#495 「どうしてもか?」
天気がいと悪し( ‘ᾥ’ )(天気が悪いと捗らない
「うちらみたいなちんちくりんには似合わんのと違う?」
「いや、凄い良い。とても良い」
買い物を終えてブラックロータスに戻ってきたので、俺はキャプテン権限を行使して買ってきたコスチュームを早速着てもらうことにした。職権濫用? 知らんな! それよりもコスプレだ!
「そ、そうですか……?」
赤系と青系の綺麗なエルフ風衣装――チャイナドレスっぽいもの――を着たティーナとウィスカが俺に真顔で拍手をされて照れてクネクネしている。深めのスリットから覗く二人の太ももが実に良い。ヒップラインも美しい。これは良いものだ。
「一応それはエルフの伝統ある衣装なんだけど……」
そう言って俺にジト目を向けてくるエルマはメイが監修したメイド服姿だ。胸元が開いていたりも、異常にスカートが短かったりもしない古式ゆかしいヴィクトリアンスタイルである。ちゃんとホワイトブリムもつけているのがグッドだ。
「き、着てみましたけど、ちょっとこれは」
そう言ってミミが顔を赤くしながら胸元を隠している。うーん、バニー。バニースーツ。おお、バニースーツ。バニースーツ。何がとは言わないけど溢れそう。でも溢れないのは何故なんだろうか。何故か分からないが、無駄に高度な技術が使用されているのだろうという確信がある。
「ミミさんと比べると迫力が……」
「俺からはグッドだ、と言っておく」
クリスも同じくバニースーツを着ているのだが、ミミと自分の胸を見比べて閉口している。だがな、クリス。そう言うのは大きさが全てじゃないんだ。勿論大きいことは素晴らしいことだし、ミミのそれは大きさも形も最高なので本当にもう最高なのだが、だからといってクリスの成長中のそれが素晴らしくないということではないんだ。おっぱいに貴賤はないんだよ――とあまり熱く語るとドン引きされてしまうからな。俺は謙虚なので多くは語らないでおく。
「はっはっは、華やかでいいねぇ」
『ドクターは着ないのかい? ああいうの』
「私が買ってきた衣装はちょっと刺激が強いからね」
『ミミが着ている衣装よりも……? それはもう下着なのでは?』
いつもの格好から白衣だけを除いたショーコ先生が笑いながら皆のコスプレを眺めている。そんなショーコ先生にツッコミを入れているネーヴェの格好は真っ白いワンピースである。ネーヴェの白い肌と白い髪の毛、それに白いワンピースと真っ白白だが、見た目だけなら儚げな少女にしか見えないネーヴェには良く似合っていると思う。その実態は別として。
というか、刺激が強いって一体ショーコ先生は何を買ったんだ? 俺が口を出したのはバニースーツとチャイナドレスっぽいエルフ服だけで、それ以外は適当に皆にお任せしたんだが。
「な、なんだか落ち着きません」
「にゃーん」
クギもエルマやメイと同じくメイド服を着ているのだが、ホワイトブリムのつけ心地が良くないのか、しきりに頭の上の狐耳をパタパタと動かしている。もしかしたらいつも着ているサイバーな感じの巫女服と服の着心地が違って落ち着かないだけかもしれないが。
そしてメイ。なんだそれは。そのネコミミはなんだそれはオイ。けしからん。しかも尻尾までついているじゃないか。
「これはクギさんのデータを元に作られた試作型のねこみみアタッチメントです」
「ねこみみアタッチメント」
「しっぽもあります」
完全な無表情なのに物凄いドヤ顔感を醸し出しながらメイが俺に背を向けて腰の辺りから伸びる猫っぽい尻尾を披露する。ああ、クギのメイド服と同じでちゃんと尻尾穴がついてるのね。いや、違うそうじゃない。
「どこからそんなものを持ってきたんだ」
「はい、ご主人様。デクサーⅢにオリエントの工房がありまして。そちらから速達で試作品を送ってもらいました」
「あの、私のデータって……?」
「自然な耳と尻尾の動きを少しだけ。大丈夫です、個人情報は一切含まれません。モーションデータのみなので」
ぴーんとメイの頭の上で立っているネコミミと腰の後ろでゆらゆらと揺れている尻尾が得意げな雰囲気をありありと醸し出しているのが面白い。無表情なのに感情が視覚化されている。
「それにしてもあんたねぇ……キャプテン権限だとか言ってこういうことをさせるのはどうかと思うわよ?」
「だって見たかったんだもん……」
「そんなマジで言われると流石にドン引きなんだけど……」
「我が世の春って感じがする」
エルフドレス姿のティーナとウィスカを両脇に侍らせて真顔でそう言うと、エルマに処置なしという顔をされてしまった。仕方ないじゃん。こういうのは男のロマンじゃん。流石にお触りとかはしないから許して欲しい。
「まぁええんやない? たまにハメ外すくらいなら。兄さん、夜はともかくとして普段は割とストイックやし、危険な時はうちらの安全第一で気ぃ遣ってくれるやん?」
「わ、私も嫌ってわけじゃないですし……」
ティーナが俺に身体を押し付けてしなだれかかりながらそう言い、ウィスカもまた控えめな発言をしながらも俺にピッタリと密着してくる。
「んまぁ、キャプテン権限使ってやるのがコスプレ大会ってのも大人しいといえば大人しいのかしらね……?」
「エルマさん、大人しくないとどうなるんですか?」
「そりゃもうドラッグでもキメながら大乱交よ。そういうのに比べればヒロみたいにコスプレ衣装着せて眺めるくらいはまだ大人しいものよね」
「冗談ですよね……?」
「改めて言っておくけど、ヒロは傭兵としては本当に極めて品行方正な類なのよ? 金ができれば酒にドラッグ、女に溺れる傭兵なんてのも珍しくないし、船に何人も女を囲ってるような手合いはヒロが可愛く見えてくるくらい凄いわよ」
「凄い、ですか」
エルマから倫理観低めの一般的な女好き傭兵の生態を聞いてクリスが顔を赤くしている。その横でミミも困ったような顔で顔を少し赤くしているが、クリスほどの反応ではないのはクリスと違ってミミは傭兵のそういう話を今までに色々見聞きしているからだな。傭兵ギルドの受付のお姉さんとかとそういう話をするらしい。主に心配されて。あなたも女の子をいっぱい囲ってるキャプテンのところで働いているんでしょう? 大丈夫? 無茶なことされてない? みたいな感じで。
俺としては大変に心外である。俺は極めて紳士的にクルー達に接しているというのに。今お前が何をやっているのか省みてみろって? 嫌だね。
☆★☆
コスプレ大会が終わったらコスプレ大会の二次会が開催された。そう、今度は俺が皆の着せ替え人形化である。なんか色々と良くわからん格好をさせられ、小芝居までさせられた。いや、まぁ俺が皆にコスプレ衣装を着せてニヤニヤしながら眺めたりしたのだから、彼女達にもその権利はあるだろう。まったくもって誰得な絵面なので、俺はその記憶を封印することにしたが。
で、その夜のことである。
「駄目に決まってるだろ」
部屋を訪ねてきたクリスに俺はそう言い放った。
「大丈夫です。お祖父様も許して下さりますから」
そう言ってにっこりと微笑むクリスの衣装はスケスケのネグリジェめいたものであった。あー、いけません。いけませんお客様。あー、困ります困ります。
「仮にそうだとしてもだな……」
困った。まさかダレインワルド伯爵に「お孫さんに手を出しますけど、良いですね?」などと聞くわけにも行かない。許可をもらっている、問題ないと言われて迫られると拒む理由に乏しい。
「まさか婚前だからとか、婚約前だからとかそういう理由では断りませんよね?」
「ぐぬぬ……」
それを引き合いに出されると弱い。俺が正式に婚姻関係を結んでいるのはミミだけで、その他のクルーとは公的にそういった関係を結んではいない。事実婚みたいな状態ではあると思うが。そんな状態で彼女達に手を出している以上、クリスの言うような理由で彼女の覚悟を拒むというのは理屈が合わない。
「身体や年齢の事ならミミさんとそう変わりませんし、私も成長していますし、何より強化手術を受けてもいますから頑丈ですよ」
「先回りするんじゃない」
正面から俺に抱きつき、腰に腕を回してきたクリスがジリジリと俺を部屋の中に押し込んでくる。体格的にも体重的にも俺の方が勝っている筈なのだが、抵抗しようにもびくともしない。サイオニック能力も駆使して本気で抵抗すればクリスを制圧するのは容易だが、そうまでして拒否などしたらどうなるか予想がつかないなぁ……。
「どうしてもか?」
「どうしてもです。また遠くに行ってしまうのでしょう?」
じっと俺の顔を見上げてくるオニキスのような瞳の意思は固そうだ。
クリスのことだから、ダレインワルド伯爵がゆるしてくれるというのも本当のことなのだろう。以前はそれを理由に断ったし、それは彼女もはっきり覚えているだろうからな。
「……オーケー、観念する」
なに、もしダレインワルド伯爵が怒ったらその時はその時だ。土下座でも何でもして許してもらおう。斬り捨てる! とか言われたら抵抗するまでだ。




