#415 宙賊狩り
ちょっと気になる小説を読んでいたら時間が……( ˘ω˘ )
『申し出は有り難い。有り難いが……何故そこまで?』
ハルトムートにアポイントメントを取り、今回は直接顔を合わせてではなく通信でコンタクトを取った。そしてこちらからのお願いと提案を聞いたハルトムートの反応がこれである。
まぁ、わからないでもない。ハルトムート自身がすることと言えば俺達の船の出入りを簡略化できるよう専用のタグなりIDなりを付与して、子飼いの商人達と同じように入港はしても人のやり取りは行わず、防疫的な意味で安全で素早い物資のやり取りができるようにするだけだ。
これは既に動いている仕組みを俺達に適用するだけなので、担当をしている部下にそうするよう指示を出すだけで良い。手間とも言えない手間だ。
それに対して俺達は特別な対価を要求するわけでもなく、自主的に宙賊を狩って手に入れた戦利品を卸すと言っているのだから、ハルトムートとしては自分に都合が良すぎると思ったのだろう。俺の動機がわからないんだろうな。ハルトムートにしてみれば。動機と意図の読めない善意というものを気味悪く感じるのは然程ズレた感覚でもないと思う。
「腹を割って話すと、実はうちのクルーの知り合い……というか恩人とか、親友にあたる人物がこのコロニーに居てな。その人を助けて欲しいと頼まれたのが一つ。あともう一つは単純に困り果てて、苦しんでいる臣民を『関係ないね』と見捨ててはは陛下から賜ったゴールドスターが泣くだろう?」
俺の言葉を聞いたハルトムートは一瞬きょとんとした表情をしたかと思うと、微笑んだ。うん、イケメンが微笑むと破壊力が凄いな。俺が女なら心の中で黄色い悲鳴の一つでも上げていたかもしれん。
『貴殿のことを見くびっていた。この通り謝罪する』
「下心あってのことだ。槍働きの後にはちゃんとご褒美を強請るからな」
『ご褒美?』
「言っただろう? このコロニーに住むクルーの恩人を助けるのが目的だと。そのために一肌脱いでもらいたいのさ」
後で義侠心の男とか評されても困るので、しっかりと釘を刺しておく。傭兵的にも喜んでロハで働く便利屋と思われるのは避けたいし。
『具体的にはどのようなことだろうか? 私の権限でもできることとできないことがある』
「下層区画に孤児を引き取って面倒を見ている施設があるんだよ。そこを後援している連中が今回の流行病で大打撃を被って、保護も後援も打ち切られてしまっていてな。そこの面倒を見てもらいたいのさ。今は俺が面倒を見ているが、いつまでも見ているわけにはいかんし……そういうのは本来そっちの領分だろう?」
『耳が痛いな……』
ハルトムートが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。ナントカ準男爵……レイディアスだっけ? その準男爵が下層区を顧みない政策を推し進めてきた結果、ギャングやマフィアが互助的に施設を整備、運営していたわけだからな。これは行政――或いは貴族の敗北というか、失態であると言えるだろう。
「あと、うちのドクターがもしかしたらこの伝染病をどうにかできる鍵を見つけられるかもしれん。被験者を一時乗船させて絶賛研究中だそうだから、期待しないで待っていてくれ」
『どういうことだ? 貴殿の船のドクターは何者だ?』
「少し前までハイテク星系で医療系や遺伝子工学系の企業で働いていた人でな。うちの船に船医として迎え入れる際にケチらずラボとして使えるレベルの設備も導入したんだ」
『人材の層が厚いのだな……このコロニーは交易を主体としたコロニーでそういった研究職の人材が殆ど居ないのだよ。全く、羨ましい』
「やらんぞ。とにかくそういうことで……とりあえずは出入りの簡略化に関する許可を貰えるか?」
『承知した。すぐに担当の者に話を伝えておこう』
☆★☆
「簡略化と言っても、検査不要で素通りというわけではないのですね」
「それはそうよ。正しくは優先通行権ってところじゃないかしらね」
リーメイプライムコロニー港湾区の防疫チームを見送ったクギとエルマがハルトムートが手配
してくれた出入りの簡略化――というか優先通行権について話し合っている。
検査そのものは比較的短時間で終わった。タラップのエアロックをチェックし、船内各所で空間中の胞子量――今回の流行病の病原となっているものだ――を測定し、俺を含めたクルーが感染していないかをチェックする。リンダは当然これに引っかかったが、医師免許を持っているショーコ先生が彼女の身柄を管理しており、また星系外には出ない一時乗船の立場ということで見逃された。
「多少のことには目を瞑れと言われていたんでしょうね……」
「お貴族様様だねぇ」
通常、いくら優秀な医師の管理下にあると言ってもこのリーメイプライムコロニーの厳戒な感染拡大防止態勢の中で感染者を外に出すようなことなどあり得ない。だが、そこはそれ。貴族の絶対権力万歳である。
「疲れた……」
感染者ということで徹底的に検査されたリンダが魂の抜けたような顔になっている。一応彼女は感染しているが、症状も出ていなければ咳やくしゃみなどによる胞子の拡散も行っていない状態だ。
どうしてそのような状態なのかということをショーコ先生が調べているわけだが、これ本当に数日で結果が出るのかね? 疑問に思ったところでできることがあるわけでもなし。ショーコ先生を信じて待つしか無いのだけれども。
「思ったよりも大変だったが、やっとこさ開放されたわけだし……行くか」
かくいう俺も執拗なチェックにげんなりである。優先通行権を持っていてもこれとか、他の船はどれだけ厳しいチェックを受けているのだろうか? いや、このチェックを優先的に受けられるだけで、内容は変わらないのか……?
「頑張りましょう!」
「ミミは元気やなぁ……」
「そうだね……私達も準備しておこうか」
元気なのはミミだけである。何故ミミだけこんなに元気なのだろうか? 謎だ。整備士姉妹も宙賊艦やその装備の鹵獲に向けて準備をするようだ。本当は半日くらい休んでから行動したい気分なんだが、あまりダラダラしても仕方ない。動くと決めた以上は動くとしよう。
☆★☆
宙賊を狩って回る手法というのはいくつかある。
その中でも比較的スタンダードな手法はと言うと、宙賊の襲撃が発生しやすい宙域をブラブラと巡回し、宙賊に襲われた商船が発信する救難信号に急行するという方法である。
「こちら傭兵ギルド所属のクリシュナだ。戦闘に介入する」
『傭兵!? 金なら払う! 助けてくれ!』
『傭兵だァ!? クソッ! どうする!?』
『でけぇ船もいるが、戦闘艦は二隻だけだ。やっちまえ!』
天の助けとばかりに声を上げる襲われていた商船と、それを襲っていた宙賊ども。見たところ、商船の護衛を務めていた船は既に撃破されたか死に体になってしまっているようで、残っている商船は二隻のみ。一応タレットで武装はしているようだがその火力は大変に貧弱であるようで、宙賊どもをなんとか寄せ付けないようにするのが精一杯であるようだ。
『ジャマーを展開するわよ』
「そうしてくれ。距離を取って様子見してるような手合いを任せた。ブラックロータスはゆっくりと商船に接近しつつ、敵勢力を射程内に十分に捕捉したら防空戦闘」
『アイアイサー』
『承知致しました、ご主人様』
宙賊の数は十四隻か。これくらいなら全部食えそうだな。
「吶喊するぞ。必要ないとは思うが、一応シールドセルを準備しておいてくれ」
「はい、我が君。チャフとフレアもお任せ下さい」
「敵前衛、来ます!」
クギの返事とミミの警告を聞きながら、スロットルを全開にして宙賊艦の前衛に正面から突っ込む。シールドの硬さでも火力でも勝っている場合、ヘッドオンでの撃ち合いほど効率的な敵の撃破方法などそうそうないものだ。先方からのお誘いとあらば喜んでお受けするとしよう。
四門の重レーザー砲を乱射しつつ、クリシュナの姿勢制御スラスターを小刻みに上下左右に噴かして船を揺らす。宙賊の船も揺れに合わせて偏差を取った射撃を撃ち込んでこようとするわけだが、火器管制システムがヘボなので小刻みに船を揺らすと大げさに偏差取りすぎて射撃を外すのだ。安物を使うと碌な事がないというのはこういうことだな。
『ええいくそ! 当たらねぇ! つか硬ぇ!』
『ぎや――ッ!?』
『やべぇ! こいつ強いぞ!? 絶対シルバー以上だ!』
『散開! 散開しろ!』
残念、シルバーどころかプラチナだよ。慌てて逃げようとした宙賊艦の横っ腹に散弾砲を撃ち込み、更に逃げようとする宙賊どもを重レーザー砲で散々に追い散らす。
『超光速ドライブが起動しねぇ!? ミ、ミサイルが! 助け――!』
『やめろォ! 焼ける! 焼ける!? 焼け――』
エルマの駆るアントリオンは予定通りグラヴィティ・ジャマーで宙賊どもの超光速ドライブの起動を阻害しながら、シーカーミサイルとレーザービームエミッターで奴らを始末しているようだ。
しまいには戦場に接近してきたブラックロータスがコンシールド装甲で隠されていた各種砲台を展開し、逃げ惑う宙賊を殲滅しにかかる。これで詰みだな。奴らが対艦反応弾頭魚雷でも持ち出してこない限りどうにもならん。
『た、助かったのか……?』
「運が良かったな。それでお金の話なんだけど」
宙賊どもの賞金と戦利品だけでも十分といえば十分なんだが、折角くれるというなら貰うのは吝かではないよな! 俺は貰えるものは貰う主義なんだ。




