#476 「ハハハ、ナンニコトダカワカリマセンネー」
今年は更新終わり!
あと、書籍の作業でしばらくお休みします! ゆるしてね!_(:3」∠)_(できるだけ早く復帰するよ
「適度に飲み食いしたら撤退するつもりだったのに……」
「あはは……皇帝陛下直々のお招きですから」
程よいところでさぁ帰るか! とクルー達を集めて立食会場を立ち去ろうとしたところ、待ち構えていた近衛騎士――俺と剣術稽古をした『くっ殺』女近衛騎士のイゾルデだ――の手によって帝城の奥の間に連れてこられてしまった。奥の間というのはつまり、帝室の皆様達が暮らすプライベートスペースである。
「しかも俺とミミだけとか……」
「多分気を遣って下さったんですよ!」
「その気遣いを俺とミミにも発揮して欲しかった」
などと歩きながら愚痴っていたらイゾルデに睨まれた。そりゃ不敬かもしれんが、皇帝陛下に振り回される哀れな一般市民の愚痴くらい聞き流してくれよ。
「今日は皇帝陛下だけではなくヴァルター皇太子殿下とルイーゼ皇太子妃殿下、ルシアーダ皇女殿下も臨席なされる」
「気でも狂ったのか? 何の冗談だ?」
「不敬だぞ。陛下の……お考えは我々凡俗には理解が及ばぬものだ。それと、我々近衛がこんな冗談を言うと思われているのなら心外なこと極まりない」
「そりゃそうだろうがよぉ……」
「こ、皇太子殿下と皇太子妃殿下まで……?」
イゾルデの衝撃的な発言に思わず不敬罪まっしぐらの発言をしてしまったが、それも仕方がないと思うんだ。だって皇帝陛下御本人に継嗣である皇太子殿下、その奥方である皇太子妃殿下、その娘の皇女殿下まで雁首揃えて俺とミミに会うって言うんだぞ? グラッカン帝国の文字通りの中枢人物達だ。いや、正確に言えば確かルシアーダ皇女殿下には兄がいる筈だから、もし万が一この場で四人が身罷ったとしてもなんとかなるようにはなっているのだろうが。
というかほら見ろ。皇太子殿下と皇太子妃殿下まで待ち構えていると知ってミミが動揺しているじゃないか。
「覚悟を決める他無いな……ああ、一応念入りにボディチェックとかしとく?」
「両手両足を拘束されて武器を突きつけられているような状況からでも伯爵家の子息を斬り殺す貴殿を『安全』にするには、首から上を切り離すくらいしか方法が無いのでは?」
「恐ろしいことを言う女だなお前は……」
というか、それでか。先導しているのがイゾルデ一人で、他の近衛兵達がいつでも俺に斬りかかれるように真横から後ろにかけて包囲するように俺を取り囲んでいるのは。
「こんなに警戒せんでも暴れるつもりは無いっつうのに」
「帝室の御方々を守るためにあらゆる手を尽くすのが我々の責務なのでな」
「左様か……」
これはどうしようもないな。大人しく連れて行かれるとしよう。
☆★☆
「久しいな、キャプテン・ヒロ。お主の活躍は余の耳にも届いておるぞ」
「お久しゅう御座います、皇帝陛下。醜聞などが届いてお耳を汚していなければ良いのですが」
溢れんばかりのカリスマオーラを発しているファッキン皇帝陛下に対し、俺は努めて笑顔を浮かべながら恭しく応じる。
「んん? 良いのだぞ? いつも通り余のことをファッキンエンペラーと呼んでも」
「ハハハ、ナンニコトダカワカリマセンネー」
たちの悪いストーカーか何かかお前は。口に出して言ったことなんて数えるほどしか無い筈だぞ。
「本当に瓜二つなのだな……」
「ええ、本当に……ミミさんでしたね?」
「は、はひ……」
「ミミさん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
ミミはミミで皇太子殿下夫妻とルシアーダ皇女殿下に囲まれてガチガチになっているな。ルシアーダ皇女殿下には多少慣れているかもしれないが、皇太子殿下と皇太子妃殿下とは初対面だから仕方ないと思うけど。
「それで皇帝陛下、私めのようなチンケな傭兵なんぞを呼び出して何の御用で?」
ここには帝室の皆様方以外には近衛兵しかいない。とはいえあまり無礼な言葉遣いをすると本気で近衛兵に斬り殺されそうなので、そこそこに気を遣って話すことにしておく。
「なに、一度顔を見ておこうと思っただけよ。それに、ヴァルターとルイーゼにもミミの顔を見せてやろうかとな」
「なるほど。ああ、そう言えばお転婆の妹君に会いましたよ」
「……なに?」
「最辺境領域に行った後、アレイン星系に立ち寄った時に。ミミを騙して無理矢理船に連れ込んだ挙げ句好き放題していると思われて、危うく殺し合いになるところでしたね」
「……はぁ。アレのことだ。もうとっくに雲隠れしているだろうな」
皇帝陛下が眉間を揉み解しながら大きなため息を吐く。すげぇなあの婆さん。天下の皇帝陛下に嘆息させるとか、そうそうできることじゃないぞ。
「そういえば、リーメイではよくやってくれたな。褒めて遣わす」
「お褒めに預かり恐悦至極。とは言っても、リーメイ星系に向かったのも実は妹君の助言が切っ掛けだったんですがね。アレイン星系で仕入れた高度な技術製品や医療物資を卸すのに良いところがあるよ、って感じで」
「アレは昔から目端が利くのだ……まぁ、何にせよ礼を言っておこう。多くの犠牲を出してしまったのは余の不徳のなすところであったな」
「治めていた能無し貴族のせいじゃないですかね?」
「その能無しがコロニーを治めていたというのが元を辿っていけば余の責任なのでな。マグネリめは少々脇が甘い。今後に関しては現場を見て育った倅に期待するしかない」
「ハルトムートですか。あれは気持ちの良い男でしたよ」
帝国貴族だがアイリアへの対応を考えると平民に対する隔意もあまり無いようだしな。領民に対する慈しみの心も持っているようだし、あれは良い領主になるだろう。優しすぎて父親同様脇が甘いということにならないかだけが心配だが。
「貴族嫌いのお主の目から見てか。それは期待ができるかもしれぬな」
「別に嫌いじゃないですけどね、貴族は」
「嘘を言うな。それならとっくの昔にホールズの令嬢かダレインワルドの令嬢に手を出していただろう。ドワーフを二人も囲っているお主なら多少青い果実でも口にするのだろうしな」
「生々しいのはやめましょうよ、陛下。多感な年頃のお孫さんもいるわけですし」
いつの間にか打ち解けて和気藹々と交流している皇太子家族とミミを横目に見ながら皇帝陛下に進言する。あっちは楽しそうだなぁ。こっちは油断ならない爺さんと腹の探り合いになってるのに。
「ミミに手を出しておいて今更ではないか? ああ、あのように朗らかな笑顔を浮かべている娘がお主の毒牙にかかっているのかと思うと、なんだか憤懣遣る方無いな」
「洒落にならないからやめてくれ皇帝陛下。近衛騎士に切り刻まれるのは御免だ」
「大人しく切り刻まれるお主ではあるまい?」
そう言って皇帝陛下が意味ありげな視線を向けてくる。このおっさん、俺のサイオニック能力に関しても何か掴んでるな? まぁ当たり前か。最辺境領域での仕事を終えてからはあまり隠してもいないしな。
「それはその時にならないとわかりませんね。ところで陛下、近いうちにヴェルザルス神聖帝国に行きたいんですが」
「なんだ? ホールズの娘やダレインワルドの娘と本格的な関係になる前に逐電するのか?」
「ちがいます。うちに巫女がいるでしょう? あの子に里帰りをさせてやりたいのと、御存知の通り俺のサイオニック能力関連や出自の関連で何か情報がありはしないかと思いましてね。短期間で帰ってくるつもりです」
「ふむ……邪魔立てをするつもりはないとだけ言っておこう。お主のような手合いを敵に回すと大体ろくなことにならぬのでな」
皇帝陛下の判断は正しいと思う。下手すりゃ恒星系を一つ、ないし複数吹き飛ばす可能性があるわけだからな。そうでなくとも俺の運命操作能力がどう作用するかわかったもんじゃない。
「それはどうも。帰ってきたら今まで通り帝国の隅っこで暴れている宙賊共を始末して回りますんで」
「期待しておこう」
そう言って皇帝陛下はニヤリと笑みを浮かべた。嫌だなぁ、また何か企んでそうだ。




