#486 「昨晩はお楽しみでしたね」
3/26修正 _(:3」∠)_
ライズオブローニン楽しいですね。
ペリーがサーベルぶん回してピストル乱射したり、福沢諭吉が居合で斬撃飛ばしたりして( ˘ω˘ )
「昨晩はお楽しみでしたね」
「うっ……」
セレナと一緒にブラックロータスに帰還し、休憩スペースに移動するなり満面の笑みを浮かべたミミに出迎えられた。ちなみに、呻き声を上げたのは俺ではなくセレナである。ミミの笑顔に気圧されるような何かを感じたらしい。
「でも今日は私の番ですから。ね?」
「うぅ……はい」
有無を言わせぬミミの圧力にセレナが負けた。ミミ強いな……もしかしたらミミの身体に流れる帝国王室の血がセレナを屈服させたのだろうか。実際、ミミの出自に関する真実もミミと瓜二つのルシアーダ皇女殿下の顔も知っているセレナにしてみれば、ミミは相当にやりづらい相手だろうな。
そしてミミの威圧によって俺の側から排除されてしまったセレナはしょんぼりと肩を落として休憩スペースへとトボトボと歩いていった。その後ろをティーナとウィスカがついて行っている、物怖じせず、明るいティーナと思慮深く、優しいウィスカに任せておけばセレナのフォローに関しては問題ないだろう。
「むー……」
セレナの後ろ姿を見送り終わったミミが俺に抱きついてきた。そして胸元で頭をグリグリとやり始める。なんか新しい服を着たら自分の匂いをつけようとしてくる犬か猫みたいな挙動だな。
「むむむ……あっ」
「ん?」
俺の顔を見上げたミミの視線が俺の顎の下、というか首の辺りに固定される。なんだ?
「ぢゅー……ッ!」
「痛い痛い!」
ミミが急に背伸びして俺の首筋に吸い付いてきた。さてはセレナのつけた跡を見つけたな!?
だからって対抗して痛いほど痕をつけるのはどうかと思うのだが。ミミが首元にキスしてくれるのは嬉しいけどさぁ。
「あら、面白いことしてるわね。私もやろうかしら?」
「此の身も良いですか?」
「良いですよ。ちゅーっとやっちゃってください」
「ミミが許可するのか……?」
わちゃわちゃと集まってきたエルマとクギにも首を吸われる。ミミほど強くなく、適度な強さで吸ってくれたので痛くなかったが、吸うだけでなくペロペロと舐められたので妙な気分になってしまった。二人ともどうしてそういうことするんですか?
「ま、この程度の焼き餅を妬くくらいは良いわよね? ナイフとかレーザーガンとか持ち出してるわけじゃないし」
「はい。何の文句もございません」
三人に囲まれた状態で反抗しても勝てるわけがないので、素直に従う。全面降伏である。
「良いですね……完全に二人きりで逢瀬……ちょっとだけ羨ましいです」
背後からクギのしっとりとした声が聞こえてくる。ジャケットの端を掴んでくいくいと引っ張ってきているのがなんともいじらしい。
「どこかでそういう機会を作ろう。約束する」
「ふーん……その約束が果たされるのがいつになることやらね。ここから先、結構予定が詰まってるわよ?」
「ヴェルザルス神聖帝国には暫く滞在することになるだろうし、あっちでどうかな。クギ、どう思う?」
「はい、此の身どもの国には風光明媚な名所が沢山ありますし、そういった場所には旅籠も多く、宿場町――観光の名所となっている場所も多いですから、良い考えかと思います」
背後から俺に服を引っ張るリズムが早くなっている。微かにフサフサフサフサと風を切るような音も聞こえるが、これはクギの尻尾が高速で振られている音だろうか。
「それじゃあそういうことで……いいよな?」
俺の提案にミミ達が揃って了解の意を返してくる。これでとりあえず家内安全は成ったようだ。そもそも論、俺如きの器でこんな何人も女性を囲うってのが土台無理な話なんだが……これまでも色々と我慢も苦労もさせてきてしまっているんだろうな。皆に報いることができるよう、これまで以上に俺なりに気を遣っていこう。
☆★☆
「また……また今度。絶対、ぜったいにかえってきてくださいね」
「はいはい……絶対に戻ってくるから、それまでちゃんとお仕事してるんだぞ」
俺に抱きついて泣きそうな声で可愛いことを言うセレナをぎゅっと抱きしめる。今までにも一ヶ月や二ヶ月くらい顔を合わせないことなんてあっただろうに……とは思うが、やはり俺も寂しいようだ。こうして抱きついてくるセレナを見ていると、このまま拐ってしまいたくなってくる。
そんな俺とセレナの間に強引に押し入って引き剥がす小さな影が一つ。
「はいはいはーい、離れてください。嫁入り前の淑女がそんなにベタベタして良くないと思います」
「そ、それは貴女も一緒じゃないですか……!」
「私は婚約者ですから」
「わ゛た゛し゛も゛こ゛ん゛や゛く゛し゛ゃ゛た゛も゛ん゛!」
クリスに引き剥がされたセレナが半泣きになりながら俺に両手を伸ばしてくる。ちょっと可哀想だけど可愛い。どうしてセレナは半泣きになるとこんなに可愛いのか。これがわからない。
「自分ばっかりずるいんですよ! しばらくお別れだからってやり過ぎです!」
「あ゛あ゛あ゛ーッ!」
正真正銘の貴族のお嬢様二人が取っ組み合いを始めた。体格差と単純な修練の差のせいか、浜辺で棒でぶん殴られているアザラシみたいな声を出してるのにセレナの方が圧倒的に優勢である。流石は腐っても軍人だ。
「助けなくて良いのか?」
「アレに巻き込まれるのはちょっと……」
俺の指摘にクリスの護衛であるエデルトルートが勘弁してくれという顔でそう言う。まぁ、バチバチに身体強化した貴族同士の取っ組み合いに交ざるのは抵抗あるよな。取っ組み合いというか、あれはじゃれてるだけだろうが。
暫くして満足したのか、取っ組み合いが終わったので今度こそ出発のためにセレナを見送る。
「あの、車までついてきてくれませんか……? 最後まで一緒にいたくて……」
「駄目ですよ、ヒロ様。拐われますよ。とっとと行ってください。シッシ」
取っ組み合いで負けて若干衣服が乱れているクリスがセレナから俺を守るように俺の前に立ち、野良犬か何かを追い払うようにシッシと手を振る。そこまでやらんでも良いと思うんだが、セレナが露骨に「余計なことを」みたいな顔をしたのを俺は見逃さなかった。本当にやる気だったのか。いざとなったら手段を選ばんな、セレナは。
「うぅ……じゃあまた……」
そう言ってセレナはトボトボとタラップへと向かって歩いていった。チラチラとこっちを何度も振り返ってくるのが可愛い。その度にクリスが「シャーッ!」って怒った猫みたいな声を出して威嚇しているのも可愛い。クリスに猫みたいな尻尾があったらボンッて膨らんでそうだ。
「まったく……さて、ヒロ様。これからしばらくお世話になりますね」
「ああ、うん。ようこそ。なんだかこうやって同じ船に乗って旅をするのも久しぶりだな。なんだか楽しみだよ」
「私もです。あ、私はエデルトルートと一緒に荷解きをしてきますので。また後で構ってくださいね!」
セレナがタラップから船外に出ていくのを確認したクリスはそう言って笑顔を見せ、エデルトルートを伴って居住区画の方へと歩き去っていった。ちなみに、ミミ達はクリスとエデルトルートが滞在する部屋を用意するために既にタラップからは離れている。俺一人がこの場に取り残された形だ。
「……なんか朝から疲れたな。そうも言ってられないけども」
仕事の大半は皆に受け持ってもらっているから、俺自身がやることは多くない。だが、だからといって皆に働かせて俺は休憩室でダラダラしているというわけにもいかない。
「全員の作業の最終確認をしておくか……」
帝都からの出港に関する手続きや物資の手配などは終わっている。その報告も上がってきているので、休憩スペースでそいつを確認することにしよう。なんだかんだで休憩スペースが居住区画からもハンガーやカーゴスペースからも近いから、そこで仕事をするのが一番効率が良いんだよな。




