#438 帝国航宙軍の艦隊運用思想
短いけどキリが悪いのでここで( ˘ω˘ )
「というわけで再編成と配置は完了しました。再編成した分隊は既に所定のハイパーレーン突入口を封鎖するために移動を開始しており、作戦開始時間も設定済みです」
「了解。で、俺達の役割は勢子ってわけか」
セレナ大佐とその副官氏が持ってきたデータを休憩スペースのホロディスプレイで確認する。作戦内容は単純で、要は網を張ってのローラー作戦である。前にも同じような作戦をやったが、結局のところ潜伏したりそこらを飛び回ったりしている宙賊どもを根絶やしにするならこれが一番確実な作戦なのだ。
で、勢子というのは狩りなどにおいて獲物を追いかけてハンターが潜伏しているキルゾーンに獲物を追い立てる役割のことである。つまり、猟犬ポジションである。ワン。
「無論、ローラー役は貴方達だけではありませんよ。うちの艦隊のコルベットやフリゲート、駆逐艦で構成した分隊も作りましたから、彼等と連携して事に当たって貰います」
「ああ、かなり増員されたんだったよな」
「はい。貴方に言われて上には再三要請していましたからね。幸い、帝国航宙軍は巡洋艦や戦艦を主軸とした高火力主義を採用しつつあるので、コルベットや駆逐艦は若干『余り』気味です。そこで他の艦隊からのお下がりになりますが、駆逐艦以下の小型艦を多く集められたというわけですね」
「高火力主義ねぇ……大艦巨砲主義の言い間違えと違うか? まぁ正解だとは思うけど」
実際のところ、距離を空けての真正面からの射撃戦をやるというならデカい砲と分厚い装甲と猛烈な弾幕を張れる大型艦が強いのは間違いないからな。俺のクリシュナだって遮蔽物になる小惑星とかが全く無い空白宙域で巡洋艦や戦艦を相手に真正面から戦ったら勝ち目がないし。
そりゃ対艦反応弾頭魚雷をぶちこむなり、至近距離で艦橋やジェネレーターなんかのバイタルパートに散弾砲を撃ち込むなりすれば戦艦だって撃破できるが、そもそも撃ち込める距離に近づく前に消し炭にされてしまうからな。距離を無視したショートジャンプとかができるなら話は変わるのだろうが、残念ながらそんなトンデモテクノロジーとかサイオニック能力の持ち合わせは無い。
で、基本的にレーザー砲などの光学兵器というのは回避が困難である。回避ができないならシールドと装甲で耐えるしか無いわけで、そうなると相手より分厚いシールドと装甲で時間を稼ぎ、可能な限り強力な砲火力で押し切られる前に押し切るという戦い方が正解となる。なので、帝国航宙軍の艦隊編成が戦艦と巡洋艦に偏っていくのは自然といえば自然なのだ。
「何か思うところが?」
「いや、別にないよ。正解だと思うって言ってるだろ? 結局長射程高火力を横に並べて一斉射撃が強いのは二次元上での戦闘でも三次元上での戦闘でも変わらないってこった」
無論、並べるにしても並べ方は重要なわけだが。目標が分散していればいるほど相手が再照準するのに時間がかかるわけなので、多数の戦艦や巡洋艦が投入される大規模航宙戦においては殊の外陣形と連携が重視される。敵の火力の分散を狙いつつ、こちらは火力を集中して速やかに敵の火力を削っていく。オーバーキルはロスなので、適切な火力を相手に叩き込むのも大事だ。その辺りがどれだけ最適化されているかによって被害と戦果に馬鹿にならない差が生じる――のだという。
残念ながら俺はプレイヤー同士の大規模戦とかにはあまり縁のないプレイをしていたから、聞き齧った程度の知識なんだよな。たまに撹乱要因としてちょろっと参加したりはしたけども。
「話がちょっと脱線したな。ええとそれで掃討についてだが、特に意見とかは無いな。堅実な内容だから文句のつけようもない」
「本当ですか? 何か気を遣って口を噤んでいるのなら、遠慮はいりませんよ?」
「いや、だから何もないって。俺をどういう目で見てるんだ、大佐は」
「いつもは何かとケチをつけてくるじゃないですか」
「いやつけてないが。つけてないよな?」
そう言ってミミとエルマに視線を向けると、二人とも微妙な表情をした。なんだよその反応は。
「ミミが言いづらそうだから言うけど、編成されている艦種が目的とアンマッチだとか、宙賊相手ならああしたほうがいい、こうしたほうがいいって大体いつもケチつけてると思うわよ。そもそも、今回対宙賊独立艦隊の戦力を小分けにして配置したほうが効率が良いって言って再編成させたのもそうじゃない」
「……正直すまんかった」
俺にジト目を向けてきているセレナ大佐に素直に頭を下げて謝った。俺は悪いと思ったことは素直に謝る素直な人間なので。
「別に良いですけどね。貴方の語る対宙賊戦術論は帝国航宙軍の艦隊運用ドクトリンで凝り固まった私の頭には良い刺激になりますし。うちの古参メンバーは艦隊の立ち上げ時に貴方から伝授された戦術で宙賊を狩ってきたという実体験もありますから、不満も最小限です。新入りの面々からはいち傭兵の意見で云々と不満が上がってきてますけど」
「それはすまん。言ってる内容はガチだから許して欲しい」
「そうあることを祈っていますよ。これで戦果が上がらないどころか艦隊に致命的な損害が発生したら……ふふ。私はいい笑いものです」
黒い、笑顔が黒いよ大佐殿。これは暗に思うような戦果が上がらなかったらデカい貸しだぞと言いたいのだろうか。だが俺はそんな脅しには屈しない。
「じゃあこれで大戦果が上がったら、俺は大佐の名誉を守った立役者ってことだな」
「そうですね、報酬分の働きは存分にしてくれたということで傭兵ギルドにはその点よく伝えておきましょう」
互いに笑顔を交わしあう。こちらの攻撃が見事に避けられた気がする。やっぱこっち方面では本物の貴族にはかなわんな。
「OKOK、俺の負けだ、まぁよほどのポカをやらかすか、何らかのイレギュラーが無い限り失敗は無い。何にせよ安泰だと思うよ」
「そうだと良いんですけどね。貴方がそう言うとどこはかとなく不安感が込み上げてくるのは不思議ですよね」
「そこまでの責任は負えねぇよ……」
いくら俺があらゆる類のトラブルを引き寄せる体質だとしても、俺が直接手出しができない場所で起こることまでは責任は持てない。なんでもかんでも俺のせいにされるとか、俺は天狗じゃねぇんだぞ。
 




