#542 「全っ然嬉しくないんですけどっ!?」
日曜の更新でまた一旦お休みします! ゆるしてね!_(:3」∠)_
翌日。一日デート権の一番手を勝ち取ったティーナと、三番手を勝ち取ったウィスカが共同で丸一日俺を独占することを宣言し、さぁどこに遊びに行こうか、と考えていたら二人揃って丸一日クリシュナの解析と整備に付き合ってくれという話をされた。それで良いのか君達。
二人が言うには俺がコックピットに座ってサイオニックパワーを注ぎ込んでいる状態のクリシュナと、単にジェネレーターを起動しているだけのクリシュナでは状態が全く違うらしい。俺が座っている場合は所謂リミッターを解除した状態というか、クリシュナの能力を全て引き出したような状態になるようなのだ。その状態のクリシュナのデータを解析して確実に整備できるようにする必要があるというわけで、こうして頑張っているのだが……。
「それで、目処は付きそうなのか?」
「「うーん……」」
通常時には展開されない装備――機動光翼と念動光輪――のデータを確認しながら、二人が唸る。
「念動衝撃砲もそうなんやけど、新しく追加された装備なぁ……これ、あれやんな? ウィー」
「うーん……そうだね。認めたくないけど、そうだね」
今日だけで何度もクリシュナの各種武装や装備を起動し、収集したデータを確認した二人の眉間に深い皺が刻まれている。二人とも、あんまりそうやってるとあまりお肌に良くないと思うぞ。
「認めたくないんやけどな、兄さん」
「ああ、なんだ?」
「兄さんがクリシュナのコックピットに座ってサイオニックパワーを注ぐやん?」
「機能をフルに使おうとしたらそうだな」
「色々試してみた結論なんですけど、新しく追加された武装とか装備の類はその度に再生成されているみたいですね」
「???」
再生成されている? すまん、ちょっと意味がわからない。再生成? 再生成とは何ぞや?
「つまり、や。クリシュナの本来の……と言って良いのかはわからんのやけど、今までうちらが整備してきた尋常な部分の整備は今まで通りにすれば良し。今回の進化? で追加された装備や武装に関しては、兄さんが力を注いで起動する度に『新品』が再生成されるから、メンテナンスフリーってことやな」
「意味わからなくて笑う」
「笑いたいのは私達の方なんですよ、お兄さん。こう、物理法則とかそういうものを超越するのやめてもらって良いですか?」
「俺悪くなくねぇ?」
不満の表明のためかグリグリと押し付けられるウィスカの頭を撫でて宥めながら、首を傾げる。
「まぁ、もしかしたらクリシュナの配慮なのかもな」
「配慮……?」
「配慮かぁ……」
二人が難しい顔をしている。しかし、周りの聖遺物研究者や艦船技術研究者はあり得るな、とでも言いたげな表情で頷いていた。そもそも聖遺物自体が使用者の意思を汲んでその有り様を変えるような存在だから、それが航宙戦闘艦の形だったとしても同じようにその有り様を変えるのは当然といえば当然なのかもしれない、という立場であるらしい。
「皆さんは納得していらっしゃるぞ」
「どういうことやねん……いや、常識をかなぐり捨てるべきなんか……?」
「ま、まぁ私達も手をかけた船にはこう、愛着とか湧くし……そういう方向で……なんとか……?」
ティーナとウィスカが納得しきれないという表情で葛藤している。そりゃ二人からすればクリシュナは出処こそ不明だが普通の船だったし、なんとかかんとかちゃんと整備してきたわけで、それがいきなり実は半分生命体じみた物体で、ちゃんと船っぽく整備できるのはそういう『擬態』だと言われても簡単には納得はできないだろう。
「クリシュナのブラックボックス部分は結果的に全て解析できたし、その部分の整備に必要なサイオニックテクノロジーに関しては習得できたからええんやけどな……若干納得はできんけど」
「そうだね……整備が本当に必要なのかどうかもわからないけど。でも整備はできるようになったからね。資材さえあれば、ブラックロータスやアントリオンにもサイオニックテクノロジー由来の武装とか、コンポーネントを追加できるよ」
「追加しても扱いきれないだろ……いや、エルマとクギならワンチャンあるか?」
「残念ながら姐さんのサイオニック能力では扱いきれなさそうなんよね。クギはともかくとして。今後クギ用に戦闘艦とかを用意するなら検討しても良いかもしれんけど」
「その時はクギ用の船を手配できないかヴェルザルス神聖帝国まで聞きに来るかなぁ……」
「それならそれで、整備はできるから無駄じゃないね。とりあえず、私達の作業はこれで一段落かな」
「せやな」
若干疲れた表情で――精神的なものもあるのかもしれない――そう言い、ティーナとウィスカは揃って溜息を吐いた。まだまだ今日という一日は長い。ここは二人を労うべく何か考えるとするか。
☆★☆
「で、兄さんが考えたんがこれなん?」
「温泉は良いぞ」
「それは同意しますけど」
色々と考えたが、精神的に疲労している二人をあちこちに連れ回すというのはあまり良くないように思えたので、二人を連れて用意されている宿とはまた別の、少し離れた場所にある温泉宿へとやってきた。
無論、俺達三人だけで温泉を楽しめるように客室に露天風呂や内風呂がついているそこそこお高いところだ。ヴェルザルス神聖帝国でもエネルが使えて実に何よりである。
「歩き回るのも疲れるだろ? ダラダラしようぜ。風呂から上がったら美味いメシと酒もあるぞ」
「ここんとこ朝から晩までクリシュナの解析とサイオニックテクノロジーの勉強やったからなぁ」
「ご飯も割と適当だったよね……」
大社附属研究所の購買で済ませてたからなぁ、二人は。頑張ってくれるのは嬉しいし、尊敬もするんだがもう少し自分達の負担を顧みても良い気がする。二人ともドワーフで身体が頑丈だから無理が利くんだろうけど、そういうのって限界を超えるといきなり身体に来るからなぁ。
「そういうわけで今日は英気を養ってくれ」
「と言いつつ混浴なんやな」
「だって俺も一緒にのんびりしたいし」
そう言いつつ湯口から出てきているちょっと熱めのお湯を湯船の中でかき混ぜてやる。
「あー、ええ感じやわぁー……ウィーはなんで今さらそんな縮こまっとんねん」
「だ、だってぇ……」
「兄さんといいだけ乳繰り合っとんのに今更やない?」
若干呆れながらそう言うティーナは隠すところなど何も無いと言わんばかりに堂々と湯に浸かっているのだが、ウィスカは湯船の中で自分の身体を抱きしめるようにして色々隠そうと努力している。何も着てないから無駄な努力だけど。まぁ、温泉のお湯のせいであまりよくは見えないかな。
「ははぁん? そういやウィーは甘いものようけ食っとったなぁ……?」
ニヤリと笑みを浮かべたティーナが素早くウィスカのお腹へと手を伸ばす。
「ちょっ!? お姉ちゃん!?」
「おーおー、ウィーちゃんや。ちょーっとプニっとらんかー?」
「やめてーっ!?」
お腹を触るティーナの手から逃れようとウィスカが暴れる。ばっしゃんばっしゃんと。これ、部屋付きの風呂じゃなかったら大迷惑だなぁ……二人ともパワフルだから湯船からお湯が飛ぶこと飛ぶこと。お客様ー? 困りますよ? お客様ー?
「ウィスカ」
「なんですかっ!?」
「俺はちょっとプニってるくらいでも良いと思うぞ」
「全っ然嬉しくないんですけどっ!?」
ウィスカが珍しくキレ気味で言い返してくる。ははは、まぁ女性としてはそうなんだろうけどな。俺としてはちょっとむっちりしてるくらいの方が好みなんだけどな。とはいえ、このままドワーフの怪力で暴れられると宿に迷惑がかかりかねないから、なんとか止めないといかんな。物理的な意味で骨が折れそうだなぁ……気をつけよう。




