#052 ダサかっこ……ダサい(白目)
さて、パワーアーマーと俺は呼んでいるし、この世界の人々もそう呼んでいるが、俺の乗り込んだこいつの正式名称はもっと長ったらしい名前である。なんだったっけ? 動力炉搭載型人造筋肉駆動式強化外骨格とか? そんな感じ。クソ長いので皆パワーアーマーと呼ぶ。
パワーアーマーと一口に言っても色々あるが、基本的にステラオンラインにおける白兵戦というのはさほど広くない閉鎖空間での撃ち合いである。そんな撃ち合いをするにあたって必要な機能とは何か?
機動性や敏捷性だろうか? いいや、さして広くもない空間でもそんなものが高くても持て余すだけである。生身の人間を上回るくらいで十分だ。
では何か?
「ふんっ!」
突進してきた大型の白い怪物を受け止め、そのままパワーにまかせてグシャリとベアハッグで抱き潰し、放り捨ててストンピングで踏み潰す。絡みついてきた小型の怪物をパワーにまかせて引き千切り、壁に叩きつける。怯む中型の怪物の群れに突っ込み、体当たりでぶっ飛ばす。腕を振り回してぶっ飛ばす。向かってきた中型の怪物を掴んで高圧電流をお見舞いし、逃げる怪物の背中を両肩に装備された高出力レーザーガンで撃ち抜いて灰にする。
「ふはは、力こそパワー!」
頭の悪いことを言いながら謎の攻撃的な生命体を駆逐を続ける。
俺がパワーアーマーに求めたもの。それはひたすらに装甲とパワーである。機動力なんて生身の人間に毛が生えた程度で問題なし。どうせパワーアーマーが必要になる状況で長距離を高速で移動しなきゃならないとか、機動戦を仕掛けなきゃならないなんて状況にはまず陥らないのだ。
敵の攻撃を受け止めてもびくともしない装甲と重量、そして膂力的な意味でも出力的な意味でも圧倒的なパワー。この二つがあればなんとかなるものだ。出力と膂力が高ければ強力な重火器を使うことができる。後は当てる腕があれば良いんだから楽勝だな。
『こちら港湾管理局。付近の安全は確保されたようだ、感謝する』
「ああ、報酬は傭兵ギルド経由でしっかりと貰うから気にするな」
そこら中に散らばった生白い怪物の死骸を一箇所に積み重ねながらパワーアーマーの状態をチェックする。
装甲にダメージ無し、各関節のアクチュエーターに異常なし、エネルギー残量99.7%、固定武装も異常なし。
俺のパワーアーマーの型番はTMPA-13 RIKISHI mk-Ⅲだ。固定武装は両掌に装備された超高圧電流放射装置『HARITE』と脚部の衝撃増幅装置『SHIKO』、そして両肩部に装備された高出力レーザーガンの『SHIKI-RI』である。
その他、武装と言って良いのかどうかわからないが、シールドを張りながらごく短距離を超高速で移動して体当たりを行う『BUCHI-KAMASHI』機構を備えている。シールド自体は任意で展開することも可能だけど。
パワーアーマーとしてはかなり大型の部類で、ヘビーアーマーに区分される機種だ。ジェネレーター出力も高く、ペイロードも十分で様々な重火器を扱うことができる。
全体的にずんぐりむっくりと言った感じで、重装甲故に外見としてはかなり『太って』見える。重量を支えるために脚部がかなりがっしりしていて銃身が低いのが特徴だな。俺はパワーアーマーのペインティングとかにはあまり拘らないタチなのだが、このメーカーの標準カラーは有り体に言ってあまりにもダサいので全身癖のないシルバーなメタリックカラーにしてあるな。
うん、わかる。突っ込みたいのはよーくわかる。ぶっちゃけていうとこのパワーアーマーの外見はメカっぽいお相撲さんだ。しかも微妙に造形がその……悪役っぽい。もうこれはダサかっこいいじゃない。ストレートにダサい。
でも強いんだよ! 俺の求めている性能を追求するとこのパワーアーマーが最適だったんだよ! もうなんというかネタ機にしか見えないんだけど本当に強いんだって! ステラオンラインでも最強パワーアーマーと言えばこのRIKISHI mk-Ⅲの名前が即座に上がるくらいの良機体なんだって!
パワーアーマーを使ったPvPイベントとかこの機体だらけで、イベントが始まると『さぁやってまいりましたステラオンライン大相撲、初場所です!』とか『本日の一番目は東側キャプテン・ブラック山と西側キャプテン・ヒロの海の取り組みとなります』とか実況が入るくらい人気だったんだよ!
何故このようなパワーアーマーが誕生したのか? それはステラオンラインの開発にしかわからない。そしてこの世界でも問題なく受け容れられるということも今日わかった。もしかしたらこの世界にも同じようなパワーアーマーがあるのだろうか……?
『ヒロ様? ヒロ様? 大丈夫ですか?』
「あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと考え事をな。どうしたんだ?」
『傭兵ギルド経由で救援依頼です。イナガワテクノロジーからで、私達が診察を請けた病院がありますよね? あそこで騒動で出た怪我人の治療なんかをしているみたいなんですが、そこに例の怪物が集まり始めているようです』
「ここはもう良いのか?」
『帝国軍のパワーアーマー部隊が間もなく到着するそうです。防衛の成功と戦闘データ供出で報酬は五万エネルですね』
「命懸けの割に安いなー。生身だと多分危ないぞ、こいつら」
『だからパワーアーマー装備が前提なんじゃない? イナガワテクノロジーの方はどうするの?』
「向かうことにする。報酬は良いんだよな?」
『一〇万エネルですから、港の防衛の倍ですね』
「そりゃいいな。ナビゲートよろしく」
『はい!』
少し離れたところに放り捨てていた武器を拾ってからパワーアーマーのHUD上に表示されるマップ情報に従ってガッシャンガッシャンと移動を始める。
『それにしてもわざわざ格闘戦とは酔狂ね。別にあんた、格闘が得意なわけじゃないでしょ?』
「得意じゃなくてもしなきゃならん時はある。余裕がある時に試しておいたほうが良いだろ」
『それはそうね』
武器の状態をチェックしながらガションガションと走る。今回俺が持ってきたのは焦点可変式レーザーランチャーだ。
パワーアーマーを着た敵には焦点を収束させた高出力レーザーで対応できるし、生身相手なら焦点を散らしたスプリットレーザーでも致命的なダメージを与えられる。なかなかに万能な武器なのである。
重くて取り回しは良くないが、俺のパワーアーマーならなんてことはない。
『道を真っ直ぐ進んで右に曲がったところにエレベーターがあります。それに乗って中層に降りてください』
「了解」
この辺りはあの生白い化物はいないようだ。しかし、アレはアレだよなぁ。
「なぁ、あの化物、俺達が工場見学の時に見た人造肉の……」
『似てますよね……』
『工場から離れては生きられないって話だったけど……管理が杜撰だったのかしらね?』
「あの工場とは限らないけどな。人造肉ってどれも白かったし他の工場かもしれん」
通信越しに二人と会話しながらエレベーターに乗り込み、行き先を中層に設定する。程なくしてエレベーターは滑らかに動き始めた。パワーアーマーはかなりの重量なんだが、これくらいはなんでもないらしい。
「船の方も警戒しておけよ。まぁハッチさえ閉めとけば中に入ってくることはないと思うけど」
『それは大丈夫、ハッチのセキュリティカメラは常にチェックしてるし、低出力でシールドも張ってるから』
「なら大丈夫だな。でも念の為な」
そもそも宇宙船であるクリシュナの対NBC防御は完璧だし、シールドも展開してあるならあの白い怪生物は近寄ることもできまい。フラグでも何でもなく、不可能なものは不可能だ。
というか、その状態だとパワーアーマーを着た俺ですら突破は難しい。クリシュナのシールドジェネレーターから発生しているシールドを飽和させるのはこのレーザーランチャーを使っても無理である。強力とは言っても宙賊艦のしょぼいレーザーくらいの威力しか無いし。
そうしているうちにエレベーターが目的の階層に辿り着いた。ドアが開いて目に入ってきた光景に絶句する。
「これはひどい」
阿鼻叫喚の地獄絵図だ。ガクガクと身を揺する大型の白い化物の口の端でプラプラと動いている誰かの片足、白い身体を鮮血で染めて何かを貪っている中型の怪物、無数の小型の怪物に取り付かれて身動き一つしない誰かの身体。そんな光景があちこちに広がっている。
どの怪物にも共通しているのはぬめりとした白い身体と、ヤツメウナギのような丸い口、そこに生えている無数の鋭い牙といったところか。あの工場で見た人造肉の材料の触手生物とは違って、中型種以上のものには手足のようなものがある。小型種は触手生物そのままって感じだけど。
いやぁ、触手生物が元だけど薄い本みたいな感じにはなりそうもないですねぇ、これは。食欲しかありませんぜこいつら。グロいわ。
『酷いわね……』
「ミミは大丈夫か?」
『そっちからの画像を見て顔を真っ青にして固まってるわ』
「無理に見るなって言っとけ。あと、生存者の反応があったら教えてくれ」
『アイアイサー、とりあえず通りには居ないわ』
エレベーターに奴らを乗せるわけにはいかないので、エレベーターからとっとと降りてレーザーランチャーを構える。スプリットレーザーモードだ。
「おらーっ! 汚物は消毒だー!」
スプリットレーザーをバラ撒いて手前から順番に怪物どもを灰にしていく。通りには生存者はいないとのことなので、遠慮なく掃討する。
こいつらは生身の人間にとっては脅威だが、パワーアーマーを装着している俺にとっては何でも無い雑魚だ。大型種の体当たりで転倒させられる可能性はゼロではないが、転倒させられたとしても奴らの膂力と牙では俺のパワーアーマーにダメージを与えることはできない。
対する俺の火力は圧倒的。武器を使わなくてもパワーアーマーの固定武装と格闘だけでも奴らを蹂躙することができる。帝国軍のパワーアーマー部隊が本格的に動き出せばこれくらいの怪物はすぐに掃討されるだろう。こうして俺が戦う機会があるのはなんというか、タイミングが良かったな。
ドスドスと音を立てながら愚直に向かってくる大型種にスプリットレーザーの連射を浴びせて無力化し、飛びかかってくる中型種をレーザーランチャーで殴り飛ばし、時に蹴りで迎撃しつつやはりスプリットレーザーで焼き払う。小型種も絡んできて鬱陶しいので、たまに身体から毟り取って踏みつけてやったり、あまりに多い時には掌からの放電を浴びせてやったりしてまとめて駆除する。
『私だったら気持ち悪くて吐くわね』
「ゲロを吐くのは酒を飲みすぎた時だけにしとけよ……」
放電で身体から落ちた小型種を踏みにじりながら苦笑する。しかしどうにも中型種は多少頭が回るようで、敵わないと察すると逃げるな。逃さないけど。
肩部レーザガンと手持ちのレーザーランチャーを連射して逃げようとする中型種も殲滅しながら以前訪れた総合病院への道を走る。
『次の交差点を右折、そうしたらもう目と鼻の先よ』
「あいよ」
ガッシャンガッシャンと足音を響かせて走る。通りには生存者は居なかったな。どうも生存者は建物の中に逃げ込んで籠城しているらしい。こういったコロニーは事故や攻撃で外殻に穴が空いた時のために気密性の高い避難シェルターなんかもあるだろうから、そういうところに入ってるんだろうな。
「ワァオ」
交差点を右折して思わず声を上げてしまった。目標ポイントである総合病院の前に何故か怪物どもがひしめいていたからだ。
「なんで集まってるんだこいつら」
『さぁ? 健康診断とか?』
「健康診断のために病院に押しかけるクリーチャーとかシュール過ぎるわ」
エルマの適当な返答を聞きながら俺はレーザーランチャーを化物どもの群れに向けた。




