#527 「贅沢な悩みだよな」
昨日は投稿先の作品を間違えてしまったぜ!( ˘ω˘ )(ゆるして
「そんで暴れたわけ?」
「暴れたね」
「あんたねぇ……まぁ気持ちはわからないでもないけど」
クリシュナの簡易医療ポッドで訓練で受けた傷――肋骨にひびが入っていた――を治し終わったタイミングでエルマが事情聴取に来たので、俺の見解を披露した。結果呆れられたわけだが、いきなり調査と称して立ち合い稽古に強制的に放り込まれた上に怪我までさせられたんだから俺は謝らんぞ。
「で、どう? クリシュナと同じくヒトとして一皮剥けた気分は」
「別に今までと何も変わりゃしないさ。お手軽簡単に暴力を振るえるようになっただけだ」
前にスーパーヒーローだとか超野菜人的な感じになるのは嫌だ! と心の底から叫んだ記憶があるが、実際にそうなってみると今までと対して変わらんな。確かに俺は今回の修練を通して生身で電撃を操れるようになったし、俺が認識できる範囲内の生命体の首を一瞬で刈り取れるようにもなった。だが同じ結果――認識できる範囲のすべての命を奪う――は今までもクリシュナやその他の手段を使えば引き起こせたわけで、単に結果をお手軽簡単に得られる手段を獲得したというだけである。
「あんたの場合はそうよね……剣一本――いや二本で完全武装のイクサーマル伯爵の私兵達を何十人と斬って捨てたわけだし」
「別にそんなに凄いことじゃないと思うが」
あれくらいなら剣を使えなくても重パワーアーマーのRIKISHIがあればギリギリ切り抜けられたと思うし。
「いや、凄いことだからね……? いくら腕利きの白刃主義者の貴族でもちゃんと訓練された完全武装の兵士が何十人といたらただじゃ済まないわよ」
「そういうものか? あいつらもっと強いイメージなんだが」
「いっぺんにかかってこられたら駄目よ。いくら貴族の身体能力や反応速度が高くても、避けきれなかったり迎撃しきれなかったりする飽和攻撃には弱いもの」
そういえば、俺の剣の元持ち主であるバルタザールも俺とメイによる十字砲火には対応しきれずにパーソナルシールドやスモークで対応しようとしていたものな。
「なるほどな……しかしまぁ、こんな力に開眼したところで、使い途がそうそうあるわけでもなし。宝の持ち腐れだと思うがな」
今の俺ならジ◯ダイの騎士とかシ◯の暗黒卿が相手でも勝てる気がする。でもあいつら未来予測を交えた剣技を使うらしいからなぁ……接近戦だと駄目かもしれん。というか、ライトセーバーと打ち合えるのかね、あの剣は。強化単分子の刃とはいえ、物質には違いないからなぁ……案外打ち合ったら容易に溶断されて破壊されるかもしれん。やっぱ容易に勝てるかもとか思うのは駄目だな。
「それを言ったらこのクリシュナもよね……そういえば様子のおかしくなってた重パルスレーザー砲の解析結果が出たみたいよ」
「それは興味のある話だな。どうなってたんだ?」
「重力子砲になってたみたいね。おめでとう、クリシュナはグラッカン帝国の兵器開発部が巨額の予算を投じてなお断念した重力子兵器を獲得したみたいよ」
「作動原理とかは……?」
「あの魔法陣みたいなやつがクリシュナの重パルスレーザー砲のエネルギーを重力子に変換しているみたいね。多分グラッカン帝国の兵器開発部が見たら研究用のタブレット端末をぶん投げると思うわよ」
重力子砲、重力子砲かぁ……それ、シールドで防げるのか? というか、物理的なエネルギーで防げるものなのか? 念動衝撃砲もどうかと思ったが、重力子砲もどう考えてもヤバい兵器じゃないか。
「宙賊相手にはオーバースペック過ぎんか?」
「そうだけど、今更元に戻せないんでしょ? ならもう諦めるしかないわよ」
「手持ちの札でなんとかするしかないか……オーバースペックなのが悩みって、贅沢な悩みだよな」
「全くね」
エルマと二人で苦笑いをする。まぁなんだ、デカすぎる包丁でも技術次第でリンゴの皮だって剥けるさ。大は小を兼ねる――というのはなんか少し違う気がするが、オーバースペックだというならオーバースペックなりの使い方っていうのを試行錯誤するまでだな。
☆★☆
で、エルマと一緒にクリシュナから出ると、禊の儀や祓の儀を行なった大社で見たような人々が増えていた。所謂神主さんとか巫女さんみたいな格好をした人々だ。多分クギの古巣である神祇省とやらの職員さん達だと思うが……なんか見覚えのある狼神主さんが巫女さんを引き連れてしずしずと歩いてきたな。
「ヒロ殿、この度はご迷惑をお掛け致しまして申し訳なく思います」
そう言って狼神主と巫女さんが揃って頭を下げてきた。俺だけでなく隣りにいるエルマも困惑である。何故この人に謝られているのかが全くわからん。
「ここには多くの研究者達が集っていますでしょう?」
「ああ、そうだな?」
「自分自身の興味と研究結果を追い求める意義、その二つが合わさると彼らは暴走しがちでして……武官の皆様も自分よりも強いかもしれない未知の存在となると、歯止めが効かないことが多く」
沈痛な面持ちで語る狼神主からかなり強大なサイオニックパワーの波動を感じる。おお、さすがは大社の責任者的立場だったっぽい人。あの偉そうな武官の角男よりもサイオニックパワーが強そうだ。
「決して、決してヒロ殿に無理強いはしないようにと重ねに重ねて言い伝えておいたのですが……どうも研究に傾倒するだけが取り柄の馬鹿と脳味噌まで筋肉が詰まっている愚か者どもには私ども神祇省の言葉が理解できなかったようで……本当に申し訳なく思います」
強い憤りと悔恨の情を滲ませながら狼神主が再度謝罪をしてくる。
「いやまぁ、その分暴れたし痛い目にも遭わせたから根に持ったりはしないんで、処分とかは程々で頼みます。新たな力の使い方にも開眼したし、何より元々俺が無意識に使っている第三法力についての知識とか、使いこなす方法とか、修練方法とか色々聞きたいんで」
「寛大なご対応とご配慮に感謝致します。重ねて注意を促すのに加え、今後は神祇省の者が立ち会ってこのようなことが再発しないよう万全を期しますので、どうかご容赦を」
「勿論だ。かえってそこまで気を遣ってくれて感謝する」
厚意は素直に受け取っておくことにする。今日みたいなのは流石に御免だからな。
「本日はこの研究施設の近くの宿を手配しておりますので、航空客車でそちらにお向かい頂ければ。すでに客車の手配も済んでおりますので」
「重ね重ねの配慮、どうも。それじゃあ今日のところは皆を集めて御暇させてもらおうかな」
「承知致しました。それではそのように」
狼神主が自分の後ろに控えている二人の巫女さんに指示を出すと、彼女達は頷いて目を閉じた。お、精神波動がぽわーんと広がってるな。テレパシーで指示を出してるのか。
「あの、整備士のお二人がもう少し、と言い張っておられるのですが……」
すぐ近くでなにか騒いでいるティーナとウィスカの声が聞こえてくる。クリシュナの整備手順を再確認というか、再構築するのに夢中なのか。これは強制的に連行しなきゃ駄目だな。
「あー、回収に行ってきます。エルマも頼む」
「仕方ないわね」
肩を竦めるエルマと一緒に整備士姉妹の確保へと向かう。二人には悪いが、さほど急ぐことでもなし。滞在期間が決まっているわけでもないからな。じっくり取り組んでもらうとしよう。




