#552 「……少し見ない間に完全に人間辞めました?」
侯爵閣下との話し合いを終えた俺達は侯爵閣下の『別荘』でのんびりすることにした。本当はこのグラキウスセカンダスコロニーをぶらついて遊ぼうかと思っていたのだが、やんわりと侯爵閣下に止められたのだ。曰く、今の時期に変なトラブルに巻き込まれて欲しくない、と。そんな俺が犬も歩けば棒に当たるみたいな感じでトラブルに巻き込まれるわけ……無いとは言えねぇなぁ。
「言えないですよねぇ……」
「言えないわよねぇ……」
「やめろよ。事実は時に人を傷つけるんだぞ」
そう言う俺はソファの左右にメイとショーコ先生を侍らせてご満悦中である。さすがのショーコ先生も設備のないこの別荘――ホールズ侯爵家が借り上げているホテルめいた高層ストラクチャの上階層――では研究もクソも無いので、こうして俺達と一緒にのんびりしている。メイと合わせて俺の『美女とメイドを左右に侍らせる好色貴族ごっこ』に付き合ってくれているのだ。
「たまに変な遊びをしたがるよね、ヒロくんは」
「今のうちに貴族らしい遊びに慣れておこうかなって」
「アンタの中で貴族ってどういう存在なのよ……?」
「偉そうにふんぞり返って金! 暴力! スケベ! みたいな印象だぞ」
エルマにそう返事をしつつ、左右のおっぱいをぽよんぽよんする。生きてるって素晴らしい。メイのボリュームと形が完璧なバランスを成しているおっぱいも、ショーコ先生の説明不要なでかおっぱいも最高だな。
「それ、どっちかっちゅうと典型的な色ボケ傭兵の仕草なんよなぁ……」
「つまりお兄さんはここに来てやっと傭兵らしい振る舞いを……?」
「いや、キャプテンは今までも十分傭兵らしい……傭兵らしい? 傭兵らしかったかな……?」
合法ロリ達がこっちをチラチラと見ながら何やらヒソヒソと話してるけど、全部聞こえてるからな。密談する気無いだろう、君たち。
「ヒロ様の言うこともなんとなくわかりますけどね。暴れん坊エンペラーに出てくる悪徳貴族ってそういうイメージですし」
「我が君、わざわざ悪徳貴族の真似っ子遊びをせずとも良いのでは……?」
「真似っ子遊びって言われると途端に幼い行為って感じがするからやめてくれ。それは俺に効く」
だって外に出てブラブラしようと思ってたのに出鼻を挫かれて退屈なんだ。こうやってお馬鹿な遊びをするくらいしかやることがないんだよ。そしてこういうお馬鹿な遊びに付き合ってくれるのはメイと、意外とノリが良いショーコ先生くらいなんだ。
いや、他の皆も俺が言えば多分付き合ってくれるんだけど、純粋なミミとクギにこんなことをするのは気が咎めるし、合法ロリ達相手にやると絵面が最悪過ぎる。
ああ、例外としてエルマ相手にやると脇腹の肉を引き千切られるか指とか腕とかが曲がっちゃいけない方向に曲がりそうだからやらない。こわい。
「とはいえあまりにやることがないからなぁ……実質軟禁みたいなものだろう? これ」
「式に関する雑務を全部放り投げて他国に遊びに行ってきたんだから、少しくらい我慢しなさいよ……常に何か目的を持って動き続けてないと死ぬ病気ってわけじゃないんだから」
「その式の準備とやらの全貌がわからないのも不安というか気持ち悪いんだよなぁ……」
一体どのような形で式が進むのか? 日取りは? 招待客の数と素性は? 必要な衣装などの発注やその進捗は? 費用は? そもそも場所は? などといった情報が全く俺に降りてこない。
『ハハハ、そういう面倒くさいことは全て私達に任せておいてくれたまえ』
と言って侯爵閣下は笑っていたが、絶対に何か企んでいると思う。俺は何か壮大な罠に嵌められつつあるような気がしてならない。
「とにかくセレナとクリスに接触しないと……二人は今どこに居るんだろう」
「クリスちゃんは多分コーマット星系で忙しくしていると思いますよ。総督業をこなしながらダレインワルド伯爵様と協力して式の準備も進めるって言ってました」
「流石に帝都にはいないか。セレナはどうかな。軍務をほっぽり出すわけにもいかないよな?」
「どうかしらね。結婚するとなれば退役して自ら準備に奔走していてもおかしくないと思うけど……後任は十分育ってるでしょうしね」
セレナが率いている対宙族独立艦隊の後任か。副官がそのまま昇格するのか、それとも俺の知らないナンバーツーが居てそいつがスライドするのかはわからないが、どうなのかね。結婚後も帝国航宙軍から退役せず、対宙賊独立艦隊を率いる、というパターンは無いか? 無さそうだな。そうすると俺というか全員を含めてブラックロータスが対宙族独立艦隊に常に付いて行きでもしない限り、結婚生活なんて送れないだろうし。
逆にクリスは自分が総督として治めているコーマット星系か、ダレインワルド伯爵領の領都星系であるデクサー星系に留まることになるだろう。こちらに関しては俺達の今後の活動拠点をコーマット星系かデクサー星系に定めれば頻繁に逢えるようになるわけだな。
いや待てよ? 対宙族独立艦隊の拠点をどちらかに作る、ということになればセレナが軍人として引き続き対宙族独立艦隊を率いながら夫婦としての生活をするという道も拓けるのか?
うーん、わからんな。対宙族独立艦隊、というか帝国航宙軍がこういう時にどのような対応を取るのかがわからないから、考えても無駄な気がしてきた。寿退社というか、寿退役って線が濃そうな気がするな。
だとしたら、セレナは今どこで何をやっているんだ?
と、考えながら左右のおっぱいを愉しんでいると、俺達に宿として提供されているこの階層に誰かが乗ったエレベーターが到着した音が鳴った。覚えのある気配がエレベーターからとんでもない速度で飛び出してくるのを俺の第六感が捉える。
その気配はまっすぐに俺達が寛いでいる部屋へと到達し、ノックもせずに扉を開いた。そして、金色の何かが砲弾のように俺へと向かって飛んでくる。
「いやいや怖い怖い」
「ちょっとなんですかこれは!? なんで私空中で止まってるんですか!?」
突っ込んできた金色の何か――まぁセレナなわけだが――を念動力でキャッチし、勢いを殺して目の前にふよふよと浮かべる。
「そんな勢いで突っ込んでこられたら下手したら死ぬわ」
今、このソファにはメイが座っているので、残念ながら突っ込んできたセレナの勢いに押されてソファが後ろにひっくり返るということがない。つまり、俺は不動のソファと凄まじい勢いで突っ込んできたセレナの間に挟まれることになる。下手するとマジで死ぬぞ。どうもセレナは忘れているようだが、俺の肉体強度そのものは普通の人間と同じだからな? 多分だけど。
「久々の再会なんですからこう、もう少し感動とかそういうのありません? 普通」
「普通に登場してたらそうなってたかもなぁ……」
そう言っている間にメイが俺の隣の席を立って俺に視線を向けてきたので、感謝の意味を込めて頷きつつ俺の念動力で空中に浮かんでいるセレナをメイの座っていた場所に下ろす。
「……少し見ない間に完全に人間辞めました?」
「そんなわけあるか、と言えたらどんなに良かったことか……」
流石に念動力を自在に操り、精神感応を目に見えない相手を捕捉し、時空間と運命を歪める力にさえ目覚め始めている今『ぼくはふつうのにんげんです』とは俺自身でさえ言えなくなってしまっている。ぶっちゃけ念動力だけじゃなくて手とか全身から雷めいたものをバチバチ出したり、物理的な強度とか無視して離れた場所にあるものを真っ二つにしたりもできるようになってるしな。
「まぁ俺が面白びっくりどっきり人間になってしまったことはこの際横においておこう。ただいま、セレナ。元気そうで何よりだ」
「あ……はい、おかえりなさい。ヒロ。逢いたかったですよ」
そう言ってセレナは微笑み、俺に抱きついてきた。うん、可愛い。




