#489 デクサー星系
今日は私用で出かけるので、昨日の晩からコツコツ書いていたのだ( ˘ω˘ )(勤勉
デクサー星系。ダレインワルド伯爵領の中心地で、合計四つの星系へとハイパーレーンが繋がっている、ハブ星系と呼ばれる立地の星系だ。
隣接する四つの星系全てがダレインワルド伯爵領に属しており、そのうちの一つがコーマット星系。以前俺がダレインワルド伯爵の依頼を受けて星系の治安維持に従事し、その過程で生身でテラフォーミング中の惑星に降下したり、生物兵器と切った張ったを繰り広げたりした星系だ。今、このブラックロータスに同乗しているクリスが総督を務める星系でもある。
で、俺達が今到着したデクサー星系には最初にクリスを助けた際にも立ち寄ったことがあるのだが、本当にその時は護衛対象であったクリスを護送する最終目的地として立ち寄っただけで、すぐに立ち去ってしまった。
「なんだか、前に来た時と比べると随分と賑やかになっていませんか?」
『そうね、行き交っている船の量がかなり多くなっているように感じるわ』
エルマが通信越しにミミの話題に反応する。見る限り、俺もそう思う。そう思えるほど顕著に以前に訪れた時と比べて交通量が増えているようだ。
一応、今の俺達はクリス達の護衛を依頼として請けている状態なので、ハイパースペース内を航行している時間以外はこうしてクリシュナやアントリオンに搭乗し、万が一の事態に備えていた。特に、ハイパーレーンを脱した直後は無防備になりがちで、奇襲を受ける危険性が高いからな。
そんなわけで、ハイパーレーンから出るなりミミとエルマはブラックロータスのセンサーから得た周辺宙域や星系情報を確認し、前述の会話が展開されたわけだ。
「我が君、危険は無さそうです」
周辺に存在する艦船のチェックが終わったのか、クギがそう報告してきた。俺もちゃんとその辺りはチェックしていたので、クギの言葉に頷く。
「そうだな、デクサー星系の星系軍――ダレインワルド伯爵家の戦闘艦の反応も近くにあるし、ちゃんと治安維持が行われているってことだ。前に依頼で来た時もしっかりと治安維持が行われていて、傭兵の仕事が少なそうって感じだったんだよ」
実際のところ、銀河地図上におけるデクサー星系の治安評価は実にクリーンなものだ。これ以上上となると、帝都とか、帝国航宙軍の大規模な造船所があるウィンダス星系とかになってくるな。
『そうなるとうちら的には美味しくないなあ』
『でも、治安が良いなら拠点にするには良いんじゃないかな? ゲートウェイもそこそこ近いし』
『デクサー星系は歴史のある星系だろう? もし惑星上に土地を確保して家を建てるだとか、物件を購入するだとかって話になると高いんじゃないかい? それなら、クリスくんの治めているコーマット星系の方が開拓初期ということもあって安く上がりそうだし、傭兵としての仕事もありそうだしで丁度良いんじゃないかねぇ? コーマット星系のほうがハイパーレーン一本分ゲートウェイにも近いだろう?』
通信越しにうちの技術者集団も話に加わってくる。ショーコ先生の意見は一考に値するな。土地家屋の購入費が安くなれば、その分セキュリティ対策に回すことも出来る。コーマット星系の治安はデクサー星系に比べると一段か二段は落ちるが、完全に助けが来ずに居住惑星が丸ごと蹂躙されるといったような心配は流石にない。ならば降下してきた宙賊を十分に足止めできるだけのセキュリティ対策をしてしまえば、危険はグッと減ることになる。
『私としてもヒロ様にはコーマット星系に居を構えて頂きたいですね。将来的にはコーマット星系に立てた屋敷を別荘としても良いわけですし』
護衛対象のクリスまでもが会話に参加してくるのは若干どうかと思うが、恐らくはメイが問題ないと判断して回線を繋いだのだろう。メイがそう判断したなら俺がとやかく言うつもりはない。メイのことは全面的に信用しているからな。
「何にせよ今すぐ決めるものでもない。実際の金額やその他の条件も詳細を確認しないことにはわからないしな。ただ、俺もコーマット星系に拠点を作るのが良いんじゃないかとは思ってるよ」
クリスが治めている星系の方が色々と融通が利きそうというのもあるしな。え? コネを使って楽するなんて恥ずかしくないのかって? コネも立派な力の一つだ。恥ずかしくもなんともないね! 第一、将来的に子供を育てようっていう家の話なのだ。ガチなのだ。本気なのだ。そんな小さなことに拘って最善手を打たないなんてのは自己満足以外の何物でもない。子供と皆の命がかかっているかもしれないのだから、俺も本気である。
『キャプテン、こういう時はまずどう行動するんだい?』
ネーヴェが仕事の進め方について質問してくる。彼女なりに傭兵としての仕事を覚えようとしているのだろうな。実際のところ、彼女は航宙戦における戦闘補佐についてはミミよりも経験豊富なので、こういった傭兵としての基本的な動きについて学びさえすれば下手をすると独り立ちすらできる可能性があるほどなんだよな。
「まずは主要なコロニーに向かう。護衛対象の目的地が惑星上の居住地だったりした場合でも、大概の場合においてまずは主要なコロニーで降下申請を行う必要がある場合が殆どだからな。場合によっては主要なコロニーと惑星上居住地との間で定期便が運行されていることもあるから、護衛対象を主要なコロニーに送り届けるだけで良いこともある。その辺りは護衛対象に要確認といったところだな」
『今回はちゃんとお屋敷まで送ってくださいね』
「だそうだ」
『了解だよ、キャプテン』
というわけで、俺達はデクサー星系の主要な交易コロニーであるデクサープライムコロニーへと向かうことになるのであった。
☆★☆
デクサープライムコロニーの防衛圏に到達したので、警戒態勢を解除した俺達はブラックロータスの休憩スペースへと移動した。で、その休憩スペースで大混雑している船外の様子を眺めているわけだが。
「なかなかの盛況ぶりだな。コーマット星系の開発特需がここにまで波及してるのかね?」
「はい。ヒトもモノもコーマット星系に向けて沢山動いているので。コーマット星系にも交易コロニーはありますけど、あちらも既にキャパシティオーバーを起こしていますからね。一応、コロニーの拡張計画も進めてはいるんですが、一朝一夕ではなかなか」
「あー、あんまり無茶やるとブラドプライムコロニーみたいになってまうからなぁ……」
クリスの説明にティーナが遠い目をする。ブラドプライムコロニーなぁ。あのコロニー、改築に改築を重ねた結果、入り組み過ぎたり使いにくい空間ができてしまったりして、結果的に犯罪者とかマフィアめいた連中の溜まり場みたいな区画ができてしまっていたりしたからな。無計画な拡張はそういった問題を起こしかねないと。それは確かに一朝一夕ではどうにもならんだろうな。
「それで、ダレインワルド伯爵には連絡を取れたのか?」
「はい。デクサーⅢのダレインワルド本家で私達を待っているとのことです。既に降下申請も出してあるので、申請が通り次第向かって頂ければと」
「となると、デクサープライムコロニーには寄港しないで、手続きが完了次第直接向こうに向かうことになるか。ブラックロータスが降りられる港湾施設はあるのか?」
「本家の近くに」
「オーケー、なら降りる準備をしておこう。エルマ、アントリオンを」
「はいはい。やっぱ中型艦も収容できる船が欲しいわねぇ」
ボヤきながらエルマがアントリオンの面倒を見るべく休憩スペースを出ていく。中型艦のアントリオンはブラックロータスに収容することができないので、ブラックロータスの船底にあるドッキングポートを使ってブラックロータスにくっついている。当然、そのままだと地上に降下して着陸することはできないので、着陸時には分離して別々に着陸する必要があるわけだ。コロニーの宇宙港に停泊するだけならそうする必要も無い場合が殆どなんだけどな。
「難しいところなんだよなぁ。スペース・ドウェルグ社との専属契約の件もあるし」
失念しかけていたのだが、ブラックロータスを購入する際に結んだ専属契約の内容に可能な限りブラックロータスを母船として使い続けること、というものが盛り込まれていたんだよな。ブラックロータスは購入してまだ半年も経っていない船だ。まぁ、傭兵によっては一週間で今使っている船から別の船に乗り換えることもあるので、別に半年近くという時間が極端に短いというわけでも無いと思うのだが。
「乗り換えじゃなくて拡張とか改造を検討した方が良いかもな」
「そうすると、スペース・ドウェルグ社の造船所がある星系に行かなきゃですね。ブラド星系に戻ります?」
「ブラド星系か、それともスペース・ドウェルグ社の本社がある星系にまで足を伸ばすか……何にせよ、ここでの用事とヴェルザルス神聖帝国での用事を済ませた後だな」
「不便やけど、致命的な問題ってわけでもないもんなぁ」
母船の乗り換え、改造計画について整備士姉妹と話している間にデクサープライムコロニーの港湾管理局からデクサーⅢへの降下の許可が降りた。
「よし。メイ、あちらの誘導に従って降下してくれ」
『はい、ご主人様。お任せください』
デクサーⅢへの降下はメイに任せておけば万事問題なし。さて、地上では一体どんなトラブルが待ち構えていることやら。




