#474 「……いつもこんな調子なんですか?」
ちょっと所用で作業が遅れました( ˘ω˘ )(ノーマンズスカイたーのしー
セレナからのメッセージを受け取った三日後、俺達は揃って帝城へと出頭すべく、ブラックロータスで衣装の確認をしていた。
ああ、揃ってと言ってもクリスは一緒には行かないぞ。今日は傭兵としての活躍を表彰されるイベントだから、クリスが俺達と一緒に式典に参加する理由がない。ダレインワルド伯爵の名代としては参加しているだろうけどな。
あと、メイとネーヴェも一緒には行かない。メイは機械知性だから一応人権は認められているのだが、こういったイベントに参加する資格は無い。少なくとも、俺のメイドロイドでいる間は彼女の為したことは俺が為したことにカウントされる。俺から独立してメイといういち機械知性として活動を始めたら話は別なんだとかなんとか……なんかその辺りの事情は複雑怪奇でよくわからん。
「どうや、兄さん。似合ってる?」
「おう、似合ってる似合ってる。可愛いぞ」
自身の髪の毛の色と同じ赤をアクセントにした黒いドレスを着たティーナを褒める。雑な賛辞に聞こえるかもしれないが、率直に言って本当に可愛いのである。
「そこは綺麗って言ってぇな。一応うちも大人のレディーなんやし」
「可愛い可愛い」
「もー、なんか適当と違う?」
頑なに可愛いと言い続けたらティーナが牛さんになってしまった。そうは言われても、綺麗というよりはどう見ても可愛い系だし……身体が小さいだけでぺったんこではないし、お尻のボリュームもあるから、普段みたいに身体のラインが出るジャンプスーツだと色っぽさも感じるのだけども、今日着てるような身体のラインがあまり強調されないドレスだと綺麗とか色っぽいというよりもシンプルに可愛いんだよな。
「お兄さん、私も可愛いですか?」
「とても可愛い」
白をベースに青のアクセントを入れたティーナとは色違いの同じドレスを着たウィスカにもそう言って深く頷く。二人は双子だからな。こうして見るとよく似てるが……やっぱり所作とか目つきとかは性格が出るのか結構違うものだ。
「ちょっと窮屈ですね……」
「それはねぇ……」
今回、ミミとエルマはドレスではなくスーツ姿だ。スーツというか、軍の正装に近い装いである。ミミをドレス姿で連れて行くと、ルシアーダ皇女殿下に瓜二つなことが強調されてしまうからな……前にドレス姿で式典に出ているので今更かもしれないが。今回はしっかり対応したというわけだ。
しかしまぁ、ミミは窮屈そうだな。それも仕方あるまい。あの胸部装甲ではな……エルマは楽そ――ヒェッ、睨まれた。
「うーん、私にこういう服は合わないと思うんだけどねぇ……」
「そんなことありませんよ、先生。とても良くお似合いです」
「そうかなぁ……なんかヒラヒラしてて落ち着かないよ」
エルマから目を逸らすと、あちらではいつも通りのスペース風巫女服を着たクギがドレスに身を包んで落ち着かないショーコ先生を宥めていた。クギの巫女服はいつもより少し豪華というか、身につけている小物が多くなっている程度だが、彼女の巫女服は正式な場でも通用する格式の衣装でもあるそうで殆どそのままだ。
対してショーコ先生はフォーマルな装いである。いつもはボサボサ気味のロングヘアも頭の上にしっかりとまとめ上げられ、色合いそのものは若干地味ながらもしっかりと身体のラインが出るドレスがマッチしている。なんというかその、ミミにも匹敵する胸部装甲が凄い。色っぽいというレベルではない。まぁ、あの上に身体のラインを隠すためのストールを纏うそうなので、好奇の視線に晒されるようなことは減る……と良いな。
今回は戦闘に関わるクルーを軍服に、そうでないクルーはドレスにという感じで服装を分けた。
本当はクギも軍服っぽい感じの衣装を着せたかったんだが、狐耳はともかく尻尾が問題でな……既存のテンプレートを使えず、完全にオーダーメイドになる=三日後には間に合いそうにないということで断念したのだ。
『おー、凄いね。選り取り見取りだね、キャプテン』
「そうだぞ。凄かろう?」
医療ポッド入りを卒業し、昨日からチャンバー式の半自律型多機能車椅子――浮遊して動くので車輪はついていないが――での移動を許されたネーヴェに向かってドヤ顔をしてやる。
ちなみにこの車椅子、実に簡易的にだがある程度治療ポッドとしての機能を持っており、かなりお高い。ネーヴェは出世払いで払うとか言っていたが、船の設備を整えるのはキャプテンの甲斐性みたいなものである。丁重にお断りしておいた。
『そのうち私もああいう服を着せられるのかな?』
「そうだな。ネーヴェは肌が白いし、黒ゴスとか似合うかもな」
髪も肌も真っ白な少女が黒系のロリータ衣装を纏うのは実に映えることだろう。ミミはあんまり着てくれないからな。まぁ、一口にロリータと言っても色々と種類があるようだが。その辺は店員さんに「この娘に似合う衣装を頼む」で丸投げしてしまうのが一番だ。
あれ似合うこれも似合うと品数が増えまくったり、店員同士の宗派の違いが顕在化して殴り合いになったりすることがあったりするのが玉に瑕だが。
「ちょっと、私達の服はそんなにじっとりねっとりと吟味したくせに、自分の服装に関しては何か一言ないわけ?」
「男の服装なんてどうでもいいじゃん……皆が選んでくれただけあって着心地は最高だよ。ありがとう」
俺の服装を敢えて言うならミミやエルマが着ている服と同じ系統のデザインで、少しばかり各所の装飾が豪華なくらいである。豪華と言ってもあんまりゴテゴテと豪奢な感じなのは俺の趣味ではないから、控えめなものだが。
「それじゃあ行くかね……そろそろお迎えも来るだろうし」
流石にスーツを着ている俺達戦闘クルーはともかく、ドレス組はこのままで普通の交通手段を使って雑踏の中を歩くわけにもいかないからな。セレナが帝国航宙軍の車両を回してくれると言っていたので、ブラックロータスで着替えたわけだ。そうでなかったら着替えを持ってあちらでセットすることになっただろうな。
そんなことを考えている間に迎えが来たので、メイとネーヴェに見送られながらセレナが回してくれた軍の車両に乗り込む、軍の車両って言っても、なんかデカい銃が屋根に乗ってたりするすような威圧的な奴じゃなく、地味なシャトルバスみたいなやつだが。普通のシャトルバスと違って飛ぶけど。
「ふぅん……悪くないですね。合格です」
「そりゃどうも。そちらはいつも通り麗しいな」
「本当にいつも通りですけどね」
そう言って空飛ぶシャトルバスの中で俺達を待っていたセレナが肩を竦める。セレナの言う通り、彼女はいつもの白い軍服姿であった。いつもと違うのは略綬ではなく勲章が軍服の胸元にいくつかぶら下がっているくらいか。
「そのうち私のドレス姿も見せましょう」
「それは楽しみだ。いつも通りのその軍服姿も似合ってて綺麗だと思うけど」
正直セレナといえばこれ、って気がするほどに似合ってる。やっぱり第一印象って大事だよな。初めて顔を合わせた時も軍服姿だったし。
「……いつもこんな調子なんですか?」
「そうですね、普段からこうですね」
「そうね、割とストレートに褒めてくることが多いわよ」
「そうですか……」
ミミとエルマの返事を聞いたセレナが少し頬を赤くしながらじっとりとした目で睨んでくる。
「なんだよ?」
「……前まではそんなに歯の浮くような台詞は言ってこなかったじゃないですか」
「そりゃそうだ。セレナは美人だから、塩対応するのもなかなか大変だったぞ。内心ではいつも綺麗だな、美人だなと思ってたし」
「ああ、もう……いいです。わかった、わかりましたから」
セレナは赤くなった顔を片手で隠しながら俯き、待ったをかけるように俺の方にもう片方の手を突き出してきた。
ふむ、なるほど?
「ひゃっ!?」
「いえーい、恋人繋ぎー」
なので、突き出してきた手に指を絡めて恋人繋ぎをしてやった。ははは、反応が面白――いだだだだ!? わかった! 悪かった! からかって悪かったから許して! 手の骨が砕ける!
なお、シャトルバスが目的地につくまでセレナは手を離してくれなかった。流石に力は緩めてくれたけど。




