#045 お勉強タイム
作業も一段落したから更新再開するよ!
久々かつちょっと体調が今一つだから短いのは許してね!_(:3」∠)_
セレナ大尉、もといセレナ少佐の来訪から数日。俺達は基本的にクリシュナの中に篭ったまま各自トレーニングに励んでいた。
ミミはオペレーターとして訓練を進め、エルマはそのサポート。俺はというと。
「ううむ、貴族こわい」
エルマに勧められて……というか半ば強制されてグラッカン帝国の貴族関連のトラブルや仰天エピソードをドキュメンタリー映画風に撮影したホロ動画を視聴させられていた。
エルマ曰く。
『あんたの貴族に対する態度が怖すぎる。最悪クルーもまとめて無礼討ちなんてことも有り得るんだから勉強なさい』
とのことで、最初は面倒くさいなぁと思っていた俺だったのだが、視聴を進めるうちに貴族のヤバさというものがわかってきた。
ダントツでヤバいのはグラッカン帝国の貴族は正当な理由さえあれば貴族以外を殺害しても罪に問われない、という。点だろう。
この正当な理由というのが曲者で、グラッカン帝国に仇なす者なら~とか、侮辱を受けたなら~とか記述が非常に曖昧だ。ぶっちゃけていうと恣意的な運用がいくらでも可能な上に、それを判断するのも基本的に貴族自身。
他の貴族の領地だと判断するのはその領地の貴族ということになるので多少は慎重になるようだが、貴族は基本的に貴族の味方である。利権その他いろいろな理由で敵対でもしていない限りは。
なので、貴族に対してナメた態度を取っているとスゴイ=シツレイ! 無礼討ちイヤーッ! グワーッ! という感じにばっさりやられてもおかしくはないというわけだ。
とはいえ、そんあ貴族もあまりに横暴にやりたい放題やっていると、帝国政府に目をつけられて『グラッカン帝国に仇なす者』という理由でお咎めを受けることがあるのだそうだ。
帝国臣民はグラッカン帝国皇帝の大事な資産でもあるし、人口減少は帝国の国力減少に他ならない。それに横暴な者をのさばらせておくと帝国貴族の品位が落ちる、ということらしい。
そう、帝国貴族は何より品位と誇りを大事にする。平民相手に過剰に威張り散らし、無礼討ちを繰り返すような貴族は他の貴族からの評判が落ちて爪弾きにされるのだそうだ。
日本生まれの俺にはなんとも評価がし難いのだが、その辺りのバランスが絶妙に保たれて今のグラッカン帝国は成立しているというわけだな。腐敗が始まるとバランス崩壊まっしぐらなんじゃないかと思うんだが、そうなっていないということは腐敗を防ぐ強固なシステムがあるのだろう。
☆★☆
「貴族ヤバいな」
俺の勉強の様子を見に来たエルマに素晴らしく豊かな語彙でそう言うと、エルマは呆れたかのように溜息を吐いた。実際呆れているんだろう。
「そうよ、貴族はヤバいのよ。だから言葉遣いには気をつけなさい」
「今後は善処する。でもセレナ少佐には今更じゃないか?」
「そうかもしれないけどね、用心に越したことはないわよ。腰に剣を差してるのは大体帝国貴族だから注意しなさいよ」
「なるほど」
帝国貴族にとって腰に差した剣は貴族の誇りの証であるらしい。侍の刀みたいなもんだと考えれば良いのだろうか。
「グラッカン帝国の貴族は基本的に善人が多いからそこまで心配はいらないはずだけどね……中には洒落にならないくらいの愚物もいるから。できることなら関わらないのが一番よ。まぁ、向こうも用事がなければ傭兵なんかには近づかないでしょうけど」
「そうなのか?」
「普通の平民と違って傭兵は大体レーザーガンを持っているし、戦闘技術も修めている場合が多いし、何より重武装の船を持っているでしょう? 下手にトラブルを起こして逆上されると向こうも困るわけよ。実際、あんたなら貴族が斬りかかってきてもレーザーガンで応戦できるでしょ? いざとなったら船に乗って大立ち回りだってできるわ。こっちが貴族を恐れているように、あっちも傭兵を恐れているのよ」
「そうなのかー。まぁ、抵抗もろくにできない草食動物ならともかく、場合によっては鋭い牙で反撃してくる肉食動物にわざわざちょっかいはかけないよな」
「例えが微妙だけど、そういうことね。でも、さっきも言ったけれどだからといって貴族に対して失礼な態度を取るのはやめなさいよ」
「前向きに善処する。ばっさりやられたくはないから」
貴族の持っている剣がどのようなものかは知らないが、あんなものでぶった斬られたら痛いでは済まないだろうということは想像に難くない。
「それにしても、やっぱり予想通りだったわ。もっと早く気づくべきだったわね」
エルマが苦虫を噛み潰したような表情をしながら首を振る。一体何だというのか? 俺の表情から俺が何を言いたいのかを察したのか、エルマは再び口を開いた。
「記憶喪失にしても別次元からの転移者にしても、どっちにしろ一般常識が欠如しているってのはよく考えればわかることだったわ。一般的な常識や教養をつけさせる訓練をもっと早くすべきだったと思ってね」
「悪意がないのはわかっているが、馬鹿にされている気分だ……」
この世界の一般常識なんて知らないよ! ステラオンラインにはそこまでの描写なんてなかったんだからな! 俺は俺の世界の常識しか知らん。
「俺からすればこの世界の常識のほうが特異に見えるんだけどな。なんだよ男の船に女が乗ったらそういう関係になるのが当たり前とか。それなんてエロゲ?」
「今はハイパードライブの性能が上がったから恒星間移動の時間もかなり短縮されたけど、一昔前は一度ハイパースペースに入ったら抜けるのに一ヶ月二ヶ月は当たり前だったのよ? 荒くれの多い傭兵が女を自分の船に乗せて一ヶ月二ヶ月二人きり、なんて状況で何もありませんでしたなんてことになると思う?」
「思わない」
そんな状況で手を出さないのはよほど複雑な事情を抱えているんだと思う。そもそも勃たないとか。
「そういうことよ。だから、傭兵の男の船に女が乗る場合はそういう覚悟をして、同意してるのが普通ってのが常識になって定着したわけ。慣習や常識にはそうなるだけの歴史があるのよ」
「なるほどなぁ……まぁ勉強は頑張るよ」
「そうしなさい。きっと無駄にはならないわよ」
エルマが微笑む。この歳になって一般常識の習得し直しは辛いけど、頑張ろう……しかしエルマさんや、教材が幼児や児童向けのものばかりなのはなんとかならんのかね?
☆★☆
「本日よりこの艦隊の戦術アドバイザーに着任したキャプテン・ヒロだ。よろしく頼む」
勉強などをしながら更に一週間が過ぎた。体調などにも問題はなく、勉強や訓練も滞りなく進んだ。
もっとも、俺が勉強をしていたのは最初の二日間だけで、その後はセレナ少佐から送られてきた対宙賊独立艦隊のデータを細部まで読み込んだり、そのデータを使って色々とシミュレーションをしてみたり、傭兵ギルドのシミュレーターで実際に動かしてみたり、逆にクリシュナのデータで戦ってみたりしていたわけだが。
「この艦隊はセレナ少佐の指揮のもと、宇宙の害悪以外の何ものでもない宙賊共を一人残らずスペースデブリにするために活動すると聞いている。そういうのは得意だ。だから今回アドバイザーとして招かれたわけだな」
そう言ってだだっ広いブリーフィングルームに集まっているクルー達を見回す。あちこちには他の船のブリーフィングルームの様子も映し出されている。ライブ中継されているようだ。
「俺は奴らの狩り方、騙し方、追い詰め方を教える。あんた達はそれを自分の中で噛み砕き、吸収して実際の艦隊運用に反映していく。傭兵の俺の戦い方をそのままあんた達が取り込むことは不可能だと思うが、参考になる点はきっとあるはずだ。同じ敵を追う戦友として互いに尊重していければ良いと思っている。俺からの挨拶は以上だ」
俺の挨拶が終わったタイミングでクルー達が拍手をしてくれる。うん、下手な挨拶にお情けありがとうよ。さぁて、それじゃ頑張っていきますかね。