#426 めんどうくさいおはなし
PS5でサイバーパンク2077を再プレイし始めたらやっぱり面白くて止まらない( ˘ω˘ )
「えっ? そんなことになっとるん!?」
「あぁーっ!?」
アイリア達が施設へと戻り、皆で揃って晩飯を食いつつ今日あったことの情報共有中にティーナが素っ頓狂な声を上げた。うん、素っ頓狂でもないかな? 自分の友人が貴族に一目惚れされたとか聞いたらそりゃびっくりするよね。
ところで君の隣でお酒の入ったジョッキをひっくり返されて涙目になっている妹さんのことは放置して良いのか?
「ど、どうしよ兄さん!? アイリアにはよ連絡入れなあかんよね!?」
「いや、放っておけよ……互いに子供じゃないんだし、何らかの形で上手く折り合いはつけるだろ」
「せやかて兄さん! お貴族様に迫られたら平民の女なんてそうそう断れへんやん!」
「あーっ!?」
「あぁっ!?」
ティーナが食堂のテーブルに手を叩きつけて吠える。うん、もう少し手加減してくれんか。このクソでかいテーブルがアニメの過剰演出みたいに一瞬たわんで卓上が凄いことになってるから。皿が舞ったから。 ミミの夕食にクギのおいなりさんもどきがダイブして大変なことになってるから。ついでに俺の食事もなんか溢れたりなんだりと色々酷いことになってるから。
「落ち着け。そりゃそうかもしれんが、そこで俺達が介入するのはなんか違うくねぇか? そりゃハルトムートが単にアイリアをオモチャにしてやろうって感じで無茶するなら、俺だって介入することは吝かじゃないぞ? でも、あれはどう見てもそういう感じじゃなかったんだよ。一回レイディアスの養子にしてとか言ってたし。貸しがあるとも言ってたから、ハルトムートにとって他の用途にも切れる札を切ってまでってなると……俺はちょっと邪魔しにくいな」
ハルトムートとは既に一緒に仕事をしている仲だしな。あいつは誠実なやつだし、貴族の嫡子でコロニーの代官でもあるということで、地位も金も持ってるし、顔も良い。身分の差は大変だろうが、あいつ自身がそうと決めたなら好きにすれば良いと思うんだ。
一度レイディアス準男爵の養子にするとしても、そもそもアイリアが貴族としてやっていけるのかとか心配なことは多いけどな。
というか、ハルトムートは婚約者がいたりしないのかね? 子爵家の嫡男ともなれば子供の頃からの婚約者とかいそうだし、いるとすればアイリアをどうするつもりなのだろうか。側室みたいな感じにするのか? それとも愛妾みたいな? 現地妻的な? あいつがその辺どう考えているのかは確かに不透明だが、それを含めて俺達が関わるようなことではないと思うんだよな。
「兄さんは……」
「うん?」
「兄さんはアイリアが貴族のボンボンの慰み物にされてもええっちゅうんか!?」
「話が通じねぇ!? 酔っ払ってんじゃないのかこいつ!」
まだ一口か二口くらいしか酒を飲んでいないはずなのに、どうしたんだティーナは。
「なんというか、アイリアが絡むと途端にポンコツになるなお前は。アイリアがティーナにとって大切な人だってのはよくわかったよ。でも、繰り返し言うがアイリアは十分に良い大人だろう? ハルトムートにお付き合いを申し込まれたとして、それを受けるか断るかを決めるのはアイリアであって、アイリアが心配で心配でたまらないティーナちゃんじゃないだろうが?」
「せやから貴族にそんなこと言われたら断りたくても断られへんやろってうちは言うてんのや。下手すると恥をかかさせたってことでバサッとやられるで」
「そりゃ確かに公衆の面前でお断りされたら赤っ恥だろうが、それで逆上して相手をバサっとやったらそれ以上の赤っ恥だぞ……そもそもそんなことをする男じゃないと思うが」
「ぐぬぬ……ああ言えばこう言うな!?」
「そりゃお互い様だろう……」
どうにもティーナはアイリアが絡むとおかしくなるな。精神的に不安定になるというかなんというか……それにいつにも増して帝国貴族への不信感が凄い。ティーナがこのリーメイプライムコロニーに居た頃はレイディアス準男爵がコロニーの代官をしていたんだろうけど、その時に何かあったのかね?
「オーケーオーケー、じゃあ俺が折れるよ。俺がハルトムートに言い聞かせれば良いんだろ? アイリアは慎み深い模範的な帝国臣民だから、子爵家嫡男のハルトムートに交際やそれ以上のことを迫られた場合、彼女の意に沿わなくても頷いてしまう可能性が高いって。で、そのあたりをよく考えてやってくれって。そう言えば良いよな?」
「……それだと貴族のボンボンがアイリアにつきまとうのは止められへんやん」
「それくらいは許してやれよ……俺だってハルトムートのことをよく知ってるわけじゃないが、人を好きって気持ちなんて他人がどうこう言っても抑えられるものじゃないだろ? 外野にできることなんて、精々これくらいのアドバイスが限度ってもんだと俺は思うがね。むしろ、無理矢理邪魔なんてしようものなら、より一層燃え上がりそうな予感しかせんぞ」
「……」
俺の言葉に納得してくれたのか。ティーナは俯いて言葉を発しなくなってしまった。気がついたら俺達二人以外のクルーは他のテーブルに避難してこっちを眺めている。お前ら、俺を矢面に立たせて逃げるなよ……俺が逆の立場でもそうするから責めたりはしないけど。
「うぅ……」
「うん?」
「ふぐ……うっ……うえぇぇぇ……」
「どうして泣くんだよ……」
突然泣き始めたティーナを前に思わず頭を抱える。助けてくれとエルマ達に視線を送ってみるが、首を振られたり手でバッテンを作られたり、ペコペコと頭を下げられたりした。俺がどうにかしろってことですか。そっかぁ……まぁ泣かしたの俺だもんね……俺なのか……?
「ティーナはこのコロニーに来てから情緒不安定だなぁ。おめーはほんとによー」
頭を掻きながら席を立ってティーナの隣に座り、背中を撫でてやる。
「兄さんわがまま言ってごめぇぇぇん……うぇー……」
「はいはい……ええんやで」
ティーナが俺にしがみついて泣きじゃくる。見た目が見た目だけにティーナに泣かれると罪悪感が……こんなナリですけど普段は火をつけたら簡単に燃え上がるような酒をスポドリの如くガバガバ飲む大酒飲みなんですよ。この子。
「そう泣くなって。別に怒ってないから」
そう言うと余計泣かれた。こりゃもう泣き止むまで黙って背中でも撫ででやるのが一番良さそうだな。
☆★☆
「お疲れ様」
「うい」
泣き疲れて寝た……というわけではないが、泣いてちょっとおめめが腫れぼったくなったりなんだりでお隠れになられたティーナをウィスカに任せ、食堂に戻ってきた俺をエルマ達が出迎えてくれた。
「色男も大変なんだな」
「俺が色男なものかよ……あー、腹減った」
リンダの言葉に肩を竦めつつ、冷めた晩飯をモソモソと口に運ぶ。流石にテツジンの料理でもこう冷めてしまうと今ひとつだな。それでも食うけど。勿体ないから。
「実際のところ、アイリア姉が貴族のお坊ちゃんの奥さんになるとか可能なのかね?」
「お坊ちゃんって、お前よりずっと歳上だぞ……俺は別になんとでもなると思ってるけど、その辺どうなんですかね、子爵家令嬢のエルマさん?」
「そこで私に聞くわけ? 私はその子爵家から単身飛び出して傭兵なんてやってる跳ねっ返りなんだけど」
「えっ……エルマ姐ってそういう……え? マジ?」
「本当ですよ。帝都にこーんなおっきいお屋敷があるんです」
ミミがバーっと大きく腕を広げて大きさを表現する。そりゃ大きそうだな、うん。
「そんなにはデカくないでしょ……ブラックロータスのほうが遥かに大きいわよ。で、実際のところどうかって話よね。まぁ、問題ないわよ。当然血筋について何か言われることはあるだろうけど、レイディアス準男爵の庶子ってことにでもしてしまえば側室に入るくらいはなんでもないんじゃない? レイディアス準男爵のご家庭が大変なことになるかもしれないけど、それでハルトムートに借りが返せて、何らかの便宜が受けられるってことならそれくらいの不名誉は喜んで被るでしょうね」
「しょし?」
「庶子というのは、高貴な身分の方が正式な配偶者でない方との間に作った子供という意味の言葉ですね」
「つまり、アイリア姉を前の代官の子供ってことにするってこと?」
「そういうこった。養子にするよりはそっちの方が通りは良いかな? レイディアス準男爵の評判はガタ落ちだろうが」
アイリアがあの歳になるまで認知してなかったということになれば、エルマの言う通りご家庭内でもご家庭外でもレイディアス準男爵の評判はズタボロだろう。まぁ、コロニーの代官を降ろされた時点で評判なんてゴミクズ以下になっているのだろうから、ある意味殆どノーダメかもしれないが。
「へー……じゃあそくしつって?」
「貴族なんかが正式な妻の他に持つ第二、第三の妻って考え方で大体合ってるわ。うちの場合、ミミが正室で私やクギ、ティーナとウィスカ、ショーコ先生、あとメイも側室ってことになるわね」
「……」
俺は沈黙を貫くことにする。その辺りに関しては俺が口を出すと碌なことにならなそうなので。俺の感覚としては全員平等に扱っているつもりなのだけれども。みんなちがって、みんないい。
「ふーん……」
リンダの視線が痛い。はい、俺は最低のクズ野郎です。だが私は謝らない。こうなった以上は全員で幸せになるべく、日々面白おかしく傭兵稼業を続ける所存である。
「此の身は帝国貴族の作法などについては詳しくありませんが、アイリア様はちゃんと適応できるのでしょうか?」
「それはなんとでもなるんじゃないか。いざとなれば脳味噌に直接ぶち込む方法なんていくらでもあるんだろうし」
脳味噌から情報を引っこ抜く技術があるなら、詰め込む技術だってあるだろう。脳の処理能力を向上させる強化手術さえあるという話なのだから。
「ヒロの言い方はちょっと極端だけど、まぁそうね。帝国はその手の技術に関しては不自由してないから、少し時間をかければなんとでもなるわ。極論、血筋の点さえクリアできればあの二人がくっつくのは然程難しくないってことね。あとは本人達次第じゃない?」
「本人次第、かぁ……アイリア姉はどうするのかな」
「どうするんでしょうね? でも、平民の女性が貴族の王子様に見初められてっていうのはホロ小説とかドラマとかでよく見る展開ですよね!」
「確かに。あと、ちょいワルの傭兵が相手ってのもあるよな」
そう言ってリンダが俺に視線を向けてくる。俺はちょいワルじゃないし。品行方正で清く正しいホワイト傭兵だし。え? 品行方正で清く正しいホワイト傭兵は歌う水晶を悪用して連邦軍艦隊を壊滅させたりしない? 知らんな。
「いくらハルトムートがのぼせ上がってたとしても、今日明日いきなり動くってことは無いだろ。まだブラディーズの倉庫とか生産施設を潰したりしないといけないし、パンデミックも収束したわけじゃないし」
「ヒロ……あんた……」
「え? あっ……いやいや、大丈夫だって。絶対大丈夫だって!」
そろそろ心配して口に出したことが実際に起こってしまうジンクスからは解放された筈だから!




