#491 「はなしを、なかったことに?」
ライズオブローニン終わったらドグマ2かDLCに向けてエルデンリング再走か悩む( ˘ω˘ )
「うぉでっか……」
「はわぁ……」
「立派なお屋敷ねぇ……」
ダレインワルド伯爵邸に着いた俺達は、その威容を前に感心しきっていた。いや、でかい。本当にでかい。庭が広すぎる。そして奥に見える建物もデカい。いや、高さはそうでもないけど横幅も奥行きもかなりありそうだ。これ、庭を含めた敷地面積はどれだけあるんだろうか?
「凄い庭だねぇ……これだけの植物を管理するとなると、手間も大変そうだ」
『物凄く贅沢な空間の使い方だ……凄いなぁ、帝国貴族』
執事さんらしき人に案内されて門を通り、バカでかいゴルフカートのような乗り物に乗せられて奥に見える屋敷へと向かう。庭が広すぎるもんな。徒歩だと軽く二、三十分くらいかかりそうだ。
「あのお屋敷もとても大きいですね。お掃除が大変そうです。でも、ボットが見当たりませんね?」
「そういった管理を敢えて人力で行うことによって雇用を創出しているのです」
ショーコ先生とネーヴェ、クギとメイもそれぞれ庭や屋敷を見て思うところを話し合っている。俺も庭付きの一戸建てを地上に建てたいとは思っていたけど、ここまではなぁ……これは俺の想定するレベルを遥かに超えているんだよ。もう少しこう、こじんまりとしたものにしたい。
とはいえ、将来的に何人家族になるかもわからないような状態だからなぁ。クリスとセレナは俺が建てる家に住まない可能性が高そうだが、それでも軽く十人近い人数で住むわけで。更に子供が生まれたりすることを考えると……うん、ここまでは行かなくともかなり広い家にする必要があるな。
それに、これまでの経緯を考えれば今後もっと増える可能性も考慮しなきゃならない。最近もネーヴェを拾ったばかりだからな。
俺の節操の無さをどうにかすれば解決? それはそうなんだが、じゃあミミやエルマ、ネーヴェを見捨てれば良かったのかと言うとそれは違うと思うし、メイやティーナやウィスカ、それにクギに関しても彼女達の事情なんざ知ったこっちゃねぇと突っぱねれば良かったのかというと、やはりそれも違うと思うんだ。
ショーコ先生に関しては喫緊の差し迫った事情があったというわけじゃないけど、船医は必要だと前々から思っていたしな。
リンダ? リンダに関しては三年後にどうなってるかわからんしな。とりあえずノーカンで。
セレナに関してはもう初対面からここに至るまで俺は深い関係にならないように努力していたのに結局こうなったし、クリスに関してもほぼ回避は不可能だったと思うんだ。いや、そのことに不満があるわけでは全く無いが、ただの節操なしみたいに思われるのは心外である。
そう、心外なのである。
「こんなに沢山の女性を側に侍らせた節操なしの似非貴族をクリスティーナ様の伴侶とするなど言語道断! 私は断固反対します!」
口から唾を飛ばす勢いで……というか実際に飛ばしながら断固たる主張をしているのは中年くらいに見えるおっさんだ。彼の名はアードルフ・ブッシュバウム子爵。ダレインワルド伯爵の寄子の中ではもっとも地位の高い人物で、見ての通り俺とクリスの婚約というか結婚について大反対している。
「ブッシュバウム子爵。そのように興奮するものではない。品位を疑われますよ? 貴方がそうして無礼にも指をさしている相手は貴方と同じ子爵位の帝国貴族なのだからね」
そう言って扇子のようなもので優雅に口元を隠している熟女はベッティーナ・エルツベルガー女男爵だ。彼女は俺がクリスの伴侶になることについて今のところ是も非も表明していない。
「名誉爵位とはいえヒロ殿の子爵位は多数の将兵の命を救ったその功績を皇帝陛下に認められて賜ったもの。それを軽視することは同じ帝国貴族として慎むべきかと思いますが。それと、ヒロ殿が多数の女性とパートナーの関係を構築していることは特に問題は無いのでは? きちんとクリスティーナ様との間にお世継ぎを設けて頂くことのみが肝要かと」
いかにも堅物らしい厳然とした声音でブッシュバウム子爵を諌めているのはルートガー・シュノール男爵。彼はクリスと俺との関係に消極的ながら賛成の立場らしく、先程からギャーギャーとうるさいブッシュバウム子爵を何度も諌めてくれている。
「ぐぬぬ……お屋形様! どうかお考え直しを!」
青筋を浮かべたブッシュバウム子爵がダレインワルド伯爵に翻意を促したが、ダレインワルド伯爵の態度は明確なものであった。
「クリスティーナの伴侶としてキャプテン・ヒロを迎える。これは決定事項だ」
「しかし、それではホールズ侯の軍門に降ることになります! どうか!」
「アードルフよ、お前の心配はよくわかっている。だが、クリスティーナがダレインワルド伯爵家を背負って立つのにはまだまだ時間がある。それまでに我々大人が道を整え、歩き方を教えていけば良い。そうではないか?」
「それは……わかりました。お屋形様がそうまで仰られるなら」
主従の暑苦し――熱い人情劇が展開されているが、俺は殆ど置いてきぼりである。それはそうだろう、俺が彼らについて知っていることなど今聞いたばかりの名前と爵位くらいで、彼らの収める星系がどの星系なのか、ダレインワルド伯爵領においてどのような仕事をこなしているのか、などの情報が何も無い。
「それで、婿殿はクリスティーナ様と婚儀を交わした後にはどのような形でダレインワルド伯爵領に貢献していただけるのかな?」
おっと、ボケっとしていたらエルツベルガー女男爵に水を向けられてしまったぞ。
「現時点で具体的にどうこうというのは難しいな。俺個人が持つ力はせいぜい宙賊どもを蹴散らす程度のものだし。俺個人が持つコネクションというモノもごく限定的なものだ。何か莫大な利益を能動的にダレインワルド伯爵領に誘導できるほどのものとは思えないな」
俺のコネクションといえばセレナ経由でのホールズ侯爵とのものと、非公式ながらミミ経由での皇帝陛下とのもの。あとはリーフィル星系のエルフ達との個人的なものくらいだ。
「順当に考えればダレインワルド伯爵領内での治安維持に軍事分野の方面から貢献するのが妥当なんじゃないか。対宙賊独立艦隊の初期の対宙賊戦術を確立させたのは外でもない俺だ。その後の対宙賊独立艦隊の功績を考えれば、そっち方面での貢献というのが現実的なところだと思うが」
実際、セレナ率いる対宙賊独立艦隊の勇名は帝国中に轟いている。無論、そこには帝国航宙軍の人気取りという意図が多分に入ったプロパガンダという側面もあるのだろうが、実際に撃滅した宙賊艦や潰した宙賊拠点の数については一切の割増などはされていない――とセレナが言っていた――ので、その立ち上げに関わったという事実はそれなりに評価されても良いだろう。
「ダレインワルド伯爵領のセキュリティレベル向上に貢献していきたいとは思ってる。無論、ダレインワルド伯爵領内の仕事にずっと専念するわけにもいかないが」
「ふん? まさかクリスティーナ様とご成婚された後にも傭兵として帝国内外をフラフラするつもりだとでも? そんなことが許されると思っているのか?」
「許されないならそこで話は終わりだ。この話は全て無かったことにさせてもらう」
俺がそう言うと、俺に絡んできたブッシュバウム子爵が目を点にして固まってしまった。
「はなしを、なかったことに?」
「傭兵としての活動を制限するというなら、婚約の話は断らせてもらうと言っている」
俺の宣言にブッシュバウム子爵は怒りで顔をドス黒く染め上げ、エルツベルガー女男爵は口元を扇子で隠し、シュノール男爵は口元を真一文字に引き締めた。そして、ダレインワルド伯爵は表情を全く変えず、クリスはハラハラとした様子で動静を見守っている。
クリスには悪いと思うが、こればかりはな。アイデンティティだけは捨てられないし、ここだけはなぁなぁにしておきたくないんでね。正念場だな。




