#436 情報分析と面白い人達
船作るの楽しい!( ˘ω˘ )
「本来はあまり直接的なデータのやりとりというのはしていないのですが」
「ですが?」
ギルド職員のお姉さんが連れてきた上司のお姉様にそう聞くと、彼女は軽く溜息を吐きながらカウンターの上に小さなデータチップを差し出してきた。小型情報端末にも対応しているデータ媒体だ。
「相手がプラチナランカーなら話は別です。どうぞ。ただ、生のデータと分析中のデータになりますので、このままでは役に立てるのは難しいですよ?」
「そこはこっちで分析するから大丈夫。うちのオペレーターは優秀なんでね」
そう言いながら俺はデータチップを小型情報端末に挿入し、データに軽く目を通す。
オペレーターとして一人前になったミミはこういった情報を分析して宙賊の活動範囲やねぐらの位置を特定するだけのスキルを身に着けている。いざとなったらメイもいる。なんとでもなるだろう。まぁ、この辺りの分析というかあたりをつけるのは俺も得意なんだが。
「ははぁ……なるほど? この感じだと、奴らのねぐらはもう一つお隣のザイラム星系っぽいな」
データをざっと眺めてそう言うと、ギルド職員のお姉さんと上司のお姉様が目を丸くして俺の顔を凝視してきた。なんだよ、その反応は。いきなりガン見されると引くんだが。
「キャプテン・ヒロはデータ分析にも明るいのですか?」
「いや、分析なんてそんな難しいことはできないが。経験と勘みたいな? ほら、こことこことここで襲撃が起きてて、このルートを通ろうとしている商船が何隻か行方不明になってるだろ? で、この二つの襲撃は未遂で、星系軍が出動してる。それはこの消えた商船がこの辺りを通る時間とほぼ同じで、この襲撃未遂は囮だな。こっちで星系軍を引き付けて、ここで仕事をしてるんだ。で、この星系軍は本来この後の時間にザイラム星系へのハイパーレーン突入口付近で警備する予定だったのが、この襲撃のせいで配置につくのが大幅に遅れてる。ザイラム星系側でも同じような星系軍の艦隊が介入する襲撃未遂が起きていて、僅かな時間だが双方の星系のハイパーレーン突入口付近の警備が手薄になってる。ただ、ザイラム星系側で行方不明になってる船はない。ということでこの一連の襲撃未遂事件と消えた商船の関連性が判明するわけだ。ついでに仕事をしたのがボークス星系で、その上がりを持った連中がザイラム星系に移動していることも示唆してる」
端末から小型のホロスクリーンを立ち上げて宙賊の動きを解説する。
「で、同じような流れの囮襲撃と消えた商船がこれで一つ、これで二つ、これで三つ。つまり連中はこの流れでの襲撃手段を確立してるってわけだ。で、ここからわかることは少なくとも宙賊にボークス星系軍とザイラム星系軍の巡回ルートがバレてるってことと、このルートを通る商船のルートを特定する手段を持ってるってことの二つだな。内通者が情報を流しているのか、情報が流れてくるように何かしらの細工をされてるのかはわからんが、確実に漏れてる。まぁそこの原因追求はどうでもいい。俺達にとっては重要な問題じゃない。重要なのは、これを逆手に取れば奴らを叩けるってことだ」
と、そこまで解説したところでギルド職員達に視線を向けると、二人とも口を半開きにしてぽかんとした表情を俺に向けているところであった。おい、興味がありそうだったから折角解説してやったのに、ちゃんと聞いてたのか? というか、妙齢の淑女が二人揃って口を半開きにして固まるんじゃない。せっかく二人とも結構な美人さんなのに台無しだぞ。
「いや、恐れ入ったねぇ。ヒロくん、もしかして科学者としての素質があるんじゃないかい?」
「まさか。俺は頭を使うのはそんなに得意じゃないよ。これは経験則による職人の勘めいた何かだし、科学的なあれこれとか統計学的なあれこれとか数字的な裏付けがどうのとかそういうのは全く無いから。多分合ってるだろうけど」
「ヒロってたまに変なところで変なスキルを発揮するわよね」
「変じゃないが???」
ショーコ先生とエルマの発言に対応していると、上司のお姉様が手を上げて発言を始めた。
「いえ、あの、すみません。今のもう一回、もう一回聞かせてもらっても良いですか? というか記録させてもらっても良いですか? 今後の参考に」
「えぇ……? あまり時間は取られたくないんだが」
何か凄い熱量で頼み込んでくる上司のお姉様の熱量に思わずドン引きする。面倒事は御免なんだが。
「少しだけ、少しだけですから。ほら、データをお渡しするわけですし、そのお返し的な意味で。どうかお願いします」
「確かにここまでのデータをまるっと傭兵ギルドに提供してもらうのは通常の範囲を超えた支援かもしれないが、それでもまだギリギリギルドの通常業務の範囲だろ。それで恩を着せようってのはちょっと厚かましくないか……?」
「不足なら私が個人的に一晩付き合いますから。おまけでこの子もつけます」
「おまけ!? 私の意思は!?」
「いや、お二人とも美人だから食指がピクリとも動かないって言ったら嘘になるけども、そういうのは間に合ってるんで大丈夫です」
「しかも断られた!? あの、先輩、私の尊厳的なものが私の意思をよそに滅茶苦茶にされてる気がするんですけど!?」
上司のお姉様におまけとして諸共に貞操を差し出されそうになったギルド職員のお姉さんが愕然としたり憤慨したりしている。面白いなこの人。
「というか一晩付き合いますとかそういうのはアカンでしょ。職業倫理とかどうなってんだよ」
「先輩、女性を三人も侍らせている人が正論でパンチしてきていますよ。私もそう思います、先輩」
「確かについつい職業倫理的にマズい手法に頼ろうとしてしまったことは認めますが、まさか女性を三人も侍らせている人にそう言われるとは夢にも思いませんでした」
「あぁ、ちなみに船にもあと三人……いや四人いるよ」
「どうしてそんな人が正論でパンチしてくるんですか? おかしいと思いませんか?」
ショーコ先生、余計なことを言うんじゃない。メイをちゃんと一人としてカウントしてるのは良いことだと思うけど。あと上司のお姉様は真顔で聞いてくるんじゃねぇ。そういう事を言うならこちらにも考えというものがあるぞ。
「よーし、その喧嘩買った」
「すいませんごめんなさい取り乱しました許して下さい」
笑顔を浮かべながらげんこつを握り締めてみせると、上司のお姉様が平謝りしてきた。まぁ本気でぶん殴ろうとしたわけじゃないけど。
「別に本気で怒ったわけじゃないが……どうしてそんなに必死なんだ」
「有り体に言うと、先程の分析が今までに聞いたことがない革新的な内容だったからですね。襲撃箇所の傾向からある程度の襲撃予測地点を割り出す手法はありますが、精度が今ひとつなんです。ですが、先程披露して頂いた分析手法を確立して体系化できれば、今後の宙賊被害を減らせる重要な一手になるかもしれません」
「なるほど……? いやそんな大したもんじゃないと思うが……?」
この世界では科学技術がこれだけ進んでいるんだから、宙賊の襲撃頻度や確率なんかをもっと効率的に分析する方法がいくらでもありそうなものなんだが。というか、俺が披露した程度のことは軍とかの戦術を学べるようなところでいくらでも教えてそうな気がするんだが。いや、セレナ大佐も最初は宙賊対策なんて全く出来てなかったもんな。意外とこういうことを教えるような機関がないのか? 宙賊関連の物品を高値で買う宙賊研究家みたいな連中は存在するはずなんだが。
「まぁいいや。二人のやりとりはちょっと面白かったから解説はもう一回聞かせるよ。ただ、ギルド内で俺の解説を何かに利用するなら、元が俺の解説だってのと、なにか成果が出た場合には相応の便宜を図ることを忘れないでくれ」
「後者は確約できませんが、前者に関しては必ず」
「後者の方が主題なんだが……まぁ良いや。もう一回解説するぞ」
俺はもう一度先程の解説を繰り返し、ついでにギルド職員のお姉さんが持ち出してきた解決済みの宙賊襲撃の案件についても簡単に分析してみせた。その結果、俺の導き出した宙賊の襲撃場所の予測やねぐらの位置の予測の精度が高いことが改めて確認された。
「この案件、何度も商船が襲撃されて解決まで二ヶ月近くかかったのに……」
「これがプラチナランカー……」
「いやプラチナランクが関係あるかは知らんが」
このへんはSOLでの経験がモロに活きてくるところだからな。俺が凄いと言うよりかは、宙賊の行動パターンがSOLのものと一致しているだけなんだと思うが。その辺がどうしてそうなのか考えたり追求したりするのは俺の手には余るね。
俺の分析手法を理解して確立させればギルド内での出世に役立ちでもするのか、やる気を出している上司のお姉様を放置し、適当に別れを告げて傭兵ギルドを後にする。実に個性的な二人だったな。今後関わり合いになることは無さそうだが。
まぁ、何にせよ情報は手に入った。恐らくボークス星系はただの狩り場で、ザイラム星系も本拠地ではなく戦利品の集積場である可能もあるが、どう対処するかはセレナ大佐に投げておけば良いだろう。今回の狩りのリーダーはセレナ大佐なんだから、その辺の判断は彼女にしてもらわないとな。
 




