#433 状況整理と方針提示
明日は! スターフィールドの発売日!_(:3」∠)_
今回の件の何が問題なのか? ということでセレナ大佐から話を聞いてみる。俺があのクソ皇帝の勅命で投入されたってことは、奴のお楽しみ以外にもきっと意味はあるはずだからな。ただの道楽でこんなことはすまいて。流石に。
で、セレナ大佐に聞いてみると彼女は自称宙賊どもの活動を制限し、可能であれば撃滅したいのだが、奴らが活動している星系は出入りできる場所が多く、対宙賊独立艦隊一艦隊だけでは網を張って封鎖することが不可能であるし、戦艦や巡洋艦などの足の遅い艦を擁しているので速度を求められる追跡などが難しいということであった。
参考までに今までの話を聞いてみると、惜しい案件は複数あった。救難信号をキャッチして現場に急行したが到着した時には全て終わっていただとか、超光速航行中の怪しい艦隊を発見したが戦艦や巡洋艦を擁する対宙賊独立艦隊よりも相手の方が足が早くて追いついてインターディクトをかけることすらできなかっただとか。
「案の定というかなんというか、戦艦と巡洋艦が足を引っ張ってるな」
「あまり意地悪を言うと泣きますよ? 良いんですか? 大声で泣きますよ?」
「どういう脅し方だよ……別に使い途がないわけじゃないから。というわけで俺が考えた作戦を伝授しよう」
「一応言っておきますが私は帝国航宙軍の大佐で、それに相応しい戦略・戦術レベルでの軍事的知識を持っていますし、相応の教育を受けていますからね……?」
セレナ大佐がジト目を向けてくる。その背後で控えている彼女の副官殿も俺に興味深げな視線を送ってきている。それはそう。彼女達は軍事のプロで、佐官に上り詰めたりその副官になったりするほどのインテリだ。アカデミーで学んだわけでもない傭兵如きに作戦を伝授などできるのか? と思われても、まぁそれは妥当な疑問であると言わざるを得ない。
「その軍事的な知識や教育が常識だとか定石だとかそういったものを作って思考の自由度を狭めるんだ。もっと柔軟に、単純に考えれば良いんだよ」
「言いますね。では教えてもらいましょうか、貴方の考えた作戦というやつを」
「つまりだ。一艦隊で手が回らないなら戦力を割って分艦隊を作れば良いんだよ。そうすれば網も晴れるし、擬似的にチョークポイントを作ることも可能だろう?」
「……なるほど? でも、それは……いや……?」
俺の言葉を聞いたセレナ大佐が口元に手を当てて考え込む。きっと彼女の生体強化された頭脳が超高速で回転を始めているのだろう。
つまりアレだ。問題は連中が自由に動ける範囲が広過ぎるのと、足の速さが違い過ぎることの二点なのだ。そこで足の遅い戦艦や巡洋艦を小分けにしてハイパーレーン突入口に配置し、自称宙賊どもが他の星系へと移動するのを阻害すると同時に、多星系からジャンプアウトしてきた艦隊をブロックする。それだけで奴らの行動範囲を大幅に制限することができる。
ハイパードライブの起動には超光速ドライブの起動とは比べ物にならないほどに時間がかかるから、自称宙賊どもが星系内から超光速航行でハイパードライブ突入口にワープアウトしてきてからハイパードライブを起動してハイパーレーンに逃げ込む前に戦艦や巡洋艦でスキャンして撃破することが可能だし、逆にハイパーレーンからジャンプアウトしてきた艦に対してはスキャンを強制して、それを拒否したり無視したりして超光速ドライブを起動しようとした艦には問答無用で主砲の大口径レーザー砲をぶちこんでやれば良い。
帝国航宙軍の戦艦や巡洋艦の主砲を食らって無事でいられる小型、中型艦なんてのはまずいない。というか、クリシュナでもハイパーレーンから出たところを帝国航宙軍の戦艦や巡洋艦に出待ちされたら詰む。遮蔽も無ければ即座に距離を詰めることもできないような状況では主砲の射撃から逃れる術は無いからな。
斉射を喰らえば最低でもシールドは一撃でダウンさせられるだろうし、シールドが完全にダウンすれば超光速ドライブを起動することもできなくなる。シールド無しで超光速航行中にデブリと衝突した場合致命的な損傷が避けられなくなるため、シールドがダウンした状態ではセーフティが働いて超光速ドライブが起動できなくなってしまうからな。
「あの、艦隊戦力の分散配置というのは帝国航宙軍の戦闘教義上禁忌なのですが……?」
「宙賊相手には役に立たない。そんなものは投げ捨てろ。その戦闘教義ってのは対ベレベレム連邦だとかの星間国家軍対星間国家軍を想定したものだろう? 相手は軍の運用基準で言えばフリゲート一隻とコルベット二隻でも対処できるような小勢なんだぞ」
副官氏が発言を求めるように片手を小さく挙げて進言してきたが、俺はそれを一蹴した。俺達は普段傭兵基準で大まかに小型艦、中型艦、大型艦、母艦などと戦闘艦を区別しているが、軍の運用基準で言えば中型艦以下は全てコルベット判定だし、母艦や大型艦はフリゲート艦だとか駆逐艦といった判定になる。どちらも軍用艦としては最小か、そのひとつ上くらいのサイズの艦となるだろう。小型艦の一部はもう軍用艦というより艦載戦闘機枠だしな。
まぁそれは今はいい。重要な問題ではない。問題は、セレナ大佐までもがその戦闘教義に引っ張られて艦隊戦力を小分けにして運用するという発想が出てこなかったことである。
いや、まぁ多少は理解はできる。この世界での軍対軍の戦闘というのはどれだけシールドや装甲が分厚くて砲の威力が高い艦の頭数を揃えるかというものだからな。
レーザー砲というものは宇宙空間においては特に射程が長く、命中力もほぼ百発百中と言って良い代物だ。武器そのものの威力やシールドや装甲の性能に圧倒的な差がない限りは基本的に頭数が多い方が勝つことになる。そうなると、艦隊運用上というか戦闘教義上で戦力の分散配置が禁忌となるのも当然である。何せ頭数が少ない方が各個撃破されるわけだから。
「前線に近い宙域で戦力を分散配置するのは少々怖いですが、貴方の言うことは理解できました。実行は可能ですし、効果もあるでしょう。あとはうちの駆逐艦以下の船で星系を洗っていって、最終的に網を狭めて追い込むわけですね?」
「そうだな。狩っていけばどこかのタイミングでクリティカルな情報も得られるだろうから、そうなったらとっとと頭を潰しても良いだろう」
撃破した自称宙賊艦からデータストレージを引っこ抜いて解析するなり、自称宙賊を捕らえて尋問するなりしてしまえば自称宙賊どもを指揮している連中が隠れている場所もそのうち割れる。そいつらを潰してしまえば組織立った後方撹乱も終わらせられるに違いない。もしかしたらもっと厄介なことが判明したりするかもしれんが。
「あとは網を張る位置の選定だな。そもそも網を張っても中に獲物がいないんじゃ話にならん。今までに遭遇した宙域や被害が出た宙域、行方不明になっている商船の位置なんかを洗って……って感じの情報分析はそっちの方が得意だろ」
「そうですね。それが終わったら貴方達にも働いてもらいます」
「どうぞご随意に。そういう連中を追いかけ回すのには慣れてるんでね」
とはいえ、今回は連中の装備が良いという話だからあまり油断もできないけどな。まぁ、エルマのアントリオンがいれば、足の遅いブラックロータスやセレナ大佐の対宙賊独立艦隊の分隊が現場に到着するまでの足止めには不自由はしないだろう。船に戻ったらその辺りの打ち合わせをエルマやメイとしっかりしないといけないな。
☆★☆
セレナ大佐との初回のミーティングを終えた俺達はブラックロータスへと戻り、クルー達を集めてミーティングの内容を共有した。
「なるほどなぁ。つまりうちらのやること自体はいつもと変わらんってことやね」
「そうなるな。装備は多少良いようだから注意は必要だが、やること自体はいつもと変わらん。二人は忙しくなるだろうけど」
「装備が良いならそうなりますね。頑張ります」
ウィスカが自分の胸の前でぎゅっと拳を握り込んで意気込む。俺達の懐がどれだけ潤うかは二人にかかっているところもあるので、ぜひ頑張ってもらいたい。
「うーん……気になったのだけど、帝国航宙軍は何故こういった敵少数戦力の浸透に対応する戦術を持っていないのだろうねぇ?」
「効果が薄いからどの宇宙帝国もこんな手を使うことは殆どないんだよ。後方撹乱って言っても民間からの嗜好品の類の補給が若干滞るだけで、帝国航宙軍が担っている兵站そのものを破壊するほどのものじゃない。それが行えるだけの戦力を前線を超えてこちらに浸透させるのは不可能だからな。できて精々嫌がらせ程度にしかならない」
実際、被害に遭っているのは嗜好性の高い食品などを前線に運ぶ民間船ばかりで、前線の維持に必要な武器弾薬や食料品などの補給物資を輸送する帝国航宙軍の輜重艦隊は襲撃されていない。ベレベレム連邦はそれなりのコストを払っている筈だが、その成果は前線に届く嗜好品が若干減って兵士達がほんの少し苛ついたりする程度のものだろうと思う。
「なら、なんでベレベレム連邦はそんな手を打ってきたんだろうねぇ?」
「それは奴さんにしかわからないだろうなぁ……何が狙いなのかを調べるのも含めて、この件をまるっと解決するのがセレナ大佐の任務なんじゃないかと俺は思うね。実際のところ、セレナ大佐の対宙賊独立艦隊の任務は後方を撹乱する自称宙賊の討伐で、前線で起こっているベレベレム連邦との小競り合いとは無関係というか、そっちの頭数には入れられてないっぽいし」
これはミーティングの後の雑談というかセレナ大佐の愚痴で直接聞いたことなので間違いない。前線に来たのにうちの任務は後方撹乱を企てるチンケな連中の相手だけで、前線で戦っている同僚連中と挨拶した時には『所詮は人気取りのためのお飾り艦隊ですなぁ』みたいなことを遠回しにネチネチと言われたとかなんとか。大佐殿の機嫌があまり良くなかったのもその辺が原因だろうな。
「ぶっちゃけこの件とイクサーマル伯爵家の不穏なアレが繋がっているかどうかもわからんし。俺はイクサーマル伯爵家が裏切ったりするんじゃないかと今でも疑っているけど、セレナ大佐もエルマもそれだけは絶対に有り得ないって言うしな」
「そりゃそうよ。いくら追い詰められて落ち目になっているとはいえ、イクサーマル伯爵家が帝国そのものを裏切るメリットなんて一切ないんだから」
「だとさ。まぁ因縁のある相手だから何かしらの嫌がらせを受けたりする可能性はある。ただ、その場合はセレナ大佐の名前を出しても良いって言われたから」
「私達は傭兵だけど、ここから暫くはセレナ大佐の指揮下に入ることになるわ。立場上はね。だから、もしイクサーマル伯爵家の連中が私達にちょっかいを掛けたら、それは同時にセレナ大佐に喧嘩を売るってことにもなるわけ。だからそうそう手出しはしてこないと思うわ」
こういう貴族方面の知識というか立ち回りとか考え方については本当にエルマは頼りになるよな。いや、他の方面でも頼りになるんだけども。
「我が君、今回は我々も宙賊を捕縛するのでしょうか?」
「あー、まぁ生きていたら捕縛するのも吝かではないな。情報源は多ければ多いほど良いし。それがどうかしたか?」
「いえ、もし尋問などもするのであれば此の身がお役に立てるかと。少し無理をすることになりますが、手早く知っていることを喋らせることもできますので」
「ああ、なるほど……その時は頼む」
「はい!」
クギが頭の上の狐耳をピンと立てながらふんすふんすと意気込む。確かにクギのサイオニック能力を使えば拷問したり、素直になるお薬を使ったり、機械を使って脳味噌の中身を直接見たりするよりも手早く『自発的に』知っていることを吐かせることも可能だろう。
俺もその手の攻撃から自分の心を守るための精神防壁の構築を習得するためにクギから何度もその術を喰らいまくったからな……アレで色々と自白させられたからな、面白がったクルー達に。あの術をマスターしたらいつか俺も同じ事をしてやろうと思う。オラッ! 催眠ッ! って感じで。
もっとも、あれはなかなかに高度な術であるらしいし、俺に習得できる日が来るかどうかはわからんのだが。どうも俺のサイオニック能力の素質は時空間操作系と念動力を始めとした物理的なパワーを発揮する系が強いようで、クギが得意とする精神操作系の素質は無いこともないが、他二つに比べると若干劣るらしい。
まぁ、今のところ完全に使いこなせる能力なんてないんだけどな! 息を止めると時間の流れが鈍化するのは具体的にやろうと思ってやってるわけじゃないし、数奇な運命を引き寄せるヤツは意識して使ってないから。精神防壁は意識すれば使えるようになったし、ちょっとした念動力は使えるようになったけども。念動力も極めると触れもせずにパワーアーマーを着用した兵士をぶっ飛ばしたり、引き裂いたり、拳大に圧縮したりできるらしいからな。それなんて化け物? って感じだけど。
「とりあえず、今後の動きに関してはセレナ大佐の準備が整うまで待機ってことで。情報の再分析と編成に少し時間がかかるそうだから」
俺の結論に皆がそれぞれ了解の意を示す。メイは俺の後ろに控えて何も喋っていないが、何も喋っていないということは特に突っ込むような点も無かったということだろう。
それならそれでよし。出撃に備えて暫くの間英気を養うことにしますかね。




