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#513 「いやわざとはやらんが……」

 ヴェルザルス神聖帝国の中枢領域へと到達した俺達は、先導役の艦の後に続いて環状惑星帯を構成する惑星の一つ――イズモへと降下した。特に面倒な手続きなどもなく、スムーズに降りることができたのは事前に話が通っていたからか、それともヴェルザルス神聖帝国にはグラッカン帝国ほど厳密な惑星上居住地への効果制限がそもそも存在しないのか……基本的に国外の船を領内に受け容れていないという話だったはずだから、後者かもしれんな。


「もしかしてなんだが」

「どうしました?」

「ヴェルザルス神聖帝国が半ば鎖国めいた政策を取っているのって、あの光子生命体が突然出現したみたいに、国内で度々危険な宇宙怪獣が湧き出してくるからだったりしてな」

「まさかそんな……って言いたいけど、あり得るわね」


 宇宙空間から湧き出てきた光子生命体達のことを思い出しているのか、エルマがジト目で虚空を見つめている。あんなものがひっきりなしに湧き出しているとするならば、通常武装しか持たない他国の船がヴェルザルス神聖帝国の領域内を航行するのは極めて危険であるに違いない。

 そんな話をしている俺達は今、ヴェルザルス神聖帝国の中枢領域の中で尤も権威の高い宗教施設にして儀式施設でもある大社へと向かっている。


「今度は落ちへんやろな……」

「だ、大丈夫だよお姉ちゃん。リーフィル星系で乗ったものよりもずっと先進的なものみたいだし」


 ティーナが胡乱なものを見るような目を俺達が乗っている車両に向けている理由は、俺達が今乗っている車両が所謂『航空客車』と呼ばれる乗り物だからだ。

 かなり前の話だが、エルフの母星であるリーフィルⅢでもこの航空客車と呼ばれる類の車両に乗ったことがあり、その時は不慮の事故で深い森に墜落することになった。あの時は流石に生きた心地がしなかったな。


「我々の航空客車は想定外の法力が客車に流れた程度で墜落するほど杜撰な設計をしていないので、ご心配なく」


 そう言ってむっつりとした表情を浮かべているのは元聖堂護衛官にして現俺達の案内役を仰せつかっているポンポコ狸侍ガールことコノハである。


「コノハちゃん、トゲトゲ言葉はやめましょうね。とはいえ、コノハちゃんの言うことは本当のことで、私達の航空客車には幾重もの安全措置が講じられていますから、ご心配なく」


 そんなコノハを諌めているのはコンコン狐侍お姉さんことモエギである。彼女もまた希望通りに俺達の案内役を仰せつかったようで、イズモに降下した後に宇宙港で再開することになった。何故かイナバさんに向かって迫真のドヤ顔をキメていたが、何か二人には因縁とかあるのだろうか。


「……とはいえ、想定外の出力の法力を流して良いことは何も無いので、わざとやるのはやめてくださいね?」

「いやわざとはやらんが……」


 モエギは一体俺をなんだと思っているんだ。好奇心とか悪戯心を優先してそんな危ないことをするわけないだろうが。


「しかしなんというか、風光明媚な惑星だねぇ……」


 航空客車の窓から外の景色を眺めていたショーコ先生がぽつりと呟く。確かに、イズモは美しい星だった。緑が多く、水も豊富であちこちで花が咲き誇っている。特に目を引くのは桜のような花を満開に咲き誇らせている樹木で、絶えることなく桜の花びらのようなものを散らしているのに、全く花の勢いが衰える気配がない。もしかして散りつつも次々と花を咲かせ続けているのだろうか? 謎の生態だな。


『それより私はアレが気になるけどね……なんで浮いているんだろうね』


 ネーヴェの視線の先にあるのは浮いている大地であった。そう、大地が浮いているのだ。空中に。さほど広いわけではないが、極端に小さいわけではない。ただの岩の塊ではなく、その上には緑が生い茂っており、水が湧き出ているのか滝のように水が地上へと降り注いでいる。あの水は一体どこから湧いて出ているんだ……?


「浮地はイズモでも比較的珍しい現象なんですよ。この惑星で産出される浮き石の影響ですね」

「浮き石?」


 俺がそう聞き返すと、イナバは頷いて説明を続けた。頭の上のウサ耳が得意げにピンと立っている。説明好きな人なのだろうか。


「はい、所謂抗重力物質というものですね。重力の働きを遮る性質を持っています。あの浮地の下には抗重力物質の鉱床があるんです。今ではその数がだいぶ減ってしまって、天然記念物として保護されていますね」

「お姉ちゃん、抗重力物質って聞いたことある?」

「無いな。センセは?」

「私も無いねぇ」


 早速うちの技術者連中が抗重力物質について技術談義を始めた。そして三人揃ってイナバを質問攻めにし始める。あー、まぁ良いや。ほっとこう。


 ☆★☆


 着陸した航空客車から降りた俺達はそこそこに長い石段を登って大社とやらに向かっていた。石段は横幅も広く、その途中にはいくつも巨大な鳥居のような構造物が設置されている。また、石段の両脇には例の散り続ける桜のようなものが植えられていて、石段を登る俺達に向かってその花弁が風で運ばれてきている。


「不思議な花弁ですね……」


 自分の手の平に落ちてきた花弁を見ながらミミが呟く。確かに不思議な花弁だ。手に触れた時には確かに感触があるのに、数秒もするとまるで空気に溶けるように消えてしまう。


「祈り桜は法力植物という特殊な植物なんですよ。その花弁は法力が物質化したもので、祈り桜から散って暫くするとそうして溶けてしまうです」

「え? 物質化した法力って……それって反物質めいた危険物質じゃなかったか?」

「……? いえ、我が君。そのような危険性はありません」


 隣を歩くクギが小首を傾げながら俺の発言を否定する。あれぇ?


「兄さん、フウシンのおっちゃんが言っとったのは物質化したアストラル体やで。法力とは言っとらんかったと思う」

「ああ、そうだったか。何が違うんだろうな?」

「アストラル体というのはアストラル界――ええと、法力よりも高密度の精神的エネルギーで構成された世界に存在するモノ全般を指す言葉で、基本的にこちらの世界――此の身どもは此の世ですっとか、物質界などと呼んでいますが、こちらの世界では存在を維持するのが非常に難しいものなのです。祈り桜の花弁は物質化しているとは言ってもエネルギー量は微々たるものなので、幻のように溶けて消えるだけですが、もしそれがアストラル体だった場合は……良くて大爆発、下手すると広域に精神汚染などが広がる場合も考えられますね」

「アストラル体おっかねぇな。精神汚染ってなんだよ精神汚染って」

「お兄さんのクリシュナはそのおっかない物質の塊なんですよね……」

「花弁一枚どころか数百トンやからなぁ……星系の一つや二つは余裕で滅びそうやな」


 クギから齎された怖い話に姉妹が揃って遠い目をしている。そんなこと言ってもホラ、今までも特に問題なかったし、これからもダイジョブダッテ! 知らんけど!

 真面目な話、折角ヴェルザルス神聖帝国まで足を伸ばしたんだから、ヴェルザルス神聖帝国の技術者とか研究者に一回クリシュナを徹底的に調査してもらうのもアリかもしれんな。いや、絶対にやってもらうべきだな。


「クギさんクギさん、法力植物って一体どういうものなんですか?」

「はい、法力植物というのは法力に反応する特殊な性質を持つ植物の総称で、その中でも祈り桜は尤も一般的な法力植物ですね。法力を惑星上で循環させて、その惑星に住む者にとってより良い環境を作り出し、維持する力があります」


 サラッと言ってるが、それってつまりサイオニックエネルギーで稼働し続けるちょっとしたテラフォーマーということなのでは……? しかも惑星に住む者にとってより良い環境ってなんだよ。意を汲む対象も及ぼす影響もファジー過ぎんか? ご都合主義か?

 俺と同じ印象を抱いているのか、整備士姉妹もなんじゃそりゃとでも言いたげな表情をしている。そうだよな、そういう表情になるよな。


「よくわからんがサイオニックエネルギーでなんかいい感じの影響を周囲に及ぼしてくれるありがたい木ってことで納得しとこう」

「そうですね」

「せやな、そういう風にふんわりと理解しとくのが良さそうやな」

「釈然としないけど、そうだね」

「???」


 俺達の反応が解せないのか、クギが困惑した表情でキョロキョロと俺達の顔を見回す。すまん、クギ。クギが悪いわけじゃないんだ。悪いのはその祈り桜とかいう不思議植物だから、あまり気にしないで欲しい。

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― 新着の感想 ―
浮島に作品跨いでコースケが無限水源設置してません? 水源どこか来とんのよ?w それと面白そうだからヒロ達の拠点にする星にこの祈り桜置いてほしいw
浮いてるのはまだしも水はマジで何処から。マイ〇ラの水源じやねーんだ…………いや、むしろ浮いてて無限水源はマ〇クラそのものか……?
誤字多いなあ今回
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