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#540 「不安になるようなことを言うんじゃない」

こっちも更新! がんばる!_(:3」∠)_(でもまたすぐに別の原稿をやらないといけない

「精密検査を受けてきます……」


 突如ヤバイ級のサイオニック能力者の精神体に憑依されることになり、実際に憑依されて肉体の変異――尻尾が増えたり顔に化粧のような文様が浮かんだり――が起こったクギは、精密検査を受けに行ってしまった。というか、殆ど多数の研究者達に囲まれて連行されるような形だったが……神祇省の巫女さん達が付き添って行ったし、クギに何かあれば滅茶苦茶に暴れてやるからなと脅しておいたから、多分滅多なことにはならないだろうと思う。


「なんやあれやな。兄さんはホントちょっと目を離すと大事件起こしてんな?」

「俺は悪くねぇ……いや今回は悪いかも。口は災いの元ってよく言ったものだよな」

「どうかしらね。いずれにせよこういう形にもっていこうとしてたんじゃないかしら、その人」


 クギが精密検査に連れて行かれたし、俺の第三法力を鍛えてくれるというタマモも必然的に引っ付いていってしまったということで俺の修練は一時中断。ちょっと休憩しようかということで皆でクリシュナが安置されている臨時ハンガー近くに集まって休憩しながら起こった出来事を話していたわけだが……なるほど、エルマの言うことも可能性としてはありそうだな。身体がパーンしたのは計算外っぽいけど。


「そうかもしれんが、まぁこうなってしまったものは仕方がないと諦めよう……ところで、皆はどんな感じなんだ? 退屈だったりしないか?」

「私とネーヴェちゃんは普通に観光してる感じですね。お買い物スポットにも色々と連れて行ってもらっているので、退屈なことは全然ないですよ!」

「グラッカン帝国の帝都よりも全体的に風光明媚というか、綺麗な場所が多いよね。帝都の発展ぶりはあれはあれで凄かったけどさ」


 ここのところ一緒に行動していることが多いミミとネーヴェがそう言って道中に撮ったと思われるホロ映像を見せてくれる。なるほど、確かに帝都グラキウスに比べると街中に自然が多いし、あまり建物もキチキチに詰まっていないというか、余裕のある区割りで建てられている。それに、高層建築があまりなくて遠くまで視界が通るようだ。


「あんまり人口が多くないのかね?」

「どうかしらね? ハビタブルゾーンに物凄い数の惑星が連なっていたでしょ? 居住区画がそれだけ広いとも言えるわよね」

「単に土地に余裕があるのか……まぁ、一種のリングワールドみたいなものだものな」


 リングワールドというのは一つの恒星を中心とした生命居住可能領域(ハビタブルゾーン)全体を使って建造されるリング状の超巨大建造物(メガストラクチャ)のことで、その内側を居住区画として利用することを目的としたものである。

 一つの恒星系のハビタブルゾーンを丸々使うという途方もない性質上、それはもうとんでもない大きさかつとんでもない数の住民を収容できる施設となるわけだが……流石にこの世界にもリングワールドは存在しないかな? あまりにも規模がデカすぎるものなぁ、アレは。

 とはいえ、ヴェルザルス神聖帝国の主星系であるこの星系――そういえば星系の名前を聞いていない――では恒星のハビタブルゾーンに不自然な数の居住可能惑星が存在しているわけで……これはある意味リングワールドと同じような構想で構築された環境と言える。


「リングワールドとか、アンタも大概変な知識があるわよね……そういうモノを構築するって構想自体は古くからあるけど、結局どう計算してもコストが見合わないってことで頓挫してるわよ」

「そうなのか。ロマンはあると思うんだがな……まぁ恒星系は沢山あるわけだし、成功するかどうかもわからないリングワールドの構築に資源を投下するくらいなら、そこらの石ころをテラフォーミングした方が確実か」


 いずれ科学や技術の発展によって知性体が時間や物質的な制約から解放でもされない限り、リングワールドのような超巨大構造物の構築などは成されないのかもしれない。


「エルマはサイオニック能力の修行をしてたんだよな?」

「してたけど、私はアンタほどの才能どころかヴェルザルス神聖帝国の武官達の足元にも及ばないような能力行使しかできないから。あまり期待してもらっても困るわよ。でもまぁ、なんでも使いようではあるわよね」

「何かしらの手応えは掴んでるみたいだな」

「そりゃね。もう一度言うけど、あまり期待しないようにね」


 そう言って肩を竦めるエルマだったが、随分予防線を張るな。本当に大したことがないか、逆にこっちをびっくりさせようとしているかのどっちかかな? どちらにせよここは深く追及しないでおくのが良さそうだ。


「そういえば、サイオニック能力に関してなんですけど。私とネーヴェちゃん、あとティーナさんとウィスカさんも全然、全く才能がないみたいです」

「何年修練しても今のままじゃペン一本動かせないって話だったね。サイオニック能力を使えるように生体改造を施せば話は別らしいけど」

「そこまでして使おうとは思わんかなぁ……ウィーはどうや?」

「私もそこまでしてはって感じかなぁ……ちょっと憧れるけどね」


 ウィスカがそう言いながらエイヤ! とか言って手を突き出している。それはサイオニック能力を使っているジェスチャーなのか? なんかちょっと可愛いんだが。


「あ、でも私はなんか変なことを聞かれたりしましたよ」

「変なこと?」

「はい。もしかして君はとても運が良かったりしないか? って。その後色々検査というか、なんだかよくわからない機械で計測みたいなことをされたりしました」

「なるほど……? 後でちょっと一緒に詳細を聞きに行こうか」

「はい!」


 俺と一緒に行動できることが嬉しいのか、ミミが満面の笑みを浮かべる。ここ数日、能力の修練やら何やらで若干放置気味だったからな。切羽詰まっている状況でもなし、もう少し余裕を持って行動したいものだ。


「そういやショーコ先生は?」

「ヴェルザルス神聖帝国の人達から遺伝子データを取得した後は神聖帝国の遺伝子工学系の科学者とブラックロータスの研究室にこもったり、あちこちに行って何かしてるみたいよ。確認しておいたほうが良いんじゃない?」

「そうだな、ミミの件を聞きに行った後で連絡を取ってみよう」


 クリシュナ近くに集まって休憩しようぜ、という旨を書いたグループメッセージを小型情報端末で確認してみると、ショーコ先生からは「ブラックロータスに戻っているからちょっと難しい。ごめんね」とメッセージが戻ってきていた。確認してなかったな。これは失敗だ。だが、ショーコ先生なら心配は要らないだろう。あれで立派な大人だし。

 いや、大丈夫かな……? 自分の身辺警護に関してはイナガワテクノロジーに所属していた頃から適当だったような気がする。ま、まぁヴェルザルス神聖帝国で危険な目に遭うことはまずないだろうから大丈夫だろう。きっと。


 ☆★☆


「結論から言うと、ミミさんは一種の特異点とでも言うべき存在ですね……うわぁ、これは凄い数値だ」


 滅茶苦茶に派手な赤い羽の翼が目立つ学者――オウと名乗った学者が俺とミミによくわからない機器を向けながらそう言った。念動力を使って俺達に向けられているその装置を明後日の方向に向けつつ、彼の言葉の意味を考える。特異点、特異点ねぇ……一口に特異点って言っても色んな意味があるからなぁ。数学的な意味とか幾何学的な意味とか物理学的な意味とか、他にも諸々と。


「ミミの運が良いことと何か関係があるのか?」

「ある意味では。第三法力が時空間や運命の領域を操る術であることは当然ご存知ですね?」

「勿論。その修練を受けているわけだしな。だが、ミミにはサイオニック能力の才能は欠片もないんだろう?」


 ミミに視線を向けると、隣でミミでコクコクと何度も頷いてみせた。


「ええ、ミミさんには一切そういった才能はありませんね。ですが、才能がないからといってそいういった領域に干渉できないというわけではありません。ミミさんはある意味で我々や貴方のようなサイオニック能力者よりも稀有な才能、或いは特性を持っていると考えられます」

「それがミミの豪運だと?」

「そうですね。一種の現実・運命改変能力のようなものです。無限の未来の中から自分にとって最も都合の良い結果を引き寄せる。運が良い人、というのは大なり小なりそういった能力を持っているのです。とはいえ、それでも大抵の場合は平均値をちょっと上回るのが関の山ですが。物凄い強運を持っている、という人でも普通はサイコロを二つ振って七以上の値を出す確率が若干高い、くらいのものです」


 そういうものか。俺の中の何かが2D6の平均値は5だぞ! と叫んでいる気がするが、ここは黙っておこう。

「ミミの場合は違うのか」


「そうですね……どうやらヒロ殿と一緒だと、特にその特徴が顕著になるようです。これはもしかすると、ミミさんがヒロ殿の第三法力に干渉している……? そんなことがあるか……?」


 オウが再び謎の機器を俺達に向け、ブツブツと何かを呟き始める。駄目だこりゃ。


「危険のあるような状態ではないんだよな?」

「危険の定義にもよりますね。少なくとも現状ではヒロ殿とミミさんに害をなすことはまず無いと思いますが。お二人とも、末永く仲良くしてくださいね」

「不安になるようなことを言うんじゃない」


 まるで俺とミミとの間が冷え切ったらミミの豪運が悪い方向に働くみたいじゃないか。冗談でもやめてほしい。ミミの豪運がひっくり返って不運となって襲いかかってきたら絶対に大変なことになるぞ。


「ヒロ様と私は仲良しなので! 心配ありません!」

「うん、そうだな」


 横から抱きついてくるミミの体温と柔らかさを感じながら頷く。確かにそれはそう。ミミと離れるつもりは今後も無い。もしオウが言外に匂わせたようなことがあるとしても、結局のところ俺とミミの仲が安定している分には何の問題もないわけだ。なら今後も問題ないだろう。多分。

 ただまぁ、最近はちょっと放置気味というか、修練にかかりきりだったからな……せめて今日はミミと一緒に過ごすとしようかな。

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― 新着の感想 ―
お互いがお互いに良い形で循環しているので結果的に良好な結果を生み出しているけど中が拗れた場合「お互いが相手を不幸に追い込む」という双方に不運が舞い込む様な形にでもなるのかな…恐ろしい話だ
クギに何かあれば滅茶苦茶に暴れてやるからなと脅しておいたから、多分滅多なことにはならないだろうと思う。 クギが精密検査を受ける事になったのも、クギに何かしてるのも基本貴様が原因じゃがな。
更新ありがとうございます!
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