#464 「ま、まさかそんな……あはは」
The Last Faithクリア。
ストーリーの内容は三割くらいしかわからなかった……( ˘ω˘ )(固有名詞と難解な言い回しが……!
セレナと関係を持ったり、クリスとの婚約なり結婚なりという関係の進展に対する埋め合わせというわけでは断じて無いが、降下申請が受理されるまでの数日間の間、クルー達とイチャイチャしたり、ダラダラしたり、デートに行くことが多かった。
また、エルマは帝都のウィルローズ家に連絡を取ったりもしていたようだし、ティーナとウィスカもどこかに連絡を取っていた。これは二人の行動としては珍しい。今までに見た覚えが無い。
「リーメイのアイリアのとこにでも連絡してたのか?」
というわけで聞いてみた。
リーメイ星系はティーナが昔住んでいた星系で、リーメイプライムコロニーにはティーナの顔馴染が住んでいる。帝都に滞在するのを機として連絡でも取ったのかな、と思ったのだが、返ってきた答えは予想外のものであった。
「うんにゃ、母ちゃんに連絡してん」
「母ちゃん」
「はい。お兄さんとはあまり家族の話をしたことがなかったですよね。ええと、私達の両親は離婚していて、お姉ちゃんはお父さんに、私はお母さんに引き取られたんです」
「で、アホ親父はうちを残してくたばってん。それでもなんとかかんとかリーメイでやってたところでウィーと再会して今に至るわけやな。アホ親父と違って母ちゃんはまともな人やで」
「まともねぇ……そのまともな母ちゃん、まともな企業から飛び出して傭兵なんぞとよろしくしてることに怒ったりしてない?」
「「……」」
俺の質問に二人は目を逸らした。大変わかりやすい反応どうもありがとう。
「ま、まぁいうてメッセージでお小言もらうくらいの話やし? あちこち移動してるうちらの船に怒鳴り込んできたりするのは無理やし?」
「そうだな。交通の便が良い帝都にブチ切れたお母さんが突撃してこなければ良いな」
なんだかんだいって帝国の中心地である帝都という場所は交通の便が良い。全てのゲートウェイは当然帝都への接続が多いし、旅客業や運送業を運営している企業には当然のようにゲートウェイの使用権が付与されている。
つまり、俺が言ったように二人のまともな母ちゃんとやらが娘達と娘達を誑かした傭兵が帝都にいると知れば、仕事の予定なりなんなりを全てキャンセルして帝都に突撃してくる可能性が割とある。
「ま、まさかそんな……あはは」
という話をしたのが二時間前。
「どうも、二人の母のシェーラです」
「伯父のバルガンだ」
「ガトラム。俺も二人の叔父だ」
お義母さんとその兄、その弟という組み合わせの三人がブラックロータスに突撃してきた。
「これはご丁寧に、傭兵のヒロです。娘さん達にはとてもお世話になっています」
訪ねてきたティーナとウィスカの母と伯父達を門前払いするわけにも行かないので、船に入ってもらって休憩スペースへとご案内した。この船には応接室なんて洒落たものはないからな。食堂かここくらいしか来客に応対できるようなスペースはない。今度新しい母船を買う時には応接室の設置も検討するとしよう。
「「……」」
ティーナとウィスカは俺の隣に座ってすらいない。俺が座っているソファの後ろで顔だけ覗かせている。ソファと俺を盾にする体勢である。
「なんというか、随分と早いご到着で」
「仕事でウィンダス星系に来ていたところで娘達からメッセージが届いたのでご挨拶にと。以前からご挨拶したいとは思っていたのですが、なかなか機会が無くて」
「こちらから伺うべきでした。ご挨拶もせずに娘さん達を連れ回して申し訳ない。なんせ傭兵稼業というのはあちこち飛び回ってなんぼの世界で」
「新進気鋭のプラチナランカーで、陛下からゴールドスターを頂くほどの英雄であれば仕方ありませんね。私と同様娘達は何の変哲もない平民ですし、名誉子爵様としては親への挨拶よりもお役目を優先するのが当たり前です……ね?」
「いやほんとすいません」
優しげな笑顔の中に込められた威圧感に俺は頭を下げて無条件降伏した。実際のところ、両親どころか肉親の存在すらあやふやであったミミや、存在そのものを秘匿していたエルマに慣れてしまっていたせいか、ティーナとウィスカの両親や親戚の存在に無頓着になってしまっていた俺が悪い。遅くともスペース・ドウェルグ社から引き抜いた時点で連絡と挨拶くらいはするべきだったのかもしれない。後知恵だが。
「シェーラ、それくらいにしておけ」
「そうだぞ、姉さん」
シェーラさんの左右からバルガン氏とガトラム氏が彼女を諫める。二人に諌められたシェーラさんは目を瞑り、暫し黙想した後に溜め息を吐いた。
「どうしてこう、よりによって、二人揃ってこう……」
「シェーラだって俺達が止めたのにグラムと一緒になったじゃないか」
「血筋だと思う。でも、彼は姉さんが思うよりもずっとまともな人だ」
グラムというのは亡くなった二人のお父さんの名前だろうか? ガトラム氏にまともな人判定されるのは嬉しいが、そもそもまともな人と評されないといけない立場なんだなぁ、俺……まぁ傭兵だしな。根無し草だしな。いつ死んでも不思議じゃない職業だしな。
「わ、私はお兄さんから離れる気はないからね!」
「う、うちも……兄さんと一緒にいる」
ソファの後ろから伸びてきた姉妹の手が俺の両肩にそれぞれ置かれる。二人がこう言ってくれるなら俺の態度も決まったようなものだ。
しかし、家族に対してはウィスカの方がちょっと強気に出るんだな。逆にティーナの方がちょっと一歩引いた感じというか、声から遠慮のようなものが感じられる。
「ウィスカちゃん、ティーナちゃん、別に俺達は二人を無理矢理連れ帰ろうと思って来たわけじゃないよ」
「そうだ。そうしようにも、相手があのキャプテン・”クレイジー”・ヒロじゃどうにもならん。一瞬でドワーフの輪切りにされる」
「いや、流石に余程のことがなければ大切な人の叔父さんを輪切りにしたりしませんが。ご挨拶が遅れた点は本当に至らず申し訳ないと思ってます。この通り。ですが二人が俺の側を離れないと言っている以上、俺も二人と一緒に居たいと思います。何がどうあろうと」
俺はもう一度頭を下げ、それからシェーラさんの顔を正面から見据えて宣言した。シェーラさんもじっと俺を見返してくる。どことなくティーナとウィスカに顔立ちが似ているように思えるのは、やはり母娘だからなのだろう。彼女の髪の毛の色は若干紫っぽい青色で、伯父のバルガン氏と叔父のガトラム氏も同じような髪の毛の色をしている。もしかしたら亡きグラム氏は赤髪だったのかな? などと考えていると、シェーラさんが再び溜め息を吐いた。
「ちゃんと二人まとめて面倒を見られますか? ドワーフの女は愛情深いですが、裏切るとそれはもう大変なことになりますよ?」
「俺なりに誠心誠意尽くします」
俺の返事にシェーラさんは頷き、バルガン氏とガトラム氏は苦笑いを浮かべた。うん、これはアレだな。おじさん二人は俺の情報をしっかりと調べてるな。まぁ、その、俺の相手が多いことに関しては二人とも承知の上でのことだから大丈夫だろう。俺だって二人を蔑ろにするつもりはないし。
「そうですか……なら、娘達と少しお話をさせてください。新しい姉妹の皆さんともね。女だけで」
「アッハイ」
シェーラさんもしっかりと俺の情報を把握していらっしゃった。
こういう場合、女性には逆らわないほうが無難である。
☆★☆
「うちの家系は代々商人でな。まぁ、今の時代家業を代々ってのも珍しい話だが。それに、全員が全員家業に携わることができるわけでもない」
「兄貴が家業を継いで、俺は軍人になったんだ。今はもう退役して客船の雇われ船長をやってるが」
シェーラさんとうちの女性陣が話をしている間、俺とバルガン氏、ガトラム氏はティーナとウィスカの仕事場でもある格納庫へと足を運び、そこで適当に椅子になりそうなものを見繕って話をしていた。
「シェーラさんは?」
「シェーラは頭が良くてな。良い学校を出て、航宙エンジンメーカー務めをしてるんだ。そこでエンジニアをやっていたグラムと出会って、ティーナちゃんとウィスカちゃんが生まれたんだよ」
「ただ、グラムはちょっと酒癖が悪くて、賭け事も好きな奴だった。結局、ティーナとウィスカが生まれて二年か三年かそれくらいで大喧嘩して、別れた。グラムはその時にティーナを半ば拐うような形で姿を消した」
「マジか……」
死んだ人のことをどうこう言いたくないが、ちょっとそれはどうだろうと思うなぁ……結局ティーナを残して死んで、ティーナは結構苦労したようだし。無論、悪いところばかりの人だったわけじゃないんだろうが。
「暫くしてウィスカちゃんがティーナちゃんを見つけてリーメイプライムコロニーから連れ出してきた時にはびっくりしたし、シェーラは喜びながらもグラムにブチ切れてたな。あいつを生き返らせてこの手でぶっ殺してやりたいとか物騒なことを言ってた」
「そりゃティーナを誘拐みたいな形で連れ出して姿を消して、さっさと死んでティーナに苦労させたら怒るわ……」
しかも地元のマフィアだかギャングだかと関係を持ってたから、ティーナがリーメイプライムコロニーから脱出する時には結構危ない橋を渡ったって話だったしな。そりゃキレるわ。
「そういう事もあって、ヒロ殿との関係にはかなり否定的だったんだが……実際に顔を合わせて少し方針を転換したようだな」
「なら嬉しいんですけどね。あと、俺のことはそんなに畏まって呼ばなくても良いですよ。プラチナランカーだゴールドスターだ名誉子爵だって言ってもまだまだ若造ですし、貴方達にとっては姪の……夫ですかね? そういう間柄ってなんて呼ぶんだろう?」
「姪婿だな」
「なるほど、姪婿。まぁティーナとウィスカほどの可愛げは無いかもしれませんが、同じように扱ってくれると嬉しいですね」
「ははは、話題の英雄が姪婿か。これはちょっとした自慢になるな」
バルガン氏が愉快そうに声を上げて笑い、ガトラム氏もニヤニヤと口元を緩めている。
「しかし英雄ってのはちょっと言い過ぎじゃないですかね。というか、世間的にはどう伝えられてるんです? 俺って」
「おや、姪婿殿は自分のことには無頓着と見える。前に何社か合同でメディアの同行取材を受けたんだろう? その映像を使ったドキュメンタリー番組が放映されているんだよ。クリーンでセレブリティな一流傭兵の暮らしぶり、麗しい女性達とのロマンス、帝国航宙軍や他の傭兵達と強力してのスリル溢れる宙賊との戦い、目の飛び出るような報酬額、宙賊という社会悪についての傭兵視点での問題提起……今、キャプテン・ヒロの傭兵ドキュメンタリーは大人気番組さ」
「なにそれこわい……どんなことになっているのか怖くて見れねぇ」
自分の日常の一部を切り出したドキュメンタリー番組とか恐ろしくて見れねぇ。意図的に視聴を避けてきたんだが、どうもミミとかは映像データを保管して度々見てるっぽいんだよな……その度にニヤニヤニマニマしてるからわかりやすいんだ、これが。
「正直に言うと俺はファンなんだ。こうして話せる機会が降って湧いてきて実はかなり舞い上がってる」
ガトラム氏が片手で口元を隠しながらとんでもないことを言い始める。
「あー……ホロとか撮ります? クリシュナをバックに」
「良いのか?」
「勿論。宙賊の戦利品もなんか色々あるんで、ヤバくないものなら記念にプレゼントしますよ」
「俺は今、最高に嬉しい。叫びだしそうだ」
ガトラム氏が天井を見上げて震える。声量ヤバそうなんで叫ぶのは勘弁してください。




