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#531 「やめないか。泣くぞ」

「ヒロ様……少し目を離すとすぐにトラブルに巻き込まれますね」

「面目次第もありません……此の身がついていながら」

「違うんだよ、不可抗力なんだよ……今回は目を離されてすらいなかったから」


 コノハが去った後、疲れ果てて休憩をしているうちにヴェルザルス神聖帝国の食べ物――レトルト食品の類――を調達する算段をつけてきたミミとモエギが合流してきたのだが、事情を話すなり呆れられてしまった。


「いつもこういう感じなんですか?」

「そうですね……まぁ、大体は」

「大変ですねぇ……」


 一緒に仕事をしているうちに仲良くなったのか、少し気安い感じでモエギとミミが話をしている。ミミは人当たりが良いからなぁ。大体の人とすぐに仲良くなれるんだよな。


「モエギさん、ヒロ様に興味があるんですよね? どうです? ご覧の通りの有り様なので退屈することは無いですよ」

「興味はありますけど、日常的にうちの軍が上を下への大騒ぎするようなトラブルが頻発するのはちょっと……」


 俺の預かり知らぬところでモエギに振られた。いや、果てしなくどうでも良いけども……いやどうでも良くないか? その気は無いにしても明確にお断りされるのはなんとなく辛い。ぴえん。


「我が君、尻尾ですよー」

「わぁい」


 何かを察したのか、クギが自分のふわふわな尻尾を座っている俺の膝の上に放りだしてくれたので、モフっておく。ああ、癒やされる。九尾美人さんの尻尾は実にゴージャスで触り心地も良かったが、やはり触り慣れているクギの尻尾が最高だな。なんかクギが虚空に向かってドヤ顔をしているような気がするけど、気のせいだなきっと。うん。


 ☆★☆


 俺がもたらした情報はヴェルザルス神聖帝国の軍部をかなり紛糾させたらしい。普通、国家軍というものは俺のようないち傭兵の発言を真に受けたりはしない。星系軍規模の小規模な軍事勢力ならまだしも、国家全体の軍となると話が変わる。何せ規模が規模だからな。艦隊というものは存在するだけでもコストがかかるものだし、実際に動かすとなれば更にコストが嵩む。軽々に動かすわけにはいかないものだ。

 だが、今回情報の真の出処は名前の言えない「あの方」である。何故か知らんが頑なに名前を呼ばれないし、教えてもくれないんだよな。本人も名乗ってくれなかったし。名前を語ることすら憚られるって一体あの人は何をしたんだよ。

 まぁ彼女の名前はともかく、出処があの方となると話は別だ。一部で俺が眠気とか疲労とかでトリップして胡乱な幻覚でも見たのでは? という見方もあったようだが、第三法力の使い手を動員した大規模な未来予測を行い、更に宇宙怪獣が現れる別次元の偵察も実施した結果、ヴェルザルス神聖帝国の軍上層部は俺の発言が現実的なものであるという確証を得たそうだ。

 とりあえず宿に戻って食事を頂き、風呂にも入ってさっぱりした俺達は俺の部屋に集まって情報交換をすることにした。


「第三法力の使い手を動員して未来予測をするとか、宇宙怪獣が現れる別次元を偵察するとか、ヴェルザルス神聖帝国はやることなすことがなんというかこう……トンデモというか、ファンタジーだよな」

「そのトンデモファンタジーな連中から珍獣扱いされているあんたは一体何なのかしらね」

「やめないか。泣くぞ」


 エルマの鋭すぎるツッコミに思わず真顔になってしまう。最近自分の存在そのものについて哲学的な疑問を抱き始めているんだから本当にやめてほしい。

 えっ!? あの方と直接邂逅して無事!? 尻尾の手入れをしている!? それどころか感覚共有を受けて第三法力の手解きを!? どうして正気を保っているんですか!? みたいな反応をされた俺の居た堪れなさがわかるか? 完璧に人外のナニカを見る目で見られたぞ。よくわからん超能力やらそれを応用した謎テクノロジーを使う連中から。


「正直、まだ色々と解析しきれてない部分が多いんやけど……」

「実戦データも必要だから仕方ないよ、お姉ちゃん」


 整備士姉妹は久々のデスマーチモードでクリシュナの整備に集中していたからか、なんか全体的に草臥れているというかなんというか……せめて出撃している間はのんびりしていて欲しい。


「今回出撃するのはクリシュナだけなのかい?」

「戦闘に参加するのはそうなる。アントリオンやブラックロータスの武装じゃ光子生命体みたいなタイプの宇宙怪獣には効果を望めないみたいでな。ただ、クリシュナの整備やヴェルザルス神聖帝国の技師や研究者を一緒に乗せていく予定だから、現場の後方までは来てもらうことになる。いざという時の脱出艇代わりにアントリオンにもドッキングしたまま同行してもらう」

「なるほど。じゃあ動くのはいつも通りのフルメンバーでってことになるんだね」


 俺の言葉に納得したようにショーコ先生が頷く。


「キャプテン、同行者ってどれくらいの人数になるんだい?」

「ええと、モエギとコノハ、イナバの三人。あとはフグルマと、聖遺物研究者のブーボ、船舶技術研究者のアメノ、後は……名前を覚えてないが数名だな」

「部屋数が少し足りないかもね。何人か相部屋になってもらう必要があるかも」

「そっか……うーむ、やっぱり母艦の乗り換えも考えたほうが良さそうだな」


 ネーヴェの言葉に俺は唸って思案する。ショーコ先生を船に迎え入れた際に研究室とか医務室とかで結構なスペースを専有することになったから、来客用の居住区画が若干手狭になったんだよな。

 その他にも中型艦のアントリオンはハンガーに格納できなくて、長距離移動時は外部ドッキングポートに接続して移動している状態だし。できればアントリオンを格納できるサイズの母艦に乗り換えたい。ヴェルザルス神聖帝国での滞在が終わってグラッカン帝国に戻ったら、母艦の乗り換えに関しても真面目に考えたほうが良さそうだな。

 契約があるスペース・ドウェルグ社により大型の母艦を見繕ってもらうか、それともそっちの契約を破棄してセレナの伝手でどこか別のシップメーカーから購入するか……購入資金そのものはなんだかんだでブラックロータスを購入した時よりも豊富になっているから、あまり心配はいらないだろう。ブラックロータスを下取りに出しても良いしな。


「乗り換えですか……ブラックロータスにも愛着があるんですけど」

「そうね。でも船の乗り換えは傭兵にはよくあることよ? 大破して乗り換えるってわけじゃなく、無事なままお別れできるのは珍しいんだからね、本来は」

「傭兵が船を乗り換える要因の凡そ四割が破損によるものだというデータがあります。ブラックロータスは殆ど破損らしい破損もなく、しっかりと整備された船なので、下取りに出す場合でも引く手数多かと。それ以前に、スペース・ドウェルグ社の方で下取りの申し出が出てきそうですが」

「ああ、そうね。ほとんど無傷ってことになると、どんな運用や整備がされていたのかってデータは製造会社としては喉から手が出るほど欲しいものかもね」


 と、そんな話をしていると急にクギがあらぬ方向に顔を向けて頭の上の狐耳をピンと立てる。ああ、これはなんか受信してるやつだな。


「我が君、連絡が来ました。明日の朝一番でモエギさんとコノハさんが迎えに来てくださるそうです」

「了解。それじゃあ今日は明日に備えてしっかりと寝るか。酒は飲んでもいいけど、明日には残さないように控えめにな」

「「「はーい」」」


 呑兵衛三人が揃って返事をする。それじゃあ俺も今日は早めに寝るとするか。

 え? 本当に寝るだけかって? それは俺の知るところではないというか、メイが差配している部分だから……寝る時にならないとわからないんだ。ある意味お楽しみだな、ハハハ。

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― 新着の感想 ―
まさしくサイエンス・ファンタジーといった趣で こうした超能力然とした話と超科学の話が並行で進むのは面白い
いっそのこと、ブラックロータスに合体する、 外部ユニット的な航宙戦艦とか。 (性能的には防御と格納能力優先の移動基地的な母艦辺り?)
ブラックロータス、サイドを長くしたらブラウンシュヴァイク公爵のベルリンっぽくなりそう。 あれなら蟻地獄も黒蓮も収容できるんじゃ?
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