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#492 「……他にもあるのか?」

「というかだな、ブッシュバウム子爵は俺の何もかもが気に入らないんだろうということはよくわかるんだが、冷静になって考えて欲しい。結局のところ、ダレインワルド伯爵家、というかダレインワルド伯爵領の諸氏からすれば、俺はあまりダレインワルド伯爵領の運営に深く関わったり、あちこちに嘴を突っ込んで回ったりしないほうが良いんじゃないか、と思うんだが」


 俺がそう言うと、ブッシュバウム子爵は顔をドス黒くしたまま沈黙した。茹で上がった頭で俺が言ったことの意味を頑張って呑み込もうといるのだろうと思う。そんなブッシュバウム子爵の反応とは対象的に、エルツベルガー女男爵は俺に向ける目を細めた。ああ、伝わってくる精神波動が注意や警戒という色から興味の色に変わったな。


「俺がダレインワルド領内のあれこれに深く関わると、俺を通してホールズ侯爵がダレインワルド伯爵領への干渉を行ってくるかもしれない。恐らく一番警戒されるパターンがこれじゃないかと思うんだ。俺もあの人ならやりかねないと思う。だから、俺はダレインワルド伯爵領内の活動に関しては傭兵としての領分以上のものを背負わないほうが良いと思っている。無論、俺が単純にそれ以上のことをしたくないというのも正直に言えば多分にあるんだが」

「正直に言うんだね」


 そう言うエルツベルガー女男爵の言葉に俺は肩を竦めながら口を開いた。


「俺は権謀術数とかそういうのが全く無い、宙賊を徹底的にぶっ殺していれば全てハッピー! って世界に生きていたい人間なんだ。無論、クリスのことは好きだから、お願いされればホイホイと聞いてしまうと思うが」


 そう言ってチラリとクリスを見ると、クリスは「そうかな……?」みたいな顔で首を傾げていた。確かにクリスのお願いってあまり聞いたことがないというか、どちらかと言えば「ダメ」って言ったモノのほうが多いような気がするけど、それって大体クリスが自分の身を差し出す系のやつだからな。クリスを守ったりだとか、クリスの意向を受けて帝国航宙軍に力を貸したりだとかは素直に聞いたからな?


「まぁ、俺の使い所はクリスがダレインワルド伯爵と相談して良い感じに決めてくれるだろう。場合によってはある程度長いスパンの依頼を請けるのも構わない。対価がちゃんと支払われるのであればな」


 長いスパンでの依頼を請けるというのはつまり、コーマット星系の何処かに家を建てている間だとか、あるいはクルーの誰か、あるいは複数が身重になって、その対処というか出産、子育てなどの間だとか、ダレインワルド伯爵領に長期滞在する必要性が出た場合の時の話だな。


「ふん、結局金か……」

「そうだよ。金と責任の切っても切れない関係については貴族のブッシュバウム子爵にわざわざ説明するまでも無いことだろう?」


 冷静になったのか、少し顔色が落ち着いてきたブッシュバウム子爵に頷きそう言う。

 身内だろうがなんだろうが、仕事をする以上はしっかりと責任を持ってそれに当たるべきで、その責任の担保となるのが金である。金をもらう以上はしっかりと責任を持ってやる。無料の仕事なんて信用ならんよ。


「繰り返して言うが、俺がいろんな責任を背負い込まずにフラフラしたいというのはもう性分だし、半ばアイデンティティみたいなものなのでこれを隠す気はない。どう言い繕っても俺は俺がそうしたいから傭兵稼業を続けるわけだ。ただ、もう一つ俺にはどうしようもない理由がもう一つあってな」

「興味深い。聞かせてもらっても良いだろうか?」

「ああ。俺はな、とんでもないトラブル引き寄せ体質なんだ」


 真顔で俺がそう言うと、俺の事情をある程度知っているクリスとダレインワルド伯爵以外は「なんて?」みたいな顔をした。いや、意味がわからないよな? 俺も自分で言っていてそんないきなり納得してもらえるだろうとは思っていないから説明するよ。懇切丁寧に説明するよ。


「航宙艦がハイパードライブを終えてコロニーに行き着くまでに宙賊と接触する確率を知っているか? 無論、その星系のセキュリティレベルに大きく左右されるが、平均すると凡そ千五百回に一回くらいの確率って言われているらしい。ちなみに俺は凡そ半年で三十回以上接触している。自分からわざと接触したわけじゃなく、インターディクターで狙われたり、既に宙賊に襲われている民間船に遭遇したりとか、それだけでな」


 俺の話を聞いてまずエルツベルガー女男爵が「うわ」みたいな顔でドン引きした。まだまだこんなのは序の口だぞ?


「帝国航宙軍と協力して宙賊の基地を潰して戻ってきたら帰還先のコロニーがバイオテロで壊滅しかけていたり、宙賊を撃破してその荷物をサルベージしたら伯爵家のお姫様を拾って、しかもそのお姫様を巡る伯爵家のトラブルに巻き込まれたり、依頼で荷運びをしたらその配達先が結晶生命体の大襲撃に遭っていたり、それをなんとか切り抜けて受勲のために帝都に行ったら、光栄にも皇帝陛下の目に止まって御前試合をすることになったり、伯爵様の依頼を受けたらどういうわけかテラフォーミング中の惑星に生身で降りることになった上に、人を簡単に捩じ切る生物兵器の群れと戦うことになったり、エルフの母星に遊びに行ったら現地で使用されている航空機が人里離れた森のど真ん中に墜落した上、宙賊の降下襲撃に遭ったり……他にも聞きたいか?」

「……他にもあるのか?」


 俺が頷くと、流石にブッシュバウム子爵も俺を哀れに思ったのか、同情するような表情を見せてきた。さっきまで俺に対する怒りで顔をドス黒く染めていたのに……。


「つまり、ヒロ殿がダレインワルド伯爵領に長く留まると……?」

「何の科学的裏付けもない話なんだが、何かしらのトラブルを引き寄せる可能性はあるよな。いや、そうなるとは限らないが。結局最終的には切り抜けて丸く収まっているわけで、災い転じて福となす可能性も無くはない。それでも下手したら死ぬほど大変な目に遭うかもしれないが」

「いくらなんでも非科学的な……と言いたいが」


 そう言ってエルツベルガー女男爵が少し離れた場所でこちらの様子を窺っている俺の同行者達――というかクギに視線を向けた。俺に同行してきたミミやエルマ達にこの会議での発言権は無いのだが、傍聴権はあっても良いだろうということで席を用意してもらったのだ。ちなみに、その際に全員を軽く紹介している。つまり、クギが何処の国から来た何者かを知っている。


「サイオニックテクノロジーの分野から見ると、俺のこの不運については説明がつくらしい」

「つまり、ホンモノってことなんだね」

「そうなるかな」

「私はヒロ殿が傭兵稼業を続けることを支持しよう。そしてできればステアリン星系には来ないで欲しい」


 エルツベルガー女男爵が広げていた扇をパチンと音を鳴らして閉じながらそう宣言する。いっそ清々しいなオイ。


「それが叶うかどうかはクリスとダレインワルド伯爵の判断次第ってことで一つ。それで、俺がクリスの伴侶になっても傭兵として働き続けて、積極的にはダレインワルド伯爵領内での仕事には関わらないって方針はエルツベルガー女男爵だけでなくブッシュバウム子爵とシュノール男爵も了承するってことで良いかな?」


 俺の問いかけにブッシュバウム子爵は苦虫を噛み潰したような顔で頷き、シュノール男爵は特に表情を変えることもせずに頷いた。

 ふむ。ブッシュバウム子爵はある意味でわかりやすくて結構なんだが、シュノール男爵はどうにも表情を殆ど変えないからわかりにくいな。伝わってくる精神波動の色的には俺に隔意を抱いている感じは無いんだが……まぁ、初対面なのだからこんなものか。

 その後、クリスとの婚約や結婚に関する準備の細々とした話し合いをして会合は平和裏に終わることになった。ブッシュバウム子爵には若干チクチクネチネチとやられたが「なんだかヴェルザルス神聖帝国に行く前にブッシュバウム子爵の治める星系を見に行きたくなってきたなぁ」といった内容の話をしたら黙った。自分で利用しておいてなんだが、そこまでドン引きされるのも微妙に納得がいかねぇ……。

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― 新着の感想 ―
というか、この子爵さんもお家の事を第1にしたいだけなんだろうが、読者目線だと『おいバカやめろ』案件のオンパレード(笑) そもそもヒロ自身が伯爵家の導火線に直結されてるんだがな……(謀反起こした息子やイ…
まんま、ブラックボックス解明前の第四次のグラ◯ゾンで草
[一言] 大佐殿の泣いて地面転がるのに通ずる自爆的説得法だわw
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