#452 そんなエロ漫画みたいなことある? まことに?
待たせたわね!!!( ˘ω˘ )
「単刀直入に言うとだね。ヤっちゃいなよって話なんだ」
メディカルベイ――医務区画兼ショーコ先生の研究室に俺がダッシュで到着し、顔を合わせるなりヤブ医者……じゃないショーコ先生はそう言って俺に向かって拳を突き出し、指の間から親指の先を覗かせて見せた。これ以上無くわかりやすいサインである。
「やめなさい。というか、色々とすっ飛ばし過ぎている。說明をしてくれ、說明を」
「えー? 面倒だし結局ヤることになるんだし良くないかい?」
「良くないから」
唇を尖らせてぶーたれるショーコ先生のフィグ・サインをペシッと手で払ってやめさせ、毅然とした態度で說明を求める。セレナ大佐の様子は……相変わらず呼吸が浅く、荒いな。顔も赤いし、熱もありそうだ。ぼんやりしているが、目の焦点も定まっていないように見える。
「まぁ、鎮静剤が切れるまでもう少し時間があるか……ええとだねぇ、まず結論から言うと大佐を蝕んでいたのはナノマシン製剤だ。それに関してはもう無力化したし、他の薬剤に関しても一通り無害になるように処理した。後は本人の代謝能力と異物除去インプラントに任せる形で良いね」
「それなら話を聞く限り、全て解決して俺の出番は無いように聞こえるんだが? というか、異物除去インプラントと強化された肉体の代謝能力で無効化できなかったのか?」
「まず勘違いを訂正しておくけど、いくら身体の代謝能力が高かろうと、異物除去インプラントがあろうと、ナノマシン製剤の前には無力だから。自己複製能力のあるナノマシンが一ユニットでも体内に入ったら、目的を達するまで増え続けて止まらないからねぇ。異物除去インプラントがいくらフル稼働しても体内のどこかで増え続けるんだから、ナノマシンそのものを無力化しないといずれオーバーフローを起こしてしまうわけだよ。まぁ、このインプラントがあったからこそ、ここまで保ったんだけどね」
「なるほど。それがどうしてえヤッちゃえに繋がるのかが全くわからんが?」
「それに関しては私に文句を言われてもねぇ。そういう趣味の悪いナノマシン製剤を大佐に注入した外道に言って欲しいかなぁ。採取したナノマシンのコードを見る限りは十中八九宙賊製だね。相当悪辣な品だよ?」
「……鎮静剤とかでどうにかならないのか?」
「結論から言うと、大佐が耐えられない。本当に悪辣な品でねぇ、身体と脳をもう弄り終わってるんだよね。カウンター用のナノマシン製剤は作り始めてるけど、出来上がるのにどんなに急いでも丸一日はかかる。鎮静剤でそれまで寝かせておくことはできなくもないけど、何もしなかったらその頃には大佐は天国行きだね。いや天国イキかな?」
「しゅ、趣味が悪いにも程がある……それに、丸一日だって? 今の状況でそんなに時間なんて取れないぞ。なんというかこう、いい感じにどうにかならないのか?」
「なるならしてるよ」
そう言ってショーコ先生が肩を竦めて見せる。それはそう。ショーコ先生ならどうにかできるならどうにかするだろう。わざわざ俺をハメる……いやハメさせる? 意味も無いだろうしな。
「それにしても冗談みたいなクスリだな……どういう需要があるんだよ」
「需要はあるんじゃない? 大佐みたいなタイプの女性の尊厳を徹底的に破壊するのには向いてると思うよ」
「頭が痛くなってきた……満足すれば良いだけならこう、大佐に自分でなんとかしてもらうとかは?」
「それならわざわざヒロくんを呼ばないよ。私が医療措置を取れば良いだけなんだから。直截に言うと、男の人とアレしないと収まらないようになってるんだよ」
「そんなエロ漫画みたいなことある? まことに?」
「それに関しては私に文句を言われても困るって言ったよね? 宙賊の趣味の悪さは今に始まったことじゃないでしょ」
「それは……そうだな」
四肢を取っ払って愉快で『使える』オブジェにするだとか、それに飽き足らず内臓を改造してクスリを垂れ流すようにするだとかに比べれば、際限なくムラムラして致さないと死ぬ……くらいならまだマシな方か? マシか? 本当にマシか?
「そろそろ鎮静剤が切れるから、助けるか見殺しにするか決めてね」
「言い方。本当に他に方法はないのか?」
「少なくとも私には思いつかないねぇ。ああ、もしかしたらヒロくんのをシリンジに入れて大佐の」
「わかった。わかったから少しだけ考えさせてくれ」
まだそっちのほうがマシか? と一瞬思ったが、そんなことをするくらいなら大佐は自分で自分の首でも切りそうな気がする。貴族の持つ剣なら難しいことじゃないからな。
とにかく、今まで大佐とそういう関係になることは避けてきた。何故かと言えば、彼女が大貴族の令嬢で、帝国航宙軍の高官でもあるからだ。俺としては今の傭兵生活を続けたいし、彼女とそういう関係になることでミミ達との仲が変わってしまう――最悪、引き離されるのではないかという懸念があったからな。
それが今ではどうか? まぁ、立場を考えればそこまで一方的にやり込められるような立場でも無いように思う。傭兵ギルドは進んで宙賊を狩って回り、帝国航宙軍や帝国そのものに貢献して覚えのめでたい俺を手放したくはないだろうから、全面的に俺を守ろうとするだろう。
帝国法的にも俺は名誉爵位とは言え貴族なので、起こったセレナ大佐のパパやママやグランパやグランマ、或いはブラザーやシスターに斬り殺されるということは……無いとは言えないが、決闘なら受けて立とう。そうだ、決闘だ。最終的に剣と暴力で全てを解決してしまえば良いのでは? なんか白刃主義者みたいなことを考えている自分に若干戦慄を覚えないでもないが、最終手段としてはアリだろう。
というか、そもそもの話。俺はセレナ大佐を見捨てられるのか?
無理じゃないか? 無理だな。なんだかんだでセレナ大佐とは長い付き合いだし、憎からず思っている。というか、普通に好きだ。隙が無くて狡猾な帝国軍人としてのセレナ大佐も、私生活ではぼっちでぽんこつなセレナ大佐も。面倒な立場さえ無ければとっくに俺からアプローチしてただろう。
うん、よし。心は決まった。
「だから言ったじゃないか、結局ヤることになるって」
「先に言っておくけど、面倒事になるからな。その時にはショーコ先生にも大いに苦労してもらうからな」
「ふふん、望むところ――うぁんっ!?」
自信満々に胸を張るショーコ先生にイラッとしたので唐突に乳を揉んでやった。ふふん、隙ありだぜ。
「それじゃあ大佐は連れて行くから。とりあえず大佐に関しては救急治療中で面会謝絶ってことにして対応しておいてくれ」
「ぐぬぬ……仕方ない、お姉さんがうまい具合にやっておいてあげようじゃないか」
「よろしく」
そう言って俺はセレナ大佐をお姫様抱っこの形で抱き上げ、俺の部屋へと連れて行くのだった。
え? ここで? いや流石にここではちょっと……ムードもクソもないし、後で我に返ったセレナ大佐に怒られそうだから。
☆★☆
流石に俺も鎮静剤で意識も定かではない状態のセレナ大佐に手を出すほど非道ではない。非道ではないので、とりあえずは彼女をベッドの上に寝かせてシャツの胸元なんかを緩めてやりつつ、喉が渇いているかもしれないからと水のボトルなどを用意したりと甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
そうしているうちに鎮静剤が切れ始めたセレナ大佐の意識が少しずつはっきりしてきた。それはもう可愛らしく甘えてきたので、望むままに頭を撫ででやったり、抱きしめてやったりしているうちにキスをしたり、身体を触り合ったりと内容がエスカレートしていって、最終的にはセレナ大佐に押し倒された。
それはもう情熱的だったね。流石に身体強化しているだけあって体力は凄い。まぁ、例の趣味の悪いクスリの影響か、それともセレナ大佐の感度が元々良かったのか、攻撃力と体力が高くても防御力が低かったのですぐに経験の差を理解らせてやったけど。
そうしてくんずほぐれつした結果、遂に彼女は完全に我を取り戻したわけなのだが。
「いっそ殺して下さい……むしろ死にます」
「そうしないために一肌脱いだんだからやめてね?」
完全に我を取り戻したセレナ大佐は枕に顔を埋めて完全に自分の殻に閉じ籠もってしまっていた。俺はそんな彼女の横に片肘を付いて横臥し、彼女の背中を撫でつつ苦笑しているわけだが。
「ううっ……こんなっ、こんな形でぇ……あの男、何が何でも絶対に殺してやります」
「理想的な形ではないかもしれないけど、結果だけを見れば良かったじゃない。俺は後悔してないし、大佐は可愛かったし、満足だよ」
「……セレナって呼んで下さい。あと頭を撫でて下さい」
「はいはい、セレナは可愛いな」
枕に突っ伏したまま我儘を言うセレナの頭を撫ででやる。そうしていると彼女の心も多少は落ち着いてきたのか、ころんと横に転がって俺に背中をくっつけてきた。
「ここはお互いに顔を合わせて話すところじゃないか?」
「……恥ずかしいですし」
「なら仕方ないな」
お互いに特に言葉を発さず、暫し互いの体温を確かめ合う。うーん、まぁ、苦労に見合ったご褒美ではあるか? とはいえこれから降り掛かってくるであろう災難を考えると、採算が全く合わない気がするな。
「良かったんですか。私みたいな面倒くさい女に手を出して」
「根に持ってるなぁ。まぁ、後悔はしてないとだけ。こうしないとセレナが死ぬって話なら面倒くらい飲み込むさ」
「え? 死ぬってどういうことです?」
「あのまま放置したらどんなに強靭な精神力や体力があろうと、鎮静剤で誤魔化そうと天国行きだったらしいよ」
「あ、あの男なんという劇物を打ってくれているんですか……! それで、もう治ったんですよね?」
「いや、まだ。今は落ちいついただけ」
「は?」
「セレナの身体はデイビットに打ち込まれた胡乱ナノマシン製剤で定期的に致さないと悶死する身体に作り変えられてしまってるから、このままだとまた耐え難い衝動に苛まれる。ただ、今うちのドクターがその身体を元に戻すカウンターナノマシン製剤を作ってるから。それを打てば治せるらしい。なおその薬が出来上がるのは今から二十時間以上後だ」
「この状況下でそんな時間はありません」
ぐるりとこちらに向き直ったセレナの顔が軍人のものに戻っている。そりゃこんな話を聞けばこうもなるわな。
「治療のためにブラックロータスから出られないから、ここから指示を出すってことにするしかないだろうな。この物資集積基地の掌握はそろそろ終わるだろうけど、その後の情報分析と戦場への移動でそれくらいの時間はかかるだろ? 最終的には戻ることになるだろうが、それまではこの船にいるしかないだろうな」
「どうにかならないんですか?」
「薬の開発を早めるのは無理っぽいな。衝動に関してはどれくらいの間隔で来るのかわからんが、解消するには相手が必要だ。その相手を他の奴に譲るつもりはない。だから諦めてくれ」
「そ、それは……むぅ」
相手が必要という言葉の意味を理解してくれたのか、セレナが唸って黙り込む。
「私……面倒な女ですよ?」
「知ってる」
上目遣いでこちらを覗き込んでくる紅い瞳を見据えながら思わず笑ってしまう。本当に今更だ。
「良いんですか?」
「そうじゃなかったらこうしてないから」
「独占しようとしますよ?」
「できるならどうぞご自由に。ただし、ミミ達に手を出すような真似だけはやめてくれよ? その時にはデイビットやヴィンセントみたいな連中が量産されることになるから」
「それは肝に銘じておきます……これまで以上に付きまとってあげますからね。覚悟をしておいて下さい」
「イエス、マム」
俺はセレナの宣言にそう返事をして彼女の額に軽くキスをした。




