#463 「そういうのはほら、時期とか色々あるじゃん」
The Last Faithで遊び始めました。
たのしいよ( ˘ω˘ )
コックピットなどの最重要機密エリア以外を除き、概ね船全体を見て回って満足したルシアーダ皇女殿下は近衛騎士のお姉様達とセレナを引き連れて去っていった。結局、セレナとクリスの仲裁をしに来たというか、トラブルになる前に火消しをしていった、ということになるのだろうか? あと、ネーヴェの様子を見に来たのかもしれない。
「で、えーと……クリスは……」
タラップでルシアーダ皇女殿下達を一緒に見送り終え、俺の隣に立ったままのクリスに視線を向ける。
ルシアーダ皇女殿下と一緒に帰るでもなく、船に残ったクリスに視線を向ける。考えてみれば彼女は最初から一人でこのブラックロータスに乗り込んできたんだったな。そりゃルシアーダ皇女殿下と一緒に帰る理由もないわ。
「お邪魔ですか……?」
「いや、邪魔なんてことはないけど。一人で来たのか? お供の人がいるって言ってたよな?」
「この船には一人で来ましたよ。供の者達には明日まで休暇を与えていますから」
「どこかに宿を取ってるのか? というか宿から一人で?」
「ヒロ様、私ももう成人した立派な貴族です。自分の身くらい自分で守れますよ」
そう言ってクリスは腰元に差した細身の剣の柄に手を置き、胸を張る。クリスの剣は細身の小剣だな。ダガーと言うには長い。スモールソードと言うには短い。刀で言えば小太刀くらいの長さの剣だ。
「ヒロ様、その目は『その剣、使えるのか?』とでも言いたそうな目ですね」
「すまん。クリスも暫く見ないうちに身体強化をしたり訓練をしたりしたんだろうが、どうしても戦えるってイメージが無くてな」
クリスが大きく成長しているのは俺も認めるところではあるのだが、どうしても俺の中ではシエラ星系で共に過ごしていた頃のクリスのイメージが強いのだ。
「当然ヒロ様や軍人のセレナさんには勝てないでしょうけど、これでもお祖父様からは筋は良いと言われているんですよ」
「なるほど。まぁ、剣を持って歩いていれば絡んでくるようなやつはそうそう居ないか」
もし居たとしたらグラッカン帝国の外から来た人か、命が惜しくないホームラン級の馬鹿くらいである。基本、この国の貴族というのはあまり貴族としての特権を振りかざしたりしないようなのだが、一般人の方から悪意を持って絡んでいけば普通に斬られるらしいし。
「ところでヒロ様」
「なんだ?」
「クギさんとショーコさんを紹介して頂けませんか?」
「ふむ……まぁ、実際に顔を合わせるのは初めてだもんな」
メッセージで情報はやり取りしていそうなのだが、きっと何か意味のあることなのだろう。
クギに視線を向けると、俺とクリスの方に視線を向けてゆっくりと尻尾をふりふりしている。頭の上の狐耳もピンと立っているので、クリスのことを怖がっているだとかそういうことは無さそうだ。
ちなみに、ショーコ先生はメディカルベイに残っている。ユニット104改めネーヴェの様子を見ておくためだ。もういきなり容態が急変してぽっくり、なんてことはないそうだが、それでもいまはまだ現在進行系でネーヴェの身体を正常な状態に治している最中なので、できるだけ側を離れたくないらしい。
「こんなところで立ち話もなんだし、休憩スペースで腰を落ち着けて話そうか。今回はホテルに部屋を取るつもりもないし」
「何から何まで少し高いですからね。このコロニーは」
休憩スペースに向かいながらクリスが困ったように微笑む。
グラキウスセカンダスコロニーは帝都の城門のような役割をしているコロニーだ。帝都への降下申請を行うには基本的にこのコロニーに来る必要があるし、審査の際には徹底的に素性などを洗われる。
というわけで、必然的にグラキウスセカンダスコロニーにはヒトもモノも集まる。当然、滞在者向けの宿や食事処なども多く用意されているのだが、それがまたクリスの言うようにそこそこにお高い。具体的には二割から三割くらい。あまり高くなりすぎないように規制はされているらしいが。
なので、俺達のように居住性の高い船を持っている連中は基本的にグラキウスセカンダスコロニーでは宿は取らない。本物の貴族だとこういった機会にカネを落としてくのも貴族の嗜みということでそうもいかないようだが。俺は天下御免の『名誉』貴族様だからな。わざわざそんなことをする必要はないってわけだ。
「それでええと、紹介ね。それじゃあ改めて。クリス、彼女はクギ。ヴェルザルス神聖帝国の巫女さんで、俺のお世話をするために遥々俺の元へと旅をしてきた凄い子だ。俺のサイオニックパワー関連の師匠でもある。今はエルマに代わってクリシュナのサブパイロットとしての修練を積んでいるところだな」
休憩スペースに腰を落ち着けたところで俺に紹介されたクギがペコリとクリスに頭を下げる。
「そしてクギ、彼女はクリス。フルネームはクリスティーナ・ダレインワルド。ダレインワルド伯爵家の次期当主で、今はコーマット星系の総督を務めている。腰の剣を見れば分かる通り、貴族だ。前に話したと思うが、帝国のリゾート星系であるシエラ星系で俺が偶然宙賊から救出したことで縁ができてな。詳しくは話せないが、一緒に死線を潜った仲だし、えー……まぁ、親しい間柄でもある。互いに仲良くしてくれ」
「よろしくお願いしますね、クギさん」
「はい、クリスティーナ様。宜しくお願い致します」
クリスとクギが互いに微笑みを交わし合う。まぁ一種の儀式のようなものなのだろうな、これは。
「ここにはいないが、ショーコ先生のことも紹介しておく。彼女は元イナガワテクノロジーの研究員兼医者で、クリスと出会う前にアレイン星系でお世話になった人だ。その時はその時で宙賊に襲われていたところを偶然助けたり、謎の生物兵器によってアレインテルティウスコロニーが大変なことになった時に助けたりと色々あったんだが……訳あって最辺境領域に行った時に再会してな。その後もまぁ、色々あってうちの船医として船に乗ってもらったんだ」
「色々ですか……クギさんとも色々あったんですね?」
そう言ってクリスがじっとりとした視線を俺に向けてくる。それはうん、そうだね。イロイロありましたね。ええ。
「私にも色々してほしいですね」
「そういうのはほら、時期とか色々あるじゃん」
俺の中でクリスはまだ保護対象カテゴリかつ手を出してはいけない娘カテゴリなので、そんなことを言われても困る。
「こうして見ると、割と躊躇なく手を出された私って実はレアケースだったのね」
「エルマさんとショーコ先生には躊躇しなかったみたいですね。あとメイさんも」
「自立した大人のオンナってのがポイントなんやない?」
「私達はお兄さん基準で大人っぽくなかったから時間がかかったってことだね。でも、ミミちゃんはすぐだったんだよね?」
「私はその、例の慣習もありましたし……それに、あの時はヒロ様に捨てられまいと必死だったので」
「此の身は結構時間がかかりましたが……」
「立場を笠に着て迫るみたいで嫌だったんじゃないかしら?」
君達、コソコソ話す風に装いながら全く隠す気のない声量でそういうことを話すのはやめないか? いたたまれなくなるから。そしてクリスがグイグイ来るから。俺の臍の下あたりをすりすりと撫でても何も無いからやめようね。微妙にスキンシップとして際どいから。
☆★☆
その後、クリスの際どいスキンシップをいなしながらコーマット星系での仕事の後にあったことを話せる範囲で色々と話したり、トレーニングルームでクリスと模擬剣を使って軽く訓練したりして時間を過ごし、クリスは別れを惜しみながらも滞在先のホテルへと帰っていった。
一応護衛としてメイを同行させたのだが、模擬戦をしてみた感じだと必要なかっただろうなと思う。少なくとも、そこらのチンピラでは相手にならない。レーザーガンを使わない無手だと、エルマでも多分苦戦する。下手すると斬られるな。
「クリスちゃん、少し見ないうちに大人になってましたね」
ミミと一緒にお風呂に入り、ほっこりとした状態で並んでベッドの上でだらだらとしていると、ミミがぽつりと呟いた。
「確かに。女の子の成長ってのは早いな」
出会ったばかりの頃のクリスと今日顔を合わせたクリスを頭の中で思い浮かべながらしみじみとしてしまう。出会ったばかりの頃はミミよりも背が低く、小柄で細かったクリスも今ではミミよりも背が高くなり、おかっぱのようだった髪の毛もセミロングと言えるくらいには長くなっていた。
「私は全然成長していないような……むむむ」
そう言ってミミはベッドの上に座ったまま背筋を伸ばし、バンザイでもするように両腕を上に挙げる。背を伸ばす運動か何かなのだろうか? それよりもパジャマの胸元が凄いことになってるな。はちきれそう。素晴らしい。
「筋肉はちゃんとついてると思うぞ」
「でも全然痩せないんですよ。むしろ体重が……!」
「筋肉のほうが重いからなぁ。体型を維持したまま筋肉の比率が上がれば重くなるのは必定……でも俺は今の感じがベストだと思う。強くそう思う」
「そうですか? 私はもう少しスラッと……こう、エルマさんみたく」
「エルマがそれを聞いたらキレるんじゃねぇかな」
持つ者には持たざる者の気持ちが分からぬ。というようなことをエルマが言いながら笑顔で青筋を浮かべている姿が容易に想像できる。あとその左右にティーナとウィスカもいる気がする。
まぁエルマもエルマで酒をかっくらいながらちょくちょくなんか摘んでいるのに太る気配が全く無いので、ミミからは同じように思われているのかもしれんが。
「ヒロ様。クリスちゃんと結婚するんですか?」
「あー……それなぁ。どうしたもんかと思っているのが本音だな。クリスのことはもちろん好きだし、クリスが俺のことを好いてくれているというのも嬉しい。でも結婚って話になるとな。俺はもうミミと夫婦だし」
「私のことはあまり気にしなくても……その、今まで通りに過ごせるなら」
そう言いながらもミミは少し残念そうというか、寂しそうである。互いに意識してこう、夫婦っぽいことをしたことはないんだけどな。なんというかこう、確かな繋がりが消えてしまうようで気分はあまりよろしくはない。
「何もかもセレナに手を出した俺が悪いんだけどな……でもあの状況で見捨てるのはな」
冗談みたいな状況だったが、あれ以外に手はなかっただろう。他の可能性については今更考える気も起きない。何にせよ、あの選択以外の選択肢は途轍もなく苦い結果になっただろうから。
「思考放棄みたいでアレだが、何にせよなるようにしかならないし、今うだうだと考えても無駄だな。可能な限り俺達が一番納得できる結果を引き寄せられるよう、その場その場で努力する。そう心に決めて……」
「決めて……?」
「今はミミとイチャイチャする。カモン、好きなだけ甘えてくれて良いんだぞ?」
そう言って俺がベッドの上で胡座をかいたまま両腕を広げてみせると、ミミは少しだけ惚けたような顔をした後、笑顔になって俺の胸に飛び込んできた。
おお、よしよし。ミミは可愛いなぁ。




