#523 「さようですか……」
「外の船はフォトンウィングなどと呼んでいるようですが、実際にはフォトン――光子によって構成されているわけではなく、増幅された第一法力が光の翼という形で顕現しているだけですね。しかしその機動力や制動力に関してはご存知の通り、出力次第で戦艦級の質量すら自由自在に動かすことが可能です」
「なるほど」
ティータイムを終えた俺はヴェルザルス神聖帝国の艦船技術の専門家であるアメノ氏からマンツーマンで彼の専門分野について講義を受けていた。アメノ氏は頭の上に輪っかこそ無いが、純白の立派な翼を背に持つ天使のような美丈夫である。
「では実際にはどのようにして第一法力で形作られた機動光翼が航宙艦を動かすのかという話を……したいのですが、ヒロ殿は技術者ではなく操縦士。ただ単に知識を詰め込むよりは直感的な情報の方が頭と身体に馴染むでしょう」
「それはそうっすね」
十数年ぶりの唐突な座学に俺の目が死にかけているのを察したのか、アメノ氏が苦笑を浮かべながらホロディスプレイに何かの映像を映す。
「これが実際に機動光翼を展開した我が国の小型戦闘艦、トツカです」
ホロディスプレイに映し出されたのは青白い二枚の光翼を展開し、慣性を無視しているとしか思えない機動でジグサグに動く小型戦闘艦だった。白い船体には二枚の機動光翼の他にはスラスターなどの機動装置の類は見当たらない。なんとまぁ、驚異的な運動性能だ。
「機動光翼は操縦者の法力の熟練度や出力によってその枚数を増やしたり、機動力を向上させたりもします」
次にホロディスプレイに映ったのは三枚の機動光翼を展開している同型の船の映像や、枚数は同じだが光翼の大きさが二回りほど大きな同型の船である。
三枚翼の艦はより複雑で奇怪な機動を難なくこなし、光翼が大きな舟は明らかに加減速が早くなっている。静と動の落差が激しすぎてコマ送りなのかと錯覚するレベルだ。なんかあれだ、総じて動きがUFOっぽい。こう、慣性を無視して急加速、急停止する辺りが。
「もしかして羽根の枚数が増えるごとに移動できる軸が増えてるのか?」
「……よくわかりましたね?」
「いや、そんなに難しいことじゃないと思うが……二枚で左右か上下か回転、三枚でその三つのうちどれか二つを組み合わせた方向、なら四枚なら最大で三つを組み合わせた機動か」
つまり空戦で言うところのバレルロールのような機動をあの慣性を無視したストップアンドゴーで移動できるようになるのだろう。俺が行う機動なんかよりもよっぽど変態じみてそうだな。
「五枚以上は?」
「単独で五枚の光翼を発現させられる者は極稀ですが、ヒロ殿なら可能かもしれませんね。五枚目の翼はごく短い時間軸を翔ぶことが可能になります」
「ごく短い時間軸を翔ぶ……? まさかショートリープでもするっていうのか?」
俺の質問にアメノ氏がまた驚いたような表情を見せる。
「驚きました。ごく短い時間軸を翔ぶ、という言葉から説明もなしに短距離転移という言葉が出てくるとは。ヒロ殿は何か時空間に関する専門知識をお持ちなのですか?」
「いや、たまたまそういう発想を得る環境に恵まれていただけだ」
アメノ氏の質問に苦笑いを浮かべて答える。特にSFモノのゲームやアニメ、マンガでは強キャラとか強機体の能力として短距離ワープの能力はありがちだったからな。ゼ□シフトとか正にそれ。
「ちなみに六枚目以上とかもあるのか?」
「六枚目の光翼は長い時間軸を翔ぶことが可能となります」
「ああ、つまり六枚目の翼がサイオニックジャンプになるわけか」
つまり、あの機動光翼は使用者の実力如何では俺を超える変態機動に加えて突如敵のケツを取り放題の短距離転移と瞬時に他の星系に文字通り『ジャンプ』するサイオニックジャンプドライブとしての機能も持っているわけだ。ちょっと性能盛り盛り過ぎんか?
「それで、その機能をどうやってクリシュナに……いや、そうか。そこで聖遺物の進化って話になってくるのか」
「そういうことのようですね。ヒロ殿の意思に応じてあのクリシュナが機動光翼を獲得すれば、正に鬼に金棒ということになるでしょう」
「そうだな……当然、他にも進化案というか、そういうものがあるんだよな?」
「勿論です。聖遺物の進化には明確なイメージがあった方が良いとされています。ヴェルザルス神聖帝国の艦船技術について、映像を見てもらいながら簡単にご説明していきましょう」
そう言って白翼の美丈夫はニコリと微笑んだ。これはハードなお勉強会になりそうだなぁ。
☆★☆
『いや! 有意義! 実に有意義だったよ! 既存の技術製品を取り込み、自らの一部にしているとはね! ヒロ殿のクリシュナはもはや既存の聖遺物という枠すら超えているかも知れない!』
「さようですか……」
アメノ氏のマンツーマン講義をみっちりと受けたその翌日、俺は一人でクリシュナに乗り込み、ブーボ氏だけでなくティーナ達を乗せた技術チームの調査船と、何かあった時に迅速に対応して事態を鎮圧するという役目を担うヴェルザルス神聖帝国の第一艦隊――なんでもヴェルザルス神聖帝国の主力艦隊であるらしい――と一緒に居住惑星がひしめいているハビタブルゾーンから離れて空白宙域へと足を運んでいた。
何故か? それは精鋭とされている第一艦隊が派遣されていることからも明確だろう。俺がクリシュナに本気で干渉した結果、何か予想外の事態――例えばアストラル界とやらからとんでもない化け物を引き寄せるなど――が起きる可能性が否めないからだ。
『それでは始めてくれたまえ! 意識的に操縦桿からクリシュナのジェネレーターに、そしてクリシュナ全体へと法力を注ぎ込むのだよ!』
そんなことを言われてもな、と考えつつ言われた通りに集中し、操縦桿越しにクリシュナへとサイオニックパワーを注ぎ込む。すると、何かが繋がったような感覚を覚えた。
「むっ?」
『何か――おお!? クリシュナから計測されるポテンシャルが増大しているよ! その調子だ!』
「はいはい……」
何かパスのようなものが繋がったクリシュナが操縦桿越しに貪欲にサイオニックパワーを吸い取っていくのを感じる。まるで生まれて初めて乳を与えられた乳飲み子のような様子だ。今までクリシュナにサイオニックパワーを注ぎ込むなんて思いつきもしなかったからなぁ……聖遺物というのはまるで生き物のような側面を持つものだというし、もしかしたらクリシュナからしてみると大分ネグレクト気味だったのかもしれない。
『ちょ、ちょっとまってくれたまえ。まだ上がるのかい!?』
「まだまだ吸われそうな感じっすねぇ」
クリシュナに膨大な量のサイオニックパワーを注ぎ込みながら、昨日一日でアメノ氏に叩き込まれたヴェルザルス神聖帝国の戦闘艦に搭載されているという各種テクノロジーを思い浮かべていく。
まずは機動光翼だな。それに攻撃能力――あのソウルクラッシュのような強力な攻撃手段もあると尚良い。重パルスレーザー砲や散弾砲、対艦反応弾頭魚雷が効かない相手なんぞが出てきた時に逃げることしか出来ないなど絶対にごめんだ。場合によってはブラックロータスやアントリオンを置き去りにして逃げなきゃならんなんてのは、絶対に容認できん。
あとは、通常のシールドでは防ぐことのできない攻撃への対処も必要だ。敵弾をすり抜けるか、それともどんな攻撃も防ぐ障壁か……どちらもアリだな。
というか、どうせ進化するなら誘導兵器の類も搭載できんかね? サイオニックパワーによる攻撃というのはイメージ次第なところがある。イメージでコントロールできる誘導兵器とか作れないだろうか? 無線式のビーム兵器みたいな? いや、ああいうのはちょっと効率が悪いな。ホーミングレーザー的なやつとかどうだろう? 威力よりも貫通力を重視するような……いや、切断。切断はありじゃないか? ふはは怖かろう的な。
だいたいイメージが固まった辺りでクリシュナにサイオニックパワーを吸い取られる感じが消えた。どうやらクリシュナも満足したらしい。
『お、終わったのかね?』
「吸われなくはなったが……俺から見た感じは全然変わらんな」
『いやいや! 変わってるよ!? 映像を回すよ!』
「……Oh」
メインスクリーンに映ったクリシュナを見て思わず言葉を失う。機動光翼が六枚見えるんだが。あと、全体のフォルムが微妙に変わってるんだが。これ、ブラックロータスの格納庫にちゃんと入るか?




