#416 勝利の美酒
Stranded: Alien Dawnを始めました。
SFの墜落モノはいいぞ( ˘ω˘ )
「はっはっは、傭兵丸儲けとはこのことだな」
襲われていた交易商人から宙賊艦一隻分よりもマシな額の礼金をせしめて彼らを見送り、宙賊どもがドロップした戦利品と奴らの船が装備していた中でもマシな部類の装備を引っ剥がし、更には奴らの首に懸かっている賞金も頂ける。ボロい商売だぜ。俺にとっては、だが。
「幾ら儲けたんだ?」
手術着のようなシンプルな服を着たリンダが興味本位といった感じで聞いてくる。
「商人の謝礼金が2万、宙賊は特別な札付きじゃなければ一隻辺り3000から5000程度、それが十四隻だから少なく見積もっても42000、他には戦利品を売り払えばプラスでドン、船用の装備で更にドンってとこだな。まぁ10万弱ってとこか? 戦利品と装備の質次第ではもう少し行くかもな」
「マジかよ……傭兵って儲かるんだな」
「これだけ儲けるためににはこの何百倍、何千倍の投資が必要ですけどね」
「オレには遠い世界の話だってことだけはよくわかったよ……でも、それじゃあどうやって傭兵になれば良いんだ?」
「それはですね……」
と、ミミがリンダに傭兵になる道筋をレクチャーし始めた。ミミはリンダに色々と話を聞かせるのが楽しいのか、こうしてよくリンダと話をしている。その傍らでクギもふんふんと耳をそばだてているのがちょっと面白い。頭の上の狐のような獣耳がピクピクと興味深げに動いている。
ミミの話に聞き入るリンダから離れて食堂に行くと、一仕事を終えたエルマがビールを飲んでいた。俺も冷蔵庫から炭酸抜きのコーラもどきを出して同じ席に着く。
「お疲れ様。で、あの子はどうするの?」
「どうもせんが。行く先々でクルーを増やしてたらすぐに船室が足りなくなるぞ」
「ふーん? ティーナとウィスカにも手を出してるんだし、ああいう子もいけるのかと思ったけど」
「流石に正真正銘のはちょっとなぁ……俺にだって良心とか一般的な良心とか道徳観の持ち合わせくらいあるぞ。というか、あの二人に手を出すのを相当に躊躇った上にクリスにも手を出してない時点で察して欲しいんだが」
「宗旨変えしたのかなって」
「そういった事実はございません。というか、随分そっち方面で絡んで……なるほど」
そういうことか。完全に理解した。OKOK。
「……何よ?」
「別に。ただ、今日は俺も少しお前に付き合おうかなって思ったんだよ。癖の少ない強めの酒ってあるか?」
「珍しいわね。でも、付き合ってくれるならご馳走するわ」
炭酸の爽快感が無いのは残念だが、ラムコークっぽくすれば俺でも酒に付き合えるからな。無論、酒に弱い俺は一杯で顔真っ赤のヘロヘロになるが、そこはエルマに面倒を見てもらうとしよう。たっぷりとな。
「すぐに潰れるから、面倒は見てくれよ」
「吐くのはやめてよね」
「いくらなんでも一杯でそこまではならんから大丈夫だ」
そう言いながら、エルマが専用の収納棚から出してきてくれた無色透明の酒――匂いを嗅いでみると少し甘い――を適当にコーラもどきに混ぜてグラスの中身を掻き回す。多分ラム酒じゃないんだろうからラムコークとは言えないのだろうが、まぁ些事だな。
ちなみに、酒盛りとなればすぐに湧いて出てきそうなドワーフ二人は剥ぎ取った装備を高く売るために整備で大忙しで、実はいけるクチのショーコ先生もリンダから取得したデータの解析で忙しいらしい。メイはリーメイプライムコロニーにブラックロータスを移動させていても俺達に構うくらいわけないと思うが、流石に酒盛りに顔は出さない。呑めたとしても酔いもしないからな。身体の中に『貯蔵』することになる。
それをどう処理しているのかは知らないが……無駄になるからな。誰も幸せにならないので、メイもわざわざ飲み会には顔を出さない。
「それじゃあ乾杯」
「何に乾杯するの?」
「いつも通りの勝利とか?」
「なんでそこで疑問形なのよ……締まらないわねぇ」
そう言いつつも、エルマはご機嫌である。このままご機嫌を取って是非色々とサービスをしてもらうとしよう。そのためにもべろんべろんに潰れないように気をつけないとな。
☆★☆
「スッキリだ」
「程々にね。ヒロくんはあまりお酒に強い体質ではないから」
「そうする。ありがとう、先生」
翌日――宇宙空間では明日も昨日も無いが――若干痛む頭を医療ポッドで癒やしてもらった俺はショーコ先生に軽いお小言を頂いていた。昨日はエルマと一緒に酒盛りをして、そのまま一緒に部屋に行って夜を過ごした。俺よりガブガブと酒を飲んでいたというのに、エルマは二日酔いもせずに一緒にシャワーを浴びたらさっさとメシを食いに行ったっていうね……あいつの肝臓は鋼鉄か何かで出来ているのだろうか?
「そう言えば、リンダの件はどんな感じなんだ?」
「仕組みは解明したよ。今はその仕組みを他人にも適用できるか演算中だね」
「演算?」
「いちいち生体で治験なんてしていられるほど時間もないからね。幸い、君が環境を整えてくれたから仮想上で結果を演算しているのさ。こっちの方が手間も時間もかからないからね」
「人体に新薬的な何かを投与したらどうなるかをデータ上でシミュレーションするのか……それ、確度は大丈夫なのか?」
「勿論さ。帝国内に存在する種族のデータはほぼ網羅しているから問題ない筈だよ。種族固有の特定の疾患がある場合どうかってところまでシミュレートするから、結構時間がかかっちゃうんだけどね。それでもこれから二十四時間かかるってことはないかな?」
あっけらかんとした様子でそう言うが、俺にしてみれば発展した科学の力ってスゲーという気持ちである。薬の開発の速さも目を見張ったが、その薬が本当に効くのか、重篤な副反応などは発生しないか、などといったデータの収拾が仮想上でたったの一日で終わるというのが凄い。しかも確度も保証されているときた。
「こういった分野のことは普通の人にはわからないよね。気になったことがあったらいつでも聞いてくれたまえよ?」
「聞くことを思いつけるかどうかもわからんが、とにかく凄いことをやっているんだなぁという雰囲気だけはよくわかった」
「それはよくわかっっとは言えないような気がするんだけど……まぁ良いけどね。流行病の件に関しては私にどーんと任せてくれていいよ」
「そうする。ハルトムート相手に使えそうな手札ができたら教えてくれ」
「任せておいてくれたまえ。高い買い物をした甲斐があったと思わせてみせるよ」
そう言ってショーコ線はその大きな胸を反らしてみせた。うん、眼福だね。




