#499 「愛と勇気と希望と来たか……」
同人RPGやったりアプデのきたFallout4やったりして僕は元気です( ˘ω˘ )
「こりゃ今まで見た盛況のコロニーとはまたちょっと趣が違うもんだな」
ニーパックプライムコロニーに降り立ち、暫くコロニーの様子を見て歩いた俺は思わずそう呟いた。なんというか、客層……と言うのは変か。歩いている人々の質が違う感じがする。恐らく新規の入植者であろう人達はどこか高揚しているというか、生気に満ち溢れているし、商人であろう人達は儲け話に目をギラつかせている。そんな彼らの発する空気がコロニー全体を活気づかせているのだろう。
「なんやろ? なんちゅーかこう、金持ちっぽい人多ない?」
「そう言われるとそうかも? なんででしょう?」
「惑星上居住地に入植できるのはごく一部の運の良い人を除けば、基本的に優良納税者か帝国貢献者の一等市民権所持者だからね」
ティーナとミミの素朴な疑問にウィスカが微妙に社会の闇を匂わせる発言をしている。ああ、そうか。一等市民権ね。なるほど。惑星上居住地に居住するための大前提が一等市民権だものな。一等市民権の付与条件はわからないが、ウィスカの言うように金持ちか軍務や公務などで帝国に多大な貢献をした人物なのだろう。そりゃ身なりの良い人が多いわけだ。
「ごく一部の運の良い人ってどんな人だ?」
「一等市民権を所持してない人にも惑星上居住地の入植者に選ばれる枠があるみたいですよ。各コロニーから数人とかの小規模で」
「なるほど……よく知ってるな?」
「えっと……お兄さんが惑星上居住地に家を建てるって聞いてたので、ちょっと調べた事があったんです」
そう言ってもじもじするウィスカの頭を思わずなでなでしてしまう。ウィスカは俺とほぼ同い年のれっきとした大人の女性なのだが、どうしても頭の位置が撫でやすい位置にあって撫でちゃうんだよな……ミミくらいの身長ならうっかりってこともないんだが。
「我が妹ながらあざといなぁ……」
「べ、別にそういうの狙ってるわけじゃないからね!?」
弁明する妹に完全に疑惑の眼差しを向けるティーナ。正直俺も少しだけそう思ったが、可愛いから仕方ないね。
「目がギラギラしてるのは商人達ね。ゲートウェイを利用できるってことは、それなり以上の規模の商会の連中でしょ」
「なるほど。こういう特需は儲けは出しやすいと思うんですけど、チキンレースみたいなところもありそうですね。確実に売れると思って大量に仕入れてきた資材が、先に納入されていたせいで死に在庫になったりとか」
ミミは最近交易商人みたいな視点で物事を語ることが増えてきた。補給物資の管理だけでなくブラックロータスのカーゴスペースを利用した交易も任せるようになった結果だろう。このまま一端の交易商人としてもやっていけるくらいのスキルをぜひ身につけて欲しい。
「あぁ、それは商人にとっては悪夢だろうねぇ。だから情報収集に躍起になってるわけだ。失敗すればその噂も一瞬で広まりそうだね」
『浮世は世知辛いねぇ。私もそのうちそういう世知辛さに揉まれる時が来るのかな』
「さぁ、どうかな? ヒロくんの傍にいる限りはそういう浮世の世知辛さとは無縁かもしれないねぇ。それ以上に危険な荒波に晒されるだろうけれど」
「それは否定できないなぁ」
ショーコ先生とネーヴェのやり取りに苦笑いをしながら答える。良くも悪くも俺と一緒にいる限り一般的な世知辛さというものとは無縁だろうからなぁ。大体のことは金の力とか暴力とかプラチナランカーとか帝国の名誉子爵といった権威の力とかで解決できてしまいそうだし。
とはいえ、そういうものにばかり頼って問題を解決していると、いつかしっぺ返しがくるだろうからほどほどに自重する必要があるだろうな。
「お? あれじゃないか? 迎えの人って」
「はい、我が君。恐らく間違いないかと」
俺が差した方向にいる人物を確認したクギが頷きながらそう言う。
別に俺達は人々が行き交う港湾区画で目的もなく通行人ウォッチングに勤しんでいたわけではなく、人を待っていたのである。その待ち人というのはヴェルザルス神聖帝国の迎えの人員というやつだ。ニーパックプライムコロニーに到着した時点でクギがヴェルザルス神聖帝国の大使館に連絡を取った結果、港湾区画に迎えの人を寄越すので待つようにとあちらからそう言われたわけだな。
「なんかサムライっぽいのが来たな……」
恐らく迎えと思われる人物達の人数は三人であった。一人は俺と背丈が同じくらいで、額の生え際辺りから角のようなものが生えている男性。もう一人はクギと同じような尖った獣耳が頭の上に生えている女性。そして最後の一人は丸い獣耳が頭の上に生えている女性だ。角の生えた男が中央に立ち、女性二人がその後ろに並んでついてきているところを見るに、角の生えた男が代表というか上司なのだろう。
全員が和装っぽい衣装に身を包んでおり、腰には日本刀めいたものを差している。ただ、打刀と脇差しのように大小二本を腰に差しているわけではなく、一振りだけ腰に差しているのが侍とは少し違うか?
「ご挨拶申し上げる。私はこの、ニーパックプライムコロニーにあるヴェルザルス神聖帝国の聖堂で聖堂護衛官の長を務めている、ランシンと申す者。貴殿がキャプテン・ヒロ殿と巫女のセイジョウ殿、そしてお連れの方々で間違いないだろうか?」
「ああ、間違いない。キャプテン・ヒロだ。わざわざご足労頂いて申し訳ないな」
「これも護衛官の務め故、お気になさらず。寧ろ、港湾区画で出迎える事ができずお待たせして申し訳なく思う。後ろの二人は部下のモエギとコノハと申します。二人とも、挨拶を」
「はい、モエギと申します。お見知りおきを」
「コノハです。どうぞよろしく」
ランシンの後ろで控えていた二人もそう言って会釈をしてきたので、こちらも会釈を返しておく。ついでと言ってはなんだが、他のクルー達の紹介も軽く済ませておく。
「ここで立ち話を続けるのも不用心というもの。早速聖堂にご案内致そう。すぐ近くに移動用の車両を待たせてあります」
「了解。しかしこんな大所帯で押しかけて良いものかね?」
「些かも問題ありませぬ。どうぞこちらへ」
そう言ってランシンが踵を返して俺達を先導し始めたので、俺達もぞろぞろとその後ろをついて歩いていくことにした。
「ん?」
俺達とランシン達を含めて十人以上の人間がぞろぞろと歩いている上に、俺以外は誰も彼も人の目を惹く美女だの美少女だの変わった格好だのをしているのに周りから全然注目されていないことに気が付き、思わず声を上げる。
「何か?」
「いや、少し違和感が……ああ、なるほど」
俺のすぐ近くを歩いているコノハと名乗った丸耳獣侍ガールに聞き咎められてしまったが、違和感に気づいて注意をしてみればすぐに理由がわかった。モエギと名乗った狐耳侍美女から何か精神波が放たれている。恐らく人避けとか隠密とか認識阻害とかそんな感じの第二法力――精神干渉系のサイオニック能力を使用しているんだろう。
「わかってしまいましたか。巫女殿の薫陶を受けていらっしゃるなら当然でしたね」
モエギがそう言いながらクスリと笑みを漏らす。うん、美人。とは思ったけどもクギさん、確かにそう思ったけども密かに俺の服の裾を引っ張って抗議するのはやめないか。ほら、呼応してミミもやり始めた。あー、いけません! いけませんお客様! ドワーフ姉妹のお客様! 後ろから引っ張るのはいけません! 歩きにくいのでいけませんお客様!
「……仲、よろしいんですね」
「まぁ、そうね。身に余る光栄だと思ってるよ」
コノハにどことなくジト目っぽい視線を向けられてしまった。傍から見るとお前何股してんだよこのスケコマシ野郎がって絵面なので、こういう視線を向けられるのは仕方がないと思う。俺も多分そういう目で見ると思うし。
「ヒロ殿の立場を考えれば悪いことではない。寧ろ大いに歓迎するべきだ」
「そうなのか? リスク要因だとか考えられるかと思ってたんだが」
俺という爆弾に爆発されては困るヴェルザルス神聖帝国的には俺の『起爆スイッチ』になりかねないミミ達のような存在の多さは歓迎されないんじゃないかと思っていた。
「そのような事はありませぬとも。いつだって人を強くし、絶望に抗う力となるのは愛と勇気と希望と、そう相場が決まっておるのですからな」
「愛と勇気と希望と来たか……」
こちらを振り返りもせずに粛々と歩きながら面白いことを言うな、この男。愛と勇気と希望、愛と勇気と希望ねぇ……? まぁ、精神文明的な立場から言えば、そういった精神論というやつも馬鹿にできない要素なのかね? ちょっとヴェルザルス神聖帝国というか、その思想に興味が湧いてきたぞ。




