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#537 「それいじょういけません」

「どうしても聞きたいと……?」

「興味はあるな」


 俺がそう言うと、フグルマとイナバはいかにも気が進まないとでも言いたげな表情を見せた。

 ヴェルザルス神聖帝国の皇帝というか、帝室の話を聞かないなぁという話から周囲が示した反応に興味を持った俺は、ブーボを捕まえて臨時ハンガーの片隅に連行しようとしたのだが。


『私は忙しいし、技術畑の人間だからさ! フグルマ女史は歴史畑の人だから、彼女に聞くと良いよ!』


 明らかに言い訳じみている物言いではあったが、言っている事自体は然程間違っているわけでもなさそうだったので、俺は標的をフグルマに変更した。

 ちなみに、エルマは興味が無いのか他のクルーにところに行ってくると言って去って行った。薄情な奴め。


「おや、どうしたのですか? 何か聞きたいことでもありそうな様子ですが」

「ヴェルザルス神聖帝国の皇帝とか帝室について聞きたいんだが」

「あ、ちょっと急用を思い出したので失礼しますね」

「まぁまぁまぁまぁ……」

「あーッ! いけません! いけませんヒロ様! そんな、みだりに女性の身体に触れては! 困ります! あーッ! いけませんいけません!」

「静かにさせてくれ」

「はい」

「ムーッ!」


 逃げようとしたフグルマの肩を掴んで止めたら騒ぎ始めたので、イナバに命じてフグルマの口を押さえさせる。そしてそのまま臨時ハンガーの片隅に連行することにした。


「絵面が婦女子を拐かす悪党のソレなのですが」

「代わりにコノハが教えてくれるのか?」

「……」


 コノハはツイッと明後日の方向を向いた。これはアレだな、随分となんというかタブーというか、アンタッチャブルな話題であるようだな。益々興味が湧いてきたぞ。

 フグルマを心配してなのかどうかわからんが、神祇省の職員らしき神主っぽい人とかコノハとモエギ以外のの武官っぽい人達も「嫌だなぁ」みたいな雰囲気を醸し出しながらついてきている。


「結論から言うとですね、皇統は絶えています。肉体的な意味では」

「えっ……?」


 皇統が絶えているってことはつまり、神聖帝国を名乗りながら皇帝が居ないってことなのか? そんなことある? ああいや待て、肉体的な意味でって言っていたな。


「精神的な意味では生きてるってことか?」

「ヒロ殿は察しが良いですね……まぁそういうことですね。皇統は肉体を捨て、アストラル体へと昇華しました。ただ、それが……」

「どうしてそこで言葉を濁すんだよ」

「ヒロ殿。どんなに精神的な修養を積み、法力を高め、ヒトとしての高みに至ったとしても……ヒトの精神というものは肉体という器がなければ変容を免れないものだったんですよ。そしてその変容に気付くことに、私達は失敗したんです」

「なんか想像以上に厄い話になってきたな?」

「本当に厄い話なんですよ……」


 フグルマの話を要約すると、こうだ。

 今から1500年ほど前。ヴェルザルス神聖帝国は新たなサイオニックパワーの集積理論を完成させ、低コストかつ短時間で膨大なサイオニックパワーを集積し、大規模な儀式を行うことができるようになった。

 それまでも大規模な儀式を行うことは可能だったが、エネルギーの集積に時間もコストもかかるため、そう簡単にできるようなことではなかったのだ。

 そして時のヴェルザルス神聖帝国の皇帝は、その技術を利用して莫大なサイオニックパワーを集積し、自らの精神を解き放って永続的にヴェルザルス神聖帝国の皇帝の責務を果たそうとした。

 結果的に言えば試みは成功した。時の皇帝の肉体は消え去り、目論見通りに強大なアストラル生命体へと昇華したのだ。

 だが、そこには誤算があった。アストラル生命体へと昇華した皇帝を誰も認識することができなかったのだ。だが、数十年もの試行錯誤の結果、同じ皇統の血筋を持つ者に憑依することが可能となった。偉大なる皇帝が帰還し、ヴェルザルス神聖帝国は今までにも増して彼らの責務を果たせるようになった――と誰もがその時は喜んでいた。


「……先が読めてきた」

「どうしてそんな愚かなことを……と思うようなことを先人がやらかしているのを見ることになるんですよね。歴史を紐解くと」


 フグルマがげんなりとした表情を見せる。多分俺も同じような表情をしているだろう。

 アストラル体へと昇華した皇帝は再びヴェルザルス神聖帝国の統治を行った。依代となる皇統の身体を奪い、精神を取り込み、皇帝という存在はどんどん強大化していった。

 そして、年月は流れ――破局は突如訪れた。


「皇統が集められた継承の儀において皇帝の憑依に耐えられず、皇統が相次いで死亡。皇帝自身もその影響で暴走、場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化しました。皇統はその時に途絶えてしまったのです。一人残らず」


 なんでも皇帝のサイオニックパワーが強大化するにつれて、皇帝の憑依に耐えられる皇統がどんどん少なくなっていったのだそうだ。その結果、血筋的に皇統であると認められる範囲の人員だけでなく、ギリギリ外れるくらいの人員まで集めて数撃ちゃ当たるみたいな方策が取られていたそうで……それがその事件で丸ごと全滅したと。


「パニックホラーかな? それで、今もヴェルザルス神聖帝国が存続してるってことは、皇帝はまだ健在なんだよな?」

「ええ、存在そのものは保たれていますね。詳細については国家機密なのでお話しできませんが、私達は今も皇統の皆様の庇護の下に今生を送っております」

「……話せないということは、知ってはいるんだな」

「ええ、まぁ。ですがこれ以上はご容赦を。面会なども不可能ですから」

「不可能ね……」


 しかし統治者不在となると、共和制みたいな感じで議会とか元老院めいた何かとかで国を動かしているんだろうか。神祇省はかなりの権威を持っている機関であるようだが、そういった機関の長達の合議とかで国家を運営しているのか? 謎の政体だな。

 でも、ヴェルザルス神聖帝国の人間ってのは過去にやらかした大失敗とやらを償う、そんな使命を胸に活動しているというし、上手くそっちの方の思想というか、宗教方面で統制しているのかね?

 というか今の話とその遥か昔の銀河というか宇宙終焉レベルのやらかし、それに複数星系規模で吹っ飛ぶ俺みたいな落ち人関連のやらかしと、色々と聞くと俺にも思うところが出てくるな。


「もしかしてヴェルザルス神聖帝国の民っていうのは長いスパンで致命的なうっかりをやらかす国民性だったりするのか?」

「ち、致命的なやらかしをしても滅びずにしぶとく生き残る国民性ってことにしていただけると」

「まず致命的なやらかしってのを起こさないようにだな……宇宙終焉規模、銀河帝国滅亡規模、複数星系壊滅規模とやらかしのスケールがデカ過ぎんだろ……」

「それいじょういけません」


 フグルマだけでなく周りのヴェルザルス神聖帝国の人々が胸を押さえたり、頭を抱えたりしはじめる。まぁなんというか、礼儀正しくて大概真面目だし、テクノロジーも凄いんだけどやらかしの規模を考えると意外と迷惑な連中なのかもしれん。

 オラできるだけ速やかにこの国から離れたほうが良い気がしてきたぞ。

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― 新着の感想 ―
まあヒロインがこれだけ揃って、生身でも宙戦でも隔絶した実力を持ってしまうと、物語としては終わってしまっていますからね。大目標が「家を買う」「コーラを見つける」といつでもなんとでもなる作品ですから。サク…
[気になる点] ずいぶん新作に入れ込んでるご様子。こちらが至上と楽しみにしている自分としては、素直に新作を読もうと言う気になれないのですが、これだけのスペースオペラを作り出しておきながら寂しいことこの…
[一言] まぁこうなるとサイオニック的な「才能がある」クギの過去が同じくアンタッチャブルなのと 来歴が真っ新に消されて巫女としてしか個が定義されてないのは贄とか器とかそういう事なんかね?
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