#403 ミーティング
ちょっと遅れた( ˘ω˘ )(昼に食べたガーリックスパイシーチキンが良くなかった
ティーナをウィスカに任せ、他の皆が集まっている食堂へと移動した。これからリーメイ星系内での活動についてミーティングを行う。まず気にするべきことと言えば……これか。
「防疫装備は大丈夫か?」
「大丈夫です! 問題ありません!」
俺の質問にミミがフンスと鼻息を荒くして答える。なんだろう、微妙に不安になるこのやり取りは。念のためショーコ先生にも視線を向ける。
「ミミ君の言う通り、問題ないよ。販売用の医療物資とは別に私達の分の医療物資は確保してあるし、この船にはしっかりとした防疫設備が装備されているようだしね」
『艦内での活動に関しては今まで通りで問題ありません。ただ、コロニーで行動する際には感染対策を行なってください』
ショーコ先生だけでなく、スピーカーを使ってメイも答えてくれた。自分の言葉が信用されなかったことにミミがちょっと拗ねたが、膨らんだ頬をつんつんしてご機嫌を取りながら謝ったら許してくれた。
「ところで大丈夫なの? ティーナは」
「多分な。一体古巣で何があったのかは知らんが、最終的にはなんとかなるだろ……というか、する」
「そ、なら大丈夫ね」
カネも権力も暴力も持ち合わせが十分にあるので、何があっても大概のことは跳ね除けられるだろう。無論、それに胡座をかいて油断をする気は毛頭無いが。
極端な話、ティーナを船の外に出さなければティーナ関連のトラブルが起こることは考えにくいし、念のためにティーナだけではなくウィスカも船から出ないようにしてもらえば更に安心だ。ティーナとウィスカは髪の毛の色は違うが、双子なだけあって顔凄く似ているからな。下手に連れ回すと、ティーナが髪の毛だけ染めて古巣に戻ってきたとか勘違いされるかもしれない。そう考えると、今回二人には船で留守番をしてもらうのが良さそうだ。
「我が君、僭越ながら申し上げますが……厄介事を避けるのを優先するなら、そもそもリーメイ星系に行くのを取りやめたら良いのではないでしょうか? 多少利益が落ちるとしても、他の星系で医療物資を売り捌いたほうが安全なのでは?」
「それはそうかもしれないけど、一応医者の端くれとしては今まさに伝染病で苦しんでいる人達に医療物資を届けてもらいたいと思うね」
クギの意見にショーコ先生が苦笑しつつ職業倫理の観点から反論する。確かにクギの言うことも尤もではあるんだよな。とはいえ、倫理的な観点から考えればショーコ先生の意見にも一理はある。
儲けや名誉、名声という観点で言えばやはりリーメイ星系で医療物資を売り捌くのがベストだ。俺達は儲かる、リーメイ星系の人々は助かる、危険な病気のパンデミックが起こっている星系に医療物資を運び込んだことを世間は称賛してくれる。傭兵ギルドの顔でもあるプラチナランカーがこういったことをするというのは傭兵ギルドとしても評価が高いだろう。
売り手よし、買い手よし、世間よしで三方よしってやつだな。
「まぁ、トラブルって言っても精々が一つの星系に活動範囲が収まるレベルのギャングかマフィアとのいざこざってところだろうからな。喧嘩を売ってくるならカネとコネ、全てを使って暴力で全て解決するまでだ」
「……そういう言動を見ると、やっぱり君は傭兵なんだねぇって思うよ」
「当然です。プロですから」
「そこで胸を張るのは何か違うと思うわ」
ショーコ先生に自信満々で答えたら何故かエルマにジト目で睨まれた。賊に無礼られたら殺す。それが傭兵というものでは? ギャングやマフィアを宙賊と同等に見ても良いのかというとちょっと微妙か? 一応帝国臣民が相手となると法的な問題が……いや、そういう連中は平民だろうし、俺は名誉貴族なんだから別に問題ないか?
「なぁ、メイ。仮に相手が帝国臣民だとして、武器を持って襲ってくるなら貴族の権利として切捨御免で手討ちにしまくっても別に問題は無いんだよな?」
『判例によれば問題はありません。実際のところ、グラッカン帝国内では法的に取り締まることが難しいギャングやマフィアを、貴族籍にある剣士がそういった手法で排除することが稀にあります』
「ならよし。そうなると、一応リーメイ星系を統治している貴族にも話を通しておいたほうが良いかな? メイ、必要なら『金庫の中身』を使っても良いから、良い感じに取り計らってくれ。ミミはメイにくっついてこういった場合における貴族への対処を覚えてくれ」
『承知致しました』
「は、はい。わかりました」
驚いたような表情のまま、ミミが頷く。はて? 何故そんなに驚いた顔をしているのだろうか。
「ヒロ、唐突に宗旨変えしたわね」
「は? 別に何も変えてないが。というか、宗旨変えって何のことだよ」
「今まで貴族関係のアレコレには関わらないようにしてたじゃない。それが急に領主への根回しを始めるとか、宗旨変えしたのかと思われても当然だと思うけど」
「そうか? 別に俺としては何も変えたつもりはないんだが……俺のモットーは貰えるものは貰う、使えるものは使う、だ。単に貴族の切捨御免の権利を本気で使うような事態が今まで無かっただけだぞ」
俺だってお馬鹿ではないんだから、いざ使うとなれば使うための準備くらいはする。
「なるほどねぇ……ところで気になったんだけど、金庫の中身ってのはなんだい?」
「ああ、それはアレだ。足がつくのはちょっと困るような取引の時に使うためのへそくりみたいなもんだな。宙賊を撃破すると賞金だけでなく戦利品も色々手に入るんだが、その中には足がつきにくくて価値がある品ってのが結構あるんだよ。レアメタルとかな」
この世界における通貨といえばエネルなのだが、これはやり取りをするとバッチリ履歴が残る。つまり、不正……とまではいかなくとも、あまり表に出したくない取引をする際には少々都合がよろしくない。そういった時に役立つのが価値の高いレアメタルや希少品の類である。
レアメタルはその名前の如く宇宙的に見ても産出量の少ない大変に貴重な金属鉱石で、工業的価値が非常に高い。具体的に言うと、1kgのインゴット一つで凡そ10万エネルの価値がある。日本円に換算すると1000万円だ。こっちの世界に来た時にはそれが大量にあったお陰で初期資金に困ることが無かったんだよな。
他に希少品というと、所謂宝飾品や芸術品、あとはモノによっては酒なんかも該当する。エルフの母星系であるリーフィル星系でしか産出されない精霊銀なんかも一応希少品に該当するか。帝国内で欲しがる人はあまりいないそうだが。
「そういうのをいざという時のために蓄えているわけだ。だからへそくりだな」
「つまり緊急時の資金源でありいざという時の賄賂用でもあるわけだ。そういうのってアリなのかい?」
「そりゃアリだろ。俺達はあくまで傭兵であって、別に正義の味方とか穢れなきヒーローってわけじゃないんだから」
「ふむ、なるほど」
納得したのかショーコ先生はそう言って頷き、何か考え込むかのように沈黙した。
「我が君、リーメイ星系に到着した後はどういった計画で行動するのでしょうか?」
「まずは星系のメインコロニーであるリーメイプライムコロニーに移動して、情報収集だな。まぁ、十中八九メインコロニーのリーメイプライムコロニーが星系内の物流ハブになってるだろうから、そこで荷を売り捌くことになると思う」
「そうなるでしょうね。問題は売り先だけど、一番確実なのは傭兵ギルドを通すことじゃないかしら。多分、傭兵ギルドからも依頼が出ていると思うわ」
「依頼が出ているなら、それが一番楽ではあるな。傭兵ギルドを通す分、利益は少し落ちるが面倒が一番少ない」
「普通に市場で売ったほうが利益は高くなりそうですけど、まずは傭兵ギルドを通したほうが良いですよね」
「筋は通したほうが良いわね」
傭兵ギルドの顔が利益優先で傭兵ギルドをガン無視とか、あまりにも体面が悪いものな。ギルドとしても看過はできまい。なんだかんだで世話になってるわけだし、顔を潰すのは良くないだろう。
「傭兵っていうのは思ったよりも柵が多いんだねぇ」
「木っ端ならともかく、プラチナランカーともなればな。最高位に相応しい規範を示す必要があるだろ」
「単にヒロが変なところで生真面目なだけよ」
「此の身は素晴らしいことだと思います。流石は我が君です」
はっはっは、クギは素直に褒めてくれて本当に良い子だなぁ。それに比べてエルマの捻くれていること。どうして素直に褒められないのか? これがわからない。
「とにかく、方針としてはリーメイプライムコロニーを目指して到着次第情報収集と傭兵ギルドとの接触を図る。あとは情報収集の結果に応じて領主にも接触するということで」
「「「アイアイサー」」」
俺の決定にクルー達が返事をする。
さて、リーメイプライムコロニーの状況はどうなってるのかね。流石に半数以上が既に死亡、なんて大惨事にはなっていないと思いたいところだが。




