#477 「しっぽりはしてねぇよ……」
大変おまたせしました。更新再開です。
本当はもう少し早く再開するつもりだったんですが、遂にコロナの魔の手にかかりまして……幸い、症状は大変に軽かったんですが。
リハビリってことでちょっと短いけどユルシテネ!_(:3」∠)_
「他にもお主らと顔を合わせて話してみたいという帝室関係者は多いのでな。今度帝都に来た時にはもう少しゆっくりとしていくが良いぞ」
「ハハッ、アリガタキシアワセ」
絶っ対ぇー嫌だ! もう来ねーよバーカ! 俺の胃に穴が空くわ!
ニヤニヤとした笑みを絶やさないファッキンエンペラーに純度100%の作り笑いを返しながら心の中で叫ぶ。
「泊まっていったら良いのに……部屋も用意させますよ。ね? 母上」
「私もそうして欲しいとは思っていますが、ミミさんやキャプテンにも都合があるでしょうから。無理強いはできませんよ、ルシアーダ」
「ミミくん、辛いことがあったらいつでも言ってきなさい。ご両親には及ばないかもしれないが、力の限り手助けをするからね」
ミミはミミで皇太子夫妻とルシアーダ皇女殿下に引き留められたりマジトーンの保護宣言をされたりと大変そうであった。笑顔を浮かべてはいるけど、あれは相当困ってるな。俺にはわかる。
というか、マジでヴァルター皇太子殿下には参った。実の娘と瓜二つのミミと懇ろな関係になっている俺に対して露骨に胡乱な視線を向けてくるんだよ、あの人。そりゃ良い気分にはならないだろうが、露骨に「こいつぶっ殺そうかな」みたいな視線を向けてくるのはやめて頂きたい。マジで洒落にならんので。次期皇帝陛下に睨まれるとか寿命が縮むわ。
そろそろ陽も落ちるというか落ちた頃、ようやっとロイヤルな人々から解放された俺とミミは近衛女騎士のイゾルデをはじめとするロイヤルガードの皆々様に案内されて帝城を出ることができた。帰りの足までしっかりと用意してくださって実に至れり尽くせりだったが、帰りの車内でもミミとの間に殆ど会話が発生しない程度には疲労困憊であった。もっとも、会話が発生しないだけでミミとは身を寄せ合っていたので、寂しいことは全く無かったが。お互いに静かな癒やしを求めていたのだ、俺達は。
「お疲れ様――って二人とも目が死んでるわよ」
「数時間にもわたって巨大な宇宙帝国の最高権力者ファミリーと過ごせば誰だってこうなる」
「お、お疲れ様です、我が君」
俺とミミを出迎えてくれたエルマとクギが揃って顔を引きつらせている。どうやら俺とミミの顔色は相当悪いらしい。帰りの車内で互いに身を寄せ合って気力的な何かを充電しあっていたのだが、全く足りてないな、これは。
「とりあえず着替えてくる。何にせよとっとと帝都からは発ちたいから、可能な限り出港準備を進める方向で」
「アイアイサー、メイも良いわね?」
『承知致しました。出港準備を進めます』
エルマが天井に向けて話しかけると、どこからかメイの声が響いてきた。タラップ近くにはセンサーやスピーカーの類が結構な数設置されているので、その辺のものを使ってメイは俺達の会話を把握していたのだろう。
何にせよ礼服のままでは寛ぐことも出来ないので、さっさと部屋に戻っていつもの格好に着替える。気分的にはシャワーも浴びたいところだが……浴びちまうか。出港準備はエルマとメイに任せておけば万事問題ないだろうし。
「あ、ヒロ様……」
「ミミも考えることは同じか」
「みたいですね」
シャワー室前でばったりと会ったミミを互いに力なく笑い合う。折角だからシャワーではなくしっかりと風呂に入るとしよう。二人でゆっくり風呂に浸かれば元気も出てくるだろうしな。
☆★☆
「よし、ちょっと復活」
「復活ですっ」
ミミと二人でゆっくりと風呂に入ったら元気が出た。やはり風呂とスキンシップは最高だな。生きる活力が湧いてくる。
『じっくりしっぽりってわけかい? 羨ましいねぇ』
「しっぽりはしてねぇよ……」
ネーヴェの茶々入れに苦笑を返す。お互いにそこまでの元気はなかったんだよ、本当に。特にミミはずっと皇太子夫妻とルシアーダ皇女殿下の三人を相手にしていたからな。元々小市民的というか、割と模範的な帝国臣民マインドを持っているミミとしては心労甚だしい一時であったようだ。
「お疲れ様やね、ほんと。で、お疲れのところ悪いんやけど、結局どう動くん?」
「とりあえずはヴェルザルス神聖帝国行きを主目標とする。ただ、ダレインワルド伯爵家とホールズ侯爵家を蔑ろにするわけにもいかないから、まずは両家とコンタクトを取ってからだな。何も言わずに帝国を出たらどう考えてもまずい」
皇帝陛下の言った通りに受け取られる恐れがあるからな。婚約を前にして他国に逐電した、などと思われたら色々とまずい。確実に両家の面子を潰すことになる。貴族なんてのは面子商売みたいなところもあるから、そんなことをしたらどうなるのか想像するだけでも恐ろしいわ。
「それじゃあ明日はお出かけですか」
「そうだな。ただ、俺一人で行くのもあまり具合が良くないよな?」
「どうかしら……正直、貴族の婚礼という意味で捉えるとかなり特殊なパターンだから、私じゃ判断が難しいわね」
「婿入りする当人が既に複数の女性と事実婚関係だものねぇ……というか、ダレインワルド伯爵家とホールズ侯爵家だけでなく、エルマくんのウィルローズ子爵家にも話を通さないといけないんじゃないかな?」
「そっちは私が話しておくから大丈夫よ。何にせよデクサー星系のダレインワルド本家には一度足を伸ばして、ダレインワルド伯爵本人と顔を合わせる必要はあるでしょうね。勿論、クリスも一緒にね」
「それじゃあ、とりあえず帝都で済ませなきゃならない用事はホールズ侯爵家への挨拶と説明だけだねぇ。ヒロくんが一人で行くのは論外として、同行するならまずエルマくんが当確ってところかな?」
『プラス従者ってことでメイさんがついていけば良いんじゃない?』
我が傭兵団のインテリ勢が今後の動きについて話し合ってくれている。こういう時に考えるのを任せられる人材が多いのは本当に助かるよな。俺も色々と考え込む方ではあるが、あんまり頭が良いわけではないし。
話し合いの結果、とりあえず明日はクリスと連絡を取ってデクサー星系のダレインワルド本家行きについて相談し、同時にセレナ経由でホールズ侯爵家とのアポイントメントを取るということに決まった。ウィルローズ子爵家への連絡は今晩のうちにエルマがしておいてくれるそうだ。
「エルマには苦労をかけるな……本当にありがとう」
「別にこれくらいなんでもないわよ。それよりあんたは明日までにはちゃんとシャキッとしときなさいよ? そんなしょぼしょぼヘロヘロの状態でホールズ侯爵と会ったら足元見られるわよ」
「うっす」
結構復活したつもりだったんだが、エルマから見ると俺はまだ弱ってるらしい。確かにあの胡散臭さMAXの侯爵閣下に足元を見られるのは危険過ぎるな……忠告通り、今日のところはしっかりと英気を養うとしよう。




