?」


 女が三人集まって『姦しい』とはよく言ったものだなぁと思う。話の種は尽きることが無いようで、話題がピョンピョンとあちこちに跳ね回りながら三人の話は続いていく。彼女達の会話を司る部分にはジャンプドライブでも搭載しているのではなかろうか? 傍から聞いていると話題がピョンピョンしすぎてその軌跡を追っていくだけでも大変だ。

 やがて彼女達の会話内容を追うことに限界を感じた俺は開き直って会話内容を追うことを放棄し、テーブルの上に広がる『輸入品』に神経を集中することに決めた。

 テーブルの上には……宇宙が広がっていた。

 いや、うん。比喩的表現というやつだ。別に本当にテーブルの上に銀河が広がっているわけではない。珍妙な見た目の食品が沢山並んでいて目眩がしただけだ。俺はとりあえず自分に一番近い皿の中身に集中することにする。

 パスタだ。見た目はピンク色のパスタである。だ、大丈夫だ、ウゾウゾと動いたりはしていない。何をとは言わないが、想像して背筋が震えた。とりあえず、マイチョップスティックでピンク色のパスタを一本摘み上げ、仔細に観察する。うん、パスタだ。少なくともワームの類には見えない。

 とりあえず摘み上げた一本を口に運んでみる。味は……うん、ほんのり塩味。噛み潰しても口の中で暴れまわったりはしない。とりあえず安心だ。味は……うん、なんかウニっぽい。甘みがありつつも濃厚でなかなかこれは美味しいのではなかろうか。

 口の中に広がる味を楽しんでいると、いつの間にか三人が会話をやめて俺の様子をじっと窺っていることに気がついた。


「なんだよ?」

「それ、美味しい?」

「俺は嫌いじゃない。甘みがあって、濃厚で……なんだよその反応」

「ええと、それはその、ウーチワームという――」

「あーあー! きこえなーい! これはうにパスタ! 先進的な加工技術によって作られたうに味のパスタ!」

「自己欺瞞が甚だしいですね」


 どうしてこういうマズめなキワモノを買ってくるんだミミ! いや、これはパスタだから。マズめでもキワモノでもないな! パスタだから!


「まぁ、皆も食ってみろよ。美味しいよ、うにパスタ」

「いえ、わたくしはちょっと」

「わたしもいいかな」

「ええっと、私も……」

「買ってきた本人が食わないとかあり得ないよなぁ?」

「えっと……」

「ありえないよなぁ!?」

「うぅ……はい」


 ミミが涙目になりながらピンク色のウーチワーム――じゃなくてうにパスタを口に運ぶ。涙目でミミが口の中のものを咀嚼し、次第に表情が変わってきた。


「あれ、本当に美味しいですね」

「だろ。うにパスタだと思えばなんてことはない」

「確かにそうですね。うにパスタというのはわからないですけど、美味しいです」


 皿から取り分けてうにパスタを口に運ぶ俺とミミを見てエルマとセレナ少佐が顔を見合わせる。


「じゃ、じゃあ私も挑戦してみようかな……?」

「そ、そうですね。折角用意してもらったものですし……」


 エルマとセレナ少佐も戦々恐々としながらうにパスタを口に運ぶ。最初はやはり緊迫した表情をしていた二人も、口の中に広がる味わいに表情を緩めていく。


「たしかに美味しいわね、これ」

「珍味ですね……」

「ところで、この皿が俺の目の前に配膳されていたことに悪意を感じるんだがどう思う?」

「た、たまたまですよ?」

「そ、そうよ? たまたまよ、たまたま」

「君達の前に並んでいるものがあからさまに無難なものばかりに見えるんですがねぇ……?」


 俺の向けるジト目にミミとエルマがだらだらと汗を垂らしながら目を逸らす。これ以上の追求はやめてやろう。追求はな。


「じゃあ次はこれいってみようか! ミミからな!」

「え゛っ?」


 俺の差し出した皿の中身を見てミミが変な声を出して固まる。深皿の中に入っているのはビー玉くらいの大きさの球体である。表面はツヤツヤとして黒光りしながら輝いており、さながら真っ黒なビー玉といった感じの物体である。


「どうした? 全部ミミが手配した輸入品の珍味なんだろう?」

「え、えへへ……?」


 ミミが誤魔化すかのように笑みを浮かべる。うん可愛い。だが許さない。俺は満面の笑みを浮かべたままもう一度皿を突き出した。


「う、うぅ……」


 ミミが涙目になりながら震える指で黒いビー玉を掴み、口に運ぶ。そして口の中で黒いビー玉を噛み潰した。


「――」


 スンッ……って感じでミミが無表情になる。え? 何その反応? 怖いんですけど?


「ど、どうなんだ?」

「いや、うーん……おい、しい……?」


 セレナ少佐の問いかけにミミが眉間に皺を寄せて首を傾げる。その微妙な反応に俺とエルマとセレナ少佐は同時に深皿の中の黒いビー玉に目を向けた。そして三人で互いの表情を見て頷く。


「んん……?」

「うーん……?」

「なんだろう、この不思議な味は……」


 甘いような、しょっぱいような、酸っぱいような不思議な味だった。なんだろう、この感覚……そう、プリンに醤油入れてうにの味とか、そういう感じの……言葉で表現ができねぇ!


「ちなみにこれは何の……いやいい言わないでくれ」

「そうしたほうが良いと思います」


 ミミにこの物体の正体を聞きかけた俺はミミの悟ったような表情を見て追求するのをやめた。あれは絶対聞いたら後悔するやつだ。多分これは何かの卵だ。ミミがああいう表情をするような生物の卵だ。そっとしておこう。


「キワモノはこれくらいか?」

「そうですね。後は無難な感じに纏まっています」


 前にも食べたマンガ肉っぽい燻製肉、見たことのない果物や、それを使ったタルト、魚のフレークのようなもの、やたらと黒い肉のジャーキー、人差し指くらいの太さの茹でたエビっぽいもの。

 ちなみに、この人差し指くらいの大きさの茹でたエビっぽいものは黒いビー玉みたいな物体と同じくらい俺の席に近い場所に配置されている。


「いやぁ、美味しそうなエビだな! エルマ、食ってみろよ!」

「え゛っ!?」


 エルマのミミがビクーンと上を向く。その反応……やはりこれも何かキワモノの食材だな?


「え、えっと、ヒロを差し置いて先に食べるのはちょっと気が咎めるというか……?」

「ははは、遠慮するなよ。ほら、あーん」

「う、うぅ……」


 逃さん、お前だけは……。

 ちなみにエビだと思っていたものは程よく蒸し焼きにされていた芋虫めいたサムシングでした。ミミ、なんでこんなものばっかり用意するんだよ……味はクリーミーで美味しいけどさ。


 ☆★☆


 食品の安全性が担保されたらあとは単なる飲み会である。もっとも、俺は下戸なので酒は飲めない。


「あはははははは!」

「ひろさまぁ~……うにゅーん」

「救援に来るのが遅いとかうっさいってのよ! こっちは宙賊の拠点をぶっ潰してゴミどもを掃除してたのよ! 自分の駐留してるコロニーくらい自分の戦力でちゃんと守りなさいよ!」


 ご覧の有様だよ! たすけて。


 エルマは上機嫌で酒を浴びるように飲んでいるだけだからまぁ無害なんだけど、ミミは脱ごうとするし物理的に絡まってくるし、セレナ少佐はさっきから同じ話題の愚痴を撒き散らして気炎を上げてるし。


「まぁまぁセレナ少佐、落ち着いて……」

「貴方も貴方よ! 高性能のパワーアーマーなんか持ち出して港湾の防衛に、単独で道中のクリーチャーを殲滅しながらイナガワテックの総合病院救援、それと貴方の稼いだ時間で作られた駆除用ナノマシン! いやぁ、独立艦隊(笑)よりも傭兵の方が頼りになりますぁ~、とか! だから物理的に遠くに居たって言ってんでしょうが!? というかあんたが自分の兵を上手く使えなかったんでしょうが! そもそもあんたがちゃんとしてないからバイオテロなんか起こったんでしょうが! ふざけんなー!」


 セレナ少佐が俺の襟元を両手で掴んでがっくんがっくんと揺さぶってくる。やだこの酔っぱらい理不尽。いや、酔っぱらいだから仕方ないんだろうけども。セレナ少佐もずいぶん溜まっていらっしゃるようで。


「Oh……鎮まれ、鎮まり給え」

「がるるるるるるる……」


 唸りながらも揺さぶるのをやめてくれた。


「ってあれ?」

「……」


 急に大声を出した上に俺を力いっぱい揺さぶって酔いが一気に回ったのか、セレナ少佐がテーブルに突っ伏したまま動かなくなってしまった。どうやら寝てしまったらしい。


「この人、男の船に乗り込んでるって意識ないのかね? 無防備過ぎない?」

「んふふふ、ヤっちゃう?」

「その卑猥なサインを今すぐやめろこのへべれけエルフめ」


 エルマがニヤニヤしながら人差し指と中指の間から親指を突き出すサインをしてくる。


「ヤるなら意識のない二人よりもベロベロになってるけど意識のはっきりしてるお前だ」

「……ふぁっ!?」


 俺の宣言にエルマの顔からニヤニヤ笑いが吹き飛ぶ。ははは、いい表情だ。

 その表情に満足した俺は絡みついているミミを自分の身体から引っ剥がして壁際のソファに寝かせて、突っ伏したままのセレナ少佐を抱き上げた。お姫様抱っこで。


「えっ……ほんとにヤるの?」


 俺はエルマの問いかけにニヤリと笑ってみせた。


「そぉい!」


 そして医務室の簡易医療ポッドにセレナ少佐をぶちこんだ。


 この人だけは酒の勢いで『ヤっちゃったZE☆』とかやらかすとマジで洒落にならない。絶対に『責任とってくださいね(超笑顔)』からの部下兼婚約者一直線コースだ。もしかするとセレナ少佐のご両親にバレて闇から闇に葬られるルートも有り得る。つまり何が言いたいかというと、この人は反応弾頭級の地雷だということだ。

 俺は見えている地雷を踏みに行くほど恐れ知らずではない。


「あれ? 戻ってきたの? 勃たなかったとか?」

「酔っ払うと品性が削げ落ちるなお前」


 エルマの頭をペシッと叩いてやる。俺が戻ってくるなりしょげかえっていた表情を明るくしおってからに。可愛い奴め。


「むー、何よお高くとまっちゃって。私とミミに夢中なくせに。あんただって一皮剥いたらケダモノじゃない」

「それは否定しない。男はいつも心の中に自分という獣を飼っているからな。それを理性っていう鎖で縛り付けておくのもなかなかに大変なものだぞ?」

「なにそれ。カッコイイこと言ってるつもり?」

「お? なんだ? 構って欲しいのか?」


 エルマが辛辣な言葉をぶつけながら耳をピコピコ上下に動かしているのは自分に構って欲しい時のサインだ。わざと辛辣な言葉を叩きつけて自分に気を引こうとするとかお前小学生の男子かよ。可愛い奴め。


「わかったわかった。サシで呑むか。俺は下戸だから酒は飲まねぇけど」

「ふん、おこちゃまね」


 ニコニコしながらエルマが炭酸抜きコーラを俺のコップに注いでくる。

 さて、じゃあ寂しがり屋の兎さんにお付き合いするとしますか。

毎週木曜日は近くのスーパーで割引が入る日なんですよね。

来週から木曜日はお休みにしようかな!_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
服のままじゃ効果ないって言ってたからヒロがひん剥いて医療ポッドに入れたのか?
耳ピコピコするエルマかわいいw やはりエルフとかの長耳種族は耳ピコだな!
[一言] エルマかわゆす…_(꒪ཀ꒪」∠)_
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