#483 『興味津々に決まってるだろう』
ユニコーンオーバーロードはじめました( ˘ω˘ )
あれからもう少しだけミミとイチャイチャしてからミミと一緒に休憩スペースへと移動した。シャワーが必要になるようなことはしていないぞ。実際健全。いいね?
『おお、おかえり。しっぽりやってきたのかね?』
休憩スペースに入るなりネーヴェが笑いを含んだ声で声をかけてきた。彼女は移動型ポッドの中からとはいえ自分の意志である程度自由に動けるのが楽しいらしく、艦内をよく徘徊――散歩している。今は休憩スペースに腰を落ち着けていたらしい。
「しっぽりしてません。というかどこからそんな言葉を……いくらでも供給源があったのか」
『そういうことだよ。兵士連中なんてのは皆お下品だからね』
ネーヴェの入っている移動型ポッドを指先でコンコンと叩きながら注意すると、ネーヴェはポッドの中で皮肉げな笑みを浮かべながら肩を竦めてみせた。
『というか、私の見た目に引っ張られ過ぎだよ、キャプテン。こんなナリだけど私は二十四歳の成人女性だからね?』
「……頑張って認識を改める」
理屈では理解してるんだが、このネーヴェの姿を見るとな……多分身長はティーナ達と然程変わらないと思うが、身体の厚みというか肉付きがな。本当に細い。細くて薄い。
『そんなにジロジロ見られると流石の私も恥ずかしいな……その、もう少しだけ待ってくれるかな? 先生になんとかお願いして行為に耐えられるように急いでもらうよ』
「そういう目で見てたわけじゃないから。まぁ、急がなくても良いからショーコ先生の指示にはよく従うようにな。ショーコ先生に任せておけば安心だ。なんせスペシャリストだからな」
『アイアイサー、キャプテン。それで、結局しっぽりしてきたんだろう?』
「してきてねぇって言ってんだろ。興味津々かよこのエロガキがよぉ」
混ぜっ返してきたネーヴェの入っている移動式ポッドのガラス面をコンコンと叩いてやったのだが、返ってきたのは至極真面目な声音と表情であった。
『興味津々に決まってるだろう。今まで自由に身体を動かすことも出来ず、見るだけだった上にそのまま死ぬと思ってたんだぞ。それが健康な身体を手に入れられるとなったら、そりゃもう興味津々さ。そうだろう? 見た目はともかく、私は二十四の健康になりつつある女なんだぞ』
「それはー……そうね。うん」
『それに最近は味のある流動食も食べられるようになってきたんだ。甘いっていうのは凄いものだよ、キャプテン。胃がパンパンになっても詰め込みたくなるんだ』
なんだろう、ネーヴェの話を聞いているといたたまれない気持ちになってくる。甘い流動食って多分だけど、フードカートリッジに最低限の処理と単純な味付けをした栄養補給ペーストじみた物体だぞ。栄養は十分だがお世辞にも美味しくはないはずのものだ。
「もっと身体が良い感じに治って普通の食事もとれるようになったら色々美味いもん食おうな。な? ミミ」
「はい! ネーヴェちゃんが気に入りそうな美味しいものを沢山用意しますね!」
今まで黙って俺とネーヴェのやり取りを見ていたミミが拳を握りしめて鼻息を粗くする。ミミが張り切ると「顔面にくっついて寄生してきそうなクリーチャー(まろやかクリーミー味)」とか用意してきそうでちょっとアレなんだよなぁ……その時は俺が助けに入れば良いか。ミミが用意するゲテモノ珍味にも結構慣れてきたし。意外と味は良かったりもするしな……たまに大外れがあるが。
☆★☆
再び散歩に出かけたネーヴェを見送り、休憩スペースに腰を落ち着けてクリスとコンタクトを取る。休憩スペースの大型ホロディスプレイに小型情報端末をリンクし、情報端末を介してクリスの個人アドレスに通信要請を送った。
『お待ちしてました、ヒロ様!』
いきなりのドアップである。大型ホロディスプレイにリンクしていたので圧が凄い。視界いっぱいにクリスの端正な顔というか花が咲くような笑顔が広がっている。
「お、おう。なんか待たせてすまんな。ちょっと気力を使い果たしてダウンしてたんだ」
『ホールズ侯爵家の方々とお会いになってこられたんですよね? それなら仕方がないと思います』
ドアップで表示されていたクリスの顔がススっと後ろに下がっていく。ミミが密かに上手く調節したらしい。ホロディスプレイは投影位置もかなり自由に動かせるからな。
「早速本題に入りたいんだが、デクサー星系まで一緒に行こうって話だな」
『はい! 折角なので是非ご一緒させていただきたいと思って。私達の船はグラキウスセカンダスコロニーに停泊させたままなんですけど、小型艦なのでブラックロータスで一緒に運んでもらえませんか?』
「小型艦用のハンガーは一個空いてるから、乗せていくのは問題ないな。ただ、無料というわけにはいかないし傭兵ギルドも通さないと――」
『その点はご心配なく! 私がバッチリ何の問題もなく手配しますから!』
またもや圧力すら感じる満面の笑みである。なんか怪しいな。対面で会っているわけではないからサイオニック能力で思考を感知できるわけではないが、なんか怪しい。何か企んでいる気配がする。
「クリスがそこまで言うなら信頼できるな。クリスのことだから俺が悲しんだり嫌がったりするようなことは絶対にしないもんな。じゃあ完全に任せるよ」
『……も、勿論です。お任せください』
俺から全幅の信頼を寄せられたクリスの顔に冷や汗が見える気がする。やはり何か企んでいたか? まぁ、クリスのことだから何も言わなくても俺が本当に嫌がるようなことはしないと思うが。
「まぁ、そっちで契約関係を上手いことやってくれるなら実務面では問題はないと思う。ブラックロータスには空き部屋もあるしな。同伴者は二人いるんだったか?」
『はい、この前ご紹介させていただいたエデルトルートと、グラキウスセカンダスコロニーの船で待っているグートルーンを合わせて二人ですね』
「グートルーンさんね、その人も女性騎士なのか?」
『はい。私の護衛なので』
それはそうか。未婚の女性貴族の護衛として船で一緒に移動するとなると、男性騎士を乗せるわけにもいかないよな。
「それじゃあ乗員三名の護衛と小型艦一隻の輸送って内容だな。ミミ、クリスとメイと三人で協力して手続きを進めてくれ。他に帝都でやるべきことが無いかチェックして、大丈夫そうなら明日にでも帝都を発つぞ」
あまりゆっくりしていたらまたぞろあのファッキンエンペラーか皇女殿下辺りが何か仕掛けてくるかもしれん。ヴェルザルス神聖帝国に行くんだろ? ついでに親交使節としてルシアーダ皇女連れてってくれよ! ガハハ! とかな。考えただけで血反吐を吐きそうなほど厄介事の香りしかしないから絶対にそんな事態に陥るわけにはいかん。
「俺はティーナ達に発艦準備が整っているか確認する。クリスは傭兵ギルドとのやり取りもそうだが、宿を引き払う準備も進めてくれよ。ああ、セレナにも一応連絡するか」
何の連絡もなしに帝都を発ったら後でいじけられそうだ。




