#561 「ぜったいにいやです」
原稿作業のためしばらくお休みします!
ゆるしてね!!!_(:3」∠)_
さて、式の様子であるが俺にはもうなんだか理解ができなかった。
いや、リハーサル通りではあったんだがな。俺がやること自体は。ただ、なんかド派手なホログラムで天地開闢みたいな演出があったり、カーニバルめいたダンサー達の乱舞があったり、マジでよくわからん。これが格調高い貴族の結婚式なのか……?
あと、ウェディングドレス姿の嫁さん三人が天から舞い降りてきた。一人ずつ抱き留めて地面に下ろす謎の演出だ。これもリハーサル通りではあるんだが、演出の意味は俺にはもうわけがわからないよ。なんか三人とも満足そうだから良いけど。
ちなみに、クリスとセレナとエルマ以外の面々は俺達に近いところに設置されている雛壇のようなところから結婚式を観ている。ミミ達のドレスもかなりウェディングドレスに近いな。メインの三人よりも控えめだけど。多分この辺りが侯爵閣下の言っていた配慮なんだろう。
御臨席なされた皇帝陛下からもお祝いのお言葉を頂いたことで式としての格式はこれ以上無く高まった。え? 肝心の陛下のお言葉? すまん、よく聞いてなかったというか頭に入ってこなかったわ。俺達の結婚を寿ぐような内容だったのはギリギリ理解できたんだが、言い回しが難しいというか古式ゆかしい感じで耳が滑る滑る。もう殆ど祝詞みたいなものなんじゃないか、あれは。
「お祖父様のお言葉、ちゃんと聴いてました?」
「聴いてはいたよ。うん」
内容を正確に把握して記憶してはいないけど。そんな俺にルシアーダ皇女殿下が疑わしげなジト目を向けてきている。こうして見るとやっぱりミミと瓜二つだよなぁ。細部は結構違うんだけど、顔のパーツに共通項が多いというか。
「……そんなに見つめられると恥ずかしいのですが」
「こいつは失礼。こうして面と向かっていると、どうしてもミミと似ているなぁと感心してしまってな。似てはいても、やっぱり違うなとも思うけども」
「そんなに違いますか?」
「違うね。顔つきはともかく、所作や纏う雰囲気が違う。その他にも違うところはあるけど」
俺の視点というかサイオニック的な感覚で言うと、そもそも精神波動というか波長が全然違う。仮にルシアーダ皇女殿下がミミと同じ髪型にして、同じ服を着て、体型を少々誤魔化したとしても俺がミミとルシアーダ皇女殿下を取り違えることは絶対にないだろうな。
「こっそりミミさんに扮して脱走を試みようと思っていたんですが、そう断言されてしまうと無理そうですね。残念です」
「冗談でもやめてね??? 皇太子殿下に追手をかけられるよねそれ???」
その上酒でも飲まされて泥酔でもして、万が一にでもルシアーダ皇女殿下に手を出してしまおうものなら俺の将来設計が完全崩壊する未来が視えるから本当にやめてね? というか手を出す出さない以前に俺の船に皇女殿下がお供無しで乗っただけでもアウトだから本当にやめろよ! フリじゃねぇからな!
「失礼ながら皇女殿下。式を挙げた正にその場で、この臣の前で堂々と密通を仄めかすようなご発言は如何なものかと」
同じテーブル、というか俺の隣の席に着いているクリスが穏やかな笑顔を浮かべながらドス黒いオーラを放っている。口調も表情を穏やかだけど、クリスの背後に牙を向いて威嚇する黒猫、というか黒豹の姿が視える気がする。
何も言っていないが、セレナとエルマも同じような笑みを浮かべているので、とても怖い。ルシアーダ皇女殿下はどこ吹く風といった様子で三人の威圧を受け流しているけど。ミミと同じような可愛い顔をしているけど、図太いなこの皇女殿下。
「うふふ、別に貴方達のお婿さんを奪い取るつもりはありませんよ。ただ、日々の息苦しい生活から解放されたいな、と思う時もあるというだけで。大叔母様のようにね」
「皇帝陛下と皇太子殿下が卒倒しかねないからやめてください」
ちなみに、今は何をしているのかと言うと、式のホストとしてルシアーダ皇女殿下をもてなしているところである。本来は入れ替わり立ち替わりで参加者の貴族やら何やらが挨拶に来るところなのだが、皇族であるルシアーダ皇女殿下を歓待するという名目でそのプロセスをキャンセルしているのだ。これは侯爵閣下やエルマのパパであるウィルローズ子爵が考え出した策で、俺が嫌がるであろう部分を皇族の力を借りて大胆にカットしたというわけだな。
一番格の高いゲストである皇帝陛下はありがたいお言葉を俺達に授けたらさっさと退場していった。長々と最後まで式に参加している時間は皇帝陛下には無いらしい。
「ちなみに私、最近セレスティア大叔母様の本を色々読んでいるんですよ。あと、最近のお気に入り番組は暴れん坊エンペラーです」
「頼むから俺と関係ないところでやってくれ」
盗んだ帝室専用機で疾走り出して滅茶苦茶やるやべぇ女と市井に紛れて悪徳貴族や悪人の類を血の海に沈めるやべぇ男じゃねぇか。
おい! 皇女殿下がこっそりやべぇ奴らに憧れてるぞ! 帝室は早くこの危険人物をなんとかしろよ!
「振られてしまいました……」
「こっそり潜り込むのはマジでやめてください。俺の首を物理的に飛ばそうとした人達の首を俺が飛ばすことになるんで」
「おぉ……少し驚きました。自分が追っ手や暗殺者に負けることを全く考慮しないんですね?」
「えぇ、俺は強いんですよ。恐らく皇女殿下の想像以上に」
実際のところ、今の俺を殺すのは普通の人間にはほぼ不可能だ。普通の人間の範疇には身体強化を施した貴族も含まれる。ダース単位どころか何百、何千人もの貴族に襲われたとしても今の俺が負けることはほぼありえない。多分今の俺には認識外の狙撃すらも効かない――というか、認識外から狙撃すること自体が不可能だ。
「それなら遠慮なく潜り込んでも」
「やめろっつってんだろマジで」
俺の本気を感じ取ったのか、ルシアーダ皇女殿下が頬を膨らませ、唇を尖らせる。激烈に可愛らしいというかあざとささえ感じるが、駄目なものは駄目だ。
「わかりました、では合法的に潜り込みます」
「合法的でも非合法的でもマジで勘弁してください。というか、潜り込むなんて無理でしょう。どんな名目があったら皇女殿下が傭兵の船に潜り込んで諸国行脚をすることになるんですか。俺達は式が終わったらダレインワルド伯爵領に行ってもう一回式を挙げて、それから新婚旅行に行くんですから遠慮してください。皇女殿下が入り込む隙間はありません。夫婦水入らずなので」
はっきりきっぱりとお断りしておく。セレナの件で帝国や貴族社会とズブズブな関係になるのはもう諦めたが、いくらなんでも皇女殿下は俺の手に余る。
「ぐぬぬー……ズルいです。私もお外で自由気ままに暴れたいです。一緒に悪徳貴族や宙賊を血祭りに挙げましょうよ」
「ぜったいにいやです」
バイオレンス皇女殿下怖過ぎるでしょう? 皇女殿下の実力がどの程度のものかはわからないが、帝室関係者ということは彼女に施されている身体強化手術は相応のものであることは疑いようがない。ミミにそっくりの可愛らしい容姿に一体どれだけの暴力が詰まっていることか……暴力だけでなく権力も兼ね備えてるの凶悪過ぎるわ。
「はい、終わり! この話はやめ! もっとこう、穏やかな話をしよう。お花の話とか」
グイグイ来る王女殿下に身の危険を感じた俺は無理矢理にでも話の方向性を捻じ曲げることにした。これ以上こんな話をして何かしらの言質なんぞ取られたらたまらんからな!




