#547 「無体な」
電気工事に伴う停電のために遅れました( ‘ᾥ’ )
また地獄の原稿期間にはいるので、暫く休むよ! ごめんね!_(:3」∠)_(今回は短いといいなぁ
「どっと疲れた」
ブラックロータスの休憩スペースにあるソファに座り、天井を仰ぎながら愚痴を漏らす。得るものも多かったが、それ以上に面倒だったし疲れたな。俺みたいな落ち人について色々と知れたのは良かったが、クリシュナの件は……まぁ強いことは良いことだな。ただ、足回りも兵装も変わりすぎててまだまだ慣熟訓練が必要だ。
俺自身も新たなサイオニック能力の使い方に開眼した。なんかこう、今ならパワーアーマーを着込んだ完全武装の海兵隊でも剣一本で細切れにできる気がするし、なんなら念動力で『中身』を縊り殺せるだろうし、雷だってビリビリできる。
完全にジ◯ダイの騎士じゃなくてシ◯の暗黒卿みたいになってしまったが、俺は私利私欲で力を振るうタイプだからな。まぁ、お似合いだろう。そもそもこれフォースじゃないから暗黒面もクソもないけど。
「うちらも疲れたぁー」
「にゃー」
こうして休んでいると高確率で誰かしらが突撃してくるものだが、今回の一番乗りはティーナとウィスカだった。二人ともぐったりとしているのは、主星ヴェールを発つ直前まで急に増えた精神感応素材の運び入れとかチェックに忙殺されていたからだな。これも神聖帝国が差し出した『金品』の一部だったのだが、急に増えたので搬入スケジュールがギッチギチになったのだ。
「今回かなり色々と苦労してたようだけど、神聖帝国の艦船技術とかサイオニックテクノロジーに関してはモノにできたのか?」
「まぁ、それなりやなぁ。少なくとも、ウチらがグラッカン帝国で一番サイオニックテクノロジーに明るい技術者なのは間違いないわ」
「問題は身につけた技術をどう活かすかだよね……何か考えておきますね、お兄さん」
「無理のない範囲でな。とりあえず、クリシュナが問題なく動けば俺としては構わないから」
「クリシュナなぁ……」
「クリシュナねぇ……」
二人が天井を見上げ、全く同じタイミングでその瞳からハイライトを消す。完全に目が据わってる。怖い。あと、なんか二人の背後に宇宙の光景が渦巻いているような幻覚が見える。
「あれ、何なんやろなぁ……船? 船か? 船なんかなぁ……?」
「船、だと思うんだけど……船、船とは……?」
船だぞ。俺が乗ってサイオニックパワーを注ぎ込むとなんかパーツが生えてきて性能がグンと上がったりするけど、船だぞ。多分船。恐らく船。部分的に船。勝手に動いたり物を食ったりはしないから、多分船。生き物とかではないはず。
「二人とももういい、休め。ほら、神聖帝国から頂いた銘酒があるだろう? あれでも飲んで休め。な?」
「せやな! そうするわ!」
「お兄さんも一緒に飲みましょう!」
「いや俺は……ちょ、力強い……!」
二人に引っ張られて休憩スペースから食堂に移動すると、そこでは駄エルフが既に酒盛りを始めていた。おい、早えよ。ブラックロータスに戻ってきて船に入ってその足で食堂に直行して呑んでるだろお前。
「ん? 呑む? お酒ならセラーに一通り入れてあるわよ」
「姉さん早い」
「ドワーフの私達もびっくりの早さ」
「ふっ……今の私なら早さに限ればヒロやメイにだって負けないわよ」
そう言ってスルメめいた何かを口にしたままエルマがドヤ顔をする。今回の神聖帝国訪問でエルマはゴリラ宇宙エルフからスーパーゴリラ宇宙エルフに進化したからな。
具体的に言うと、サイオニック能力を応用した身体強化技術を習得した。帝国の身体強化技術によって強化されていた身体能力が更に向上することになったのだ。尤も、身体能力は上がっても身体強度が上がったわけではないので、色々と限界はあるようだが。
それでも生身の人間を素手で破壊できるくらいの強度はあるけどな! 俺なんて捕まったらもう何もできねぇよ! 今なら冗談でもなんでもなく人間の四肢とか首とかを素手でもぎ取れるんじゃないだろうか。こわい。
「ヒロ、何か変なことを考えてない?」
「ナニモカンガエテマセン」
「嘘臭いわね……まぁ良いわ、こっちに来なさい」
「ハイ」
エルマの隣の席に座るように言われたので大人しく従う。酔っ払い怖いからね。それが人の手足を気軽に折り曲げてくるエルフだったら尚更ね。素直に従おうね。
「で、あんたモヘーっとしてるけど、ちゃんと覚悟は決まってるわけ? 帰ったらすぐに挙式、ってわけじゃないけど、もうそこまで一直線よ?」
エルマが隣に座った俺の肩に手を回し、ジト目を向けながら囁いてくる。この酔っぱらいエルフ、酒臭い筈なのに何故かふんわりと良い匂いもするのは一体どういう仕組みなのか。
「今更ジタバタしたところでどうにもならないかなって」
クリスのこともセレナのことも好きだしな。ダレインワルド伯爵家やホールズ侯爵家とこれ以上なく深い関係を築くことになる、というのは不安といえば不安だが、そこは上手く付き合っていくしか無いだろう。幸い、クリスもセレナも俺の性分というか、生き方に関しては理解をしてくれていると思うし。
「傭兵稼業も続けられるかわからないわよ?」
「そこはクリスとセレナの二人と話し合ってうまく折り合いをつけていくしかないだろうな。俺が領地経営をするだとか、政治的なあれこれをするだとか、貴族同士の付き合い云々だとか、そういうことをするともできるとも二人とも思ってないだろ。二人だけじゃなく、皆もな」
そういうのはできる人がすれば良い。というか、もし俺にそういうことをやれとか言われたらメイに全部投げるからな。過去の経緯から帝国貴族は機械知性に隔意を抱いているというか、何か含むところがあるようだが、俺にはそういうの無いし。
「それはそうでしょうけど、夫婦になるんだからあんたからもちゃんと歩み寄らないと駄目よ?」
「それはそうだな。ただまぁ、どうにもならなかったらクリスとセレナを連れてヴェルザルス神聖帝国にでも亡命して、あっち方面で活動しても良いだろ」
「……伯爵と侯爵が泣くわよ」
「ははは、泣く程度で済めば良いな」
泣き寝入りする前に切り込んでくるか、追手でもかけてきそうな気がしてならん。いや、俺相手にそれは無いか?
「というか、エルマのパパ――エルドムアさんはいいのか?」
「うちのパパは私に関しては色々諦めてるだろうし、大丈夫でしょ。兄さんも姉さんもいるんだし」
「それで良いのか……?」
良いのよ、と言いながらエルマがグラスを傾ける。そうしているうちにティーナとウィスカが酒の保管されているセラーから戻ってきた。おい、でけぇよ。瓶が。一升瓶を二本も持ってくるな。
「よっしゃ呑むでぇ!」
「おつまみも持ってきました!」
「ヒロ、あんたも付き合うわよね?」
「ちょっとだけな……」
こうなったらもう諦めるしかあるまい。そもそも、エルマの隣りに座ってしまった時点で自力での脱出はほぼ不可能だ。何せ相手がエルマなので。
さて、ウィスカが持ってきたおつまみは、っと……ヴェルザルス神聖帝国産の色々なものか。何かの瓶詰め、真空パックにされた何か、その他諸々。これは開けて食ってみないとわからんな。
「あーっ! ズルい! 何か美味しそうなもの食べようとしてますよ!」
「あら、本当ですね。ずるいですよ、我が君」
「酒盛りかい? ズルいなぁ。私も誘っておくれよ」
「楽しそうだね、キャプテン」
四人でどのおつまみを開けようか、などと相談していると、ミミとクギ、それにショーコ先生とネーヴェも食堂に集まってきた。やっぱり皆ここに集まってくるよな。
「いいところに来たわね。クギ、この中でお酒のアテに良さそうなのはどれ?」
「ええと、これですね。魚の卵巣の塩漬けなのですが、薄くスライスして少し炙ると良いと聞いたことがあります。珍味ですね」
「へー……魚の卵巣かぁ。なんかすっごい貴重品なのと違う? 高いんやない?」
ティーナがクギにおすすめされた真空パックの食品を手にとって眺める。ふむ、卵巣の塩漬け。カラスミみたいなものか? 天然物の畜肉ですらとんでもない高値がつく世界で、本物の魚の卵巣を使った珍味か……値段を考えるのがちょっと怖いな。
「お姉ちゃん、値段については考えるのをやめよう? それを言ったらこのお酒もすごい値段になりそうだから」
「せやな。気にせんで切ろか」
「お任せください」
いつの間にか姿を現していたメイがティーナの手から真空パックを取り上げ、どこからか取り出したナイフで手際よく珍味をスライスし始める。いつの間にか現れた件については敢えて突っ込むまい。何せメイだし。
「どうやって炙る?」
「こんなこともあろうかと、携帯調理セットを用意してあるぞ。俺の部屋にだが」
「ダッシュ」
「無体な」
駄エルフが唐突なダッシュを要求してくる。何たる横暴。しかし無駄遣いと言われた携帯調理セットが日の目を見るチャンスだ。仕方ない、走るか。
「我が君、此の身にお任せください。えいっ」
クギが可愛いらしく気合いを入れた次の瞬間、テーブルの中央に小さな火の玉が発生した。ほう、サイオニック能力で火の玉を作ったのか。
「エルマもこういうのできたよな?」
「アレ疲れるから。クギは平気なの?」
「はい、この程度ならなんともありません。その、タマモ様が憑い――一緒になってから、第一法力もかなり楽に使いこなせるようになったので」
自分の発言を誤魔化すような笑みを浮かべながら、クギが五本に増えた尻尾をわさわさと振る。物理的にボリュームアップして尻尾のモフ度がかなり上がったよな、その尻尾。ところで今、憑いたって言いかけたな? 事実その通りだが。
「ヒロ様、これすごく美味しいです」
いつの間にか用意されていた串を使って炙ったカラスミめいた何かを口にしたミミが目をキラキラと輝かせながら俺の服の裾を引っ張ってくる。素早いな、ミミ。
「キャプテン、全員ここで寛いでるけど、大丈夫なのかい?」
「問題ないよ。船の運行はメイくんが全て掌握しているし、ヴェルザルス神聖帝国の艦隊に護衛されているわけだしね。そうだろう?」
「はい。ドクターの仰る通り問題ありません」
スライスしたカラスミめいた何かを串の先に刺しながら、メイが頷く。メイの処理能力をもってすればブラックロータスを過不足なく運行しながらこうして俺達の世話を焼くのも問題なし、と。毎度のことながら優秀なメイドさんだよな。本当に助かる。
「帝国領に戻るまでのんびりしよう。向こうに戻ったらきっと忙しいだろうから」
「そうですね。はい、ヒロ様。良い感じに炙れましたよ!」
「さんきゅ。お、これは確かに美味い」
ミミが炙ってくれたカラスミめいた何かを味わいつつ、グラッカン帝国に戻ってからの忙しさについて俺は密かに思いを馳せるのだった。




