#462 『ははは。楽しいね、キャプテン』
Skyrimのアニバーサリーエディションをプレイ中。
COD:MW3のゾンビモードも面白そうなんだけど、ボッチで遊べるのかな( ˘ω˘ )
『絵に描いたようなお姫様に、沢山のこれまた絵に描いたような女騎士……キャプテン、私というものがありながらダイナミック過ぎないか?』
俺とルシアーダ皇女殿下御一行を医療ポッドに取り付けられたセンサーでキャッチしたユニット104が平坦な機械音声でいきなりぶっこんでくる。私というものがありながらってなんだよ。確かに引き取るつもりだとは言ったけどさぁ。
「もうどこから突っ込んだら良いかわかんねぇよ……」
『どこに突っ込んでくれても良いんだよ?』
「お前さんの語彙が若干お下品なのはアレか? ベレベレム連邦軍の兵士どもから学習したせいか……? とりあえず、こちらはグラッカン帝国の皇帝陛下のお孫さん、皇太子殿下の娘さん、つまり皇女殿下であらせられるルシアーダ様だから、あまり無礼を晒すとポーンだぞ。後ろの近衛騎士のお姉様がたにポーンされるぞ」
そう言いながら俺は人差し指の先で自分の首元を撫でる。
『キャプテン、それはその……本当に?』
「どれについて本当に? と言っているのかわからんが、ルシアーダ皇女殿下に関しては大マジだぞ。近衛騎士のお姉様がたがポーンするかどうかは知らんが、貴族の剣なら医療ポッドごとお前さんをスッパリ斬るのは難しくないだろうな。そんなことしたら流石に俺も黙っていないが」
そう言いつつ「そんな事するわけないだろう」とでも言いたげに憮然とした表情を俺に向けるイゾルデに視線を送る。まぁ、イゾルデを含めて五人の腕利き剣士を俺一人で制圧するのは多分無理だけどな。今は武器を持ってないし。
いや、サイオニックパワー……というか念動力を駆使して剣を奪えればいけるかもしれんが。
『ミミのコスプレじゃ……ないみたいだな。えぇ……? キャプテン、それが本当だとすると、一体あんたはどういうコネクションを持っているんだ? それに見覚えのないご令嬢もいるし』
キュイン、と駆動音を立ててセンサーが動き、クリスとセレナを捉える。
「こちらは次期ダレインワルド女伯爵のクリスティーナ・ダレインワルド、そしてこっちがお前さんを撃破した戦闘で指揮を取っていた帝国航宙軍大佐のセレナ・ホールズ侯爵令嬢だ」
『それはそれは……まさかとは思うけど、全員キャプテンのコレなのかい?』
「コレっていうのがドレなのかわからんな。ただ、俺は皇女殿下に手を出すような身の程知らずではないとだけ言っておく」
皇女殿下、どうしてそんな「えー?」みたいな顔してるんですか。頬を膨らませても駄目です。可愛いけど流石に皇女殿下は無理でしょう。常識的に考えて。あと近衛騎士の皆様、品定めするような目を向けるのはやめてください。こんな船を買えるような経済力があるのは……ふむ。じゃないんですよ。クリスが暗黒オーラを放ち始めているのでやめてください。あとセレナもなんかガルルしてるんで。
「それで皇女殿下、もうひと目見て満足されましたかね? 聞いての通りあまりお上品なことが言えない奴なんで、失礼をする前に」
「面白い娘ですね。名前はなんと言うのですか?」
「……ユニット104だそうです。それ以外には『缶詰』や『ポンコツ』と呼ばれていたそうで」
「まぁ、隣国の方々はネーミングセンスというものが無いのでしょうか? 私ならシロちゃんと呼びますけど」
「アッハイ」
『やはり中身はミミなんじゃないか? キャプテン』
シロちゃんという愛称はミミがつけたもので、それが艦内のクルー達の間に浸透している。俺とメイ以外にだが。ちなみにユニット104には不評である。
「冗談ですよ。あまりに安直過ぎますからね。そうですね……貴方は雪のように真っ白ですし、ネーヴェというのはどうでしょう?」
「ネーヴェ、ほう……語感も悪くないな。俺は良いんじゃないかと思うが」
『ネーヴェか。うん、悪くない。シロちゃんよりはずっと良いね。皇女殿下に名前を頂けるなんて光栄だ。無事キャプテンのクルーになれた暁には、グラッカン帝国と皇女殿下のために喜んでベレベレム連邦のクソ野郎どもと宙賊のゴミカスどもを宇宙の藻屑にさせて頂くよ』
「それは頼もしいことですね。そうなってくれるように心からお祈りしておきます。それにしても、ネーヴェは可愛らしいですね。お人形さんみたいです」
『そうなのだろうか? 私は私の外見を知らないんだ。センサーも内側にはついていないし、私はまだうまくものを見ることが出来ないし、身体を動かすこともできない』
機械音声でそう言うユニット104――いや、ネーヴェの身体は焦点の合っていない瞳で虚空を眺め続けている。瞬きはしているが、彼女の言葉通りその瞳には何も映していないようだ。
ポッドから出た直後のネーヴェは髪はボサボサ、手足の末端はぼろぼろ、お肌も水分はともかく質が劣悪と実はあまり見られた状態ではなかったりしたのだが、ショーコ先生とメイによるケアによってそれらは改善し、整えられ、最近はポッドから出た当初に比べればまぁまぁ健康的なお姿に変わっていた。ルシアーダ皇女殿下の仰る通り、お人形さんのように可愛らしい姿になっているのはそのその通りである。
もっとも、口を開けば――実際には開いていないが――語彙が若干お下品というか若干言葉が汚いので、その姿とはかけ離れた印象を与えてくるのだが。
「ええ、可愛らしいですよ。ねぇ? キャプテン・ヒロ」
「そこで何故俺に同意を求めるのかわかりませんが、まぁ見てくれだけは美少女ですね。見てくれだけは。中身と実態は美少女とはかけ離れてますが」
『そこは素直に褒めても良いんだぞ、キャプテン。なんなら私の身体を自由にモノのように激しく使い捨てても良いんだぞキャプテン』
「断る。お前、そういう発言は時を場所を考えろ。これ以上皇女殿下の前で下品なことを口走るならセンサーとスピーカーを切断するぞ」
流石に視線が痛い。皇女殿下から向けられているのは好奇の視線だが、その他――彼女の近衛騎士達やクリス、セレナから向けられる視線が痛い。あまりに痛い。
『おおっと、それは後生というものだキャプテン。わかったよ、お行儀よくするよ。申し訳ありません、皇女殿下。名前を頂いたという感激で舞い上がってしまいました。お許しください』
「ふふ、許します。それにしても、随分とキャプテン・ヒロに心を開いているんですね?」
『皇女殿下、キャプテンは私をベレベレム連邦のクソ野郎どもから解放してくれたし、ポッドからも出してくれた。耐用年数間近の私にこうして治療を施してくれているし、何があっても最終的には私を拾ってクルーとして迎え入れると約束もしてくれた。あのクソ野郎どもに使い潰される部品ではなく、人としての運命を与えてくれるっていうんだよ。だから、私はキャプテンに残っている全てを捧げるんだ』
「そうですか……キャプテン・ヒロ。ネーヴェのことを頼みますよ?」
「仰せのままに。ちゃんと責任を持って面倒を見ますとも」
ルシアーダ皇女殿下に言われるまでもなくそうするがな。拾った以上はちゃんと最後まで面倒を見るさ。他に面倒を見る奴がいないならな。
「……」
クリスがなんとも言えない複雑な表情をネーヴェに向けている。立場と状況が違うが、もしクリスが貴族の娘ではなく、亡くなった両親以外に親族が居なかったならクリスも同じように俺の船のクルーになっていたかもしれないものな。そして、それはクリスが心の底から欲して、諦めた立場でもある。そう考えるとクリスがネーヴェに複雑な気持ちを抱くのも仕方がないのかもしれない。
うん? なんか医療ポッドのセンサーが俺とクリスの間を行ったり来たりしてるな。
『……なるほど。私はこれでも立派な大人だからね。肉体の方はこんななりだけど、少なくとも二十四年は生きている。肉体の治療が無事に終わって、生殖能力も正常に働くようになったら子供の一人くらいは欲しいな。生きた証というものを遺したいんだ。だから、その時はお願いするよ、キャプテン。ちゃんと責任を持って面倒を見てくれるなら安心だね』
「「「……!」」」
突如放り込まれた爆弾は激烈な効果を発揮した。
まず、クリスの顔がぐりん、とこちらを向いた。クリス、怖いよ。その動きと目は怖い。
そしてミミを始めとして女性陣がそわそわしたり、チラチラと視線を送ってきたり、じっとりとした湿度の高い視線を向けてきたりしている。落ち着いてくれ、皆。今はまだその時期ではないと思うんだ。そういうのはせめて拠点を構えてからにした方が良いと思う。ショーコ先生は優秀だし、メイも子供の世話は完璧にこなしてくれるだろうが、それでも航宙艦の中というのは育児に適した環境とは言えないと思うんだ。
そして近衛騎士の皆様。これ見よがしに剣の柄の具合を確かめたりするのはやめませんか? 俺は何も悪くないよね?
「そういう冗談……いや冗談じゃないんだろうが、軽口は身体をしっかり治してから言え。あと、まだ帝国側の対応がはっきりとはわからないから、今後に関してはなんとも言えん。帝国で引き取るって話になるかもしれないしな。あと、お前わざと引っ掻き回してるだろう?」
『ははは。楽しいね、キャプテン』
「俺は楽しくない……クリス、落ち着こう。な?」
「はい、ヒロ様。私、沢山産みますね?」
「早い。その発言は色々な意味で早すぎる。あと手を離そう、な?」
謎の滑るような歩法で俺に近づいてきたクリスが俺の服の裾を掴んで離してくれない。だれかたすけて。




