#468 「そういう意味じゃないんだよなぁ……」
昨晩久々に飲酒しました( ˘ω˘ )(激レア行動
「はっはっは! いや、君達は本当に仲が良いね。うちの子がその環の中にちゃんと入れると良いんだが」
「……!」
「おっと、そういうところだよ。我が娘よ」
お仕置きしようとする俺と、クギに守られてそれを逃れるクリスを見たラウレンツ氏が呵々大笑し、ついでに擦られたセレナが無言の暴力で父に抗議をしようとしてまたいなされている。
セレナさん? パパさん相手にはそうやって甘えるのは構わんが、俺にはやめてくれよ? 身体強化とかしてない俺がそれをやられると最悪肩の骨が砕けかねないから。
「まぁ、ダレインワルド次期伯爵としても焦らざるを得なかったんだよ。貴族としての格というのは厄介なものでね。仮にセレナが先に君と結婚なり婚約なりをしてしまうと、もうその時点でダレインワルド次期伯爵としては君との関係を結ぶ道がほぼ閉ざされてしまうのだからね。もしセレナと先に婚姻を結んだ場合、君にはホールズ侯爵家傘下の貴族として名誉爵位ではない男爵になってもらうことになる。つまり、ホールズ侯爵家の分家扱いだね。その男爵家にダレインワルド伯爵家当主が嫁として入るわけにはいかないし、当然男爵家当主となった君を婿に迎えるわけにもいかない。男爵家の当主にしてホールズ侯爵家の分家の当主でもあるわけだからね。この問題を丸く収めるためには無理矢理にでもセレナよりも先に君と婚姻、ないし婚約関係を結んでダレインワルド伯爵家の婿に迎えるしかないわけだよ。まぁ、婿としてダレインワルド伯爵家に入った男性に第二夫人、第三夫人どころではない数の妻がいるというのも若干変則的だけどね。それでもホールズ侯爵家傘下の男爵家に伯爵家当主が嫁ぐことに比べたら無理筋ではないね。その辺の事情を鑑みて君の側にいる女性達も次期伯爵殿に協力したのだと思うよ?」
ラウレンツ氏の懇切丁寧な説明を受けて俺は考え込む。いずれにせよセレナとクリスの二人とはどこかで何かしらの決着を着けなきゃならないとは思っていた。なら、こういう形で落ち着いたのは悪くないか……? まぁ、悪くはないか。結果だけを見れば最良か。なら過程には目を瞑るのが良い男ってものだろうか? そうだな。うん、きっとそう。そういうことにしておこう。
「オーケー、侯爵閣下の説明で納得した。次からはちゃんと相談してくれ。良いな?」
そう言ってミミ達に視線を向けると、彼女達は素直に頷いた。ならよし。これで俺を騙したことに関しては終わりだ。クギに抱きしめられているクリスの背中もポンポンと軽く叩いておく。そうだ、ラウレンツ氏にもお礼を言わないとな。
「ありがとうございます、侯爵閣下」
「良いさ。娘が原因で婿殿の家庭を壊してしまうというのは寝覚めが悪いしね。心配になるほど頑固なこの子が選んだ君の為ならこれくらいはなんでもないさ」
笑ってそう言うラウレンツ氏にもう一度頭を下げる。うーん、これは頭が上がらんなぁ。
「まぁ、正直に言うと少し残念なんだけどね。本当はうちで欲しかったなぁ……」
「欲しかった、というと?」
「それは勿論君だよ。キャプテン・ヒロ。君は宙賊掃討のエキスパートだろう? セレナの対宙賊独立艦隊も君のテコ入れがあってあれだけの戦果を上げたという話じゃないか。連中は本当に百害あって一利なしの存在だからね、我がホールズ侯爵家も奴らには常に頭を悩ませているのだよ。君を我が家の分家の当主として迎え入れることができたなら、きっと宙賊対策が捗っただろうと思うとね」
「なるほど。うちとしては相応の対価が頂けるなら、傭兵としてお力添えをさせて頂くことは可能ですが」
流石に命懸けの商売なので、タダでやりますなんて安請け合いはしない。俺の命だけを賭けるというのはそれでも構わないが、うちのクルー達も巻き込むことになる以上はそんなことはできないからな。
「それは良いね。いずれ頼らせてもらうとしよう」
☆★☆
「それではね。また会おう!」
爽やかな笑みを残していったラウレンツ氏とセレナの二人と別れ、俺達はショーコ先生とネーヴェを迎えに行くことにした。少々待たされたが、二人とも無事に尋問――というか聞き取り調査を終えて合流することができた。
「お疲れ。どうだった?」
「特に問題はなかったと思うよ。ただ、尋問官が言うにはあちらとの協議次第だけれども、恐らくはベレベレム連邦がネーヴェくんの存在を認めることはないだろうということだね。とはいえ、対外的に喧伝すればベレベレム連邦のイメージを少なからず落とすことはできるだろうとも言っていたよ。一応ネガティブキャンペーンを打つつもりではあるみたいだね」
そう言ってショーコ先生が肩を竦めて見せる。彼女としては自分の患者が政治的に利用されることに何か思うところがあるのかもしれない。
「なるほど。で、その後の身の振り方については?」
『私の能力については大変優秀かつ有用であると認められたみたいだよ、キャプテン。ただ、雇用先がグラッカン帝国の政府機関や帝国航宙軍ということになると、ベレベレム連邦のクソ野郎共に「それ見たことか。やはりでっちあげだった」などと言われかねないから、引き取るのは難しいらしい。一応民間団体などでどこか世話をしてくれるところを探すことはできると言ってくれたんだけどね。それなら先約があるからキャプテンにお世話になるよって言ったんだ』
「そうか。なら約束通りうちのクルーだな。元気になったらキリキリ働いてもらうぞ?」
『勿論だとも。キャプテンの熱い滾りをいつでも好きなだけぶつけてくれていいよ。私が全部受け止めてあげよう』
「そういう意味じゃないんだよなぁ……」
今はそういう冗談を楽しめる精神状態ではないんだよ。自らが蒔いた種とはいえ、女性関係があまりにもアレ過ぎる……俺が悪いんだけどさ。いや、本当に俺が悪いのか? そこには若干議論の余地があるのでは? 少なくともセレナとクリスに関しては最大限の自制心を発揮してこの上なく慎重に接してきた筈だし。今更言っても後の祭り? それはそう。
「あー、やめやめ。うじうじと悩んでも仕方ねぇや」
『キャプテン?』
「とりあえずネーヴェはウチで面倒見るから。こまけぇこたぁ全部元気になってからだ。ショーコ先生、帝都ならネーヴェの治療に必要な素材は全部揃うだろうから、必要なモノは忘れず発注かけておいてくれよ。請求は俺に回してくれ」
「いいのかい? 結構すると思うけど」
「最終的にはネーヴェ自身に稼いで返してもらうよ。ネーヴェが回復してクルーとして働けるようになったら、報酬から天引きする。ネーヴェもそれでいいな?」
『もちろんだよ、キャプテン。ちゃんと働いて返すさ』
「ならよし。それじゃあ一旦帰るか……いや、ウィルローズ子爵家に顔を出したほうが良いか?」
帝都に足を運んだのならエルマの実家に顔を出すのが礼儀というものだろう。前回は都合が合わなくてティーナとウィスカを紹介できていなかったし、クギやショーコ先生も紹介しなきゃいけない。
ちなみにティーナとウィスカ、それにメイにはブラックロータスで留守番をしてもらっている。整備士の二人はイクサーマル伯爵家の旗艦であるマジェスティックには連れて行っていなかったので今回の査問会に出席する必要がなかったし、メイに関しては帝城に入るとなると性能の封印処置などの面倒が多いという話だったので遠慮してもらったのだ。メイの所業に関しては所有者である俺の責任だから、本人――本人でいいのか?――の出席は必要ないって話だったし。
「今日は父様も兄様も仕事で家に居ないから、明日来なさいって母様が言ってたわ」
「そうか。なら今日のところはブラックロータスに戻るか。ネーヴェのことを考えるとそれが良いよな?」
「そうだねぇ。容態の急変だとかそういった心配はもうないけれど、、メディカルベイの設備の方が安心はできるね」
と、話をしていると袖に何かが触れたような気がした。そちらへと視線を向けると、そこには手を引っ込めて俯くクリスの姿が。ああ、俺を騙したことを気にしてるんだな。
「クリスのとこにも遊びに行かないとな。明日はエルマの実家に行くから、クリスも一緒に行こうな。で、明後日はクリスのところにお邪魔しようか」
「……はい、あの」
「別にもう怒ってないから。それでもまだ気になるなら、明後日遊びに行った時に美味しいお菓子でも用意しておいてくれ」
「……はい、美味しいお菓子を用意しておきますね」
顔を上げたクリスが微かな笑みを浮かべる。うーん、背が伸びたから頭を撫でたりはしづらくなったな。まぁ、もう小さな女の子という感じでもなくなったから、ほいほいと頭を撫でるというかスキンシップを取るのは憚られるような感覚が強くなってしまったのだけど。
「明日はウィルローズ子爵家、明後日はクリスのところ、他にはええと……?」
「反乱阻止と国境防衛の件で受勲式もあると思うわよ。それと、ホールズ侯爵家の帝都屋敷にも顔を出す必要があるんじゃないかしら?」
「割と盛りだくさんだなぁ……とりあえず今日は帰ろうか。クリスもブラックロータスで一服していかないか?」
「はい、ご馳走になります」
今度は掛け値なしの笑顔を浮かべるクリス。うん、沈んだ表情で俯いているよりもこっちのほうが良いな。
俺だって好き放題やってるんだから、多少のことには目を瞑らんとバチが当たるってもんだ。多少のことは笑って受け止められるような器の大きな男ってやつを目指すことにしよう。




