#051 事態急変
ギリギリアウト!_(:3」∠)_(お犬様のトリミングなどの雑務でまにあわなかった
「いやぁ、大漁大漁」
船のカーゴに回収されたレアメタルや戦利品の一覧を見ながら思わず笑みを零す。レアメタルの量は少なかったが、単価の高いハイテク製品がかなり多い。これは売却益にも期待ができそうだ。
「今回はヤバいものは回収してないわよ」
「おっ、そうだな」
「何よその反応」
「へ、変なものは回収してないですよ?」
エルマのジト目とミミの若干怯えた声を受け流しながら戦利品の一覧を閉じる。まぁ、毎回毎回レアな危険物がサルベージできるとは限らない。今回は引きが悪かったみたいだな。仕方ないね。
先程セレナ少佐から作戦終了の通達も出たからあとは各自帰投して良いということになっている。宙賊の基地には何隻かの巡洋艦や駆逐艦が横付けしてまだ内部の掃討を行っているみたいだけどな。まぁ、宙賊相手なら正規の帝国航宙兵が遅れを取ることはないだろう。何せ装備が違う。
寄せ集めの宙賊では帝国航宙軍が装備しているであろう軍用のパワーアーマーと重火器にはまず対応できないだろうからな。
俺ならどうかって? 生身で帝国航宙軍とやり合うのは絶対に御免被る。いくら俺のレーザーガンが普通のものより品質が良いって言ってもパワーアーマーの装甲を一撃で破壊できる程じゃないし、向こうが使う武器の火力は掠っただけでも致命傷だ。この船に積んである俺のパワーアーマーを装着して戦うならそうそう負けるつもりはないけど。
あれもなかなか使う機会が無いんだよなー。でも用意はしておかないといざ白兵戦になって向こうがパワーアーマーを着ていたら速攻で詰むんだ、これが。だから用意はしてある。殆どカーゴルームの隅で埃を被ってるけど。
「さて、帰るか」
「ちょ、ちょっと、変なものは回収してないわよね!?」
「だ、大丈夫のはずです……!」
なんだか慌てて戦利品のチェックをしている二人をよそに俺は艦首をアレインテルティウスコロニーへと向ける。もうカーゴもいっぱいだし、これ以上ここにいても仕方がないからな。
回収しきれない戦利品に関しては残念ながら放置だ。頼まなくてもスカベンジャー達が掃除してくれるだろう。既にレーダーにはそれらしき反応が映ってるし。
「超光速ドライブチャージ開始、行くぞー」
「ちょ、ちょっと待って、大丈夫よね? 本当に大丈夫よね?」
「大丈夫だって、何も変なものはないから。今回は危険物はなし、まっとうな品ばかりだよ。多分」
「多分って何よ!?」
エルマの叫びと同時に超光速ドライブが起動し、ズドォンという爆発音のような音を立ててクリシュナが超光速航行状態になった。
「どんだけトラウマになってるんだよ、歌う水晶」
「あんなものをこともなげにひょいっと出されたら誰でもトラウマになるわよ!」
「そんなにか?」
「そんなにかってあのね……ある意味反応弾頭よりヤバいじゃない。落として割っただけで大惨事よ?」
反応弾頭というのはクリシュナが積んでいる対艦魚雷にも採用されている強力な爆弾である。仕組みはわからないが、原子爆弾や水素爆弾よりも強力な威力を誇るらしい。実際、当てさえすれば戦艦でも一撃で粉砕する威力なので、謳っている通りの威力はあると思う。
それよりも強力ね……まぁ考えようによってはそうなのか? 歌う水晶で結晶生命体を呼び出した方がより広範囲に、かつ長時間脅威が持続するわけだし。
「そうか」
「そうかって……軽いわねぇ」
「ヒロ様ですから」
呆れた表情を見せるエルマと何故か得意げな声音のミミ。何故ミミはそこで得意げな感じなんだ。
「コロニーに戻ったらまた暫くあのお姫様の子守、かぁ……」
超光速ドライブ状態になって少し気が抜けたのか、エルマが溜め息を吐く。
「もうあと一週間くらいだからすぐだろ。終わったらどうするかね?」
「もっと稼げるところが良いなら紛争宙域にでも行く? あんたの腕とクリシュナがあればガッポガポ稼げるわよ」
「うーん、紛争宙域はあんまり気乗りがしないんだよなぁ。なんとなく気が休まらないし」
実際、そういう恒星系のコロニーは軍が破壊工作を警戒してコロニーそのものに厳戒令が敷かれていたりして、滞在も窮屈なんだよな。ゲーム的に言えばマーケットのストアが殆ど閉まってて本当に船の整備と補給くらいしかできない感じになる。この世界だとどういう感じになるのか? なんとなく想像つくよね。
「えーと、ハイパーレーンの三つ先に観光惑星のある恒星系があって、客船を狙った宙賊が跋扈してるとか」
「ふむ、観光惑星……バカンスをしながら宙賊退治というのも一興では?」
「滞在費が高くなりそうねぇ。ま、クルーはキャプテンの方針に従うわよ。バカンスも悪くないわ」
「んじゃそういう方向で」
俺には惑星上居住地に庭付き一戸建てを手に入れるという野望があるが、別に急ぐものでもない。元の世界に帰る術を探しているというわけでもないし、少々の寄り道くらい構わないだろう。ぶっちゃけ切迫した状況でもないから楽しむのが最優先でいいよね、という。
そんなことを話しながらアレインテルティウスコロニー付近に到達した俺達は超光速ドライブ状態を解除し、アレインテルティウスコロニーにドッキング要請を……うん?
「なんかコロニーの様子がおかしくないか?」
「え? 確かに何か変ね。あの区画、停電してない?」
「そうですね? どうしたんでしょうか。あ、ドッキングベイの誘導灯も赤く点滅してますよ」
様子を観察している間に次々とドッキングベイから宇宙船が飛び出してくる。まるで何かから逃げるかのような挙動だ。
「どうするの?」
「どうするって言われてもなぁ……ミミ、港湾管理局に繋げてくれ」
「はい、メインモニターに繋ぎますね」
ミミがコンソールを操作し、アレインテルティウスコロニーの港湾管理局に回線を繋げる。いつもはワンコールで出るのに、なかなか通信が繋がらない。暫し待っているとようやく繋がった。
『こちら港湾管理局! 今取り込み中だ!』
「おいおい、落ち着けよ。こちらは傭兵ギルド所属のキャプテン・ヒロだ。宙賊掃討作戦から今戻ったんだが、コロニーの様子がおかしいようだな。何があったんだ?」
『傭兵か!? おい、あんたの船には戦闘用のパワーアーマーは積んであるのか!?』
「は? いや、あるけど……?」
意味不明な質問をされて戸惑いながらも答える。そうすると、港湾管理局員は叫んだ。
『助けてくれ! 正体不明の攻撃的な生物にコロニーが襲撃されているんだ!』
モニターの向こうの港湾管理局員が必死の形相で頼み込んでくる。突然の要請に俺達は返答に困り、互いに顔を見合わせる。
「いや、そんな事言われてもな」
「私達は傭兵よ? タダで働くほど私達の命は安くないわ」
俺の言葉にエルマが頷き、二人で顔を見合わせて首を横に振る。ミミはオペレーター席でどうしたら良いかわからずオロオロしているようだ。こんな状況じゃ仕方ないな。
『こんな時でも金を取ろうってのか!?』
「どんなときでもだ。命を懸ける以上対価は必要だ。当然だろ? 傭兵ギルドに依頼は出していないのか?」
『た、多分出していると思うがわからん!』
「わからんのかい。とりあえず空いているハンガーに案内してくれ、御託を並べる前に職務を全うしろ」
『わ、わかった……ええっと、三十二番……いや、三番ハンガーに入ってくれ!』
「了解。行くぞ」
通信を切り、ガイドビーコンに従って船を進める。
「入港するの? 面倒事には首を突っ込まないほうが良いんじゃない?」
「よくわからんが、金になるかもしれんしとりあえず話だけでも聞いてみたら良いだろ。セレナ少佐が戻ってくるまでちょろっと港の警備をして金が稼げるなら悪くないだろうし」
「大丈夫でしょうか……?」
「パワーアーマー着てれば滅多なことにはならんと思う。多分」
どっちにしろアレインテルティウスコロニーに留まって報酬を受け取らなきゃならんわけだしな。ここでアレインテルティウスコロニーに潰れてもらっては困る。
三番ハンガーに停泊すると同時にエルマとミミには船の掌握と傭兵ギルドへのアクセスを任せ、俺はカーゴルームへと向かった。勿論目的はカーゴルームに置いてあるパワーアーマーである。
「そういやこっちの世界に来てからこれにはあんまり触ってなかったなぁ……」
パワーアーマーというのは、要は動力付きの鎧である。分厚い装甲と強靭な膂力を装着者に与え、パワーアーマーに内蔵されている専用パワーコアから供給されるエネルギーで強力な重火器を扱うことができるのだ。これは個人に戦車並みの装甲と機動力、そしてパワーと火力を与える未来の兵器なのである。
まぁSFものの小説やゲームなんかによくあるやつだな。実際、ステラオンラインの白兵戦においてはパワーアーマー未装着の生身のプレイヤーがパワーアーマー装着者に勝利することは非常に難しかった。
港湾管理局員曰く、そんな物が必要になるほどのもモノがコロニーに蔓延ってしまっているらしい。うーん、俺の記憶ではこういった類のイベントはステラオンラインにはあまりなかったと思うんだが。やはりゲームの世界とは色々と勝手が違うんだろうな。厄介な。
パワーアーマーに乗り込み、起動シーケンスを進めながら俺は小さくため息を吐くのだった。
パワーアーマーのデザインはずんぐりのチョイダサくらいが好きです_(:3」∠)_




