#475 「結局暴力が一番か。何事も暴力だな」
クリスマス? 知らないイベントですね( ˘ω˘ )
勲章の授与式は滞りなく終了した。今回は授与式に帝室の方々が出張ってくるようなこともなく、粛々と進行されたな。え? 俺がもらった勲章? 二つ目の銀剣翼突撃勲章だったよ。戦果が戦果だったからなぁ……旗艦を含む戦艦級が四隻、巡洋艦級が七隻、駆逐艦が十二隻、コルベット三隻、艦載機十八機というのは戦場に出ていた小型艦の中では頭一つどころではなく、頭三つくらい飛び抜けた戦果だった。
ちなみに、エルマもアントリオン単艦で敵コルベットと艦載機を合わせて三十ほど撃破していたので、銅剣翼突撃勲章を授与されていた。済まし顔だったが、いつもより耳の角度が上がっていたからあれは嬉しかったんだと思う。
「それにしてもサクッと終わったよな」
「今回は醜聞もありますからね」
発泡する黄金色の飲み物が入った小さめのグラスを片手にセレナが肩を竦める。発泡酒があるのに何故コーラが無いのか? これがわからない。
「醜聞?」
「皇帝陛下に領地の管理を任され、地位を安堵されていた貴族が反逆を企てたというのは十分に醜聞ですから」
「なるほど」
そう言われてみればそうかもしれない。セレナの言うように、イクサーマル伯爵家の離反と売国工作は帝室の権威をいたく傷つける醜聞だったのだろう。幸い、その計画は完遂される前に俺達の介入によって頓挫したわけだが。そして、その差配をしたのがあのファッキンエンペラーなのだと思うと、やはりあの男は只者じゃないなと感じさせられる。さすがは数千の星系を支配下に置く皇帝といったところか。
「全ては皇帝陛下の手の平の上かぁ」
「おや、ヒロのような人にも皇帝陛下の威光は及ぶのですね」
「俺の悪運というかトラブル体質を見越した上でセレナと一緒にあの時、あの場所に配置したのだと考えるとな。まぁ、偶然かもしれんが……偶然にしちゃ出来過ぎだ。過程も、結果も。そりゃ少しどころじゃなく感じ入るところはあるさ」
あの差配にも何かしらのバックボーン――帝国の長大な歴史から導き出された経験則や、機械知性のバックアップなど――があるのだろうが、それでも驚異的な差配なのは間違いない。凄いものを凄いと素直に認める心は大事だ。
「それに、こんな粋なパーティーも手配してくれたしな」
そう言って小皿に取り分けたローストビーフのような料理を口に運ぶ。うーん、美味い。見た目は牛肉っぽいのに、味と食感は……これはカツオのタタキでは? いや、うん? まぁ美味いけどなんか予想を裏切られる。
授与式が終わったらそのままパーティータイムとなったのだ。パーティーと言っても立食形式で、さほど格式の高いものではないようだが。この場には貴族よりも軍人が多いしな。勲章の授与に加えて美味いものを飲み食いさせることによって士気を高めようという狙いもあるのだろう。
「それにしても貴方のところのクルーは大人気ですね」
「そうだな。というか、思ったよりも女性軍人が多いんだなって今更ながら思うわ」
「意外と船乗りには向いているんですよ。パワーアーマーを使えば男女の体力差も殆ど無くなりますしね。それでも比率はやはり男性が多めではあるんですけど」
「なるほどな。お陰であまり気を張らなくて済むのは助かるよ」
軍服風の格好をしているミミ達やドレスを着ているショーコ先生やティーナとウィスカ、それに珍しい巫女服を来ているクギ達は女性軍人達に囲まれて楽しそうにお喋りをしていた。特に背が高くてスタイル抜群なショーコ先生が人気で、女性軍人達に囲まれてワタワタとしているのが可愛らしい。凛々しくてスタイルの良い彼女がギャップのある初心な反応をするのが俺と同じく可愛らしく思えるのか、本当に大人気である。
男性軍人の皆様はそんなうちのクルー達や女性軍人達を遠回しにチラチラと見ているだけで、声をかけたりする様子はない。まぁ、あの雰囲気に割り込んで声をかけに行くのは勇気がいるだろうな。
「なんとなく考えていることはわかりますけど、声をかけに行く人がいないのは貴方のお手付きだとわかっているからですからね?」
「んぇ? なんでまた。いや、それならそれで助かりはするが」
「あのですね、ここにいるのはあの反乱騒ぎを収拾した人間ばかりなんですよ? 貴方、生身かつ単身で、しかも無手の状態から自分が何人の敵兵を無惨な姿にしたと思っているんですか? 逆の立場で考えればわかるでしょう。恐ろしくて手なんて出せませんよ」
「えぇ……? いや、確かにそう言われればそうだけど……」
何人倒したかなんて数えてなかったからわからんが、十人や二十人じゃ済まない数だったのは確かだな。もしかしたら五十人を超えていたかもしれん。流石に百人まではいってないと思うが。
薬を盛られて昏倒して、拘束までされた状態から逆襲して敵の装備を奪い、立ちはだかる完全武装の兵士を数十人殺して回った凶悪な傭兵の女に手を出す……うん、俺もそんなこと恐ろしくてできねぇわ。絶対に無理だわ。
「俺の評判が変に独り歩きしないと良いんだけどな……」
「傭兵なんてのは恐れられてなんぼだろうが。相変わらず変わっているな、お前は」
そう言って声をかけてきたのは……誰だこのガタイの良いおっさん。見覚えはあるんだが。ああ、思い出した。傭兵ギルドのグラキウス支部長だ。名前は確か……?
「ヨハンネス支部長」
「そう、ヨハンネス支部長」
「お前な、せめて名前を忘れていたことを取り繕うとかせんか? まぁ、お前は帝都を拠点にしてるわけじゃないから仕方ないかもしれんが」
セレナに小声で教えられてああそうだ、と頷いた俺の胸を拳で軽く小突きながらヨハンネス支部長が苦笑いを浮かべる。
「申し訳ねぇ。あんたが美人のお姉さんなら間違いなく覚えていたと思うんだが」
「やれやれ。お貴族様の娘さんを三人も手籠めにした男は言うことが違うな」
「まだ二人だ。もう一人には手を出してないからな」
「時間の問題と言っているようにしか聞こえんな」
そう言ってヨハンネス支部長がちらりとセレナに視線を向ける。セレナはツンと澄ました表情をしてみせている。そっちの娘には手を出してるんですよ、これが。とりあえず話題を変えようか。
「ところで支部長も来てたんだな。タダ酒目当てか?」
「お前さんは一応ギルドの顔だからな。そのギルドの顔が華々しい戦果を挙げて表彰されるとなれば、ギルド支部長としては出向くのが筋というものだ」
「なるほどなぁ。お勤めご苦労さまですってとこか。で、景気はどうだ? 何か変わったことは?」
「景気は悪くないな。正直なところな、お前のドキュメンタリーの反響がかなり大きい」
「マージでぇ……?」
「本当だ。傭兵と言えば粗暴なチンピラだとか、下手をすれば酒やドラッグに溺れているだとか、小汚い船に女を連れ込んで好き勝手するだとか、そういうイメージを持たれていたわけだ。だが、お前のドキュメンタリーでそのイメージが変わりつつあるようでな。清潔でセレブリティだとか、ストイックで紳士的だとか」
「確かにうちは居住性や福利厚生に関しては気を遣ってるつもりだが、ストイックで紳士的ってのはどういうことだよ。俺はそんなキャラじゃないぞ」
清潔でセレブリティな感じなのはメイがちゃんと船を管理してくれているからだし、ミミをはじめとして女性陣が住環境の整備に口出しをしてくれているからだ。俺ははいはいとそれに従って金を出しているだけだ。ストイックで紳士的という評価はマジで意味がわからない。俺、暇と時間があれば皆とイチャついてるが?
「いや、一般的な傭兵に比べるとかなりストイックで紳士的だと思いますが」
「そうだな……驚くほどストイックだな。紳士的かどうかは知らんが、少なくとも酒にもドラッグにも溺れてないし、連れ込んだ女性に無理やり関係を迫っているわけでもないようだし、コロニーでの問題行動もない。色んな傭兵を見てきた俺からすると信じられないほどの善玉だと思うぞ」
「それは俺が特別なんじゃなくて一般的な傭兵ってやつがダメ過ぎるだけじゃねぇの?」
「だからそのお前が言うダメ過ぎるのが普通なんだと言う話だろう。それでいて宙賊には容赦がないだろう? お前は。傭兵の悪いイメージを払拭するような面を見せつつ、傭兵らしい恐ろしさのイメージもちゃんと保持して、それでいて女に甘いお前のドキュメンタリーは本当に人気が出ているんだ。お前としてはあまり嬉しくないようだが、お陰で今まで傭兵ギルドに寄り付かなかったような人達が傭兵ギルドに仕事を回しに来ることも増えてな。それで景気が良くなってるわけだ。一部傭兵からは軟派だの軟弱だのと反発の声も上がってるんだが……」
「その割には最近あまり絡まれた記憶は無いが」
「お前がそれだけ実績を積み上げているというのもあるし、名誉貴族だってのもある。それに白兵戦もそつなくこなすだろ、お前は」
「結局暴力が一番か。何事も暴力だな」
「なんせ傭兵だからな」
頷き合う俺とヨハンネスにセレナが冷めた視線を送ってきている気がする。だって仕方がないじゃない。傭兵は暴力を売り物にしている商売なんだもの、強いやつが偉い、弱いやつは強いやつに文句を言えない。そんな道理が基本原則として罷り通るような界隈でもあるのだから。当然、度が過ぎればギルドが介入してくるわけだが。
さて、適度に飲み食いしたら撤退しますかね。




