#431 近況報告
成し遂げたぜ( ˘ω˘ )(AC6、3周クリア
帝国航宙軍クリーオン星系物資集積基地――という字面だけを見ると、物資コンテナが沢山積み上がっている平和な基地という印象があるかもしれない。しかし実際のところどうかというと、これはもう要塞である。宇宙要塞である。
この物資集積基地はクリーオン星系に存在する唯一のステーションであり、周辺星系に展開している帝国航宙軍や貴族諸侯の軍に対する補給任務を担っている重要拠点である。当然ながら、敵対するベレベレム連邦軍から見た場合には重要な攻略目標となるわけで、それに対抗するために大変に強力な武装化を施されているというわけだ。
まぁ、物資集積基地に関してはこのクリーオン星系だけでなく周辺星系にも点在しているので、真っ先に狙われる基地なのかというとそういうわけでもないのだが。
「なんというか、物々しいところですね」
俺達が乗っている車両の後部座席の窓から外の様子を見たミミが率直な感想を述べる。
物資集積基地に辿り着いてすぐにセレナ大佐にお出迎えされた俺達は、彼女が用意していた軍事車両で彼女の船である戦艦レスタリアスに向かって移動していた。
「そりゃガチガチの軍事拠点だしね。民間人とか殆どいないんじゃない?」
同様にチラリと車外に視線を向けたエルマがミミの発言に応える。
補給と休暇のために寄港した軍人向けの店というのも殆ど無いみたいだものな。前にエッジワールドに行った時に乗った大型補給母艦のドーントレスには民間人も沢山乗っていたし、それに応じて色々と羽目を外せる店舗もあったりしたんだが……この物資集積基地にはそういったものは無いように思える。
「ここは前線に近いですからね。民間人を入れると相応に鼠も入り込むことになりますから」
俺達と向かい合って座っているセレナ大佐がそう言いながら肩を竦めて見せる。確かに、彼女の言う通り民間人が容易に出入りできるような環境だと、ベレベレム連邦の工作員なんかもポンポン入ってきそうだものな。前線に近い物資集積基地にそんなのが入り込んだ日には大変だ。補給物資にBC兵器やら爆発物やらを仕込まれたらたまらない。
「で、わざわざ速攻で俺達をエスコートしに来たのにはどんな理由があるんだ?」
「その話は船に着いてからしましょう。それで、あの後またクルーが増えたりしたんですか?」
「なんでだよ……別に増えてないよ。そんなポンポコクルーなんて増えるもんじゃねぇよ」
「三年後に増える予定はあるけどね」
「三年後? どういうことです?」
「十二歳の女の子にそういう約束をですね」
「うわぁ……」
セレナ大佐がいかにもドン引きしましたという目を俺に向けてくる。流石に温厚な俺もこれにはキレそうですよ?
「身体も出来上がっていない子供を連れて行くのは無理だから穏当に断っただけだ。というか、多感な時期の女の子なんだし、三年も経つうちにそんな約束忘れて他にやりたいことを見つけるだろ。それを見越しての対応だっての」
「それでも三年後には迎えに行くのよね?」
「口約束でも約束は守る主義だ。様子を見に行くくらいするのは当たり前だろ。なんだかんだでリンダには身体を張ってもらったんだからな」
件の十二歳の少女――リンダはリーメイプライムコロニーーでパンデミックを起こしていた菌に対する強い耐性を持っており、特効薬を作るのに身体を張ってもらったという経緯がある。それに伴ってコロニーを治める貴族から報奨も頂いたので、その分け前を与えもした。ティーナと縁のある娘でもあるし、三年後に様子を見に行くくらいの義理は果たしても良いだろう。
「あの様子だとしっかり三年間ヒロ様を待っているんじゃないかと思いますけど」
「そんなことないだろ。リンダとはそんなに接点も無かったし、三年もあれば俺のことなんて忘れるさ」
そう言うと、ミミとエルマだけでなくセレナ大佐まで俺に呆れたような視線を向けてきた。どうしてだよ。
「オーケー、わかった。この話題が俺にとってアウェイなのはよくわかった。だから他の話をしよう。セレナ大佐、今回ここに来るにあたってミミが酒とかの嗜好品の類を仕入れてブラックロータスに積んできたんだが、捌くのに協力してくれないか」
「ああ、ブラックロータスに積んできた程度の量であればうちの艦隊で引き取りますよ。幸いなことに予算はありますから」
「それは嬉しいが、良いのか?」
「前線では予算があっても好きなだけそういったものを手に入れられるわけじゃないんです。補給物資の割当量は決まっていますからね。貴方達から調達する分には軍の割当量は関係ないので」
セレナ大佐が悪い笑みを浮かべる。それで良いのか、帝国軍人。いや、割り当てられている予算を使って正当な値段で物資を手に入れる分には別に何の問題もないのか。明らかに不当な値段で俺達に利益を供与したり、逆に俺達から搾取するような形になったほうがよくないんだな、これは。
「それじゃあこの件に関しては後でそっちの補給担当と話をすれば良いか?」
「そうしてください。ミミさm……ミミさんの端末に連絡が入るようにこちらで調整しておきます」
「はい、セレナ大佐。よろしくお願いします」
今ミミのことをミミ様って呼びかけたな。セレナ大佐はミミが皇帝陛下の姪孫であることを知っているからな……思わず呼びかけて、慌てて言い直したな。
そんなやり取りをしている間に車両がレスタリアスが停泊しているエリアへと到達し、俺達は車両を降りてレスタリアスに乗艦する。ちなみに、今回レスタリアスに出向いているのは俺とミミ、それにエルマの三人だ。メイはブラックロータスの掌握ともしもの時のために居残ってもらっていたほうが安心だし、整備士姉妹とショーコ先生は足を運ぶ理由が無い。そしてクギはいざという時にテレパシーで俺と情報をやり取りするために残ってもらっている。俺もクギに教えてもらって簡単なテレパシーくらいは使えるようになったからな。もっとも、まだクギとしかやり取りができないから、完璧に習得できたってわけじゃないんだが。
「……」
無骨な軍事車両から降り、エレベーターのような大型のタラップを使ってレスタリアスのハッチへと移動していると、セレナ大佐がジロジロと俺の格好を頭の天辺からつま先まで眺めてきた。
「なんだよ」
「ちょっと身嗜みをチェックしていただけです。代わり映えのしない格好ですが、ちゃんと略章ではないゴールドスターと銀剣翼突撃勲章をつけているのは褒めてあげます」
「そいつはどうも」
褒められている気が全くしないが、一応礼を言っておく。一応軍事施設だからな。多少のハッタリにはなるだろうと思って結晶生命体とやり合った時に貰った勲章はちゃんとつけてきたんだよ。これをぶら下げて剣を腰に差していれば相手がよほどのパッパラパーでない限りそうそう絡まれることも無いだろうからな。
俺の知っている帝国航宙軍の兵隊ってのは誰も彼も真面目な堅物って感じの奴が多いんだが、そんな奴ばかりじゃないってのもわかってるからな。事前にトラブルを避けられるならそれにこしたことはない。
それに、この物資集積基地には帝国航宙軍の兵士だけでなく招集されている諸侯軍の連中もいる。諸侯軍というのは貴族が自前で用意している兵隊連中だ。その殆どは普段は貴族が統治している星系内で治安を維持する星系軍として活動している連中であるはずだが、そんな奴らの中にも荒くれ者ってのは一定数存在する。中には軍隊というよりかは愚連隊といった方が適切な連中も存在するので、用心するに越したことはない。
そうだ、丁度良い。セレナ大佐にその辺りのことを聞いておこう。
「ところで前線というか、この基地の雰囲気はどうなんだ? 変な連中が幅を利かせていたりしないと助かるんだが」
何気ない話題を振ったつもりだったのが、俺の言葉を聞いた瞬間セレナ大佐の表情がスッと抜け落ちた。怖い。チビるかと思った。
「正にそれが船に着いてから話そうとしていたことです」
「なるほど。つまりあまりよろしくないってことなんだな」
「そういうわけでは……いやそういう……うーん」
セレナ大佐が難しい顔で言葉を濁す。本当に複雑な状況みたいだな、これは。つまり、その辺りが今回の厄介事の種ってわけだ。名前は忘れたが、見覚えのあるセレナ大佐の副官らしき女性士官も苦笑いを浮かべている。ロビットソン大尉のことはよく覚えているんだが、この人の名前はなんだったかな。
「率直に言うと、ちょっと我々とは因縁のある貴族が現在この基地を含めた周辺星系の防衛を担っているというか、有り体に言うと被害担当になっていまして」
「どういうことだよ……懲罰部隊的な感じで前線で磨り潰される担当になってるってことか?」
「ああ、その言い方は実にしっくり来ますね。正にそんな感じです。その貴族というのがイクサーマル伯爵です」
「へー……? 誰だっけ、それ?」
俺がそう言うと、セレナ大佐がコケた。ついでにエルマが深い溜息を吐いて、ミミと女性士官さんは苦笑いを浮かべた。女性士官さんはそれだけでなく頬を引き攣らせていたが。
「覚えていないんですか? 本当に?」
「いやまったく。聞き覚えがあるような気もしないこともないような……?」
「それって覚えてないってことですよね……? コーマット星系で生物兵器相手に切った張ったしましたよね? まさか忘れてませんよね?」
「ああ、嫌がる俺をセレナ大佐がテラフォーミング中の惑星に無理やり連れて行った時のことね。あの恨みは忘れてないぞ」
「そんな小さいことをいつまでも気にしないでください。その時に追っていたのだがイクサーマル家の人間だったでしょう?」
絶対に小さいことじゃないんだが? あの経験のせいでニンジャアーマーを買う決意をしたんだが? いや、まぁ今重要なことじゃないのは認めるけども。
「そういやそんな名前の不良貴族めいた何かを追い詰められるぜフィーヒヒヒってセレナ大佐が邪悪な笑みを浮かべていた気がするな」
「私はそんな品のない笑い方をしませんがっ!?」
「そうだったカナー? よく覚えてないナー」
フシャー! と怒った猫のように威嚇してくるセレナ大佐から目を逸らして誤魔化しておく。たしかそんな感じだったと思うんだが、興味がなかったし今後関わることもないと思っていたからあまりよく覚えていないんだよな。
しかし、そうなると俺とセレナ大佐の行動によって皇帝陛下あたりからお叱りを受けた貴族家がこの辺りで幅を利かせているってわけか。こりゃ厄介事だわ。そしてそんな場所にセレナ大佐と俺を放り込むあのファッキンエンペラーマジで許せねぇわ。




