#419 やると決めたら全力で
ぽんぽんぺいん!_(:3」∠)_
三時間後。俺は軽量型のパワーアーマーであるニンジャアーマーを装着し、出力可変型レーザーランチャーを装備したメイと船に残っていた戦闘ボットを引き連れて襲撃対象――ブラディーズとか名乗ってるらしい――のアジト、その裏手で待機していた。
そこへ少し遅れてハインツとジークも現れたのだが。
「あの、兄貴?」
「なんだ?」
「戦争でもするつもりですか?」
「そうだが?」
何を言っているんだ、こいつは。殺ると決めたら殺る。妥協はしない。全力投球だ。特に相手は宙賊とも繋がっているような連中である。何が飛び出してくるかわからない。急に正体不明の生物兵器とかが出てきても驚かんぞ、俺は。
「お前達はそんな装備で大丈夫か?」
「兄貴が気合い入れすぎなだけだと思うっす……」
ジークがドン引きした様子でそんなことを言う。そうは言うけどお前、対レーザー繊維を使っているかも怪しい普段着とまぁまぁマシになったレーザーガンだけ持って襲撃とか俺から言わせるとナメてんのか? って感じなんだが。そんなの致死出力のレーザー一発貰ったらそれでアウトじゃん。
「お前らは絶対に前に出るなよ。火事場泥棒には目を瞑るから、他の拠点のヒントになりそうなものを漁ってくれ」
「えっ、金目のものとか懐に入れても良いんすか!?」
「それで足がついて監獄コロニーにブチ込まれることになっても知らぬ存ぜぬを貫くから、何を持ち出すかはちゃんと選べよ」
「りょ、了解っす」
一瞬喜色満面になったジークが神妙な顔で頷く。まぁ、こいつらのことだから多少ヤバいものでも安全に捌くルートの一つや二つは持ってるだろうが、一応な。
「ご主人様。そろそろ作戦開始時間です」
「あいよ。んじゃ初手は派手にぶっ放して思う存分に目立ってくれ。応戦してくるやつを釘付けにする感じで、積極攻勢には出なくて良い」
「はい。お任せ下さい」
そう言ってメイが有線で自分のジェネレーターに直結した出力可変式レーザーランチャーを持ったまま頷く。いざ戦闘となると重機関銃並みに重いそれを小枝のように振り回すんだよな。質量×速度=破壊力なので、近接戦であれに殴られたやつは酷いことになる。
「俺達は裏からこっそりですね、兄貴」
「そうなるな。ああ、敵味方識別のビーコンリングは無くすなよ。それが無いとお貴族様の突入部隊に出会った瞬間レーザーで滅多打ちにされるぞ」
「「絶対外しません」」
生身の彼ら二名の腕には青い光を放つブレスレットのようなものが嵌っている。あれが俺が言ったビーコンリングで、敵味方識別信号を発信することによって誤射を防ぐことができる装備だ。あれを装備している味方に向かってレーザーガンやレーザーライフルの引き金を引いてもレーザーが発射されないという優れものである。
「よし、時間だな。ランチャーで斉射だ。派手にやれ」
「アイアイサー」
メイの返事と同時に待機していた戦闘ボット達が一斉に武装を起動し、その砲身――デモリションバックパックに装備されたグレネードランチャーを目標の施設へと向ける。
「発射します」
スポンッ、ポポポポンッと小気味良い音が響いた。その次の瞬間、目標施設の壁に緑色の光が炸裂し、熱風がこちらまで押し寄せてくる。
「……マジかよ」
「やべぇよ、やべぇよ」
五機の軍用戦闘ボットから発射されたプラズマグレネードはその威力を遺憾なく発揮して壁面を焼き溶かし、蒸発させた。赤熱した丸い穴がボコボコと空いているのがここからでもよく分かる。
「その調子でよろしく。行くぞ」
「え、あそこに突っ込むんすか!?」
「そうだよ。おら早くしろよ」
「ご旬人様、お気をつけて」
尻込みするジークのケツをニンジャアーマーを装着した足で軽く蹴りながらブラディーズのアジト――プラズマグレネードによる爆撃に晒されていない右側面へと向かう。さてさて、押し込み強盗の時間だ。
☆★☆
「んだテメッ――!」
威嚇する暇があったら腰のレーザーガンを抜いたほうが良いと思うが、と考えつつ容赦なく三下っぽいチンピラの胸に銃を向けて引き金を引く。
「ぇんっ!?」
バチィ! と景気の良い音が鳴り、青白い雷光が一瞬だけ部屋の中を真っ白に染め上げた。ドサリと三下が倒れるくぐもった音が響く。
「この臭いは慣れないですね」
「死んでもおかしくない威力の電流だからね。仕方ないね」
ニンジャアーマーを装着している俺には感じられないが、生身のハインツとジークの鼻にはなかなかの悪臭が感じられているらしい。人体がほんのり焦げ、小便も垂れ流しとなればまぁ臭うのも致し方あるまい。小便だけじゃなく大便も漏らすのが居るみたいだし。
「問答無用でぶっ殺してないだけ有情だろ?」
「そうっすかね……?」
「そうだよ」
問答無用でぶっ殺すつもりならこんなテスラガン――電撃銃なんぞ使わんで致死性のレーザー光線を一度に複数発射できるレーザーショットガンを使うなり、剣で真っ二つにするなりしてるわ。
まぁ、これなら死なないってわけでもないけどな。死なないかもしれない。致死出力のレーザーガンよりはまぁかなりマシ。死んだら運がなかったね! みたいなレベルの武器だし。非致死性武器というよりは低致死性武器だ。いや、中致死性くらいかもしれない。まぁ誤差だよ誤差。
「というか兄貴滅茶苦茶強くないですか?」
「一応プロだぞ、俺は」
本当は船だけ乗り回していたいんだが、最近はこんなのばっかりだよ。お陰で無駄に白兵戦スキルが上がっている気がしてならん……最近はクギの教えを受けて白兵戦に使えるサイオニック能力も使えるようになったしな。
それに、ニンジャアーマーはこういう閉所での戦闘を想定してパッシブセンサーを高級なのにしてあるからな。足音どころか身動ぎでの衣擦れの音や武器を構える音もその方向も丸聞こえだぜ。資格に反映してサポートまでしてくれるしな。
「で、なにか良さげなものはあったか?」
「データキャッシュが入っていそうなブツは確保してます」
「金目のものも確保してるっす」
「おう、その調子でキリキリ働いてくれ」
二人ともそこらで拾ったと思しき大きめの肩掛けカバンのようなものに色々と拾ったものを詰めているらしい。ハインツがデータ関連、ジークが金目のものを掻き集めてるみたいだな。
「お、前方から味方だ」
味方の識別信号を出している人物達が接近してきているので、ハインツ達に教えておく。こいつらは視覚化できるユニットを持っていないからこうして俺が伝えてやらないと相手が敵か味方か識別できんからな。
「お疲れさん。何人かこいつで無力化してあるから、回収を頼む」
「承知。我々はこのままエリアの制圧を続ける」
「了解。こっちは上のフロアに向かう。一応データが取れそうなものは漁ってるが、チェックしておいてくれ」
連絡事項を手短に話し、ハルトムートが用意した突入部隊と分かれて移動を再開する。
「……ガチガチのやべぇ奴らでしたね」
「これを機に面倒な連中を一掃するらしいからな。俺に付いたお前達は幸運だと思うぞ」
なんだかんだで帝国内で貴族の力ってのは圧倒的なものだからな。本気で暴力を行使し始めると、マフィアだのギャングだのヤクザだのといったアウトロー連中ではまず太刀打ちできない。結局のところ、力の源泉というのは最終的には暴力だからな。
「さあ、掃除を続けるぞ。ブラディーズとか名乗ってイキってる連中を今日中に壊滅させないとな」
「はい、兄貴」
「うっす」
頷く二人を引き連れ、再びスリーマンセル……というより俺一人が前衛を務める隊形で、俺達はアジトの探索を続けるのだった。




