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#460 もう滅茶苦茶だよ!

考えるな、感じるんだ_(:3」∠)_

 グラッカン帝国の首都星系、グラキウス。惑星一つをまるごと構造体で覆ったエキュメノポリスである帝都を中心として、複数のコロニーを擁するグラッカン帝国の文字通りの中心部にして心臓部である。

 特にエキュメノポリスである帝都のセキュリティは厳重で、無許可での降下を試みるどころか、降下軌道に侵入する素振りを見せただけで駐屯している帝国航宙軍の近衛艦隊から容赦のない無警告砲撃が飛んでくるほどだ。それが帝国航宙軍所属の船であっても。

 そういうわけなので、セキュリティをパスするためにはそれなりに面倒な手続きをする必要がある。まぁ、その辺は前回と同様セレナ大佐がやってくれるそうなので、俺達はこれまた前回と同じようにグラキウスセカンダスコロニーに滞在して降下申請が受理されるまで待つだけだ。

 待つだけなのだが。


「どうも、ヒロ様。あなたのクリスティーナです」

「アイエェ……」


 入港して一時間足らずでドス黒いオーラを身にまとったクリスがブラックロータスに押しかけてきた。助けて。

 彼女の名はクリスティーナ・ダレインワルド。ダレインワルド伯爵家の跡継ぎで、今は伯爵家の跡を継ぐための修行としてコーマット星系の総督をしている……筈なのだが、どうしてか帝都グラキウスに足を運んでいたらしい。

 過去に二度ほど彼女を助けたという経緯があり、彼女からは直球の好意を向けられている。

 しかしまた暫く見ないうちに大人っぽくなったな……背はミミよりも高くなったんじゃないだろうか? 出会った頃はおかっぱに近かった艶のある美しい髪の毛も背中のあたりまで伸びているし、ぺったんこだった体型も女性らしく変化しつつあるようだ。

 でも、とりあえず、その今からあなたを刺しますと言わんばかりに両手で構えている短剣をしまおう? な? ここは平和的に話し合おうじゃないか。


「ヒロ様を刺して私も後を追います」

「取り付く島もない!」

「なーんて……冗談です。冗談ですよ? うふふ」


 そう言ってクリスが笑いながら指先で短剣の先に触れると、短剣の刃がシャコーンと安っぽいバネの音を立てて柄の中に引っ込んでいった。どうやら手の込んだジョークグッズだったらしい。焦った。流石に肝が冷えた。


「でも、私のようないたいけな乙女の純情を弄ぶ悪い人は一回か二回くらい刺されても文句は言えないのではないでしょうか。ヒロ様はどう思います?」

「仰ることはごもっともだと思うが、止むに止まれぬ事情というものがな?」

「私も同じ薬を打ったら良いですか?」

「どこまで聞いてるんだ……? やめようね?」


 クリスなら本当にやりかねないので諌めておく。割と手段を選ばないというか、行動が火の玉ストレートな子だからな、この子。初めて保護した時も一人で俺の部屋に訪ねてきたりしたし。勿論「そういう」意味で。

 助け舟を呼ぶべく休憩スペースでこちらの様子を窺っている連中に視線を向けてみる。


「……ぴゅー、ひゅひゅー」


 ミミは露骨に目を逸らして吹けてない口笛を吹いている。主犯と認定。


「いいわよー、やれやれー」


 ポンコツ酒クズ宇宙エルフは俺とクリスのやりとりをつまみにして呑んでやがる。ゆるせねぇ。


「んまぁ、年貢の納め時っちゅうかなんちゅうかな」

「流石にまずいんじゃないかな……」


 ティーナ、諦めるな。諦めたらそこで色々と終了なんだよ。あとウィスカはいつもこういう時に常識的な判断をしてくれるよな。愛してる。でも見てないで止めてくれないか?


「……」


 どうしてクギさんはにこにこしながら静観してるんですか? 君の主の危機だよ? どうして尻尾フリフリしてるの?

 メイとショーコ先生はそもそもこの場にいない。ユニット104につきっきりのショーコ先生はともかく、メイが飛んでこないということはきっと然程危険はないのだろう。ないのか? 本当か?


「セレナ大佐の件については本当に止むに止まれぬ事情が……というか薬の件を知ってるってことはクリスも事情の大半を理解してるよな?」

「事情に理解を示すのと、私が事実に憤慨して抗議するのは別の問題だと思いませんか? ヒロ様」

「はい、ごもっともです」


 ぐうの音も出ない反論であった。


「OKOK、クリスの怒りはよくわかった。だが年齢の問題があるだろう? 流石に未成年には手を出せないからな。そもそも伯爵閣下が俺のような傭兵風情とクリスがそういう関係になるのをお許しにならないだろう」

「未成年であることとお祖父様のことが片付けば良いんですね?」

「……ちょっとタンマ。少し落ち着こうじゃないか」


 猛烈に嫌な予感がした俺はクリスを止めることにした。俺が彼女の年齢とダレインワルド伯爵の話を出した瞬間、オニキスのように美しいクリスの瞳に勝利を確信した煌めきを感じたのだ。


「ヒロ様は私の正確な年齢をご存知ですか? ご存知ではないですよね?」


 クリスがそれはもう楽しそうにウキウキとした様子で俺に聞いてくる。ここで自信満々に十三歳か十四歳くらいだろ? と言えれば良かったのだが、彼女の公式な年齢を調べた覚えはない。彼女の体格から出会った当初は十二歳か十三歳くらいだろうと思っていたのだが、思えば彼女に年齢を直接尋ねた覚えもない。


「実は私、ミミさんとは半年ほどしか歳が離れていないんです。私の言いたいこと、わかりますよね?」

「貴族パワーで誤魔化したりとかは……?」

「してませんし、できませんよ。貴族籍の情報なんてそんな簡単に書き換えられるわけがないです」


 そう言ってクリスは彼女の小型情報端末に表示されている彼女自身のIDを見せつけてきた。確かに成人済みである。なるほど。


「わかった。年齢の件をクリアしているのはよくわかったよ。その様子だと伯爵閣下の了解も取り付けているんだろ? だとしてもだ。俺はそんな軽々に女性に手を出すような男じゃないから」

「ええと、今この船にはヒロ様以外に何人のクルーがいましたっけ?」

「七人かな」

「……全員とそういう関係ですよね?」

「……そうだね」

「もう一度先程の言葉を仰って頂けますか?」

「……」


 さて、旗色が悪くなってきたな。よし、逃げるか。

 俺は振り返り、逃げ出した。しかしその俺の腰に後ろから激突してくるものがあった。悪質なタックルである。俺は為す術もなく転倒した。ズベシャッ、と真正面から倒れることにはなったが、両腕を使ってなんとか受け身は取った。


「逃しませんよ」

「ク、クリス……随分素早くなったな?」


 振り返った肩越しにクリスがにこりと笑みを浮かべる。


「跡取りになるためにしっかりと強化手術を受けましたから」

「OKわかった、降参する。降参するから話し合おう」


 そう言って俺は床に突っ伏した。クリスに連絡が行ってるって時点でこうなる気はしていたんだ。腹を括ろう。


 ☆★☆


「セレナ大佐もそうなんだが、そうまでして俺に拘るのは……いや、嬉しい。嬉しいよ? そうまでして求めてくれるのは男冥利に尽きるよ? だけどこう、障害が色々と多いだろう? 身分差とか、世間体とか、貴族としての責務とか、実家の意向とかさ。更に言えば俺がひとところに縛られるのが嫌いで、自由な傭兵生活を好んでいるというのも周知の事実じゃないか。相手としてはかなり無理目だと思うんだけど……いや嬉しい、嬉しいから。クリスの好意はとても嬉しいから。本当に」


 休憩スペースにて対面で話し合いをしているのだが、俺が座っているソファが一人がけで、他の面々が複数人がけのソファで尚且つ俺を半包囲するような状態になっているのは何事なのだろうか? なんだか裁判中の被告人か何かみたいな気分なんだが。


「ヒロ様の懸念はよくわかりました。ですがご安心ください。ヒロ様の懸念は全て解決済みと言っても過言ではありません」

「その心は?」

「まず、身分差や世間体に関してですが、ヒロ様が一等星芒十字勲章を受勲して名誉子爵となった時点で問題ありません。それに、伝え聞いた話では今回のイクサーマル家の造反とベレベレム連邦の侵攻においても帝国航宙軍と共に殊勲を挙げられたとか。一層のこと問題ありませんね」

「な、なるほど。でも俺に貴族の責務を果たせと言われても無理だぞ?」

「その点はご心配なく。貴族としての責務は私が果たします。そのためにお祖父様も私を鍛えてくださっているのです。つまり、お祖父様は他所から婿を取って伯爵家の運営を任せるのではなく、私自身に伯爵位を継がせ、伯爵領を切り盛りさせると決めた時点で、既に私の伴侶としてヒロ様を婿に取る心づもりでいたのです」

「な、なん……ま、マジで?」


 俺の言葉にクリスが自信満々で頷く。流石にこれはたまげた。いや、まぁ、確かによく考えれば年端もいかない、とはいえ貴族家の当主としての教育を始めるには少し時期を逸しているであろうクリスに星系の総督を任せ、領地運営について現場で学ばせるというのは若干不自然だったかもしれない。

 それならばしっかりと領地運営を学んだ貴族の子弟を婿として迎え、クリスにその補佐をさせたほうが確実だし、苦労も少なかったことだろう。

 しかし、あの謹厳なダレインワルド伯爵が殆ど最初から俺をクリスの婿にするために動いていたというのか……? 信じがたい話だが、辻褄が合っていないというわけでもない。


「それに私はヒロ様を縛り付けたりはしません。私のところにちゃんと帰ってきてくれるなら、それで良いんです。ヒロ様の夢は安全な惑星上居住地に家を建ててのんびりすることですよね? それならダレインワルド伯爵領のどこにでも土地を提供できますし、ダレインワルド伯爵領の防備はほぼ完璧と自負しています。帝都に住むということであれば一等市民権などが無ければ惑星上居住地に住むことは難しいですが、ダレインワルド伯爵家の領地内ならいくらでも融通が利きます」

「た、確かにクリスなら俺の望むことは全てわかってるよな……それなら――」

「ちょっと待ったぁーーーーーーッ! 抜け駆けは許しませんよ!」

「ちっ」


 いくつかの事が同時に起こった。

 まず、大声とともにセレナ大佐が休憩スペースに駆け込んできた。そして駆け込んできたセレナ大佐の空中タックルを横合いから受けて諸共に俺とセレナ大佐がソファの上から吹っ飛んだ。そして誰かの舌打ちが聞こえた。もしやクリスだろうか?

 更に、休憩スペースにぞろぞろと人がなだれこんできた。腰に剣を佩いた女性近衛騎士を引き連れた少女の顔はとても見覚えのあるものであった。具体的に言うと、ミミと瓜二つだ。


「そこまでです! この争いは皇帝陛下の孫、このルシアーダが預かります!」


 もう滅茶苦茶だよ! 誰か助けてくれ!

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― 新着の感想 ―
た、確かに言われてみればミミとクリスは15と12の距離感じゃなかったし、確認してないけど多分年下だよなというヒロの主観が徹底されていた
ヒロが初期の段階から「一緒にいたいのなら貴族だろうが平民だろうが地位も名誉も捨てて俺の船に乗れ。ただし周囲を説得して両親を納得させてからだ」と言わなかったのが悪いな。
ちゅうてもそれぞれのタイミングで助けないって選択肢はないからなあ
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