#514 「ヒロ殿が不埒なだけでは?」
クソアチアチフ◯ッキンホットで捗らねぇですわ( 'ᾥ' )
「はぁ、ふぅ……や、やっと着いたみたいだねぇ」
石段を登りきると、そこはだだっ広い神社の境内のような場所だった。敷地面積はどれくらいあるんだろうか? 滅茶苦茶広いな。しかし、ショーコ先生は息も絶え絶えといった様子だが……ショーコ先生、殆どトレーニングルームに顔を出さないものなぁ。やはり無理矢理にでもトレーニングルームに引っ立てて運動をさせるべきなのかもしれない。いざという時に動けないのは命に関わるし。
「ほんの数ヶ月ぶりなのに、とても懐かしく感じます……」
クギが境内に視線を巡らせてふさふさと尻尾を振っている。
「懐かしいということは、クギはここで修行をしていたのか?」
「はい、我が君。此の身はこの大社で修行の日々を送っていました」
そう言って振り返るクギの姿は非常に絵になるというかなんというか……振り返った彼女の周囲に桜吹雪が舞い、その奥に立派な拝殿――のような施設やら何やらがとてもキマっている。あれだ、映えるというのはこういうののことを言うんだろうな。
「見惚れちゃいますね……」
「絵になるわねぇ……」
「記録しました」
ミミとエルマも俺と同じようにクギに見惚れていたようで、メイさえも何か感じるものがあったのか眼鏡の赤いフレームを僅かに持ち上げながら何か胡乱なことを呟いている。
「うーん、うちらにはあのミステリアスというか、神秘的な感じは出せんなぁ……」
「私達はほら、健康的とかそっちの方面で頑張るしかないよ」
「どーんと裸が一番じゃないかねぇ?」
『ドクター、それはいくらなんでも情緒がないと思うよ……』
俺もそう思います。ショーコ先生は反省して、どうぞ。
でもショーコ先生はその……うん、立派だからな。シンプルイズベストという意味でそういう方向性に走るのは合理的ではあるかもしれない。
などと考えていることなどおくびにも出さずにニコニコと機嫌が良さそうなクギの案内を受けて参拝の作法を教わり、皆でそれに従って手水舎のようなところで手を清めたり、拝殿でお参りをしたりする。うろ覚えながら俺が知っていた作法とはだいぶ違うようだったが、まぁそこは違う宇宙、違う文明圏の似たようなナニカだからな。そういうものなのだろう。
「しかし、この集団凄いですよね。ヒロ殿以外全員女性ですよ」
「全員というわけではありませんが、男性の落ち人には昔からそういう傾向があるみたいですよ。それにしたってヒロ殿は凄いと思いますけど」
「ヒロ殿が不埒なだけでは?」
俺達の後ろでモエギとイナバ、それにコノハが言いたい放題言っているが、俺は大人なので聞き流しておくことにする。決して反論のしようが無いからではなく、これは争いを避けるための大人の判断だ。
そうしているうちに案内役らしき人々が現れた。神主っぽい衣装を着た人達と、巫女っぽい衣装を着た人達の集団だ。なんか隨分と人数が多いな……モエギ達を入れると俺達の方が多いけど。何せ俺達は十二人もの大所帯だからな! 男は俺一人だけど!
「ようこそお越しくださいました」
「どうも、お世話になります?」
付き合いというか、ヴェルザルス神聖帝国への配慮の一環として来ただけなので、お世話になりますというのもなんだか若干違うような気もするのだが。
「ヒロ殿をこの大社にお迎えすることができて僥倖に存じます。ささ、どうぞこちらへ。儀式の準備を致しましょう」
「うっす」
皆にもついてくるように目配せをして案内に来た人々の後ろについていく。ヴェルザルス神聖帝国の中枢とも言えるような場所にいる人々ということは、彼らもクギと同等か、それ以上のサイオニックパワーの持ち主なのだろうか? どうにもその辺はわかりにくいんだよな。
「ヒロ様ヒロ様」
「どうした?」
俺の服の袖をちょいちょいと引っ張って名前を読んできたミミにそう聞き返すと、ミミが内緒話をするかのように両手を口の横に添えたので、身体を傾けて耳を寄せてみる。
「いっつもなら色々と警戒していると思うんですけど、今回はなんというか……素直じゃないですか?」
「ああ、それな。例えばクギみたいな第二法力の使い手が準備万端で増幅施設のようなものを利用して俺達をどうにかしようとしていたとしたら、抵抗の余地はほぼ無いと思うんだ。対抗できる可能性があるのは精神防壁をガン張りしてる俺と、機械知性のメイだけだろう」
「……そうかもしれませんね」
「俺とメイ以外の全員が第二法力で操られたりした時点で詰んでいるし、仮に俺とメイだけでクリシュナに乗って逃げ出したとしても、あのソウルラッシュやサイオニックジャンプシステムを装備している神聖帝国艦隊から逃げ切るのは不可能だ。だから今の俺は帝城の奥深くに招待されて半ば軟禁されていた時よりもそういう意味では諦めているぞ」
ここまでどうしようもないとなると、もう向こうの手の平の上で踊る以外の選択肢はほぼないと言っても良い。ヴェルザルス神聖帝国というありとあらゆるパワーで勝ち目のない相手と付き合うということは、そういうことなのだ。
「ただ、一点だけだがこっちにも彼等に脅威を感じさせる要素がある」
「ああ、爆弾ですね」
「そうだね、爆弾だね。もしうちのクルーに何かを仕掛けて取り返しのつかないことが起こった場合、俺は全身全霊を込めて大爆発してやるつもりだ。そういう強い意志を抱いてことに望んでいる」
「あ、あの、我が君? 此の身どもはそのようなことはしませんし、聞こえてますので……」
「それくらい怖がってるってことだよ。信用はお互いに積み上げていくしかないよな」
何せ俺達はヴェルザルス神聖帝国が俺達に対してどういうスタンスを取ろうとしているのか完全に理解しているわけではないし、あちらも俺がどのように動くかは理解しきれていないはずだ。
「俺個人はともかくとして、うちのクルーに手を出されさえしなければ俺は満足だよ。クルー達の安全さえ保証してくれるなら、多少の苦労は飲み込むさ」
俺の言葉が聞こえているのかいないのか、案内人達は特に言葉を発することなく俺達を先導し続けた。無言ってのはどうにも不気味に思えるんだが、よくよく見る――実際に見ているわけではないが――と、思念波が頻繁にやり取りされているようだ。もしかしたらヴェルザルス神聖帝国では言葉を使って会話するよりも、ああやってテレパシーで会話をするのが標準的なのかもしれんな。
「まずは禊を行います。ヒロ殿はこちらへ。ご婦人方はあちらへ」
そう言って案内人達が男女で分かれ、俺とクルー達を別の場所へと案内しようとする。
「オーケー、後でまた合流するんだろう? そっちはそっちでしっかりな」
「そっちもね。迷惑かけるんじゃないわよ?」
「失礼な。俺はいつだってお行儀が良いし、品行方正だぞ」
俺がそう言うと、クルー達は揃ってジト目を向けてきたり、苦笑いを浮かべたりした。解せぬ。




