#418 盛大に巻き込むことにする
朝っぱらからインターホンで起こされた上に雨で体調も優れずポンペ……僕が何をしたっていうんだ_(:3」∠)_
「まずは無事なようで何よりだ」
『兄貴のお陰です』
ホロスクリーンの向こうで金髪角刈りのハインツと紫プリン頭のジークが頭を下げる。お前らみたいなむさ苦しい連中の兄貴になった覚えは無いんだが……まぁいいや。リスペクトしてくれるならさせておこう。あっちの界隈ではそういうの大事らしいし。
「それで、襲ってきたのはどういう連中なんだ? ただ単に物資に目が眩んだ三下のチンピラですって話なら楽なんだが」
『物資に目が眩んだチンピラなのは間違いないんですが……』
オイなんだよその微妙な間は。目を逸らすなハインツ。そしてジークは動揺すんな。ヤッベ、みたいな顔してんぞ。
「その反応で大体察した。面倒事だな?」
『まぁ、はい。そうですね。バックにいるのは外の連中とも付き合いがあるって噂の奴らで……』
「外の連中? まさか宙賊か?」
『噂ですがね。普通には手に入らないようなヤバいブツを仕入れたり、人をどこかに売り飛ばしたりする伝手があるのは間違いないです』
「この状況でそういうのが暗躍してるのはよろしくないな……そういや、この状況でも精製の甘いドラッグが出回ってるとかいう話を聞いたような」
いや、ショーコ先生が精製の甘いドラッグからも感染するとかいう話をしてたんだっけ? うろ覚えだな。まぁどっちでも良いか。
『耳が良いですね、兄貴。それをばら撒いてるのも奴らです。痛みと苦しさを忘れられるって言って、ちゃんとした治療を受けるようなカネがない連中に売りつけて回ってるんですよ』
「で、そいつが死んだら死体はそいつらが片付けるってか?」
『え、ええ……なんで知ってるんで?』
「知らんのか? 病原のキノコは生き物の死体を養分にして繁殖するらしいぞ」
『……つまり、奴らはクスリをばら撒いてクスリの素を回収してるってことですか』
「じゃねぇかなぁ」
状況からの推測に過ぎないが、然程的を外している感じもしないな。宙賊と仲良くしているような連中ならそれくらいやっても不思議ではないし。
「しかしそんな連中がわざわざそこを襲いに行くのってのもわけがわからんな……奴らがそこまでして殺したいような人物でもいるのか?」
『奴らの考えていることは正直ちょっとよくわからないんですよ、イカれた連中なんで……ここを襲ってきたのも奴らの構成員じゃなくて、クスリを餌に奴らにここを襲うよう言われたチンピラでしたから』
「そりゃ面倒な話だな……」
つまり、件のイカれた連中は直接手を出してきたわけじゃなく、クスリを買うこともできなくなったような連中を鉄砲玉に使ってきてるってわけだ。もしかしたら直接的に「あの施設を襲え」と言っているわけではなく「カネもカネになるようなモノも無いなら奪ってこい。そういえばあの施設は今なんか羽振りが良いらしいぞ」みたいなことを言っているのかもしれん。
「いや本当に面倒だな。そいつらの居場所というか本拠地みたいな場所はわかってるのか?」
『一応奴らのアジトの場所はわかりますが、ブツを保管している場所だとかブツを作っている場所だとかまではわかりませんね。兄貴、そんなことを聞くってことはまさか』
「綺麗さっぱり消えてもらうのが一番後腐れが無いよな。宙賊とも繋がっているとなると尚更」
物資の集積所だとか製造拠点だとかはアジトを潰した時に場所を探れば良いだろう。最悪、知っている奴が生き残っていればそいつの頭の中から引っこ抜けば良い。引っこ抜くのは俺じゃなくてハルトムートの仕事になるだろうけど。
『い、いや、それはそうかもしれませんが』
「宙賊と繋がってる時点で交渉の余地ねぇから」
『めっちゃ過激っすね、兄貴』
「お前も宙賊に手足切り落とされて何かしらの有用な成分の液体を分泌する前衛芸術作品みたいにされた被害者を見れば俺と同じ結論に至ると思うよ?」
俺の返答を聞いたジークが「えぇ……? 何それ怖……」みたいな顔になっている。まぁ、そういう反応になるよね。俺もこっちの世界に来て初めて見た時は脳が理解を拒んだからね。
「絶対に無理をしない範囲で奴らの情報を探っておいてくれ。俺は消毒の手筈を整える。製造拠点か物資の集積拠点の場所を特定できたら報酬で5000やる。両方わかったら1万やるけど、無理して死ぬなよ。命の対価としては安すぎるだろ」
『わかりました、兄貴。ここの守りは戦闘ボットだけでも大丈夫そうなんで、俺達は情報収集に動きます』
「ああ。もう一回言うが、死ぬなよ」
俺が振った仕事で死なれたら寝覚めが悪いからな。
☆★☆
「これが特効薬か」
ケースにびっしりと並んだ乾電池のようなもの――一本辺り五人分の特効薬が入っている薬液入りのセル――を確認し、ハルトムートが感慨深げな声を上げる。
戦闘ボットを通じてハインツ達と話し合ってから凡そ一時間。俺はエルマとメイ、それにショーコ先生を連れてハルトムートの元へと足を運んでいた。
「標準的なシリンジで使えるようにしてあるから、打つのは難しくないと思います。ナノマシン製剤だから、保存も常温で問題ないですよぉ」
「承知した。こちらの記録媒体に製造用のデータが入っているのだな?」
「お察しの通りで。必要な設備の仕様なども一緒に入ってます」
相手が貴族だからか、ショーコ先生の口調がいつもと若干違って違和感が凄い。失礼のないように気をつけているんだろうなぁ。
「そいつの効果を検証するのに数日、更に量産体制を整えるのにまた数日とかかるだろうが、そこは頑張ってくれ」
「勿論だとも。ここまでお膳立てをされて事態を収束させることができなかったら、私は父上に廃嫡の上縁切りされて放逐されることになるだろうしな」
「厳しい親父さんだなぁ……で、今度はこっちが手を貸してもらう番なんだが」
「ああ、私の権限でできることなら何なりと言ってくれたまえ」
「何なりと。言ったな? 言質取ったぞ?」
この時俺が浮かべた笑顔はよほど邪悪なものだったのだろうと思う。何故なら、ハルトムートが一瞬身を引いたから。そこまで警戒しなくても良いのに。大丈夫! 大丈夫だって! 色々しっちゃかめっちゃかに混乱しているのに乗じてちょっと無理するだけだから!
と、いうわけで。俺はハルトムートに保護を頼んだ施設が襲撃されたことと、襲撃者のバックにいるのが宙賊とも繋がりがある可能性が非常に高い組織であるということを伝えた。
「なるほど……それでどうしろと?」
「潰そう」
「えっ」
「つまり皆殺しだ」
「ちょっと待ってくれ」
「汚物は消毒するに限る。そうだろう?」
「頼むから本当に落ち着いてくれないか?」
「何なりとって言ったよな? 誇り高き帝国貴族に二言は無いよな?」
「……そう言われると弱いな」
よし、押し切った。
「良い機会じゃないか? ハルトムートはここに着任したばかりで、しがらみも無い。どうせ奴らの巣を叩いて生き残ったやつの頭から片っ端から情報を引っこ抜いていけば、宙賊と縁のあるクソ野郎どもと繋がっている上層区画の連中の情報も出てくるさ。混乱しまくっている今ならやりたい放題できるだろ?」
「ヒロ卿。私は帝国貴族として法と秩序の番人を自称する立場なのだが……?」
「宙賊の協力者もどうせ極刑だ。多少の横紙破りは許されるさ」
「それは確かに……そうだろうか?」
「武勇伝になるぞ。帝国貴族には一つや二つそういうのがあると良いだろ?」
「う、ううむ……」
最終的に俺はハルトムートを言い包めることに成功し、賊どもにぶつける兵力を確保することができた。ハルトムートが親父さんの領地から私兵を多めに引っ張ってきていたのが功を奏したな。
あとはハインツ達と連絡を取って、早々にアジトを潰すとしよう。
二人に探らせている情報に関してはアジトでも引っこ抜ける可能性が高いし、必須ってわけでもないからな。
しかし、煽るだけ煽って俺は後ろに引っ込んでますってわけにもいかないか。俺も最低限、切った張ったをする姿勢だけでも見せないといかんな。




