#414 善意は20%くらい。
今日も間に合ったぜ! そして今日は10巻の発売日! 買ってね!!!( ˘ω˘ )
リンダを臨時クルーとして船に乗せてからの日々は、実に平和なものであった。何せ、ショーコ先生の研究結果が出るまで積極的にやることがない。
「さほど時間はかからないよ。数日でケリをつけるさ」
と、そう嘯いてはいたものの、そういった研究がたったの数日の終わるものなのかしらん? と俺は懐疑的である。
「私も専門外なのでそこまで正確に把握しているわけではないですけど、設備的には割と最新のものが取り揃えられているみたいですよ」
「兄さん、設備に関しては良きに計らえって感じで丸投げやったもんな」
「そんなこと言ったって、それこそ門外漢の俺が口を出したって仕方ない分野だろ。俺にできることって言ったら金を出すくらいだったし、ショーコ先生ほどの人に船に乗ってもらう以上はそれなりの待遇が必要だろうと思ったわけだよ」
「うちらにもあれくらい甘くしてくれてええんやで?」
「しているつもりだが?」
船の整備に関する能力というのは俺達の航宙戦能力に直結するものだから、設備投資に妥協したつもりは一切ない。必要なものに関しては遠慮なく言うように言ってあるし、上がってきた要望に関してはメイに精査をしてもらった上で、彼女の精査を通過したものに関しては許可している。
「メイのチェックは厳しいんよなぁ……」
「懐柔するなら俺よりもメイを懐柔するんだな。俺は難しいところを極めて有能なメイに丸投げして、その判断にOKを出すだけのバカ殿みたいなもんだぞ」
「そこまで卑下するようなものじゃないと思いますけど……お兄さんの判断力と決断力は凄いと思いますよ、私」
「それはうちもそう思うわ」
「褒めても何も出ないぞー?」
と言いつつもこうして褒められると悪い気はしない。いや、とても嬉しい。俺って単純な男なので、可愛い女の子に褒められてちやほやされるとそれだけで舞い上がってしまうのだ。仕方ないよね、男の子だもの。
さて、こんな会話をしている俺と整備士姉妹はどこで何をしているのかというと、まぁ休憩スペースで寛いでいた。ソファーにどっかりと腰を下ろした俺の両サイドにティーナとウィスカがぴったりとくっついている。二人とも体温が高めなので、こうしてくっつかれるととても温かい。
と、まったりとしていると突然目の前に影が差し、広げていた俺の足と足の間にストンと誰かが収まってきた。
「だらけてるわねぇ」
「あっ!? 姐さんずっこいでそれは!」
「あーっ!?」
互いを慮って『特等席』を敢えて空けていた整備士姉妹が非難の叫びを上げる。そんな姉妹の抗議など知った事かという態度で俺の胸板に背中を預けてきたのはエルマであった。シャワーを浴びてきたようで、彼女の銀髪が幾分かしっとりとしている。
「おつかれ。で、成果は?」
「意外と筋は悪くないわよ、二人とも」
エルマがここに居ない二人――ミミとクギのことをそう評する。
何の話かというと、ミミとクギの二人は最近エルマを教官として戦闘訓練――それも徒手での格闘の訓練を行っているのだ。
精神感応能力を利用した護身が可能なクギとは違い、ミミには自身の身を護る術というものが無い。いや、一応レーザーガンは買い与えたし、訓練もさせてはいるが、いざという時というか最後に頼りになるのはやはり己の肉体である。
ミミも日々のトレーニングで多少なりとも体力がついてきたので、こういう暇な時間が多い時にエルマやメイから護身術というか格闘術を習うようになっているのだ。クギも一緒に格闘術の訓練を受けているのは、もののついでなのか何なのか……本人がやる気を出して参加したいと言ったので、教えるなら一人も二人もあんまり変わらないということで一緒に訓練を受けている。
「そりゃ何より。チンピラを楽に伸せるくらいになってくれれば言うことは無いんだが……いや、やっぱ独り歩きは無理か」
「無理でしょ」
ミミはあの背丈にあのおっぱい、それにあの美少女っぷりなので、護衛を付けずに放流すると三分で男に絡まれるからな……そもそも絡まれないようにするという方向でどうにかするなら、体型を隠すマントと威圧感のあるフルフェイスのガスマスクめいた何かでも装備させないと無理だろう。
「悲しいなぁ……それで姐さん、ミミとクギはどないしたん?」
「ミミは訓練でヘロヘロになって部屋で休んでるわ。クギはミミを寝かしつけたらそのうちくるんじゃない?」
「ぶっ倒れるくらいシゴくの怖すぎるでしょう?」
「苦しくなければ覚えないわよ」
さらっと恐ろしいことを宣うよな、エルマは。見た目はスレンダーな美人さんなのに、頭の中身が筋肉なんだよ。
「で、ずっとこうしてのんびり過ごすわけ?」
「それも悪くないと思うんだが、もう少しハルトムートの心証を上げておくのも手だよな」
「それはアリね。ただの知り合いよりは、窮状を見かねて手を差し出してくれる味方の方が話を聞いてくれる可能性は高いし」
「なら、そのように動くか。リンダの一時乗船手続きも終わったみたいだし」
そうなれば出港するのに否やはない。まぁ、この星系を離れるとなるとちょっと話が違ってくるが、星系内で活動をする分には問題はなかろう。
「兄さんが何かやるってことはアレやな。宙賊狩り」
「ご名答。まぁ、難しくもなんともないが」
「稼げそうなんですか?」
「それがそうなんだな、これが」
パンデミックの影響で商船の往来が減り、また入出港の手続きが面倒になっているのも相まってリーメイプライムコロニーの補給能力は大きく減衰している。そんな状況下では星系の治安を守る星系軍も稼働効率を落とさざるを得ず、必然的に星系全体の治安は低下する。治安が低下すれば当然宙賊どもが活発に活動するようになる。つまり俺達のような傭兵の飯の種が増えるというわけだ。
「でも、パンデミックが起こっているリーメイプライムコロニーに立ち寄る商船は減りますよね? そうなると、普通は宙賊の獲物も少なくなるんじゃ?」
「それがそうでもない。リーメイプライムコロニーに寄らないとしても、リーメイ星系を通らざるをえない商船の数はそんなに変わらないだろうからな。ここは三つの星系にハイパーレーンが繋がっているハブ星系だから」
リーメイプライムコロニーに荷を下ろせない、もしくは下ろすのはリスクが高いとなれば商人達は他の星系に商品を下ろしに行くことになる。だからといってリーメイ星系を通らないというわけではないのだ。つまり、現状ではハイパーレーン突入口とハイパーレーン突入口を結ぶ航路の通行量が増えていると思われる。当然、それを狙った宙賊の数も。
「ただまぁ、戦利品を売りに来る度に検疫のため長期間拘束されるのは面倒だからな。こちらからハルトムートに働きかけて、そこらへんを簡略化する特権でも付与してもらうのが良いだろう」
「ズルない?」
「使えるものはなんだって使うさ。向こうとしても俺が自主的に宙賊討伐に精を出してくれる分には助かるだろうから、拒むことはあるまいよ」
戦利品の中にはパンデミック下のコロニーでは不足しがちな物資も多く含まれている筈だ。俺達が戦利品として供給する物資の量なんてのは大したものではないだろうが、パンデミックを起こしたコロニーには商船が近寄らなくなって下手をすればライフラインに関わる物資すら不足する可能性がある。
ハルトムートや彼の父君であるマグネリ子爵も物資の欠乏などが起こらないように商人に荷を運ぶよう手配していることだろうが、そこで俺が治安の向上と物資の供給に僅かなりとも貢献すると申し出ればどうか? 胡散臭がられるかもしれないが、あちらとしては感謝をしないというわけにもいくまい。
「そういうわけで、ハルトムートに早速連絡してカネを稼ぎつつ、彼の好感度を稼ぐとしよう」
アイアイサー、と三人の声が重なる。よし、では楽しい宙賊狩りのお時間だ。




