#473 「それは言ったらダメなやつだろう……」
ノーマンズスカイ再走。
何だこれめっちゃ別ゲー( 'ᾥ' )(発売当初に走った人
「「……」」
「……何かな?」
「ひゃいっ!? な、なんでもないです……よ?」
「わ、わわわ、わたしもなんでもないですわ?」
翌日、メイと一緒にブラックロータスへ戻ったら、まだクリスとエデルトルートがいたのだが
……顔を合わせるなり俺の顔をガン見である。それで声をかけたらこの反応である。明らかになんでもなくないし、エデルトルートに至っては口調までおかしくなっている。君はそんなアニメにでも出てきそうなステロタイプなお嬢様言葉じゃなかっただろう。
「……さては見せたな?」
「兄さん、なんでうちらに聞くん?」
「ナニをとは言わないが、撮ってるのは君らくらいだろ……」
じっとりとした半目の視線を向けてやると、ティーナもウィスカも天井に目を向けて口笛を吹いたり、露骨に視線を逸したりしはじめた。本当にナニをとは言わないが、この二人くらいだからな。所謂『記録映像』的な物を撮って楽しんでるのは。俺にはそういう趣味はないから撮ってないぞ。メイは撮ってるかもしれないが、それを公言したことはないな。まぁ、メイの場合は撮る撮らない以前に確実にログが残るだろうけども。そのログを保存しているかどうかは……いやしてそうだな。絶対にしてる。だってメイドロイドだし。
「ミミ?」
「え、ええと……あはは」
「露骨に笑って誤魔化そうとするじゃん」
「まぁ、参考にはなったわ」
「参考になるか? 無理じゃない?」
「うるさいわね!」
「とてもいたい……」
澄ました顔で「参考になったわ(キリッ」とか言うからちょっとからかっただけなのに、そんなマジでローキックすることないだろう……エルマの場合参考にするしない以前の話だからなぁ。感度が良すぎて。何のとは言わないけど。
「我が君」
「何かな?」
「此の身は今まで以上に励みたいと思います」
「そうか……」
真面目な表情でジッと俺を見つめてくるクギに「何を」とは聞かなかった。もう良いって? 俺はこれでもTPOは弁えるんだよ。そこそこに。今はとりあえずこの流れをどうにかしよう。
「あー、ごほんごほん。とりあえずその話は横に置いておいてだな? 今後の予定について少し話しておきたいんだが」
「今後の予定ですか?」
「うん。この後あるであろう表彰式だか受勲式だかなんだかを終えた後の予定だな。本来であればホールズ侯爵領なりダレインワルド伯爵領なりに行くのが筋だろうが、俺としては一度ヴェルザルス神聖帝国に足を伸ばすのもアリだと思ってる。あるいは、ブラックロータスの次の母艦を調達するかだな」
「ひ、ヒロ様……? 帝国から出て行ってしまわれるのですか……?」
クリスが目を見開いて呆然としている。
「いやいや、今後も活動の中心は帝国にするつもりだ。クギの故郷であるヴェルザルス神聖帝国には俺のルーツに関する情報とかがありそうでな。それに、サイオニック能力関連でも少し興味がある。クギ曰く、俺はなんかVIP待遇を受けられるという話だし。もしかしたらまだ見ぬサイオニック関連のテクノロジーを使った船の装備とかも手に入るかもしれないというのもある」
「……一時的な滞在で、すぐに戻って来るということでしょうか?」
「そうだな。観光旅行に行くくらいの気持ちだ」
「良かったです……もしかしたらその、今回の件で嫌われてしまったのかと……」
そう言ってクリスが胸を撫で下ろす。
「ああ、婚約とか結婚とかそういうのが面倒臭くなったとかか? いや、流石にこのタイミングで国外逃亡するのはクズ過ぎるだろう。クリス相手にそんなことはしないよ」
セレナだけの話だったら? あったかもしれないな。もしダレインワルド伯爵家がクリス経由で今回の婚約なり結婚なりの話に絡んでこなかったら、あの人なら俺を取り込むために何か手を打ったかもしれない。それが俺にとって受け入れられないものだったりした場合、国外逃亡というのは一つの選択肢として有り得たことだろう。
ただ、ラウレンツ氏の話しぶりからすると俺を敵に回すような真似はしなさそうではあるんだよな。ホールズ侯爵家の長い歴史の中で、俺のようにちょっと数奇な運命を持ち合わせている存在と何度か接触した記録があるとか言っていたし。なんかニュアンス的には敵に回すと危ないのはわかっている、みたいな感じだった。
「安心しました……とても」
「そいつは何より。で、この考えはどうだろうか? クギ」
「はい、我が君。我が君を此の身どもの国にお招きできるのであればこれ以上無い幸いです。そうと決まれば此の身どもの聖堂に連絡を取って受け入れの準備を進めますが、如何致しましょう?」
「ああ、それは流石に本決まりしてからの方が良いな。ヴェルザルス神聖帝国に行くにしても、まずはダレインワルド伯爵領に寄って惑星上居住地に土地を確保してからということにした方が良いかもしれないし」
「土地の確保ということは、ついにですね?」
「ついにだな」
俺のとりあえずの目標であった庭付き一戸建てを得る算段をつけようという話である。
惑星上の居住地に居住権と土地を得るには帝国の一等市民権が必要なのだが、俺とミミは前回帝都を訪れた際に皇帝陛下から褒美として一等市民権を付与されている。エルマは子爵家の令嬢として生まれているので最初から一等市民権を所有しており、一等市民権を持つ市民一人に付き二人……いや三人だっけ? どっちか忘れたが一等市民権を持たない人間を惑星上居住地に連れて行くことができる権利があるので、一等市民権を持たないティーナやウィスカ、クギ、ショーコ先生にネーヴェなんかも惑星上居住地に住むことができるわけだ。
メイ? メイはメイドロイドなので俺の所有物扱いだな。一応機械知性にも人権が認められているからそういうわけにはいかないのでは? と思わなくもないのだが、機械知性に関してはその辺の扱いが特殊らしい。
「そう上手く行くと良いんだけど……」
「えっ、何か問題があるのか?」
「無いはずよ。市民権の問題も無いし、ダレインワルド伯爵家が協力してくれるなら土地の確保も構造体の建造も問題無いはずなんだけど、どうも今までのことを考えると……ねぇ?」
「それは言ったらダメなやつだろう……」
何らかのトラブルで上手く行かない、なんてのは容易に考えられるだけに俺は絶対に口にしないようにしていたというのに。有り得るんだよなぁ。俺の場合。その時何か不思議なことが起こった! って感じで完成間近の家が吹き飛ぶことすらありえる。
「母船も買い替えるん?」
「ああ、今はエルマのアントリオンを外部ドッキングポートを使って無理矢理運用してるだろ? 中型艦が入れるハンガーを持った母艦に乗り換えるのもアリかなと思ってる。幸い、予算は十分にあるしな」
流用できるモジュールは流用しつつ、ブラックロータスを下取りに出せば予算は余裕で足りるはずだ。それに、搭載している兵器の大半はそのまま使えるだろう。
「なるほど。それじゃあ希望に合いそうなのをいくつか見繕っておきますね」
「任せた。プロに選んでもらえるなら安心だな」
元シップメーカーの二人なら大外れのものをピックアップするということもあるまい。実際にブラックロータスの運用も見てきているのだから尚更だ。
実際にどこから、というかどれから手を付けるのかというのは決まっていないが、母船の乗り換えに関してはいつ検討を始めても良い案件だからな。
と、そんな話をしていると俺の小型情報端末から着信音が鳴った。セレナからか。
「セレナからのメッセージだ。三日後の昼前に式典をやるらしい。また勲章を貰えるっぽいな。服装は準正装でよし、と。前に着た服で良いかな……?」
「新しく仕立てましょう!」
「そうした方がいいわよ」
「私もそうした方が良いと思います」
「はい」
ミミ、エルマ、クリスの三人から流れるように連続で新しく仕立てろと言われた。別にカネに困ってるわけじゃないから仕立てるのは構わないけど、面倒じゃん……まぁ三人がそう言うならそうするけどさ。




